命の水を売り渡してはいけない
2020/12/22 06:54
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投稿者:チップ - この投稿者のレビュー一覧を見る
水道の民営化問題をするどく解説
命の水を売り渡してはいけないと改めて思う
水道に限らずインフラの整備と維持管理の重要性をしっかりと認識しないといけない
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
蛇口をひねれば水が出る。
それが当たり前だたと思ってきたので、マイケル・ムーア監督の映画(華氏119)アメリカでの水道民営化によって起きている問題を知ったときには大きな衝撃を受けた。
こうした事態を受け、欧米では一度民営化した水道事業を、ふたたび公営化する動きが起きているという。
しかし日本では最近、各地で民営化の話題を耳にするようになった。
こんな周回遅れで大丈夫か…。
この本を読んで、なぜ問題が起きるのか、どんな事態が起きるのか、それに対して、民はどうあるべきなのか、何ができるのか、よく分かり、思考を深めることができた。
水は人間にとって命に関わる。
しっかり関心を払って、動きを注視しなければいけない。
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日本ではPFIの議論が盛んだが(実態はともかく)、本場欧州では、少なくとも上水道分野は再公営化の事例が増えてきている様子。民主主義の歴史を感じる。
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水道事業にとらわれず、「公共」とは何かを適切かつ明確に伝えてくれる。残念ながら「官」は未だ硬直化・非効率なサービス提供を行っていることは否めない。かといって、「民」たるや特異な分野での利潤追求にはいくらか長けていても、こと公共サービスの提供となると、指定管理にみられるように独創性はほとんど発揮されず、効率性も含めて成功事例がまことに希薄だ。必然的に、安易なPFIやコンセッションへの移行がもたらす弊害が生じる。要は、住民一人ひとりが「公共」を自分のこととしてとらえ、無責任にひと任せにしないことだ。
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メモ
株主配当、役員報酬、そして納税。これだけでも株式会社による運営のコストが見える。また借り入れも公営だと低金利でできるものが高くつく。さらに企業は短期的な利益を上げ続けることを見据えるし契約期限もあるので、次世代・長期的な事業をしない傾向がある。
ミュニシパリズム……地域に根付いた自治的な合意形成を目指す地域主権的な立場、運動。地域主権主義に似るが、国際的な連携や協力を重視する国際主義に特徴がある。国を越えて連携する自治体運動やネットワークは「フェアレス・シティ」と呼ばれるようになった。
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面白かった。希望はある。
コモンについてもっと学習したい。
ここから斎藤幸平の著作に入っていこう。
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以前から「水道を民営化すると、サービスが低下し、料金が上がる」ということを言う人がいて、自分もなんとく「水道は民営化(コンセッション)しないほうがいい派だったのだが、一冊にまとまった本書を読んでその意を強くした。
本書に掲載されたパリほか、欧州の事例を読むと、一度民営化すると再公営化がいかに困難かもよくわかる。
契約上の違約金の問題もあるし、ノウハウの喪失という運営上のリスクが膨らむからだ。後者は、派遣社員任せにしたり、製造を海外に移管した普通の会社でも起こりがちな問題でもある。
空港施設のコンセッションは、どちらかというと肯定派だったのだが、関空の事故では民営化のリスクを露呈してしまった感もある。コロナ禍では、問題視され続けている公的病院が中心になって対応している。
それでも「公務員天国」は否定できない面もある。すべてを公務員の手にゆだねるのも、やはり問題だ。アイルランドのように一般財源化してしまうと、水道でモラルハザード(使いすぎ)が起きるだろう。
よく水道が、「公共料金の滞納で一番最後に止められる」と言われる(都市伝説?)。水が生きていくのに不可欠だからだろう。幸い日本は水資源が豊富だ。独自の優れた仕組みを構築できないだろうか?
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齋藤幸平さんの「人新世の『資本論』」で紹介されていて、興味を持ち、読んでみた。まず、アムステルダムの「トランスナショナル研究所」なるシンクタンクの存在を知らなかった。エネルギー分野では、ドイツなどで、シュタットベルケの再公営化の動きがあることは知っていたが、水道などの分野でも同様のことが起こっているとは知らなかった。イギリスのバーニー・サンダース、米国のサンライズムーブメントなどは知っていたが、フランスやスペインなどでも同様の動きがあるとは。この辺りの情報が日本にいると伝わってこないので、しっかりとフォローしていく必要があると思った。
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水道、再び公営化!
