高校野球ファン必読の一冊
2024/04/15 20:11
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投稿者:かつ - この投稿者のレビュー一覧を見る
中学野球で結果を残し、高校野球の仙台育英監督就任後も「青春は密」「人生は敗者復活戦」などの人々の心に残る印象的な言葉を残し夏の甲子園優勝など結果を残す須江監督がチーム作りや指導法、更には教育、須江監督自らが考える野球の競技性など包み隠さず書かれている一冊です。
高校野球たるもの
2023/09/04 07:47
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投稿者:ももじろう - この投稿者のレビュー一覧を見る
高校野球が好きな方、興味がある方、皆さんに読んでほしいです。
選手ひとりひとりに向き合う姿勢の真剣さ。
諦めずに根気よく導いて行く為の厳しさ。
そして、その導きについて行く、選手達の努力と美しい心。
昨年の初優勝。
今年の準優勝。
感動をありがとうございました。
日本一おめでとう
2023/02/23 11:38
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投稿者:のこのこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
須江監督の指導方法に興味があって購入しました。まだ読んでいませんが、時間ができたら読んでみたいです。
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投稿者:ハム - この投稿者のレビュー一覧を見る
仙台育英の育成方針が素晴らしかったです。どうやって生徒さんたちを導いていくのか、とても勉強になりました。
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投稿者:タタ - この投稿者のレビュー一覧を見る
仙台育英のファンなので興味深く読ませていただきました。幸福度の高く結果も残せていて素晴らしいなと感じました。
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教育に携わる方、野球の指導に携わる方など幅広い方々に向けたメッセージが詰まっている本
須江先生の人柄から、教育観、野球観を出し惜しみなく詰め込むように筆を執ってくれたのだと感じた。
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強豪と呼ばれるチームには、ちゃんとした理由があるんだなあと納得。指導者のマインドの大切さを学ばせてもらいました。競技種目こそ違いますが、データに基づいた指導は実践の価値あり。指導者の力量でチームは変われるということに、可能性を感じました。
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全国制覇には理由がある。日本一激しいチーム間競走と選手が納得する客観的指標。そして監督の言葉選び。野球に限らず全ての組織のリーダーに有用な内容。
全国優勝するだけのことはある。日本一を呼び込む(招待される)ために何が必要か。選手との積極的なコミュニケーション、何が足りないかそのためのトレーニングは何か。
「青春は密」で一躍有名となった須江監督。「人生は敗者復活戦」「優しさは想像力」、キャッチフレーズほか言葉選びが非常にうまい。選手とにコミニュケーションに寄与していることは間違いないだろう。
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2022年夏の甲子園、優勝監督インタビューで「青春は蜜」という言葉を残し、一躍有名になられた須江監督の考え方や野球への想い、人柄がよくわかった一冊でした。日本一から招待されるためには?選手の幸福度を高めるには?よく考えられて毎日指導されているのだと心から感じました。
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2022年に東北勢初の甲子園優勝を果たした仙台育英野球部監督の一冊。監督としてどのようなチーム作りをしているのか、仙台育英の野球部がどのような体制で動いているのか、選手や関係者の個人名も含むかなり細かなデータがつまびらかになっています。高校野球マニアでもない自分にはどうでも良い情報が多かったけど、甲子園で優勝するチームというのはここまでするのか、ということに驚いた。ほぼプロチームのようなサポート体制だなと感じた。元々良い選手が毎年大量に集まる上に、それを伸ばしていく監督の力量もあるだろうけど(本書を読むかぎりは、須江監督のような人は個人的にはちょっと苦手な部類)、専属トレーナーだとか設備面とかデータの記録だとかサポート体制が半端ない。普通の高校の野球部が太刀打ちできるとは思えないし、ここまでしないと全国優勝なんか狙えないんだなと納得。
本書の終盤に記載されている、野球というスポーツの本質についての解説は本質的で面白く、今後プロ野球なんか見るときにも役立ちそう。
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正直、まったく嬉しくありませんでした。埼玉の田舎から仙台まで出てきて、選手を退くことに対し、恥ずかしさや情けなさがあったからです。地元の仲間に、「あいつは逃げた」と思われるような気もしました。それが、高校2年生、17歳の率直な気持ちです。大人になった今は、どれだけ浅はかな考えだったのかよくわかります。
ただし、この野球を形にしていくには、チーム全体のレベルアップが必要不可欠になります。そこで、就任当初から「日本一激しいチーム内競争の先に日本一がある」と言い続け、練習試合や紅白戦を数多く組むようにしました。加えて、定期的に一塁駆け抜けやスイングスピード、球速などの計測を行い、自分自身の現在地、ライバルとの距離感を可視化する取り組みにも力を入れました。
そのためにも、指導者はさまざまなアイデアを提示し、選手たちが前向きに走れるようなマネジメントが必要になります。「指導者はモチベーターであり、教育者はクリエイターでなければいけない」というのが、私の考えです。
