「聖職」の痛み、イエスの幻
2024/01/03 15:15
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投稿者:和田呂宋兵衛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「聖職」という言葉が使われなくなって久しい。
学校の先生、お医者さん、お寺の坊さん・・・色々あることは、日々話題になる。
かろうじて「聖職」のイメージが残っているとすれば、キリスト教の神父さんや牧師さんか?
牧師が心を病み、精神科の病院、それも閉鎖病棟に入院する。
一般には、まさかそんな事が、と思われるだろうか。
著者は入院前、牧師と、教会付属幼稚園の園長を兼ねていた。
業界ではよくあるパターンだが、実は相当にブラックな兼業である。
年々複雑さを増す幼稚園の仕事、「宗教的中立」の名の下に、幼稚園でのキリスト教伝道にブレーキを掛けられ、
著者は伝道の手段としてSNSを使い始め、「いいね」やリツイートの快感を覚え、
深みにはまり、心身のバランスを崩していく。
奥さんの勧めで決意した入院だが、主治医に閉鎖病棟に入るよう言われる。
外界とシャットアウトされ、なぜ自傷行為がいけないの?夕日がきれいって何?と言われ、
「聖書にこう書いてある」は、ここでは通じないことを思い知らされる。
ベッドに拘束され、睡眠薬の注射をされる患者に、著者は十字架につけられたイエスの姿を見る。
主治医には、これまで牧師として発してきた「ありのまま」という言葉を批判され、
自分の挫折を見つめ直すように言われる。
そんな中で著者は、高校生時代、阪神大震災に遭遇し、教会で被災者と過ごしたことを思い出す。
暗黒の中で、芝居がかった祈りをする人、それをにらみつける人、どちらもクリスチャンなのに・・・。
著者は退院後、別の教会に復職しようとして、先輩牧師に相談するが、こう言われる。
「・・・君には重度の精神障害があるんだよ。それで教会を治めるという、責任ある仕事ができると思うか?」(本書P214~215)
しかし著者は、入院時の主治医に相談した。
「とんでもない!その教会に赴任しなさい。なにを言ってるんだその人は。無視しなさい」(P217)
そして著者は今も、東京の小さな教会で、牧師を続けている。
宗教って何だろう。キリスト教って何だろう。
誰もが抱える、生きていく痛み。その痛みが露わになる、閉鎖病棟。
たとえ聖書の言葉が通じなくても、痛みの中に、イエスの幻が見えるのではないか。
なお評者も、著者と同様の環境で過ごした経験があることを、最後にお断りしておく。
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2021/06/03リクエスト 1
この本を書くのにどれだけ、ご本人はいろいろなものを投げ打ったのだろう。
ドクターに
私を操ろうとしている
私を恫喝してもなんともなりませんよ
などの言葉は、読んでいるわたしにもとても響いた。
心療内科に10年以上通った私も、自分がドクターに言われているように感じるほど、素直な気持ちが綴られている。
先生や弁護士などの人は、どんなに精神科のドクターが言葉を尽くして伝えても、反論する術を持っているから、まず治療ベースに上がることがない、その点でこのドクターも初めての体験に戸惑い悩み、この牧師先生の恩師にも相談したと後で書いてある。
いいドクターに会えてよかった。
このような診療科はドクターとの相性次第で、良くも悪くもなると思うので。
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尊敬する牧師さんの本。閉鎖病棟での日常や、震災時の出来事等、経験した事のない事が読み易く書かれていて一気に読んでしまった。月並みな言い方だけど人は弱いものだなあ
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読みやすい。それでいて学び多い。
「ありのままのわたし」は、本当にありのままのわたしだろうか?
小中高の教育カリキュラム、あるいは親からの呪文、社会からの圧力、そんなものによって、アイデンティティという幻想が形作られてはいないだろうか。
そんなベキ論に囚われ、決められたことを守り切れるほど、人は強くないのだ。
「ありのままのわたし」など幻想だ。そんなものに縛られる必要はない。他者と語り、弱さを見せ合って、もっと楽に生きていいのだ。
時に「わたし」を手放し、他者にゆだねよう。
著者のメッセージを私はこう誤読した。
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終章と、最後のあとがきのページの衝撃。世間一般の方々の、精神病、また、「先生」とよばれる職業への固定観念、偏見の強さよ、、、
ヌマタさん、いい先生に出会えてよかったね。こんな風につきあってくれる先生、ほんとなかなかいないよ。
そして、たくさんの人に注目されているようだが、入院日記部分を読んで、精神病や閉鎖病棟のことをわかったつもりにならないでね。これは、たったひとつのケース。心底そう願います。
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閉鎖病棟の少年達を思うとキツイ。
勉強したいのにできない環境…
少年達とちゃんと向き合うことのできる人達が現れることを望みます。
鬱になるのは、男性の方が多い
その理由に、男だから、男なのになどと言われたりして自分の気持ちに正直に思い泣くことができなかったり
子供に、男の子なんだから泣かないのって言うのはやめます。
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“「ありのまま」という言葉を武器にして、多弁な言い訳によって自分を糊塗し、なんでも人のせいにする。自分は無垢な被害者なのであり、つねに他者こそがわたしへの加害者であると、他者を断罪し続ける。それでいいのかが、今、わたしに問われていることなのである。”
