あやめ 鰈 ひかがみ
著者 松浦 寿輝
幽明の境を彷徨う魂。交響し合う3つの物語ーー冥界への入り口に咲くというあやめの名を持つスナックで、同級生との再会を待ち望む男。酒宴のために仕入れた鰈を詰めたアイスボックス...
あやめ 鰈 ひかがみ
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商品説明
幽明の境を彷徨う魂。交響し合う3つの物語ーー冥界への入り口に咲くというあやめの名を持つスナックで、同級生との再会を待ち望む男。酒宴のために仕入れた鰈を詰めたアイスボックスを抱えたまま、地下鉄から降りることのできない男。横たわる妹のひかがみに触れた手が、噛み千切られる妄念に陶然となる男。妖しく絡み合う3つの物語。木山捷平文学賞受賞作。
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退廃からの誘い、艶めかしく閉じられた夜の世界に
2009/03/02 11:05
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ねねここねねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
囚われたものたち。
夜と現実と過去と夢にこの者たちは囚われて、創造も破壊も出来ず流される。
停まったままに流される。各々に落魄した彼らは欠けたままうつろうように停まり続ける。
存在しているのか、それとも。
あやふやなそれらはすべてが定かではない。
日常のままに幻想の扉があやしく開かれる。
退廃の魅力、錆びの味。
普遍性からもそれらは芽生える。
現実の日常とそして過去と夢。
異常正常の境界の夜を彼らは彷徨い続ける。
作者は三つのそれぞれをラカンの「想像界」「象徴界」「現実界」へと当たるかとも言っているが、なるほど分かるような気もしてくる。
それぞれは近いところから溶けていくのだ。
境界であって個々に存在する物事から、世界が溶かされ異界に入る。
しかしもそれらはリンクされ、作品で幻想の紡ぎを呈して夜へと閉じる。
芸術品にまで昇華して思える三つの中短篇。
それぞれはのべつにリンクしながらも、各個の夜の独立も保つ。
そうしてそれらは舌を出し、人を妖しく誘っている。
昏い眼差しで誘っている。
現代にある、寂れた退廃の夜からのいざない。
それらは生で艶めかしく、芳しい潤沢な艶を見せて光る。
まるで甲虫の殻のように。有機の動く四肢にある、蠢く小枝の脚のように。
これは誘惑である。
詩人の文章に紡がれた、危険で妖艶ないざない。
極上の文章に綴られた誘惑は、蒸し暑い夜の湿度へ人をいざなう。