「この優勝によって得たこと感じたことを、周囲の人たちに還元してほしい。喜びでも感動でも自信でも、野球の楽しさでも、あるいは辛かったことでもいい。日本一になった人間にしか、伝えられないことがきっとあるはずだから。お世話になった少年野球に顔を出して、『甲子園ってこんなにすごいところだった』『優勝すると、こんなにも嬉しい気持ちになる』と、子どもたちに伝えるのも、君たちができる還元方法のひとつだよ」
「高校野球が教えてくれる、本当に大切なことを学ぶ」 具体的に言えば、次の4点が挙がります。 ●人生を本質からデザインする ●生き方をじっくり考える ●集団の中で社会に出る疑似体験をする ●非認知能力を高める
人が生きていくうえで絶対に欠かせない、目標を達成するための思考法や、物事を本質から理解して判断する能力(一言で表現すれば「知性」)、自己を律して自己を確立し、問題と向き合う能力を身に付けることが、高校野球に取り組む目的だと考えています。 私はよく、「ひとりひとりが大人にならなければいけない」と語りかけています。言い換えれば、「年相応のふるまいでは足りず、実年齢よりも精神年齢が高い人間になってほしい」。幼さや甘さが、人間的成長を止めてしまうことを、何度も目にしてきました。
勝利だけを目指すのではなく、勝利という成果に真剣に向き合うことが、〝勝ちの価値〟を高めることになり、人間的な成長にもつながっていく。勝利への意欲や探求心が低くなると、「このぐらいでいいか」と妥協が生まれ、成果に対する向き合い方も甘く、取り組みそのものが薄くなる可能性がある。そのうち、成果ではなく、努力や過程を評価するようになり、「頑張っているからOK」となりかねません。きつい言い方に聞こえるかもしれませんが、目標に対して頑張ることは当たり前です。
だからこそ、学校教育の中で多くの挑戦をして、失敗から学び、失敗から成功を組み立てる経験を得て、社会に出てほしいのです。部活動の場合は、生徒が自らの意思で主体的に取り組んでいるものなので、熱量が高く、���びや悔しさを素直に表現することができます(もちろん、勉強が好きな生徒は、勉強で学べることもたくさんあるはずです)。
自分が掲げた目標を、どうすれば叶えることができるのか。仮説、検証、実証のサイクルの中で、うまくいかないことがあれば、その取り組みをもう一度見直して、仮説を再度立ててみる。こうした思考のプロセスは、社会に出たときにも必ず役に立つことです。
「なぜ、勝てたのか」「なぜ、うまくいったのか」 自分の言葉で語り、振り返ることができてこそ、本当の意味での成功体験であり、学校教育で育むべき能力だと考えています。
「日本一激しいメンバー争い」を変えるつもりはまったくありませんが、そのやり方については改善の余地があることを、彼らに教えてもらいました。より細かく、繊細に。監督の意図や考えを、もっと丁寧に伝え、チーム内で共有しなければいけない。私の指導者人生においても、大きな1敗となりました。
「ここから見えるのは、出場機会の創出(チーム内での競争の激化)や個の能力の向上にこだわることが悪いというのではなく(むしろ素晴らしい取り組み)、それと『しっかりとした(細かいところまで詰められ、徹底された)野球』とを両立させるのは本当に難しいんだなと」 面識はないのですが、遊撃さんという方の書き込みでした。試合後、数時間もしないうちにこのツイートを見て、「本当にそのとおり」と思ったことを、今でも覚えています。 競争を意識させるあまりに、常に結果を気にしなければいけない状況に置かれ、自分のプレーにゆっくりと向き合う時間が作りにくいのはたしかに事実。私自身も、試合を戦ううえで重要になる、丁寧さや細かさを本当の意味で教え切れていたのかと、自問しました。
この3年間、社会状況も含めて、思いどおりにならなかったことのほうが多かったと思います。それでも最後まで、『やり切った』と胸を張って言える取り組みだったはずです。2019年に入学した33人の仲間を大切にしながら、『感謝・感動・希望』をいつでも胸に。当たり前だと思う日常は、誰かの努力や協力で成り立っているという感覚を大事に。希望を語り実現し、新しい日本の力になれるように歩んでいってほしいと思います。
繰り返しますが、『人生は敗者復活戦』です。勝ちっぱなしの人生もなければ、負けっぱなしの人生もありません。ただし、負けたこと、うまくいかなかったことに真摯に向き合わないかぎり、敗者復活戦を勝ち抜くことはできないのです。負けから何を学び、どう生かしていくか。それが人生を決めるとさえ思っています。
すでにお話ししたとおり、私には選手時代の実績が何もなく、プレーで手本を見せることはできません。技術的なことを考えれば、高校生のほうが圧倒的なうまさを持っています。レジェンド監督でもなければ、カリスマ監督でもない私が唯一できることは、選手の話を聞いて、彼らの思考を整理して、進むべき方向性を一緒になって考えることです。 「サポーター」であり、「パートナー」であり、もっとわかりやすく表現すれば、「相談役」。少しだけ前を歩き、道を照らしているようなイメージです。
技術的な指導は、「できるまでやる。いつでもできるようになれば、次のレベルに進む」という方針のもと、ひとつひとつのことを丁寧にやり切ることに重きを置いていました。何かをやり切ろうとすることで、「根性」や「根気」や「忍耐」が養われ、高校でカベにぶつかったときにも、逃げずに立ち向かっていけると考えていたからです。こうした気持ちの強さは、15歳までに身に付けておくことが望ましく、高校に入ってから鍛えていくのは難しいのでは……と思っています。それゆえに、今よりも厳しく指導していた側面もあります。自分で言うのもおかしいですが、現在のほうが、選手ひとりひとりの声に耳を傾け、丁寧な指導をしていると思います。
案外、AさんにもBさんにもCさんにも、「同じようなことを言われる」という経験が大切で、複数の人から同様のアドバイスをもらうことで、自分の行動や言動に真摯に向き合うようになる場合があります。
選手自身に選択権があるということは、自分の現在地を客観的に捉えて、必要な練習をカスタマイズする力が求められます。この力を養っていくには、指導者が丹念に問いかけていく必要があるのです。問いかけることで、練習の目的を言語化するようになり、行動と発言がずれていることや、取り組んでいる方向性が間違っていないことに気付くこともあるはずです。
野球も同じです。自分の武器は何か。どの課題を改善すれば、勝負することができるのか。自分の特徴を知り、思考を整理する必要があるのです。
