音もなく少女は
「このミス」第1位『神は銃弾』ボストン・テランの新たな代表作!貧困家庭に生まれた耳の聴こえない娘イヴ。暴君のような父親のもとでの生活から彼女を救ったのは孤高の女フラン。だ...
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商品説明
「このミス」第1位『神は銃弾』ボストン・テランの新たな代表作!
貧困家庭に生まれた耳の聴こえない娘イヴ。暴君のような父親のもとでの生活から彼女を救ったのは孤高の女フラン。だが運命は非情で…。いや、本書の美点はあらすじでは伝わらない。ここにあるのは悲しみと不運に甘んじることをよしとせぬ女たちの凛々しい姿だ。静かに、熱く、大いなる感動をもたらす傑作。
解説・北上次郎
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最後のページで打ち震えました
2010/10/11 20:11
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mayumi - この投稿者のレビュー一覧を見る
「神は銃弾」のテランが描く聾唖の少女の命の物語。
貧しいイタリア移民の子供、そして聾唖者として生まれたイヴ。
彼女を最低の生活からすくい上げたのはドイツ人移民で、孤独に暮らしているフランだった。
娘が、底辺の生活から抜け出すには学問が、手話が必要だと奔走する母親の姿にまず心打たれる。
そして、そんな母子を助けるフランの壮絶な過去に胸が痛む。
その上、イヴにも不幸が降りかかってくる。
けれど、彼女は何度でも立ちあがる。彼女は、自分の命を母が与え、フランが守ったものだと、知っているからだ。命はそのようにしてつながっていくものなのだ。
それにしても、出てくる男がどいつもこいつも、最低野郎なのだ。(イブの恋人など例外もいるけど)
なのに、憎みきることができない。
母親を虐待し、イブを苦しめ続ける父親でさえ、憎みきることができない。彼は彼なりの、それしかできない生き方をしていたのだと、思ってしまう。憐れみさえ感じてしまう。
この作品の本当にすごいところは、そこなのかもしれない。
憎しみは何も生み出さない。愛だけが、人生の光なのだと。
蒼ざめながら、震えながら、己の真実に突き進む女たちの感動のドラマ
2011/05/03 22:01
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者の名前はすでに折り紙つきらしい。その題も衝撃的な『神は銃弾』は、英国で推理作家協会新人賞、日本で日本冒険小説大賞と「このミステリーがすごい」1位、という三冠を獲得したという。
私自身はしかし、その作品は未読で、それはそれで興味を惹かれたものの、今回より心が動いたのは、同じ作者が書いた「静かな傑作」といわれる別の小説だった。
解説にもいうように、『神は銃弾』のイメージに引きずられがちだが、『音もなく少女は』は、ミステリーではない。ミステリー一般の娯楽性を主に求める読者には、面食らい、あるいは敬遠したくなる内容かもしれない。
ここにあるのはいわばひとつの「女の一生」といえようか。1950年代ぐらいからのニューヨーク、ブロンクス。貧しく荒んで、暴力、犯罪、腐敗、差別が横行し、欲望と憎しみ、悲しみと絶望とに彩られた街に、聾者というハンディを持って生まれた一人の少女と、その仲間となる女たちの、苦しみと戦いの記録である。
つまりここで作家は、娯楽小説の範疇には収まりきれないものを描いたのだ。基本的に暴力的で理不尽なものとしてある世界。それが投げつけてくる不幸の数々を前に、女性、しょうがい者、黒人など、「弱き者」はどう生きればいいのか。
だが、ミステリーであろうとあるまいと、作家の能力の高さは疑いようがない。何よりも驚かされるのは、人間、とくにその内面を抉り出す描写の圧倒的な力感である。濃いのである。
それは読者にもある種の緊張を強いる。現実の苛烈さを直視することを強いるから、この物語を好まない読者がいるのは不思議ではない。アメリカが背負ってきた重荷の一端を知ることができるのが興味深いとはいえ、これを実感に近い形で肌に感じながら読むのは、辛い経験でもある。主人公イヴと、その限られた仲間に次々に襲い掛かる苦しみ。次はどんな不幸があるのかとハラハラさせられ通しだし、安手のアクション映画と違って、ありえないような幸運や都合のよい解決は何もない。不幸は実際に癒しがたい傷となって降りかかってくる。