ヨーロッパでの動きをもとに、水道事業の民営化に対して一石を投じる本書。
フランス、イギリスが水道を民営化された状態からいかにして公営化に至ったかが記載されている。また、水や住居などの<コモン>を民間企業に任せることの危険性を論じている。論点としては、一つは水貧困の問題である。水貧困とは、家計支出のうちの水道料金の割合が一定以上の世帯を指すが、水道料金という固定費を民営化=企業の収益状況により値上げが起こるものとしてしまうと、貧困層の生活が苦しくなるというものである。実際に、民営化直後に水道料金を4倍に引き上げる企業も存在し、その結果、貧困層はトイレを毎回流さないなどの対応で水道料金の支出を減らすということを余儀なくされているが、そのような対応が人権を棄損するものではないかという論調のもと、市民団体が再公営化の運動を始めた経緯などが記載されている。また、単純に民営化の方が高くかかるということも述べられている。水メジャーは地方公共団体とコンセッション契約というものを結ぶ。このコンセッション契約は、地方公共団体がお金を民営業者に支払って水道事業を委託するものであるが、その委託料金には、水道事業を行うにあたり民営業者が資金調達する際の金利や民営業者の役員報酬などが過大に支払われていると糾弾されている。資金調達する際の金利は、市民の税金によって賄われており、全体として公営化した方が安い場合は、何のメリットもない。さらに、民営化によって危機対応時のリスク管理も切り詰められる傾向にあり、倒産リスクのある一民間企業が水道事業でリスク管理をおざなりにした場合、割を食うのは市民である。
上記の対応として、ヨーロッパではミュニシパリズムという新たなムーブメントが起きている。地方都市などと市民団体などが連携し、民営化されたコモンを再公営化することや、地産地消を標榜する動きである。規模の経済を理由に民営化された事業の収益は結局のところ国外の流出しており、現在、リスクだけが転嫁されている状況になっているコモンを扱う事業を、再び市民の手に取り戻すという考え方である。ミュニシパリズムは地域主義と混同されることがあるが、地方都市間での国際協調がある点で、地域主義とは異なる。ミュニシパリズムのベースとして、国家という枠組みを超えた多国籍企業による民営化に対抗するためには、地方都市や市民団体もまた、国家という枠組みを超えた連帯が必要であるという考え方がある。まさしく、マルクス・エンゲルスが共産党宣言で労働者の国際協調を訴えたように、地方もまた、国際協調を通じて多国籍企業に対抗すべきではないかというところがミュニシパリズムの現代性であろう。筆者は、国家が多国籍企業に対して利益誘導し、草の根の地方政治を蔑ろにしてきたツケを今払うことになっていると語る。実際、日本においてもトリクルダウン論法を下に、法人税減税や特区構想を行っているが、果たしてこの動きは富めるものがさらに富めるようになるわけではないのかという論点がある。そうした動きに対抗する手段として、ミュニシパリズムは新たなムーブメントとなってい���。しかし、ここまでくるともはや国家という想像の共同体に何の意味があるのかとも思えてくる。現在、テロリズムやゲリラ戦によりWW2とは別の形で世界大戦が起こっていると話す政治学者もいる。これまでの政治の主役であった国民国家という概念の終わりの始まりを、そこに見ることができるかもしれない。
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※まだ読み途中。
オランダの政策シンクタンクNGO『トランスナショナル研究所』在籍の著者。
インフラにおいては様々な問題が表面化され議論されているが、日本ではまだ議論が活発でない"水"についての話。
日本では聞き慣れない問題ではあるものの、表出したきっかけは、訪米していた麻生太郎副総理の発言になる。これは、公共水道を外資水メジャーに売り渡すと同義で大問題。
わかりやすい記載で、内容も面白い。日本でこれから問題として大きくなっていくだろうから、きちんと向き合って考えたい。
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海外の水道はほとんどが民営、は嘘。2012年で12%程度。
PPP/PFI推進室に水メジャーが出向。
コンセッション方式(公共施設等運営権方式)の運営権は物権。売渡もできるし担保も設定できる。
関西空港の運営権料は、年間490億円。これが一時収入になるので、売渡側は打ち出の小づちに見える。しかし、災害対策は運営会社任せでおろそかになる。復旧も運営会社まませ。
アイルランドは水道をすべて公費で運営。水のメーターがない。
世界では水道は再公営化が進んでいる。そのほか、電力、地域交通、ごみ収集、教育、健康・福祉サービス、自治体サービスなど。
パリの水道料金は、民営化後24年間で265%上昇。
欧州の水メジャーが周回遅れで新自由主義化している日本に目を付けた。
再公営化には複雑なプロセスが含まれ、運営ノウハウを失うと公営化できなくなる。
PFIは民間がお金を調達するため、資金調達コストがかからないように見えるが、民間はそのコストと企業利益を含めて運営費を算出するため、実際は高コストになる。
イギリスでは、フィナンシャルタイムスが「水道民営化は組織的な詐欺に近い」という記事を出した。
公共サービスをグローバル企業によって民営化することは、コミュニティの富を外に流出させる行為。
インフラを維持するお金がないから民営化、というのは本末転倒。
民営化でかなえられる効率化とは、賃金カット、雇用者の削減、設備投資の先送り、の成果。
コンセッション契約に向けたアメ=償還金の繰り上げ、過去の債務の返済ができる。ムチは導入しない説明をする必要がある。
値上げの規制緩和。
それ以上に、自治体の運営能力の喪失が恐ろしい。