このように方向性を示していくときには、細かいことを言いすぎないように気を付けています。なぜなら、選手が意識しすぎてしまい、もともと持っている長所までもが消えてしまう可能性があるからです。 夏の甲子園で、背番号14を着けていた住石孝雄という、2年生の左打者がいます。2022年秋は夏の経験者として、活躍に期待していましたが、スタメンで起用した宮城大会では思ったような結果を残せませんでした。住石の最大の長所は、長打力を備えたバッティングです。しかし、打席の中で迷いが見え、完全に持ち味を失っていたのです。 県大会後、住石にはこんな話をしました。 「将来的には、吉田正尚(オリックス)のような長距離バッターになれる可能性を持っている。それぐらい、長打力に期待しているんだよ。サイズは大きくないけど(173センチ75キロ)、その体で飛ばせるのが最大の魅力。結果が出ないと、いろいろ悩むのもわかるけど、一本の芯を作って、やってみたらどうだ」 秋の東北大会では、1回戦の途中から代打で起用して2打数1安打。その内容を見て、準々決勝からスタメンに戻して、準決勝では決勝点につながる二塁打を打ってくれました。
です。「自分が中心とならなければいけない」という責任感も持っています。それが良くも悪くも重荷になっていたのですが、打てなかった時期を経験したことで、「自分の武器は、バットを強く振ること」と、一周回って原点に戻ってきました。 私は、選手が悩んでいるときこそ、魅力や長所を言葉で伝えるように心がけています。 そもそも、仙台育英に入学し、試合に出ているということは、秀でた特徴を持っているのです。「監督が良いと思っているから、試合に使っている。できると思っているから、使っているんだよ」という話は、経験値が少���い新チームの頃によくしていることです。
たとえば、B選手は、A選手の2倍以上努力しなければ、メンバーに入れないにもかかわらず、練習量が同じ場合には、「今の現在地が見えているの? 次の大会までの期限は何日? この努力の量でほかの選手に追いつけるの?」と強めに問いかけます。 それでも、強制的に練習をやらせることはまずありません。指導者が与える恐怖によって、練習をやったとしても、本当の意味での成長にはつながっていかないからです。スポーツ指導の世界では、「追い込む」という表現が使われますが、指導者からの圧によって追い込まれるのか、自らの意思で追い込んでいくのかでは、天と地ほどの差があります。
新型コロナウイルスの影響で、部活動の大会や学校行事が数多く中止になったことも、少なからず影響しているのではないでしょうか。特に、人としての自我が芽生え始める中学時代に、「みんなでひとつのことをやり遂げる」「目標に向かって突き進む」といった経験がほとんどできなかった世代です。達成感や一体感をあまり味わえずに、高校に進学してきた生徒が多いように思います。
また、「できるのにやらない」「できるのにやろうとしない」ことに関しても、こちらから叱ることがあります。恵まれた能力を持って、仙台育英の野球部に入ってきているのに、その才能をさらに伸ばしていこうとしないのは、非常にもったいないことですし、残念なことでもあります。
学校によっては5月や6月の時点で、メンバーに入れなかった3年生がサポートに回るところもあると聞きますが、仙台育英の3年生は、最後の夏が終わるまでグラウンドでともに練習し、本気の紅白戦を行い、数パーセントでも望みのあるかぎり、ベンチ入りをかけて戦っています。7月の伝承試合で真剣勝負をしている姿を見ていると、「まだ誰ひとり、メンバー入りをあきらめていない」と心底思います。監督としては、涙が出るぐらい嬉しい景色でもあります。
たとえ、メンバー争いに敗れたとしても、知恵と工夫と情熱を注いで、真剣勝負を挑んだ経験はその後に必ず生きていくはずです。うまくいかずに悶々と悩み、葛藤し続ける日々こそが、人を成長させていくものです。挫折のない人生などありません。メンバーに入れなかった悔しさや経験を力にして、次のステージで活躍するOBが毎年のようにいます。
また、選手側にも、「大事な試合に向けて、ピークを持ってきてほしい。今日、この瞬間に力を発揮しなければいけないという日は、社会に出てもあることだから」と伝えています。勝負の日に力を出せることも、生存競争を勝ち抜く大事な要素になります。
1番から9番は、チーム内競争を勝ち抜き、代表として選ばれた9人です。彼らに求めるのはハイパフォーマンス。レギュラーとして、誰からも認められるような結果を残すこと。酷な言い方かもしれませんが、「あなたができないとき(実力を発揮できないとき)は、チームが負けるとき」と伝えています。それぐらいの自覚を持ってほしいのです。
私は、「公式戦での成功やミスは、何事にも変えられない価値がある」と考えています。練習試合の緊張感をどれだけ高めたとしても、公式戦にはかないま��ん。高校野球の世界では、「1試合勝つごとに強くなる。チームが成長する」といった言葉を聞きますが、本当にそのとおりだと思います。逞しく、強くなる姿を目にするからこそ、できるかぎり多くの選手に成長の場を与えてあげたいのです。
ともに過ごしてきた時間が1年長い上級生のほうが、「想いや気持ち、意思疎通、瞬間瞬間の思考や判断の部分で長けている」という考えからです。 ブルペンキャッチャーに求めるのは、ピッチャーの状態を的確に評価する目です。そのため、10点満点方式で7点を「並」と定めたうえで、試合中に点数を報告させています。5点方式ではだいたい3点か4点になってしまうので、あえての10点満点です。 「7・5点です」と報告に来れば、「その理由は? 7点ではない意味はどうして?」としつこく問いかけます。はじめは曖昧な答えであっても、練習試合で何度も問いかけ続けることによって、ブルペンの出来と実戦のピッチング内容にはズレがなくなってきます。
一人ひとりの子どもの育ちや家庭環境を考慮しないかかわり
選手には、「数字と向き合えるほど、成果に対して誠実な人間」と話しています。のちほど、投手と打者を評価する数字も紹介しますが、いい結果を継続的に出すためには、「量が正義」と言えるだけの練習が絶対に必要になります。取り組みの質ももちろん大事ですが、それ以上に大切なのは「量が質を生む」という考え方です。絶対的な量の技術練習やトレーニングを重ねていかないかぎり、数字を出すことはできません。
ただし、測定の数字がメンバー選考の大部分を占めるわけではなく、「一次資料」のような扱いです。試合でのパフォーマンスはまた別の話になるからです。
