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現在、非常に大きな問題となっているウクライナでの戦争を入口にしながら、軍事紛争に苦しんでいた状況の解決と事後の様々な事柄、そうした関係地域での日本の国際協力の経過というような幅広い話題を取上げ、ウクライナでの危険な状態を脱することを期したいとする内容で、読み応えが在る一冊になっていると思う。
「戦争の終わらせ方?」というようなことは、辞書や百科事典に載っているようなことでもないのかもしれない。が、「戦争が終わる」というのは、「何れかの陣営が軍事的に勝利」というような第2次大戦のような状態でもなければ「交渉による和平合意」ということにしかなり得ない。ロシア側が<特定軍事行動>と称する「侵攻」に端を発するウクライナでの戦争も、とりあえずは「交渉による和平合意」を目指す他に無いのかもしれない。そういうことで、少しの間模索された停戦合意の経過、それが沙汰止みのようになった後の経過等を本書では論じている。更に、色々な事例や、幾人かの論者が取上げている論点を紹介し、「戦争犯罪」なるモノの取り扱いを巡る事柄も取上げている。こういう事柄を論じている例は余り知らず、少し参考になった。加えて「経済制裁」に関する事も広く論じられていた。
既に戦争は1年も経ち、ウクライナ各地の民間人の間では子ども達に至る迄、戦争状態が日常化してしまうような状況に陥っている。少しでも早く停戦への動きが加速して頂きたいものだ。そして戦禍で荒廃してしまった国を建直すというような動きの中、様々な国際協力の模索ということも在るであろう。そういう国際協力ということに関して、日本は存外に豊富な経験を有しているということも本書では紹介されている。
残念ながら、開戦から丸1年を経て、停戦の動きは未だ視えない感である中だが、それ故に本書には「とりあえず読むべき!」という内容が込められていると思う。出逢って善かった一冊。御薦め!
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著者はアフガン支援にも携わった経験あり。提言に新しさはないが、著者の経験や過去の事例から冷静ないが議論を組み立てており納得感がある。
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戦争の終わらせ方
軍事的勝利 か 交渉による和平合意
大国の侵攻と国連の濫用
仲介を表明しつつ、軍事的に支援を続ける シリア内戦
レバッジ 説得する力 米国と中国
ファシリテーター 対話の促進 トルコ
3/29交渉
①2/24ラインに戻す、②NATO非加盟、③クリミアと東部は別途協議
→ブチャ殺害で和平交渉終わり
穀物輸出合意 中東アフリカからの批判
経済制裁 国家の体制転換例は少ない
解除条件明示 ロシア撤退と停戦
戦争犯罪責任
処罰を要求しないことが終結合意に
→アメリカのベトナム、イラク、アフガン
ICC判決 アフリカのみ
ホスト国支援 モルドバへ日本から
グローバル課題のファシリテーターとしての日本
国際ルールを守る国と守らない国
民主主義と専制主義を超える
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始まった喧嘩を終わらせるのは困難な事だ。2022年2月電撃的に開始されたロシア側に言わせると特別軍事作戦。有識者は西側に近づくウクライナの姿勢に早くから警鐘を鳴らし早晩このような事態になる事は予想されていた。プーチンから見れば東西干渉地帯に踏み込む行為に取れるし、お互いに経済的な利益目的の側面もあったであろう。そこに各国の立場なども複雑に絡み合い、最早いつどの様な形で収束するのか平和を望む誰もが見守っている状況だ。開始直後の対話も公には中断されているようだが早期再開は必要だ。結局、お互いの妥協点(国境線だけでなく戦後の補償含め)の模索は必ず必要になる。古代の戦争のような民族の殲滅戦があり得ない以上(核戦争になれば別)、必ずタイミングは訪れるので、状況に応じた和平案を持っておく必要がある。
本書は近年のそうした内戦含む和平交渉や戦後実務に従事した経験値を基に描かれており勉強になる。
