天使と悪魔が同居したような人
2023/08/25 05:29
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投稿者:チップ - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画「おとうと」のモデルにもなり、NHKをはじめ多くのメディアにとりあげられた山谷にある「きぼうの家」
その設立者夫婦は妻は出奔し、夫は精神疾患を患い生活保護で山谷で暮らしている。
衝撃的な事実からルポは始まる
山本さんへのインタビュー
山谷の人々
別れた山本さんの元妻へのインタビュー
抑えた筆致だけに山谷の現実が重くのしかかる
元妻が山本さんの事を「天使と悪魔が同居したような人」と表現したが、そういう人だから「きぼうの家」事業を始められたのだろうと思った
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衝撃的なノンフィクション作品。東京・山谷のドヤ街で民間ホスピス施設を経営していた夫婦の物語。主人公の人生はある意味スキャンダラスでもある、それがかえって不器用ながらも真摯に生きてきた証なのかもしれない。
主人公である山本の生き様を描くことで、山谷という街の移り変わりを、生活保護や福祉活動における実態が伝わってくる。著者と取材対象者、そしてテーマが必然的に巡り合った稀有なノンフィクション作品だと思う。
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ダ・ヴィンチ20226掲載 著者インタビュー
第28回小学館ノンフィクション大賞受賞作
週刊金曜日2022610掲載 評者:武田砂鉄
東洋経済2022723 掲載 評者:塩野誠
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たまたま障害者界隈のノンフィクションが続いた
不思議な本だ
きぼうのいえすごいという本でもなく
山本夫妻すごいという本でもなく
山谷のシステムが紹介されるけれどもそれがすごいという本でもない
山本夫妻という不完全なところのある(みんなそうだ)人間が、がんばって衝動的とも言えるエネルギーで作ったきぼうのいえ
その不完全さや夫妻がいなくなってしまったこと、きぼうのいえのシステムは残っていることになんだか映画的とも感じる感動があった
予定調和でない物語の面白さというか
妻が出ていったことも、夫妻やきぼうのいえを取り巻く状況が丹念に取材されることでなんとなく納得がいく
筆致は全く違うが、静謐な小説のような印象を持った
福祉をテーマにしたノンフィクションなのに読後感が全く予想したものと異なり、それが心地よい
追記
最後にボロボロの山本さんが言うファミリーレスは鋭いと思う
ものとしての家でなく家族あるいは家族のような人間がいないことが問題なのだろう
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小生も一度所用があり山谷に行ったことがある。いつの頃か忘れたが三、四十年前の昼頃駅から歩くうち、あっ此処が山谷なんだと気がついた通りには歩く人は殆ど無い。職業安定所に近づいた時路上で酒を飲んでいる人達が居た。多分今日の仕事にあぶれた人達なのだろうと思った事があった。今となってそんな体験を本書を読んで思い出した。
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民間ホスピス「きぼうのいえ」を創設した山本雅基さん夫妻の活動を中心に、「きぼうのいえ」創設の経緯、活動、山谷ならではの地域福祉活動などを描いたノンフィクション。
統合失調症を主とした精神疾患が影響し、「きぼうのいえ」の活動からは退からざるをえませんでしたが、山本さんの人生そのものが山谷にあったのだなと思います。そして、美恵さんの葛藤。最後の美恵さんのインタビューから山本さんや「きぼうのいえ」に対する思いが伝わってきました。
「ファミレス(ファミリーレス)」が問題になるという彼の考えにも納得
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序章 山谷と介護と山本さん
第1章 よそ者たちの集まる街
第2章 「きぼうのいえ」ができるまで
第3章 壊した壁と壊れた心
第4章 「山谷システム」は理想か幻想か
第5章 山谷のマザー・テレサの告白
終章 マイホーム山谷
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山谷で「きぼうのいえ」を設立した山本さんのその後である。
『東京のドヤ街 山谷でホスピス始めました』が2006年。
ストレスは蓄積されていた。
パニック障害と診断され、抗不安薬とアルコールを服用。
そんな中、江原氏と第2きぼうのいえの計画を進めていたが方針が合わずに頓挫する。
だが、もう一方では、きぼうのいえをモデルにした山田洋次監督の映画『おとうと』が2010年に公開される。
そして、NHKの『プロフェッショナル』も進行していた。
2010年12月13日にオンエアされた翌日、ディレクターや映画スタッフなど打ち上げ後、美恵さんが姿を消す。
そこからは、うつ症状と飲酒による意識の混濁、また統合失調症による妄想が山本さんを襲う。
不運は続き、父親が亡くなる。
そのうち理事を解任させられる。
母親も亡くし、身内は姉だけに。
現在、山本さんは、生活保護を受けながらひとりで暮らしている。
重い統合失調症の症状を抱えながら今、彼は何を思うのか…
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少し気持ちが暖かくなると同時に何処か、虚しい、寂しいけど気持ちになった。福祉の難しさ、家族とは?、対人援助とは?考えさせられる。ルポとしては、素晴らしい!