全選手がすべての測定を行うには、最低でも2日間は必要になります。どうしても日程が取れないときは、2日連続で行いますが、そうでないかぎりは1週間ほど日にちを空ける。疲労によって、正確な数字が出ないこともあるので、全員がベストな状態で臨めるように配慮しています。
体力測定が一次資料だとすれば、二次資料となるのがゲームの中での数字です。どれだけ高い身体能力を有していても、それを試合で発揮できなければ、宝の持ち腐れとなります。「対応力」や「準備力」をどこまで持っているか。選手たちには投手、野手の総合評価方法を次のように伝えています。
一次資料、二次資料を基にして、ベンチ入りメンバー20名(あるいは18名)を選出していきます。数字を重視しているのは間違いありませんが、決して数字がすべてではありません。チームの戦い方、打線のバランス、ポジション適性など、さまざまなことを総合的に判断して、最終的には監督が決めていきます。
だからこそ私は、言葉でも文書でも、「現在地」と「方向性」を伝えるようにしています。明確に伝えることで、自分の現在地がわかり、どんな練習に力を入れるべきかの方向性が見えてきます。「もっと頑張れ!」「努力が足りない!」と言うだけでは、指導者としては言葉足らずでしょう。どうやって頑張れば、活躍のチャンスが生まれてくるのか。彼らの言葉に耳を傾け、監督の想いも伝え、歩むべき道をすり合わせるようにしています。
岩崎���甲子園の決勝でのホームランが目立ちましたが、本来は〝気持ち悪いバッティング〟が持ち味です。これは最大級の褒め言葉で、バッテリーの配球やランナーの状況を見極めて、詰まりながら逆方向に打ったり、犠牲フライがほしい場面でフライが打てる高さのボールを選択して、確実に外野に飛ばしたり(明秀日立戦の勝ち越し犠牲フライがまさにそれ)、相手からするとイヤなバッティングができる。野球がうまく、野球をよく知っていて、目の付け所がいい。一言で表現すれば、「試合の中で生きる選手」です。
夏の戦いを振り返ってみても、甲子園のほうが気持ちよくバットが振れていました。「甲子園のほうが打てる」とまでは言い切れませんが、監督としては、「県大会と甲子園は違うもの」と理解しておくことが大切だと思っています。ここに関しては、私自身の反省があり、鳥取商戦の序盤に仕掛けた細かい作戦が、ことごとく失敗に終わりました。序盤の仕掛けは、さまざまな布石を打つ狙いもあり、それ自体に意味はあるのですが、選手たちのバッティングを信じて、もう少し任せても良かったかなという気持ちは残りました。
「日本一激しいメンバー争いを勝ち抜くためには、自ら練習をするのが当たり前」という空気を作ってくれたのが、就任1年目の2018年世代でした。 彼らに繰り返し伝えていたのは、「チーム作りは文化作り。今後、5年、10年と続いていくような、文化を作り上げてほしい」という話です。不祥事からのリ・スタートだったこともあり、チームとしての土台を築くことに、特に力を注ぎました。
近年、教育の世界で、「グリット」という考え方が重要視されています。日本語に訳せば、「やり切る力」。過去の教え子の取り組みを振り返ると、何においても「やり切る力」を持っている人間は、苦手なことにも好きなことにも、高いレベルでやり切ろうとする意思を感じます。「根気」と置き換えてもいいかもしれません。
「やらなくてはいけないことをやる」という意味では、学業にも同じようなことが言えます。学校生活の第一義は学業にあります。授業態度の悪い者、学業向上に努力しない者、欠席・遅刻の多い者、学校の教育活動に積極的に参加しない者は、技術が高くとも、部員の代表として背番号を着ける資格はありません。 これは決して、〝罰〟ではなく、もっと本質的な意味合いがあります。背番号をもらうということは、もらえなかった仲間がいるわけです。選ばれた者が、組織の中でどんなふるまいを見せるか。それが理解できなければ、絶対に良き文化は築かれていきません。
「人生において、苦手なことに取り組むこと、向き合うことは、自分の道を切り拓いていくことになる。なぜなら、人生の多くの場面で、短所が長所を消してしまうから。ネガティブな部分が邪魔をして、長所までも消し去ってしまう。だからこそ、苦手なことや短所に対して、丁寧に向き合える人間であってほしい」
ただし、測定の数字がメンバー選考の大部分を占めるわけではなく、「一次資料」のような扱いです。試合でのパフォーマンスはまた別の話になるからです。
体力測定が一次資料だとすれば、二次資料となるのがゲームの中での数字です。どれだけ高い身体能力を有してい���も、それを試合で発揮できなければ、宝の持ち腐れとなります。「対応力」や「準備力」をどこまで持っているか。選手たちには投手、野手の総合評価方法を次のように伝えています。
人が物事を覚えていく過程には、「わかる→できる→いつでもできる」というステップがあります。物事の意味がわかり、頭で理解し、実践できるようになったとしても、「いつでもできる」ところまで持っていかなければ、合格点とは言えないのです。それでも、このレベルまで定着したものでも、注意喚起をしなければ目減ります。指導者としては、それを理解しておくことが非常に重要だと感じています。
人が物事を覚えていく過程には、「わかる→できる→いつでもできる」というステップがあります。物事の意味がわかり、頭で理解し、実践できるようになったとしても、「いつでもできる」ところまで持っていかなければ、合格点とは言えないのです。それでも、このレベルまで定着したものでも、注意喚起をしなければ目減ります。指導者としては、それを理解しておくことが非常に重要だと感じています。
3年生(新チームのときは2年生)には、「年長者の役割は、後輩がやりやすい環境を築くことだよ」と、毎年のように話しています。グラウンド整備などの環境整備を率先してやるのは当然のこととして、試合の中では下級生が思い切りプレーできるような声をかけてあげる。3年生のふるまいが、良くも悪くもチーム全体に影響を与えていきます。 三学年揃っているときは、A・B・Cの3チームに分けて、試合や練習を行いますが、Aチームは3年生全員と2年生のメンバー入り候補で構成しています。3年生に関しては、その時点でメンバー外であろうとも、「学年全員で一緒にやるぞ!」という気持ちを大切にしたいので、Bチームに入れることはありません。指導者としては、気持ちの面でも技術の面でも、3年生全員が一緒にやれるように育てているつもりです。 Bチームは、秋の大会で主力になる「ネクストチーム」で、2年生と1年生で組まれています。Cチームは、Bチーム入りを狙う1年生が中心です。コーチの推薦、基礎体力測定の数値、試合の成績などを加味して、頻繁に入れ替えをしています。 2年生に求めることは、「最上級生になる前に、今のうちに自分のことを一生懸命にやっておきなさい」。いずれは、周りに目を配り、チームのことを考えなければいけない時期がやってきます。自分のことに集中できる最後の期間が、2年生の夏の大会までです。 1年生には、「今が一番うまくなる時期だから、一生懸命に練習をしなさい」と、これも毎年のように伝えていることです。「仙台育英で勝負をしたい」と入学してきて、新しい環境に多少の不安はあるでしょうが、「やってやるぞ!」という気持ちのほうが勝っているでしょう。先輩から教わりたい、学びたいという気持ちもきっと持っているはずです。
