「短歌ならではの怖さというものもまた、如実にあるはずです。」まえがきより。
2023/04/19 21:20
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投稿者:やまだち - この投稿者のレビュー一覧を見る
怖い短歌を集めたアンソロジーです。
ネタバレがあります。
第1章 恐ろしい風景
第2章 猟奇歌とその系譜
第3章 向かうから来るもの
第4章 死の影
第5章 内なる反逆者
第6章 負の情念
第7章 変容する世界
第8章 奇想の恐怖
第9章 日常に潜むもの
『怖い俳句』『元気が出る俳句」『猫俳句パラダイス』ときてアンソロジー第四弾、『怖い短歌』です。
『怖い俳句』が「ゆるやかな時代順」だったのに対し『怖い短歌』は九つの章に分類されていているのが特徴です。
短歌はリズムがあるので見落としてしまいがちですが、立ち止まりながら読んであとからわかる、その時間差の怖さがいい。
また隠すことなく怖さ全開の短歌もあります。
それが第二章の石川啄木と、数の多さから「一大暗黒山脈」とされた夢野久作の短歌です。これは怖い!まるでホラー映画、しかも救いのないタイプのワンシーンを見てしまった気分になりました。
個人的にホラーとは違った怖さを感じた歌が第9章。
自殺者の三万人を言いしときそのかぎりなき未遂は見えず 吉川宏志
その鋭さにハッとなりました。
あとがきに「『怖い詩』で三部作を完結させたいものです。」とあり、その本が読めるのを楽しみに待ちたいと思います。
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投稿者:ぽぽ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ぱっと聞いただけでは、見逃してしまうような怖さがありますね。短いだけに、気持ちがこもっていてゾクっとします。
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面白かったです。
怖い、と一口に言っても様々な怖さがあり、こちらはカテゴリ分けされてたくさんの短歌が挙げられていました。
俳人は勿論、中島敦や折口信夫の歌もありました。夢野久作の「猟奇歌」は、これとその系譜でカテゴリありました。
間武と笹井宏之の歌はちゃんと読みたいです。
少ない言葉でこれ程の世界が広がるところ、素敵。
手元に置いて愛でたいです。俳句の方も読みます。
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「怖い」をさらにカテゴリ分けしていて、それぞれのテーマに合う短歌がとにかくたくさん紹介されているので、短歌入門アンソロジーとしてとても良い。
印象的だったのは
自分が子を殺すさま想像できますか想像しながら家の鍵まわす(渡辺松男)
ほとんどの人は人を殺したことがないし、誰も死んだことがないからこそ、殺すって死ぬってどういうことなんだろうと、ふと考えに取り憑かれそうになって怖くなる瞬間は確かにあるなと思う。
因みに「怖い短歌」と聞いて私がぱっと思い付くのは
焼き肉とグラタンが好きという少女よ
私はあなたのお父さんが好き
(俵万智『チョコレート革命』)
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短歌アンソロジー。色んな意味で「怖い」短歌を集めている。
風景がありありと浮かぶ「怖さ」、なんだかよくわからないけれど、うすら寒くなる「怖さ」。
短い歌の中に潜む恐怖は色々ある。
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短歌というと、俵万智の、
<「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日>
のような爽やかな、そして少し甘いイメージのもの、あるいは、百人一首に出てくるような、恋や情景を歌ったようなものだと思っていた。
一方で、悲しみや、恐れを抱くものとして、寺山修司の
<マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや>
に代表されるものや、斎藤茂吉の喉紅きつばくらめ〜といったものをイメージしていた。
石川啄木に至っては、故郷の訛なつかし停車場の〜といった東北人らしい情景を描く詩人だと思っていたら......。
<どんよりと
くもれる空を見てゐしに
人を殺したくなりにけるかな>(34頁)
夢野久作が詠んだのならわかる。しかし、あの、啄木が。確かに夫にはしたくない男ではあったようだが。
46頁、間武の
殺しのあと
特に用事もないので
お庭に出て草ひきなどする
これは、まっとうな神経のやつじゃない。
きっとこの人物はニコニコ笑って人当たりのいい、丁寧な人間なのだろう。
それと全く逆の面を持つのでは......そんな風に想像するだけで、戸締りを確かめたくなる。
<ぼくの去る日ものどかなれ 白線の内側へさがっておまちください>杉崎(たつさき)恒夫(187頁)
<鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金は要る>(201頁)山田航
怖いというより、これは本当にやめてほしいのだ。
鉄道は自殺のためのものじゃない。他人に、殺す意思なきものに殺させるな、と思うのだが、
<人間は忘れることができるから気も狂わずに、ほら生きている>(146頁)枡野浩一
と謳う人々はもはや耳に誰の声も届かないだろう。
これらの歌は、深淵を覗き込んでいる気分にさせる。
こんな歌もある。
<自爆テロのニュース見ながら「きゅうきゅうしゃ」「ばす」と画面を指さす子ども>(31頁)尼崎武
その向こうに一体何人が倒れているのだろう?