(p.122)
“誇るべきはおのれの強さではなくて弱さ。語るべきは自分の一貫性ではなく綻び。ほんとうの輝きは、弱いもののなかにこそあるのだと。”(p.206)
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発達障害があり、問題を起こしてしまい閉鎖病棟へ入院となった牧師の体験記。
自分の弱さと向き合うって本当にしんどいことだなぁ。
まず弱さを認める事の難しさ。
「先生」と呼ばれる職業ゆえのプライド。
自分自身で認めて変わりたいと思わない限り何も変われない。
心に残ったのが、同室だったマレという少年。妹を金槌で殴ってしまい入院した経緯がある。本人はそれを「悪いこと」とどうしても認識できていない。反省を、、というがそもそもそれ自体が悪いと感じる事ができない以上は難しいのではないかといった事が書かれていた。いろんな体験や自分が感じた部分から罪悪感や善悪の区別がついていく過程をえるのだとすれば、それには一体どんな治療が有効なのかと考えてしまった。
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精神科の病は単なる薬の処方だけではなく、治療者との根気強い対話によって回復することが実感として語られている。昨今注目を集めているオープンダイアローグに通じるものがあると思う。
本書に出てくる少年たちと対話をする支援者が現れることを、切に願う。
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Twitter上でキリスト者がふれていたので気になって図書館で借りた。絶対にリベラル派牧師だと思っていたら案の定で、内容もキリスト者として読むと害しかない。買う必要なし。然しわかってて読むのなら、精神科の内実を知ることができて興味深い。かつて読んだ、キリスト者以外の人が精神科に潜入レポして書いた本と同じように、異世界を見るような感じでぞっとした。
そう言った意味で潜入記的には星四つ、聖書を信じていない人が聖書を用いて云々言う事に関しては星二つ。総じて星三つとした。
下記に付箋を貼った個所の要約を載せる。
46:自称行為がなぜいけないのか分からない少年との会話。聖書を使っていろいろ考えるも、言うことができなかったと逡巡する著者。その逡巡が聖書をそもそも人間の哲学として扱っているので、ここでもう読みたくなくなった。然しキリスト者の本と思わずに読む事にした。
62:病棟で著者が美しい夕日を眺めるシーン。若い患者たちが興味深そうに著者を見にあつまる。「何をしているんですか」との問いに著者は「きれいな夕日じゃないか」という。少年たちは夕日を眺める。そして、「きれいって何ですか」と問う。まったく夕日の美しさが分かっていないことに気付き愕然とする著者。間接的に精神病になる人々の生い立ちや心の闇を描写するシーンに、読んでいてぞっとした。
93:人を殺してはいけないことが分からない少年。反省できない少年。そもそも入院している人々は、隔離措置をされている。
他にもいろいろあったが、聖書を信じていない人の進行を指摘するつもりで付箋を貼ったので、記録しない事にした。生ける神との生ける交わりがないと、祈りも聖書通読も儀式になる。そしてそれを職業にする人々がいる。そう思う事にすると、背教のしるしとしてむしろ興味深いと思える。キリスト者には読む事を全く進めないけれども、興味深かった。
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牧師さんが閉鎖病棟に入って気がついた真理だったり、諸行無常が綴られています。
どんなことでもそうだけど「出逢い」によって、岐路が大きく変わりますよね。
良い先生に出逢えてよかったですね、沼田さん。
それでも少年たちや社会的入院の方たちを思うと、この問題の根深さに面食らいます(わたしが面食らったところで、どうしようもありませんが)。
この業界で働く方々のハード面、ソフト面のケアはもっと叫ばれても良いのかもしれませんね。
わたしが知れたのは、ほんの一面に過ぎないでしょうが、それでも読むことができてよかった1冊です。
自分と徹底的に向き合うって、怖くてなかなかできないです。
【本文より】
彼がここに拘束されているから、世のなかは「まともな」人たちだけで独占していられるのだ。
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こちらとそちら側
境界を垣間見た気がした
そんな感情を抱いた私も認めたくないけど、偏見の心があったのかと驚かされた
ありのまま、ただそこに居ることの難しさ
めちゃくちゃ良い本に出会った
久しぶりに一気読みした本。
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タイトルの通り、牧師さんが閉鎖病棟に入院し、そこで見て、聞いて、会話して、考えたことが書かれています。
一緒に体験しているような気持ちで読みました。
知的障害があり、読み書きに困難を抱えている若者との出会い、
なぜ人を殺めてはいけないのか理解できない方との出会い、
「きれい」がわからない方との出会い。
何十年も、ずっと病棟で暮らしている方との出会い。
患者の立場から見える情景や感じたこと、主治医とのまっすぐなぶつかり合い。
自分の中にある感情も呼び起こされ、決して他人ごとではないと感じました。
著者は牧師として復職されたとのこと、本当に良かった、と思いました。
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実はクリスチャンの私。
実はうつ病治療中の私。
タイトルで惹かれて読みました。
今まで自分が信じていた神様、信仰、ありのままの自分を大切にするキリスト教の教えがわからなくなったんですけど、沼田先生も同じ事を触れていていて読んでて思わず涙が出ました。共感と励ましの本でした。
沼田先生の他の本も読んでみようと思います。