私的な話ですが、2021年の12月に父が病気で他界しました。9月に大腸がんであることがわかり、そこからの日々は本当にあっという間でした。震災のときにも感じたことですが、人の命は尊くもあり、儚い……。明日、生きている保証などどこにもなく、いつ何が理由で命を失うかもわからないのです。だ��らこそ、今できることに全力を尽くし、家族はもちろん、目の前にいる生徒に目一杯の愛情を注ぎたいと思っています。
どんな優秀な組織であっても、『働きアリの法則』が当てはまると考えています。 つまりは、意識が高いトップ層の2割と、中間層の6割と、モチベーションが低くなりがちな2割の「2:6:2に分かれる」という法則です。仙台育英においても、これまでお話ししてきたような、モチベーションを高める取り組みをやっていたとしても、下位層の2割は必ず出てきてしまいます。
私は、「悩んでいるな」「カベにぶつかっているな」「進むべき道がわかっていないかな」と感じる選手ほど、「どう? 自分の持ち味が何かわかっている?」と声をかけて、丁寧に話を聞き、コミュニケーションを取るように心がけています。繰り返しになりますが、学生時代に何の実績もない私ができることは、選手の話に耳を傾けることです
ここ数年、私が言い続けているのは、「〝まとめる〟じゃなくて〝まとまる〟だよ。キャプテンも、自分がまとめていこうなんて思わなくていい。ひとりひとりが自立して、〝まとまる〟という思考を持つことが、チームの成果につながっていくから」という話です。
「愛とは、お互いを見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることである」 チームの組織で言えば、目標と目的を共有し合い、同じ方向を見つめ続けることが、チームワークだと考えています。 「個人個人が役割や責任を果たし、勝利に向かっていく」 わかりやすく言えば、このように表現することができます。決して、誰かによってまとめられる、〝受け身〟のものではないのです。
それぞれの個性によっても変わりますが、私がキャプテンに求めるのは「傾聴力」です。仲間の気持ちや想い、ときには愚痴や悩みにもしっかりと耳を傾けて、話を聴いてあげること。ひとりひとりとしっかりとコミュニケーションを取れる力がなければ、チーム内に不平不満が募り、個々が違う方向に進んでしまう可能性があるのです。
そのときに、ミーティングでこんな話をしたことを覚えています。 「罵声を飛ばしても、ミスを許さないような緊張感を作っても、今の状況ではチームは良くならないんだよ。君たちに足りないのは、〝優しさ〟だと思うんだけど、どうだろう。言葉のひとつひとつが優しくない。想像力がなさすぎる。あいつがどんな気持ちでプレーしているのか、最近うまくいっていないから悩んでいるのかなとか、その子のことを真剣に思うようになったら、かける言葉が変わってくるんじゃないかな。君たちに大事なのは、お互いを認め合うこと。〝優しさは想像力〟なんだよ。もっと、想像力を働かせようよ」 優しさは想像力──。 生徒の前で喋っている中で、自然に出てきた言葉でした。 「相手の立場になって、物事を考える」
私自身のGM時代を振り返ると……、チームメイトに申し訳なかったなと今でも思います。優しさのかけらもないGMで、厳しいことを言い続けていれば、自分の想いがきっと伝わるものだと信じていました。でも、厳しさだけでは人は動かない。ましてや、同学年の関係性なので、言われる側は「何で、お前にそんなこと言われなきゃいけないんだよ」という感情が出てくるものです。 「優しさは想像力」は、これから社会に出て、多くの人たちと関わっていく中でも、大切にしてほしい心持ちです。人に言葉を届け、人の心を動かすには、愛情や優しさが絶対に欠かせません。
猿橋先生は「時間がゆっくり流れていく分、ひとつひとつのことに根気強く、丁寧に取り組めるのが良いところ。地域の良さを生かしていったほうがいい」と、「考える野球」「知性の野球」を実践していました。私もこの考えには100パーセント同意で、〝丁寧さ〟に勝るものはないと思っています。 仙台育英には、全国から生徒が入学していますが、不思議なもので、宮城に数カ月も住めば、宮城の色に染まっていきます。それだけ、その場所に流れる空気は大きな影響をもたらすものです。
それ以来、野球面でも教育面でも、多くのことを教えてもらっています。野球面でよく言われているのが、「ゲームが教えてくれることが必ずある」。試合は、相手がいることによって成り立ちます。作戦がうまくいかないことがあれば、互いのピッチャーが好投して、点が入りそうな雰囲気がまったくないときもあります。同じ相手と戦っても、同じ展開になることはまずありません。そんなときこそ、「このゲームは何を求めているのか?」というゲームの本質を考え、見つけ出した最善手を打っていく。監督として、今も大事にしている思考です。
教育面では、猿橋先生が考える「エリート論」に深く感銘を受けています。 「本物のエリートとは、組織(チーム)全体の利益を考えて行動できる人。自分だけよければいいのではなく、組織全体のことをどれだけ考えられるか。そういう想いがあれば、その組織は確実に豊かになっていく」
組織のトップにいるということは、その下には誰か競争に敗れた人がいることにも気付かなければいけません。猿橋先生がよく話しているのが、「勝者になったとき、敗者とともに新しい世界を築いていく」「時と場所を共有し、互いに全力を尽くした相手に敬意を払い、敗れた者が納得し、誇りを感じられるような取り組みと、試合をする」「夢破れた者への思いやりやいたわる気持ち、背負う気持ちを持たなければ、他者からの支持は得られない」ということです。