その際の各国経済的利益に直接関与しない立場で交渉を推進させるファシリテーターの重要性の意見へも大きく頷ける。アフガン灌漑事業を例に挙げ、人道支援的な立場で貢献できる日本がまさにその役割を担えるのではと問いかける。
平和憲法のもとで戦争放棄し自国の利益の為に戦争には参加しないという日本の立場、その下で戦後奇跡的な経済発展を遂げた世界に類なき我国だからこそ、世界にその姿勢を表し担うべきという考えも大いに理解できる。
ウクライナの大反攻により状況は益々混迷を極めるが、理由なく始まる戦争は無く、終わりの来ない戦争も無い。引き続き両国並びに支援や実質的に黙認する各国の動向踏まえ、各人が自身の終わらせ方を考える必要性を強く感じた。
平和的に安全に生きる権利を誰もが持つ。地球という美しい惑星は人類全員の共通財産。世界人類の真の精神的・肉体的安全を保障するため、地球の一員である誰もが考えなければならない。
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本書は、ウクライナ戦争の想定される終結シナリオとして、次の5つを紹介しています。
①破滅的なシナリオ
ウクライナに傀儡政権を樹立することのできない追い詰められたプーチン大統領が、何をするかわからない行動にでる「戦慄すべき」シナリオです。
核兵器を伴う世界大戦を示唆しています。21世紀の現在に、そんなことがありうるのでしょうか。
非常に怖い話ですが、死者の数も数桁上がるでしょうし、世界が破滅とまではいかなくとも、それに近い惨状が予想されます。
どちらの政治家も、それを回避してくれなければ困ります。
②汚い妥協
停戦およびロシア軍の撤退と引き換えに、ウクライナがNATOに加盟しないことを約束。さらにウクライナ東部のドンバス地方のロシア編入を認め、西側諸国のロシア制裁解除をするというシナリオ。
このシナリオは、成立する可能性が低いとしています。
プーチン大統領は、ウクライナを傘下に置く目標を達成できず、ウクライナも領土の割譲を認めるわけにはいかないからだとしています。
最後には、双方が満足する妥協点の探り合いになるのでしょうが、その着地点までは相当時間がかかりそうです。
③プーチン体制の崩壊
ロシアの政権内部からのクーデターを含め、ロシアの人々がプーチンを大統領の座から、追い出すというシナリオです。西側にとって最善のシナリオです。
しかし、このシナリオはのところ現実性がないと思いますね。ロシアの世論調査でも、プーチンの支持率は、今でも8割前後で推移しています。
この支持率を見ると、ロシア国内では、プーチン大統領の主張は一定程度以上に受け入れられていると判断せざるを得ないと思います。
④西側諸国対ロシア・中国圏で経済圏が次第に分離
中国がロシアの原油・天然ガスを買い続けた場合、中国への批判が強まる。
中国が、原油・天然ガスを買い支えることへの批判から、西側諸国とロシア・中国圏で次第に経済圏が分離するというシナリオです。
しかし、著者も、今のところ、この第4のシナリオに突入することは中国・アメリカともに避けようとしていると判断しています。
⑤中国とトルコが働きかけ、ロシア軍が停戦・撤収
ロシアの経済的な命綱を握る中国と、友好関係にあるトルコが交渉役となるシナリオです。
ロシア軍が停戦・撤収し、ウクライナ側はNATOに入ることを目指さず、他の形の安全保障体制に入り、そのことでプーチン大統領の面子を保ちつつ軍を撤収する。
どのシナリオも、実現には難しい問題を抱えていますが、①「破滅的崩壊」はとんでもないシナリオですし、③「プーチン体制の崩壊」は今のところ期待はできないでしょう。
④「経済圏の分離」は、日本経済にも大きな打撃が予想され、その程度によっては世界的経済混乱まで進む可能性があります。これもとんでもないシナリオですね。
そうすると、⑤「中国・トルコの仲裁」で②「妥協」を探るシナリオが現実的なのでしょうか。
これらの戦争終結への進行について、本書の考察はまだまだ続きます。
著者は、過去の戦争を���えるときに、戦争というものは「軍事的勝利」と「交渉による和平合意」のどちらかしかないと言い切ります。