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麻生氏が当時の副総理大臣だった時の、海外に向けた日本の水道の公営化の発言から本文が始まっている。
著者は海外の水道事業のうち、民営化されたものが再度公営化された例を研究や情報収集している。
パリから始まった水道の再公営化の波は少しずつではあるが着実に広がっている。その理由は外資系水企業における、不当な利益や情報が表に出ない形での財務体質など。
再び公営化すれは全てが解決するわけではない。契約期間内での解約であれば膨大な違約金が地域の住民に降りかかる。またそこから公営化のシステム作りにも多額の税金がかかってくる。
多くの物は失ってからそのありがたさが分かる。あまりにも当たり前に
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水道事業の民営化問題にとどまらず、グローバル企業に抗する自治体の取り組みなどが紹介されていて、とても興味深い。
民営化によって水道料金が高騰したり、サービスや品質が低下したり、事業や財務状況の監督が困難になったりする。イングランドとウェールズの水道会社10社は、必要のない借り入れを繰り返して借入金を膨らませ、税金の支払いを少なくし、株主への配当を確保し、必要なインフラ整備を行わない口実としていた。民営化は株主優先、企業利益優先というビジネスルールによって、公共が解体されるプロセスであった。
スペインでは、2008年の世界経済危機を受けて、EUの財政規律を守るために福祉や教育などの公共サービスの予算を大幅に減らし、若年層の失業率はピーク時に55%にも達した。2011年の統一地方選の際に若者たちが各地で草の根の政治集会を開き、各都市で抗議活動が行われた(15-M運動)。各地でシルクロと呼ばれる草の根の政治グループが結成され、2015年の地方選では6つの自治体で反緊縮を掲げる左派政権が誕生した。バルセロナでは市民活動家が市長に就任し、民泊事業の増加による住宅問題への対応や水道事業の再公営化を進めた。また、15-M運動は左派政党のポデモスを誕生させ、2019年には社会労働党との連立政権を樹立させた。
地域のことは地域の人々が集まって議論し、自律的に決めようという取り組みは「ミュニシパリズム」と呼ばれるようになり、世界各地に広がっている。利益や市場のルールに基づく新自由主義を脱却して、公益とコモンの価値を中心に置いて市民の社会的権利を拡大することを目指す。
国民国家を巻き込みながら展開する新自由主義に対抗するために、自治体間で国際的に協力するミュニシパリズムは、「フィアレス・シティズ」という運動へ発展した。2020年時点で、欧米を中心に77か所が参加している。競争、排除、対立などの男性的な価値観から、共生、包摂、協力といった女性的価値観で人間にやさしい政治を実現しようとする政治のフェミナイゼーションには共感する。
水道事業が民間企業から公的事業に取り戻した事例は、2019年時点で311件。電力、地域交通、ごみ収集、教育、健康・福祉サービス、自治体サービス、通信サービスの分野を加えると、1408件。
著者は、民間の水道事業者が欧州で市場を失った結果、日本が新しい市場として狙われたと推測している。この動きは、1990年代の外国産タバコや昨今の農薬の動きなどとよく似ていると思った。
世界各国で、水道事業を民営化することにより、運営権を売却して得た資金を債務返済に回す事例が多い。日本では、財政再建団体指定を免れたいという動機があるほか、PPP/PFI導入を拒否した場合に政府からその理由の説明を求められることにもなった。
公共調達において地元企業を優先し、地元の経済を回す取り組みも紹介されているが、税金の使い方としても合理的だと思う。
水や食料などに対して一部の者が利益を得る仕組みを導入することがおかしいと感じた。水や食料などの生存に欠かせないものには、資本主義を導入しないという思想が必要なのではない���と思った。
ヨーロッパでは政治活動を広場で行うことには、民主主義の歴史を感じた。建物内の閉じられた空間で行うよりも多くの人が参加でき、関心も持ってもらえるので、日本人が学ぶべき点だと思った。
岸本さんが杉並区長に当選したことを知って読んだが、このような経験を持った人が日本の自治体の首長に選ばれる時代になったんだな、と感慨深い思いを抱いた。
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大枠を捉えるのには役立った。メジャーの搾取的な経済活動については同意するが、域内で地産地消する場合も、中小企業経営者が搾取的に振る舞う可能性はある(実際にあるというのが個人的な認識)。根本的に変えるか、バランス論なのか。また、コミュニティへの参加コスト(個人の経済活動を削って、地域コミュニティに活動を供出)をどう考えるか。余裕のある人が担うモデルは、ブルジョア・知識層が活動する従来型であり、歴史的に見ても問題があった。もっと精緻な議論が必要と思った。
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こういう「考え方」を売りにすれば杉並区長になれるんだ。と少し皮肉に思って読む。なぜなら、不都合な事実は触れていないこと。例えば、英国の労働党の党首だったコービンを押し上げたのは市民の力、特に若者の力だという。しかし、労働党は選挙で負け、「迷」宰相ボリス・ジョンソンを産み出す原動力になった事実にはふれていない。「イフ」には意味ないかもしれない。しかし、あまりにもバランスを欠くように思える。でも、こうしてあえて「バランスを欠いて」いることが支持者をもたらすのであれば確信犯として、こういう言説を「売り」にすべきなのかもしれない。こうした方の著作権にバランス感覚を求めるのは、八百屋で魚を求めるようなもので、私が間違っているのだろう。