何も成し遂げていないのに、先に大きなことを言うので、「ビッグマウス」や「須江は口だけの監督」と言われることもあるのですが、周りの声はまったく気にしていません。自分でコントロールできないことは気にしない。それが持論です。 夢や目標を口にすることで、それを達成するための策を本気で考えるようになります。夢を実現したければ、口に出すことです。願わないかぎりは、思い描いた未来は手に入らないでしょう。スローガンも、言葉にするからこそ、そこに向かおうとする意思が生まれるのです。
学業最優先で、練習は平日2日のみ。そんな環境ではありましたが、「勝てないのも仕方ないよね」と済ませられないのが私の性格で、地域の少年野球に挨拶に伺い、自作の資料を配り、「大切なお子さんをぜひ秀光中に預けていただけないでしょうか」と頭を下げました。今も変わらぬ考えですが、〝人は宝〟であり、「出会いこそが財産」です。
2006年9月29日、仙台地区大会で念願の初勝利。監督���して掴んだ、最初の勝利です。日付と全選手の名前を書き入れたウイニングボールは、私の自室に今も大切に飾ってあります。私にとって、忘れられない勝利になっています。
この近畿大会を見てから、「今までの須江航を捨てる。一度すべてを空っぽにして、ゼロから見つめ直す」と覚悟を決めました。そうでなければ、同じ敗戦を繰り返してしまう。当時は、「敗者復活戦」を勝ち抜く未来が見えていなかったのです。
指導者にはさまざまな仕事がありますが、そのひとつが、選手を正しく評価することだと思っています。なぜ、あの選手が背番号20番で、あの選手はメンバーに入れなかったのか。その差はどこにあるのか。「基準」がなければ、説明することができません。
ぼくは高校時代、学生コーチだった。それも100パーセント以外は認めないタイプ。100パーセントではないことはすべてアウト。イエスかノーしかない指導や関係は、組織としてうまく回らず、ぼくは反感を買った。反感はぼくが耐えればいいのだけど、結果も付いてこなくなり、結局は何も残すことはできなかった。未熟なのに、相手へのリスペクトを忘れて、ただ他者へ厳しいだけだったあの日のぼくとダブって見えた。 2つ。何を言うかよりも、誰が言うか。これが、ぼくがすごく大事にしていること。 経験を重ね、適切なタイミングで発言するから、説得力やその一言に重みがあるのだよ。そうやって組織は良くなっていくんだ。これから進む人生で忘れないでほしいな。何だか、野球の話ではないけれど、教えたかったことである。
改めて読み返してみると、今の高校生に対しても同じことを言い続けていることを、自分でも実感します。「あなたの良いところはここだよ。でも、この部分に関しては、これから生きていくためには改善したほうがいいよ」ということを、いかに丁寧に伝えていけるか。自分の長所と短所がわかれば、努力の方向性もおのずと見えてくるはずです。
この年に、私が一番大事にしていた言葉が「幸福度」です。不祥事によって、心が傷ついた選手が多数いました。寮内のルールが緩くなり、日常生活が乱れていることに気付いていても、仲間を注意できない自分を責める選手もいれば、不祥事をおかした者に怒りの感情を抱いている選手もいました。それゆえに、ひとりひとりが「高校野球をやり切れた」「仙台育英の野球部で良かった」と感じられる「幸福度」「幸福感」が必要だったのです。
「日本一になるなら、こういうローテーションが必要でした。うちは、成果は出なかったですが、成功したのが星稜さんです(エースの奥川恭伸投手ではなく、荻原投手が先発して、7回1失点と好投)。現在地や、日本一との距離感はつかめました。こういう結果で説得力はないですが、近い将来、『面白い野球』で日本一を取るという絵が描けました。やってくれると思います」 言葉にすることで、日本一が決して遠い距離ではないことを、選手たちにも伝えたい気持ちがありました。高校野球ファンや指導者の多くは、「これだけの点差で負けておいてよくそんなことを言えるな」と思ったでしょう。でも、私としては、「もうひとつ、もうふたつ、投手陣を高いレベルに持っていくことができれば、優勝は見えてくる」という手応えがあったのです。
「本質」は、私がよく使っている言葉です。言い換えるのであれば、「何かを追い求めていく過程の中で、辿り着いてほしい境地」。高校生は、どうしても目の前の結果に一喜一憂してしまいがちですが、良い結果も悪い結果も、その原因が必ずあるものです。そこを真剣に追求していかないかぎりは、願ったとおりの成果を収めることはできない。高校時代に、本質を問う思考力を身に付けることは、社会に出たときにも、必ず生きていくと考えています。
多角的に物事を捉えるために、主婦、会社員、学生など、さまざまな視点からの記事を送るように心がけていました。
『教育者はクリエイター』は、秀光中の教員を務めていたときに、猿橋先生に教えてもらった言葉です。「さまざまなアイデアを提示して、0から1を生み出していくのが教育者である」。常に心掛けていることですが、コロナ禍になってから、より強く実感しています。現状を「仕方がない」と思ってしまったら、何も生まれません。
多角的に物事を捉えるために、主婦、会社員、学生など、さまざまな視点からの記事を送るように心がけていました。
スローガンも同じですが、日常には数えきれないほどの言葉が溢れているだけに、どれだけ、心を動かす言葉を探すことができるか。指導者の大切な仕事になります。
大事なのは、事が起こる前に予測や準備に役立つ声をかけること。そして、チームとしての約束事を明確にしておくことです。 ベンチにいる選手が、どのタイミングで声をかけるかも重要視しています。私が言っているのは、「ベース上にいるときに声をかけなさい」。ランナーはリードを取ると、守備の動きに集中するため、指示の声がなかなか耳に入っていきません。適切な助言であっても、ランナーに届かなければ意味がないのです。
指導するうえで大事にしているのが、チームとして明確な「基準」を設けることです。「基準」がなければ、何がマルで何がバツなのかわからず、周りの選手もプレーの評価ができません。 わかりやすい例を挙げれば、一塁走者のリードはピッチャーから目を切らずに「2秒以内」に、420センチ(一塁ベースから右足)出る。スライディングは、ベースの1メートルから1・5メートル手前で滑る。数字で示したほうが伝わりやすくなります。