だがそれが辛いからこそ、そうした問題に正面から向き合って戦い抜く女たちの姿が感動を呼ぶのである(原題はWoman)。あとは好みの問題だろう。が、作家のぶつけてくるものを受け止める気持ちになれるのなら、深く心に残る作品であるのは間違いあるまい。
ちなみに、ここで重要なモチーフとして登場する「写真」は、イヴが世界と関わる接点でもあり、したがって彼女の支えでもあり、武器でもあり、いわば彼女の存在そのものなわけだが、その写真をめぐる記述を見れば、この作家の見つめているものの高さがわかろうというものだ。
おそらく原文のスタイルが強烈だろうから、翻訳も多少癖があるものになっているが、流れはよく、読みやすい訳だと思う。
忘れられないタイトル
2024/02/10 15:32
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:転鈴 - この投稿者のレビュー一覧を見る
江國香織さんが書評を書いていたのだったか、媒体は忘れましたが、それで知った本です。作中、女の子が主人公に、今、自分が耳にしている(そして主人公が知らない)音について話すシーンが印象的です。
弱きものは強きもの
2017/06/25 06:10
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ボストン・テランの新作が出たので・・・読みそこねていたこの作品をあわてて読んでみる。そしてあの当時、いろんなところで絶賛されていた意味がわかったわ。
筋書きはいたってシンプル。でも文体が独特。雰囲気としては『あなたに不利な証拠として』に少し近いというか、似たような空気を感じた(あくまで日本語訳としては、という意味で)。どちらも女性を三人称で距離をとって描いているから?
バイオレントな内容なんですが、その文章故にちょっと格調高くなっているというか、「読んでて具合が悪くなる」ことはない(よく考えたらかなりひどいこと書いてあるんですけどね)。
なるほど、これがボストン・テランか。納得。
舞台は1950年代のアメリカ、ブロンクスから。ニューヨークの北端にある町だが、当時は移民の住む街として治安も悪く、ほとんどが貧困だった時代。そんなところで、イタリア系の両親のもとに生まれたイヴは耳が聞こえない。イヴの母親クラリッサは敬虔なキリスト教徒で、これは髪が自分に与えた試練と考えていて、クズのような暴力夫ロメインにも黙って耐えている。
近所に住むドイツ系(ナチスの迫害からアメリカに逃げてきた過去あり)のフランは見るに耐えかね、クラリッサとイヴを助けようとするが・・・という話。
イヴが生まれてから18歳になるまでの出来事を中心に、冒頭で時間軸を織り込み悲劇の予感を漂わせつつ、この物語は始まる。
『このミステリーがすごい』の上位に入ってしまったせいか、「ミステリーじゃなかった」という批判が見受けられますが・・・「トリック・謎を解く」のが狭義のミステリということなら、「この先、何が起こるのか・何故起こったのか」を追うのもミステリなんじゃないかと(“広義の”となってしまうかもしれないけれど)。少なくとも私は「これはミステリじゃない」なんて考えは浮かばなかった、ただページを追い続けた。
「あぁ、こうなってしまうのか、やはり」と感じつつも、彼女たちの人生を、運命を、見届けずにはいられなくて。三人の女性の痛みはそれぞれに違うけれど、違うからこそわかり合うこともある。三人以外の女性たちの選択もまた、自分の人生をかけた覚悟ばかり。
まさに、「強きし者、汝は女」という話で・・・でも彼女たちを強くしたのはダメな男たちのろくでもない行動の結果で、ある意味、「女から男への絶縁状」ともいえる内容になっています。でも爽快さは伴わない。後味の悪い利己主義や暴力が全編を彩っているから。
なのに、本編はひそやかなまでの静寂を漂わせている。誰かが激昂しても、ショットガンをぶっ放しさえしようとも、どこか静かなのだ。
あぁ、もしかしたらこれが、イヴの世界なのか。耳の聞こえない(でも手話はできるし、リップリーディングも可能、メモ帳に文字を書き意志疎通もできる、ただ音だけが聞こえない)彼女の体験を、読者もまた共有した結果なのか。
だとしたらすごいことでは・・・。
個人的にフランの人生から得た強さには圧倒されました。イヴが心酔するのも当然。弱い女性の代表ともいえるクラリッサとフランが友情を確かめ合う場面では(このままではいけないとクラリッサが自分の弱さから脱却するところでもあり)、電車の中だけど泣いちゃいました・・・。
『音もなく少女は』という邦題は、イヴに寄り添った言葉だけれど、詩的で美しい。ときどき困った邦題のある中、これは正解です。