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帯のノンフィクション大賞選考委員3名の選評どおり。「山谷の特異な寛容性を見事に描ききっ」ているように感じられた。山谷の福祉の今について知ることができる良質なレポート。
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山谷にあるホームレスの人たちのためのホスピス施設「きぼうのいえ」創設者として、介護や福祉の業界では名の知れた人物のその後は、少々ショッキングなストーリーでした。「医療保険や介護保険サービスの枠を少しくらいはみ出しても、マンパワーをやりくりしながら乗り越えていく。それをいとわない人たちが集まっているからこそ、山谷のシステムは成立している。(231頁)」山谷に集まり、医療福祉介護を支える人々のマインドに敬服しつつ、社会システムに抜け漏れがあることが浮き彫りになる話でした。
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東京のドヤ街・山谷をテーマにしたルポ。お目にかかったことのある方々がけっこう
出てくる。
狂言回し的な人物は、かつてホームレスや行き場所・居場所のない人のためのホスピ
スとして「きぼうのいえ」を立ち上げ施設長を務めていた山本雅基さん。その山本さ
んが、いまでは統合失調症をかかえ生活保護を受け、山谷のアパートでケアを受けな
がら暮らしているというドラマチックな幕開け。雅基さんの志ひとつと妻・美恵さん
の支え、二人の出会いのケミストリーでできたような「きぼうのいえ」だが、美恵さ
んは出奔し、もともと不安定ぎみだった精神面に拍車がかかったこともあって、雅基
さんは「きぼうのいえ」の要職を外れいまに至っているという。
ドラマチックでスキャンダラスにもとらえられかねないけど、著者の筆はそこから山
谷の本質らしきものを導いていく。それは、山谷ならではの地域ケアシステムともい
うべきものの存在。それぞれの分野・活動領域からホームレスなどを支援する複数の
団体(きぼうのいえ、訪問看護ステーションコスモス、山友会、友愛会、ふるさとの
会など)が連携することでなされるもの。数々のケースにぶつかりながら自然発生・
発展的にかたちづくられてきた(かたちづくられているといっていいのか……)。
では、どこか別の地域でまねできるかというとそうはいかない。山友会の無料クリ
ニックで長年診療を行っている医師の本田さんが言うように、山谷という狭い地域内
だからこそ回るものでもあろうし、こうした密な連携は公的な制度上ではできない
し、そこまでやっては制度化の数少ない利点である「広くあまねく」は実現できない
と思う。要は、はなはだ不安定で心もとないけれど、山谷に活動する人々のつながり
によって成り立っているシステムなのだ。
実は、山谷で支え手となっている人たちも流れ着いたり、救いを求めてたどり着いた
という人たちが多いと著者は書いていて、それもわかる気がする。共依存関係に支え
られたエリアのような面があると思う。だから親身になって濃密な支え方ができるん
じゃないだろうか。
雅基さん・美恵さんだってそういう人たちだった。山谷で生かされたから「きぼうの
いえ」のような活動ができたのだろう。雅基さんが著者に語った「現代はファミレス
(ホームレスじゃなくてファミリーレス)」って言い得ていると思った。雨露をしの
げる場所(ホーム)があっても満たされないものがある。必要なのは(血のつながり
なんかどうでもよくて)、つながる人(ファミリー)なんだといっているのだと思
う。いわば、山谷は大家族のようなもの。個を尊重するだけの距離感がありながら、
いざとなれば助けてくれる、助け合えるような関係性がある。
本書の個人的な白眉は、雅基さんをおいて出て行ったことになっている美恵さんを探
しあて話を聞いているところ。メディアに頻出して理想形のようにいわれる裏で、周
りの人に知られないようにしているうちに(周りの人が知ろうとしないでいるうち
に)、限界が来ていたのだな��思った。それを乗り越えるには、二人のケミストリー
は起きなかったし、人の手を借りることができていたらどんなによかっただろう。
「きぼうのいえ」を出ていったときの「もう魂に嘘はつけません」という書き置きの
意味がわかった。美恵さんがひっそりと、ちゃんと生きて暮らしていることがわかり
本当によかった、安心した。
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山谷の共助・互助の仕組みと施設を立ち上げた主人公その人が、愛情と、その元になっているかと思われるような病的気質と不遇・不器用さ。具現化のパワーは発想の自由さと執着、拘り。全残スマートでも格好良くもなく、現状は幸福でもない。意外性が興味深かった。
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小学館ノンフィクション大賞受賞作。
山谷、という場所は、私にとって遠くもないが近くもない場所である。
その物騒なイメージとともに、どこか下町のあたたかみのようなものも感じられる不思議な場所だ。
そこにボランティアや支援がどうやって根付いていったのかを、一人の男の数奇な運命とともに辿る。
純粋で、まっすぐで、でもどこか壊れている……そんな男がつくった、いやそんな男でなければつくれなかったのかもしれない、ある意味「奇跡のような場所」が、山谷なのだろう。
ここに出てくる、他人の幸せをとことん考え抜く支援の方たちには、ほんとうに頭が下がる思いである。
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山谷でホームレス労働者(元労働者)を助けるNPO「きぼうのいえ」を夫婦で創設し、その後、妻は書き置きを残して失踪し、夫は、アル中や統合失調症などで、理事の座を追われた山本夫妻を描くルポ
抑えた筆致が心にしみる。