目減りを防ぐために、大会に入ってからは「準備」の時間を必ず取るようにしています。公式戦当日は、自校のグラウンドで練習をしてから球場に入るのがルーティンで、そこで重点的に行うのがバッティングと走塁です。9時に試合開始であれば、学校から球場までの距離を逆算して、5時頃から練習を始めます。 走塁練習を必ず20分は設けて、リードからの帰塁・スタート、シャッフルからバッターのインパクトに対する合わせ、打球判断と、一通りのことを行います。相手ピッチャーに何らかのクセがあれば、投手役の選手がクセを再現して、「このタイミングで走れる」と予習をします。二塁走者を背負ったときに、ホームを見て、ランナーを見て、ホームを見たときに投げるクセがあれば、2度目にホームを見るタイミングでスタートを切る。再現したクセの中で走っておくだけで、試合での対��力は変わってくるものです。
このときに注意するのは、自分が持っているMAXのスイングスピードをできるだけ落とさないことです。スイングを緩めれば、コントロールがしやすくなるのは当たり前ですが、それでは実戦の打席につながっていきません。
バットを強く振り、遠くに飛ばすことにチャレンジしていかなければ、小さいバッティングのまま終わってしまうでしょう。試合になれば、コツコツと当ててゴロを打つ場面も必要ではありますが、シーズンオフであれば、「より強く、より遠くへ」を求めます。 技術的に、細かいアドバイスは特にしません。一本足で打とうが、テイクバックで体を過剰に捻ろうが、極端なアッパースイングでも、何でもオッケーです。自分自身の中で、「遠くに飛ばすにはどうしたらいいか」を考えてほしいのです。
過去の経験から間違いなく言えるのは、「上半身を鍛えれば、バットが振れるようになり、飛距離は格段に伸びていく」。ただし、第3章でも少し触れましたが、ベンチプレスをやりすぎると、胸郭の動きに硬さが出るのか、投力に悪影響が出る選手を数多く見てきました。 何度も言いますが、トレードオフです。守備が苦手で、「おれは長打で生きていく」と思うのであれば、上半身を徹底して鍛えることもありだと思います。1対1の面談の中では、「どうする?」という話をこまめにするようにしています。
打席に入る前に、「打てなかったらどうしよう」「ここでゴロを打ったらゲッツーか」と、まだ起こってもいない未来の結果を気にするのではなく、目の前の状況をしっかりと把握し、狙い球を整理することが必要になります。バッテリーがゴロを打たせたいと思えば、低めの変化球を使ってくるのが定石であるはずです。走者二塁で右バッターに進塁打を打たせたくないと思えば、インコースから入ってくるかもしれません。こうしたことも何も考えずに、「来た球を打つ!」と気合いだけ高めても、打てる確率は上がっていかないのです。相手のレベルが高くなればなるほど、徹底した準備が必要になります。
「勝ちたいのであれば、自滅を防ぐ」 これが、大原則です。基本的に、野球は得点が入りにくい競技のため、負けるときの多くの原因は、守備の乱れによる自滅です。失策、フォアボール、フィルダースチョイス。チームで特に気を付けているのがフィルダースチョイスで、失点に絡む可能性が高い。走者一塁からの送りバントに対し、ピッチャー正面の強めのゴロを二塁に投げるか、一塁でアウトを確実に取るか。判断力を問われる状況が、試合の中では何度もあるものです。
試合に臨むにあたっては、相手チームの個々の能力をA~Eの5段階に分けて、攻撃力85点、走力80点というように点数化しています。 相手の攻撃で特に見ているのは、長打が打てる選手、速いストレートに対応できる選手は何人いるか、一塁からの攻撃のバリエーションがどのぐらいあるのか、連打の確率はどの程度か。こうしたことを総合的に判断して、失点数を予測します。「うちのミスがなければ、3点には抑えられる」と思えば、序盤の無死三塁では内野を後ろに下げて、「1点オッケー」のシフトを敷くことになります。何対何で勝つというプランがないと、序盤からやみくも���前進守備を敷き、内野手の間をゴロが抜けて、「1点を惜しむあまりに、結果的に大量点を失う」という展開にもなりかねません。
特に命取りになるのが送球のミスであり、2つの進塁を許すことにつながりかねません。バッティングも守備(捕球)も練習でうまくなるものですが、スローイングに関しては、センスや才能の要素が大きいように感じます。そのため、中学生を評価するときは、キャッチボールをよく見るようにしています。野球を続けていくうえで、「ボールを正確に強く投げられることは最大の武器」と言っても過言ではありません。 外野手は、後方の飛球に対して、落下地点にどれだけ真っすぐ入れるかがカギです。一旦打球に近付いてから、「もっと後ろだった」とそこから斜め後ろに走り出す選手が多く、これを「アマチュアライン」と名付けています。改善方法としては、外野の守備に着いたままの状態で、「カン!」と打球が上がった瞬間に、落下点をいち早く予測して、指で差し示す。その場で落下点を読むことで、打球に対する感覚を研ぎ澄ませていくのです。
球速を伸ばすために、チームで大事にしているのが「スキルはフィジカルの上に乗る」という考えです。野手にも共通するところで、スキルだけを伸ばそうとしても、どこかで頭打ちになるでしょう。柔軟性や連動性、強さといった土台がなければ、パフォーマンス向上にはつながっていきません。ウエイトトレーニングはシーズン通して行い、特にスクワットやデッドリフトを中心にした下半身トレーニングは必須メニューです。
技術面で見ると、「横向きの時間をどれだけ長く取れるか」が重要なポイントになります。横向きの時間が長いということは体重移動がしっかりとできていて、回旋運動に移るときに胸の張りが生まれ、腕が強くしなやかに振られていきます。 実践するにはそれ相応のフィジカルとスキルが必要になります。最大のポイントは軸足の使い方にあり、体重移動の際に軸足のヒザが早く捕手方向に曲がるピッチャーは、横向きの時間が長く取れず、回旋運動が早く始まってしまうのです。 このフォームを作るためには、土台となる下半身の力が必要になります。仙台育英ではウエイトトレーニングのほかに、「レッドコード」と呼ばれる伸縮性のロープを使い、自重でのトレーニングにも力を入れています。2本のロープの上に片足ずつ乗せて、スクワットやレッグランジなどに取り組んでいきます。足元が不安定な状態で動くことになるため、アウターではなく体の深部にある小さな筋肉に刺激を加えることができます。 次ページに掲載している写真が、ヒザの内入れを防ぐメニューです。踏み出し足をロープに乗せて、キャッチャー方向にゆっくりと移動していくことで軸足の強化とともに、力を発揮しやすい股関節とヒザの角度を覚え込ませることにつながっていきます。