そうだとすると、核大国であるロシアに対して全面的な「軍事的勝利」というものは存在するのかと語ります。
6000発の核兵器を持つロシアが、敗戦を認め撤退することがあり得るのかと問うのです。
しかし、同時にそれが核大国が戦争に勝利するといったものでは無いと言います。
むしろ第二次世界大戦以後に大国が小国に進行して、傀儡政権をつくる試みはほとんど失敗して、大国が撤収することで戦争が終結したケースがほとんどだというのです。
著者は「アメリカのベトナム戦争」「ソ連のアフガン戦争」「アメリカのイラク戦争」「アメリカのアフガン戦争」を取り上げて論拠としています。
すべて、大国が小国に軍事侵攻し、最後は交渉により撤退しているのです。
このウクライナ戦争は、どちらも完全な勝利はできないのでしょう。しかし、ウクライナ側にしてみれば、ロシアを撤退に追い込めば実質的な「勝利」だというのです。
その「撤退」をどこまでさせるのかが、これからの戦場の勝敗で決まってくるのでしょう。
ウクライナ戦争は、昨年2022年2月24日のロシア軍の軍事侵攻から始まりました。
その後の3月29日に、トルコの仲介のもと、トルコのイスタンブールでウクライナとロシアの交渉団が交渉を行いました。
後から振り返れば、この時がロシアとウクライナが停戦と終戦に向けて最も近づいた日であったと本書は書いています。3月29日の和平調停です。
それが、キーウ周辺でのブチャでの民間人殺害が明らかになることにより、停戦交渉はとん挫しました。
著者は、アメリカの複数の米国高官の話として「2022年4月の段階で、ロシア軍は2月24日の侵攻前のラインまで撤退し、クリミアとドンバスの一部は実効支配を続ける。ウクライナ側はNATO加盟を求めず、他の国々からの安全保障を享受すると」いう内容だったと書いています。
この停戦案は、現地交渉団レベルでは一旦は合意できていたというのです。
しかし、今後いずれは停戦交渉が行われるでしょうから、この案が、内容は変わるかもしれませんが、再び浮上してくることは十分に考えられますね。
本書は、後段で「経済制裁」や「領土問題」「難民支援」「国際貢献」など多岐にわたる課題を取り上げて、諸課題の解決への道を検討しています。
それぞれが、いろいろ考慮すべき点が満載の事項ばかりで参考にはなりましたが、小生が一番興味を持って読んだところは、これまでに紹介した「戦争の終結」についてでした。
一日でも早く、ウクライナ戦争が終結することを望みます。本書は、ウクライナ戦争の終結の難しさがよくわかる本だと思いました。
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紛争の調停現場で活躍されていることもあり、交渉の困難さなどがわかりやすくまとめられていました。ただ最終章のまとめ方はやや飛躍しすぎに感じます。
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戦争を終わらせる方法はあるのか。国連アフガニスタン支援ミッション和解・再統合チームリーダーなど、現場経験を活かして、考察する。
本書では、まず、この戦争の長期化、核の恐怖と背中あわせの戦争を指摘し、戦争の目的が定まっていないから、止めようがないという。これに加えて、ロシアは凄まじい大義なき疲弊戦を続け、かつ、国民全体を対象にした動員も始めており、ロシア人1人1人にとって、もうこの戦争は他人事ではない事態になった。
プーチン大統領の失脚、政権の崩壊? は、戦争を終わらせるひとつの方策かもしれないが、世界大戦へのエスカレートを防ぐためには、これに頼るわけにもいかない。プーチン大統領の存続する限り、結局は最終戦争に突き進むということでは人類が終わってしまう可能性すらある。
そこで、現実的な処方箋として、プーチン大統領のもとでどのような終結の方法があるのか外交的な模索を続けることがどうしても必要である、とする。著者の基本的な立場である。
次に、第二次世界大戦後の戦争は、どう終わってきたのかを概観するが、結論は、ベトナムでもアフガンでも、「大国の軍を自分たちの区なから撤退させる」ことを目標に戦い続けた。・・・侵攻する側に大義がないことを世界に示しつつ、大国本土への攻撃は控え、大国内での市民の反戦の動きを高めることで軍を撤退させるのが、侵攻を受けた側の一貫した戦略だった、と見事な整理を読者に提示する。