私の記憶に一番残る、そして有名なものはこれだ。
<ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ>中澤系
この短い世界に広がる人間の邪悪な面。
怖い、なんてもんじゃない。
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かつて『怖い俳句』で「俳句が世界最恐の文芸形式だ」と書いた。なのに俳句より怖さで劣る『怖い短歌』を編むのかという声が聞こえる。たしかに瞬間、思わずぞくっとする感じでは俳句にかなわないかもしれないが、言葉数が多くより構築的な短歌ならではの怖さが如実にある。総収録短歌593首(見出しの短歌136首)を、「怖ろしい風景」「向こうから来るもの」「死の影」「変容する世界」「日常に潜むもの」など9つの章で構成し、「怖さ」という見えない塔をぐるぐると逍遥【ルビ:しようよう】(そぞろ歩き)するかのような奇想の著。(裏表紙)
様々な「怖さ」に焦点を当てた短歌集。
『恐ろしい風景』『負の情念』など、9つのテーマがまた良い。
独特の世界だけに手が伸び辛い分野だけれど、軸を意識すればまた違った面白さがありそうだ。
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アンソロジーというかたちがまずすき
点在し、そこでそれぞれ意味を持っていた作品が再び編まれることであらたな意味を成す感じが
短歌、小倉百人一首と穂村弘のダ・ヴィンチに投稿された歌をまとめた本の二冊をねぶるようになんどもなんどもあじわってるだけなので新鮮だった
とくに第6章 負の情念 すきだなあとおもう
情念、なんてわりとおおきめの言葉が使われているけれどきっと人の生活の中、裏なんかじゃなくて表に、普通にのっぺりはりついてる情動だよなっておもった
死 ってものにもっといまよりも敏感で好奇心旺盛だった中学や高校の頃に読むことができていたら違った感想にもなっただろうなってかんじ
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あまり短歌は嗜まないが、面白かった。
様々な『怖い』があり、想像してた『怖い』とは違った。良い意味で裏切られた。
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〈向こうから来るもの〉、〈死の影〉、〈内なる反逆者〉、〈変容する世界〉……。この世に潜むさまざまな恐怖を掬いとって詠まれたような短歌を9つのテーマに分け、多数紹介するアンソロジー。
絵画や写真のようにそこにあるものを瞬間的に掴み取り、説明を極力省く俳句とは違い、短歌は一首のなかで物語を描くことができてしまう詩型だと思う。書き出し小説やコンデンスト・ノベルは短歌の仲間と言ってもいい。それでいて、完全にフリとオチができあがってしまっているとその作品は怖くない。表層的な意味の奥にまた別の真相を隠しているような短歌が怖い。
以下、気になった収録作。
◆ おそろしきことぞと思ほゆ原爆ののちなほわれに戦意ありにき 竹川広
戦争の怖さと同時に、そもそも戦争というものを生みだす憎悪の深淵をじっと見つめている内省の歌。
◆ 少年の肝喰ふ村は春の日に息づきて人ら睦まじきかな 辺見じゅん
内側の人間には日常の風景が、外側からは〈異常〉で〈猟奇的〉。異常な日常を生きる村が恐ろしいのか、他者の日常を異常と断じてしまうことが恐ろしいのか。茂吉に通じる作風。
◆ 不眠のわれに夜が用意しくるもの蟇、黒犬、水死人のたぐひ 中城ふみ子
フュスリやゴヤの夢魔のような深夜の幻覚。「蟇」の字から墓が連想されて「黒犬」がでてくる感じが面白い。
◆ 男の子なるやさしさは紛れなくかしてごらんぼくが殺してあげる 平井弘
下の句から感じる幼さと「殺」のおそろしさ。谷川俊太郎の「男の子のマーチ」が頭をよぎった。
◆ 生前は無名であった鶏がからあげクンとして蘇る 木下龍也
食べるために育て、殺めたものに可愛らしいキャラクターを付与して売り、買い、食べる。社会的な罪の隠蔽システムが「からあげクン」の一語で表現されている。
◆ やさしくて怖い人ってあるでしょうたとえば無人改札機みたいな 杉崎恒夫
軽い言葉の使い方とそこに宿る哀切からニューウェーブ世代かと思ったら、1919年生まれと知って驚いた。〈こわれやすい鳩サブレーには微量なる添加物として鳩のたましい〉もいいな。