さらに、2年ほど前から注力しているのが、胸郭の柔軟性です。胸の張りを生み出すために欠かせない動きであり、投手陣は週に1回、理学療法士のもとで専門的な指導を受けながら、ブリッジなどさまざまなストレッチに丁寧に取り組んでいます。近年、球速がアップしている要因のひとつと言って間違いありません。 また、球速の向上には地面反力の活用が欠かせません。ジャンプ系のトレーニングや、メディシンボール投げで、地面からの反力を瞬間的に力に変える。「力の集約」と言い換えることもでき、力を出すタイミングを養っています。 腕の振りに関しては、ピッチャーそれぞれの個性を生かしたいので、特に指導することはありません。打つことも投げることも、「自然体」が一番。不自然な動きになった瞬間に、腕は振れなくなるものです。腕の振りを細かく指導していないことも、球速アップの一因だと捉えています。
「仙台育英=継投」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、何も試合前から、 「絶対に継投で勝ちたい」と思っているわけではありません。 大前提にあるのは、「トーナメントの大事な試合で、信頼できるピッチャーをフレッシュな状態で使いたい」という考えです。2022年の夏の甲子園で言えば、状態が良かった斎藤蓉をできるかぎり元気な状態で決勝の先発に送り出す。試合中盤で足が攣ったために、8回から高橋に継投しましたが、それがなければ最後まで任せる選択肢もありました。
3打席も立てば、ピッチャーの球筋に慣れ、配球パターンも掴めてくるはずです。しかし、2打席で新しいピッチャーに代わるとなれば、またフラットな状態で打席に入らなければいけなくなります。 球数による疲労も考慮しています。高校生であれば60球で何らかの変化が見えて、次に80球、100球と、状態が徐々に落ちていくのが通常です。たとえ、100球で完投できたとしても、その疲労感は必ずどこかで現れてくると考えています。 ヒジと肩は間違いなく消耗品です。理想的な投げ方をしていても、痛めてしまう選手はいます。仙台育英では、「強度の高い投球は1週間でおおよそ300球まで」と決めていて、野球ノートに球数を記入。「強度の高い」とは遠投やブルペン、実戦での投球が該当します。そのため、投げ込みはほとんどしません。ただし、リリースの感覚やコントロールはボールを投げなければ身に付かないため、ネットスローやキャッチボールを推奨しています。
理想を言えば、高速帯、中速帯、低速帯と、3つの球速帯を持っていると、狙いを絞られづらくなります。ただし、緩いカーブを練習することで、スライダーの曲がりまで遅くなるなど、何らかの弊害が出てくるものです。何事もトレードオフであり、一長一短がある。理想の投手像を話し合ったうえで、自分の特徴に合った方向に進んでいけるようにコミュニケーションを取っています。
選手によく言っているのは、「リアクションではなく、自らアクションを起こしていきなさい」という話です。
もうひとつ、「試合前に自分との戦いは終わらせて、試合が始まったら相手と戦いなさい」という話もしています。 自分との戦いとは、投手で言えば、ピッチングフォームや状態を気にしてしまうことです。それは練習で終わらせておくべきことで、試合になれば、打席にいるバッターと勝負をしないかぎりは、いい結果は生まれないでしょう。
室内練習場には、「勝負根性」の定義を記した紙を貼っています。 「1球に対する執念で、如何なる時も常に引かずに攻める。 ここ一番での集中力で、心は熱く頭は冷静に、視野を広く持つ。 試合前に自分との戦いを終わらせて、試合は相手と向き合い、勝つ」 気持ちの強さや執念がなくては始まりませんが、気持ちだけは勝てないのも、また事実です。いかに冷静に、相手のことを観察しながら、戦うことができるか。それが、仙台育英が求める「勝負根性」です。
物事の本質を追求し、心技体すべての条件を満たせたときに、〝日本一から招かれる〟」。この思考を今一度大事にして、2回目の初優勝を目指します。
8年前の2014年夏、秀光中の監督として全中を制してしばらくしたあと、松島中の猿橋善宏先生(現・仙台育英部長)にこんな言葉を教えてもらいました。 「賛同の多いことは時代遅れ」 この言葉をずっと大事にしながら指導をしてきました。賛同が多いことは、もう世の中では当たり前のものとして認められている。現状に満足して、その場に居続けてしまえば、改革を起こし、新たな時代を創ることはできません。 私は語る言葉が多く、まだ実現してもいないことを先に口にする人間なので、賛否もあり、批判を受けることもあります。それでも、批判を気にしすぎていたら、新しいことに挑戦することはできないのです。『賛否両論』は、私が大切にしている言葉で、「賛同」だけでは、良いものは生まれてこないと思っています。 これからも、自分の信念を貫き、目標と目的の実現のために、選手たちとともに歩んでいきたいと思います。
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須江先生は本当にすごい。
こんなに情熱を持って子どもたちに向き合っている先生はなかなかいない。
徹底したデータに基づく激しいレギュラー争い。
須江先生の信念や想いを根気強く伝える姿。
決して一方的ではない、子どもたちとの対話。
こんなマメで緻密な人はいない。
指導者って大切なんだと改めて思った。
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選手との会話は大切。やりたいことをやりたかったら、やらなくてはいけないことをしっかりとやりなさい。人としてやるべきことをやっていなければ、だめ。時間を守る、挨拶ができるなど、やり切る力が大事。
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全国中体連と甲子園…両方を制覇した初めての監督ということで、興味津々でした。
良い選手が集まってるのもあるけど、細かいところまで指導されていて、さすがだなと思いました!
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須江監督の生徒一人一人を大切にする気持ちが感じられる本でした。何かを成し遂げるためには、細部まで考えを巡らせ、準備を怠らないことが大切だと勉強しました。