以上を踏まえ、「和平調停・仲介の動き」に論を進めるが、まず、国連への期待と限界について、戦争が始まった後の和平交渉では、紛争の当事国が支援しているグローバルな大国や周辺諸国が本気になって戦争をやめようとし、双方の紛争当事国に対して説得を行う必要がある。それがなければ、国連の調停だけでは、なかなか戦争が終わらない現実がある、と述べる。
どういった方法が考えられるか、ここで、大国や周辺国の力(レバレッジ)を指摘する。 紛争当事国を支援している大国や周辺国は、戦争の終結に向けて紛争当事者を説得する力、いわゆる「レバレッジ」をもっているからである。
ウクライナ戦争では、米国と中国が、レバレッジを持つ国になる。
第5章の「戦争終結の課題と、解決への模索」が、本書のメインテーマに関する記述になると思われるが、戦争終結の難問として、①領土問題、②戦争犯罪、③安全保障の枠組みの3つをあげる。
①については、2月の侵攻前にロシアが実質的に編入しているクリミア半島と、親ロシア派が実効支配しているルハンスク州やドネツク州の一部の地域をどうするか、という問題を提起、ウクライナの人々の圧倒的被害と苦境を終わらせ、世界大戦や核戦争になるリスクを回避するためには、まずは二月二四日のラインまでロシア軍を撤退させることを、ウクライナ政府と国際社会の共通目標とし、それ以上の領土問題については、ロシアとウクライナのその後の交渉に委ね、双方が折り合う妥協点を見つけていく、というのが、現時点での最良の道ではないか、という。
②については、ロシアの戦争犯罪と��の責任者をすべて処罰するまで戦争を続けるとし、本気で逮捕しようとした場合、理論的には、ロシア国内まで攻め込まなければ逮捕できない。・・・それよりも、まずは戦争を終結させて、その後、ロシアとウクライナの間に戦争犯罪に関す目委員会を設置し、この戦争で起きた悲劇について事実を明確化し、必要に応じて個人レベルの謝罪や賠償を行い、二度とこのようなことが起きないような共通認識を深めていくことを模索する作業を続けることを提案する。
いずれも、実務家らしい視点であり、大方の所は、反対はないだろう。
最後は、日本の役割である。第6章は、「日本のウクライナ難民支援――隣国モルドバでの活動」をレポートし、第7章で、今、日本は国際社会で何をすべきか――深刻化するグローバルな脅威と日本について論じる。
欧米の圧倒的関心と外交資源がウクライナ問題に費やされる中、日本が中東やアフリカなど第三世界における、一国では解決できないグローバルな課題の解決のために主体的な役割を果たすこと、それは現地の人々や政府からも、そして欧米諸国からも感謝されることだと思う、というのは、著者の活動のバックボーンではなかろうか。
さらに、日本人としてできることは、「民主主義」と「平和主義」という自らの戦後の生き様に誇りを持ち、このような侵略行為に毅然と抗議し続けながら、それでも世界大戦に突入しない知恵を絞り、米国や中国も含め、世界全体に働きかけていくことだと思う、との締めくくりは、日本人の自信を改めて取り戻させる、筆者の熱いメッセージである。 著者は、文章力もあり、勢いのある筆致に引き込まれ、一気に読むことができた良書である。
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題名通り、ウクライナ戦争をどう終わらせるか、その困難さ、そして日本に何ができるのかが書かれている。
戦争を終わらせるには、「軍事的勝利」か「交渉による和平」しかない。ロシアに対して軍事的勝利をするのはあまり現実的ではない。したがって、交渉するしかない。一度は和平案が出されたものの、頓挫してしまった。今のままでは戦争は長引きそう。
日本に何ができるのか、軍事支援はできないので、難民支援がメインになる。難民の「自立と安定」を支援する。アフガニスタンで中村哲氏が行ってきたようなことをする。
目新しさはあまりないが、これまで侵略の被害にあった国々を取材してきた著者の言葉はとてもわかりやすかった。