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倉阪鬼一郎が俳句や短歌もやる人とは知らなかった。
「怖い」短歌アンソロジー。夢野久作の「猟奇歌」みたいなものから、幻想的なもの、人の心理や、日常に潜むふとした闇を描いたものまで時代を問わず幅広く集めていて、ひとつひとつ解題がつく。
「ほんたうにふとい骨の子になりましてこれは立派ななきがらになる」「うしろあるきにやつてくるのはたぶん死んだはずのおまへさんでせうね」とか良い。
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石川啄木、猟奇歌詠んでたんだな……こ、怖……
中島敦もなんか露骨に怖くて…怖…
現代歌人もこんなに”読ませる”面白い短歌を詠んでる人がたくさんいるんだな~~~~
こんなとこでしか絶対お目にかかれないから、勉強になったな
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作家、俳人、翻訳家の倉坂鬼一郎さんが集めた『怖い短歌』アンソロジー。
西行法師から谷川電話まで、幅広いラインナップ。
《怖ろしい風景》《猟奇歌とその系譜》《向こうから来るもの》《死の影》《内なる反逆者》《負の情念》《変容する世界》《奇想の恐怖》《日常に潜むもの》の9章仕立て。
総収録短歌数は570首。
ぞっとするもの、ピンと来なくて倉坂さんの解説を読んでハッとするもの、様々な三十一文字が読むものを恐怖の世界に誘ってくれた。
私はよくも悪くも鈍いので、怖いと喜んじゃうんだけど、苦手な方は注意かもしれません。
歌人というのは、あの世とこの世の境目、通常と異常の境界線まで降りていって、その景色を三十一文字で伝える芸術家なのでしょう。なんて。
石川啄木の
〈一度でも我に頭を下げさせし
人はみな死ねと
いのりてしこと〉
は、前から大好き。
そんなこと思ったことないけどね…。
〈目の前の死のストレスが肉質にかかはる豚はやさしく押さえる〉池田はるみ
〈盛り塩のやうに置かれるスマフォかなひとりひとりのスターバックス〉大松達知
〈腸詰に長い髪毛が交つてゐた
ジツト考へて
喰つてしまった〉夢野久作
〈だれの悪霊なりや吊られし外套の前すぐるときいきなりさむし〉寺山修司
〈うしろの正面……誰もいる筈なき闇に言い当てられしわが名その他〉永田和宏
〈逆光にのっぺらぼうが現れてすれちがうとき人間になる〉佐原八津
〈死者といふ名をもつ若き園丁がちかづいてくる薔薇をなほしに〉大辻隆弘
〈こはきもの失せたるときに髪の毛を三つ編みにして死が立ってゐる〉山田富士郎
〈つり革に光る歴史よ全員で一度死のうか満員電車〉望月裕二郎
気になった歌の引用元はみな巻末の文献一覧で参照できる。
穂村弘さんや東直子さん、笹井宏之さん、木下龍也さん、笹公人さんなども選歌されています。
他に気になったのは中澤系さん。
〈牛乳パックの口を開けたもう死んでもいいというくらい完璧に〉
〈3番線快速列車が通過します理解できない人は下がって〉
〈いや死だよぼくたちの手に渡されたものはたしかに癒しではなく〉
〈ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ〉
残念ながら2009年に38歳で亡くなられたそうです。
惜しい。
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古今の「怖い」短歌を、570首も集めたアンソロジー。
「怖い」にもいろいろな質がある。
本書の九つの章は、その切り口を示している。
1怖ろしい風景
2猟奇歌とその系譜
3向こうから来るもの
4死の影
5内なる反逆者
6負の情念
7変容する世界
8奇想の恐怖
9日常に潜むもの
おぞましい対象がダイレクトに描かれているものもあるが、日常の何でもないことからふと見える異界、近づいてくる死を捉えたものもある。
死への衝動、振り払ってもまつわりつく妄想などもある。
一見ユーモラスだったり、かわいらしかったりするのに、よく考えてみると怪しさや怖さがにじんでくるものとか。
私が好きなのは、吉岡太朗さんの次の歌。
デパートでおばけを買うとついてくるちいさなおばけどこまでもくる
幅広く、こんなにも多くの歌を集めることを考えると、大変な編集作業だったことがいやでも窺われる。
夜あまり読まない方がいいかもしれないが、すごいアンソロジーだ。