というわけで・・・今更ながらボストン・テランのすごさに気づいた今日此頃。手遅れにならなくて、よかったです。
ニューヨークのブロンクスは現在でも治安の悪さが言われるところだが、この物語の1950年代から70年代は差別と貧困と犯罪が無限に循環するごみためのような町だった。この物語はブロンクスを舞台にした少女・イヴの誕生から社会人として自立するまでの戦いと成長の記録である。
2010/12/13 00:09
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
本著はふんだんに使われる比喩やアイロニーなどが抽象的で難解な言い回しであり、また直訳的硬さが気になる。そんな文体であるのだが、ゆっくりと進む物語によくあるいらだたしさこらえながら、じっくり読んでいくと著者のメッセージの深い意味あいが見えてくる。
多彩な登場人物の個性が際立つ。
生まれながら耳が聞こえない主人公の少女・イヴ。
イタリア系移民の父・ロメインは盗みと麻薬の売人という町のチンピラ程度の悪であるが、家では暴力で妻・クラリッサを支配する残忍な男である。
クラリッサは夫の凄まじい虐待を受け入れるだけの女である。ただ忍耐することにより、この苦悩がいつか神の恩寵で報われることをぼんやりと期待しているのであるが、その日が来るとも思われない。
やがてロメインは少女イヴを麻薬取引の手先に使い始める。
もう一人の凶暴がヒスパニック系、薬物中毒のロペス。この男もまた町のチンピラ程度である。
服役中、彼の妻は薬物中毒により狂人となり、挙句の果てに刺され、野垂れ死にする。
二人の間の子、やがて耳が聞こえなくなる幼女ミミは善意の黒人・ドーア夫妻の里子として庇護されている。
釈放されたロペスはミミの周辺へその暴力の矛先を向ける。
イヴの恋人であり、ミミとおなじドーア夫妻の里子であるチャーリー。プエルトリコとジャマイカ人の混血、彼はロメインとロペスの暴力を排除する献身者として登場する。
しかし、なんといってもこの物語で異彩を放っている個性はドイツ移民の女性、フランである。両親が残したキャンディストアの店主。だが彼女の過去もまた過酷なものである。ナチス政権下で実施された断種法により強制的に施術をされ、心と肉体に死ぬまで消えない傷を抱えている女性だ。アル中でもある。
彼女はロメインやロペスを社会的弱者であると指摘し、その弱いものがさらにひ弱いものを敵として暴力を振るう、この世界の仕組みを憎悪している。弱いものが生きていくための制度などありえないと透徹している。弱いものに恩寵があると信じられているキリスト教を否定する。むしろ宗教こそこの不条理を助長していると指摘する。そして善意の人々はこの問題の解決には無力なのだと。教会で祈るクラリッサに対しては、現実にある敵は夫のクラリッサであり、敵と戦う勇気を持てと諭す。
しかし、ロメインとロペスの狂気による犠牲者が周囲に相次ぎ、読者は主人公たちの救いの見えない境遇にいたたまれなくなってくる。
大人になったイヴ、繰り返される暴力との戦いに疲れ果てたイブにフランの血のにじむ人生哲学はなにをもたらすのか。
「世の中には測り知れない苦悩を抱えている人たちがいる。そんなことはあなたにもわかっていることは私にもわかっている。でも言わせて。人生というものは悲しみに耐えることよ。勇気とはその悲しみを克服することよ」
「人生は不毛ではないなんて、そんなことはたわごとよ。わたしたちはなんのために悪戦苦闘しているのか。それがあなたの質問なら、わたしの答は………次の一日のためよ。無味乾燥で血も涙もない(答だとあなたは思うかもしれない)?(でも)あなたは壊れたりしない。わたしがそれを許さない。さあ、目を覚ましてしゃんとして………。」
人生に意味はない。ただ明日を生きるために生きるのだ。その勇気を持て………と。
彼女はまさに孤高のニヒリストだと私には思われる。その悲愴と哀切がここに凝縮されている。彼女の言は、究極の絶望に落ち込んだ人がその崖っぷちでなお生き抜くための数少ない道標であるかもしれない。しかも、特定の地域、特定の時代の話としてではなく、その説得性には今も通用するようなリアルさで迫り来るものがある。
やりきれないストーリーに読者までが鬱屈をつのらせるが、そのストレスは大きな盛り上がりの中で解消されることになる。最近読んできた外国物ミステリーではお目にかからなかった気分のいいラストであった。
一方で神の不在を告発しながら、実はここで虐げられた女たちこそ真実の神なのではなかったか………との余韻を残して。