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ウクライナ戦争について、ベトナム戦争やイラク戦争やアフガニスタン戦争などの例を引きながら説明したものである。もっとウクライナ戦争に焦点化してもよかったし、歴史的なことが書かれていないと理解が難しいのかもしれない。
和平調停についてもっと深く書かれてもよかったのではないか。
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本書には書かれていないが、開戦を巡ってはウクライナ側にも避難されるべき事実関係がある。
ウクライナの歴史を学ぶと、ソ連のスターリン時代にロシア人に対して深い遺恨があることかずわかる。
ウクライナ人は最後の一兵となるまで戦うことになりそうだ。
そして、遺恨を利用する軍需産業が大笑いするという構図だ。
もちろん、開戦して罪のないロシア人を無駄死にさせているプーチンも大馬鹿である。
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ウクライナ戦争をいかに終わらせるか、破滅的な核の応酬や経済圏の分離も見据えつつ、プーチンがいても失脚してもなんとか外交的解決策を模索することの重要性を説いている。
ベトナムやソ連のアフガン侵攻など過去の戦争終結を振り返り、大国の撤退こそ終結の道とする。和平調停は国連よりも大国や周辺国の力の方が有用で、レバレッジを有する国が仲介に乗り出す必要がある。経済制裁はやたらめったらやればいいというものではない。
ブチャでの虐殺が明らかになる前には、和平交渉が形になりかけていたと初めて知った。日本の支援や、中村哲さんのアフガニスタンでの功績はこの本を読むまでなんとなくしか知らなかった。タリバンに政権が移ってから、確かに女性を抑圧したりはあるかもだが、日本のNGOともうまく連携しているんだな。
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イスラエルとパレスチナにおける軍事衝突の悲惨さが報じられるのを見ても、誠に残念なことではあるが、「この戦争も果たして終わりがあるのか」という雰囲気を感じる。
ウクライナの戦況を伝える報道が続いているが、この著者がこの本で提示したかった一つの見解は、『「軍事的な作戦だけで、この戦争が終わる」と考えることは、かなり非現実的なことである』ということだそうだ。
ロシアは開戦から数週間でウクライナのゼレンスキー政権を倒し、傀儡政権を作ることを目指していた。これはまさにロシアが勝利する形での「軍事的決着」と言える。しかし、このようにロシアが一方的に勝利する可能性は、ウクライナの懸命の防戦や西側諸国の軍事支援もあり、非常に難しいことが明らかになった。
他方で、ウクライナが「軍事的な手段だけで」この戦争を勝利することも極めて難しいとも感じる。著者は、「ウクライナの勝利とは何を意味するか」を明確にする必要があるという。ロシアの軍事侵攻が始まった昨年2月から6月くらいまで、ゼレンスキー大統領は「2月24日にロシアがウクライナに侵攻を開始した前のラインまでロシア軍を押し返せば、ウクライナの大勝利だ」と訴えていた。ウクライナを支援する多くの西側諸国もこの考え方を共有していた。
しかしその後、ウクライナ政府内の意見が強まる中で、ゼレンスキー大統領とその政権は、
①「クリミア半島も含め、2014年以降失った領土の全てを軍事的に取り戻す」、
②「プーチン大統領をはじめロシアの戦争犯罪者の処罰を行う」、
③「ロシアに損害の賠償(戦時賠償)をさせる」、
と主張しており、これが現在のウクライナの勝利の定義になっている。問題は、この3条件をプーチン大統領やロシア政府が政治的に受け入れる可能性が殆どないと考える。
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「ウクライナ戦争をどう終わらせるか」東大作著、岩波新書、2023.02.21
198p ¥1,012 C0231 (2023.12.25読了)(2023.12.15借入)
副題「「和平調停」の限界と可能性」
ウクライナ戦争は、いつ頃どのように終わるのでしょうか?
著者の予想は、プーチン大統領が政権を握っている限り戦争は終わらないだろうと言っています。ウクライナの現実的な戦争終結の条件は、2022年2月24日の状態まで戻すこと、ということです。クリミア半島とウクライナ東部の親ロシア派の占領地域を認めるということになります。
僕の個人的な希望は、プーチン大統領が長引く戦争に嫌気がさして2024年の大統領選挙には出馬せず、自分の意をくんで動いてくれる人を指名し、戦争終結に持ってゆく、ことです。
【目次】
はじめに
第1章 ウクライナ侵攻と、世界大戦の危機
第2章 これまでの戦争はどう終わってきたのか―第二次世界大戦後
第3章 和平調停・仲介の動き
第4章 経済制裁はどこまで効果があるのか
第5章 戦争終結の課題と、解決への模索
第6章 日本のウクライナ難民支援―隣国モルドバでの活動
第7章 今、日本は国際社会で何をすべきか―深刻化するグローバルな脅威と日本
おわりに
参考文献
●プーチン大統領は戦争の目的を見失っている(15頁)
「プーチン大統領は当初、ゼレンスキー政権を瞬く間に崩壊させ、傀儡政権を樹立できると考えていました。それが困難と分かり、北部側から軍を撤退させた後は東部や南部の戦線も含め狙いが定まっていません。まさに「場当たり的」な対応に終始しています」
「プーチン大統領自身が、戦争の目的を既に見失っている」
(トルコ、ボアジチ大学ギュン・クット准教授の話)
●穀物輸出合意(63頁)
イスタンブールに、トルコ、国連、ウクライナ、ロシアによる「経同調性センター」が設置され、その四者のスタッフが、ウクライナに出入りするすべての船をチェックし、武器などがウクライナに運ばれていないことを確認し、穀物をオデッサ港などで積み込み輸出している。(2022年7月に合意し、8月から実施)
●経済制裁の影響(69頁)
ニューヨーク・タイムズ紙は2022年9月5日、米政府高官の話として、「ロシアが北朝鮮から数百万単位のロケットや弾薬を購入する手続きを進めている」ことを明らかにし、「北朝鮮のような国に頼らざるを得なくなっているのは、国際的な制裁によって、武器や弾薬の不足に陥っている明らかな証拠」と報じている。
●停戦ライン(87頁)
キッシンジャー氏は「容易に解決できない状態に陥る前に、この戦争を終わらせるよう、今後二か月の間に交渉を始めるべきだ」と主張した。そして、「できれば、今回の戦争が始まる前のラインまで分割ラインを戻せれば理想的だ」という趣旨の発言をした。(2022年5月23日、スイス・ダボスの世界経済フォーラム)
●クリミアの帰属(93頁)
もしクリミアの帰属をも軍事的に決着させるということになれば、プーチン大統領が権力を握っている間、また仮に、プーチン大統領が失脚した後も、戦争が続���ていく可能性が高くなる。
☆関連図書(既読)
「プーチンとG8の終焉」佐藤親賢著、岩波新書、2016.03.18
「犯罪被害者の声が聞こえますか」東大作著、新潮文庫、2008.04.01
「平和構築-アフガン、東ティモールの現場から-」東大作著、岩波新書、2009.06.19
(アマゾンより)
ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年。核兵器の使用も懸念される非道で残酷な戦争を終結させる方法はあるのか。周辺国や大国をはじめとする国際社会、そして日本が果たすべき役割とは何か。隣国での現地調査を踏まえ、ベトナム、アフガニスタン、イラクなど第二次世界大戦後の各地の戦争・内戦を振り返りつつ模索する。
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第二次世界大戦後の紛争がどのように終結したのか、日本がどのような支援をしてきたかなど、知らないことばかりでした。
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ロシアのウクライナ侵攻から、ついに3年が経過。
この本は侵攻1年後の2023年に書かれたものだが、残念ながら停戦を迎えず、3年が経過している。1年後の時点では、ロシアと交渉パイプを持つ中国やトルコへの期待が記載されていた。2022/2/24時点の勢力ラインに戻すという停戦案も提示されている。ただし、2023年以降、ロシアが占領地域をじわじわと拡大させている事実からすれば、この停戦ラインでの合意は難しい。情けないが、現状は手詰まり感があり、もはや何のために戦争を続けているのか分からず、未知数であるトランプ大統領の「ディール」に淡い期待を寄せてしまう。第二次大戦前にナチスに対して英国がやむなく取った「宥和政策」と状況が似ており、再び世界が大戦へ向かわないか危惧される。