写楽百面相
著者 泡坂妻夫(著)
時は寛政の改革の頃。川柳句集の板元の若旦那・花屋二三(はなやにさ)は、馴染みの芸者・卯兵衛との逢引の折に見た、謎の絵師が描いた強烈な役者絵に魅入られる。二三は絵に残された...
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商品説明
時は寛政の改革の頃。川柳句集の板元の若旦那・花屋二三(はなやにさ)は、馴染みの芸者・卯兵衛との逢引の折に見た、謎の絵師が描いた強烈な役者絵に魅入られる。二三は絵に残された落款を頼りに、その絵師・写楽の正体を探っていくと、卯兵衛の失踪など身辺で次々と奇怪な出来事が起きてしまう。二三はそれらの謎も追う中で、蔦屋重三郎、十返舎一九、葛飾北斎、松平定信たち有名人と関わっていく。やがて、幕府と禁裏を揺るがす大事件に巻き込まれることに……。浮世絵、川柳、黄表紙、芝居、手妻、からくりなど江戸の文化や粋に彩られた、傑作長編ミステリ。/解説=澤田瞳子
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壮大な規模の写楽の物語
2024/12/25 16:18
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投稿者:森の爺さん - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の作品は本書が初読であるが、ペンネームが本名からのアナグラムというのが、斎藤十郎兵衛と東洲斎みたいな感がある。 本書は新潮文庫の初版から文春文庫を経て創元推理文庫という変遷を重ねているが、来年のNHKが蔦屋重三郎というのも関係しているものと想定される。
巻末の年表によれば、著者は都立高校定時制3年生の時に神保町(九段高校なので近所だった)の古本屋で写楽の浮世絵に遭遇して以来写楽沼にはまったらしく、それから約40年を経て本書を刊行しているが、40年間に写楽について研究した結果としてかなり読み応えのある内容となっている。
物語は「俳風柳多留」の版元星運堂の若旦那花屋二三(後の二代目花屋久次郎)が惚れている橘町の芸者卯兵衛が持っていた見慣れない役者絵2枚を見たことから始まり、江戸に来ること無く亡くなった二代目尾上菊五郎と言った卯兵衛は行方不明となった挙句に死体が川に浮かび自殺と扱われる。 身元もよく分からなかった卯兵衛の周辺を探った二三は蔦屋重三郎に近づくが、とんでもない話に辿り着く。
写楽に辿り着くまでの表の物語と、卯兵衛の死から辿って行った結果としての二代目尾上菊五郎に関するとんでもない事件という裏の物語の複数の線が交差して、やがて能役者斎藤十郎兵衛を抱える阿波徳島藩も関係してくるし、前老中首座である松平定信まで登場遊ばす。
自身も川柳作家だった二代目久次郎が奇術を趣味として、本も出しているのは自身も奇術愛好家かつ奇術師だった著者による創作なのかと推察する。 写楽を斎藤十郎兵衛とするのは通説通りとしても版元の蔦屋はどの写楽本でも当然登場するが、能役者としての雇い主である阿波徳島藩がお登場することは殆ど無い。
写楽登場に至る時代の流れとして蜂須賀重喜の藩政改革失敗による隠居、天明の大飢饉、田沼意次の失脚、二代目尾上菊五郎死去、松平定信の老中就任、京都の天明の大火(光格天皇が聖護院を仮御所とする)、松平定信の老中退任、写楽の登場と退場、延命院事件という流れになるが、それらの事件を非常に上手く関連付けているのだが、蜂須賀重喜は隠居後療養のため阿波徳島に帰還しており、写楽登場の頃には既に富田屋敷で隠居生活を送っているので、実際の接点は無さそうである。 また、延命院事件の住職日道(日潤)は初代尾上菊五郎の子という噂もある美男子だったのも事実らしい。
写楽である斎藤十郎兵衛に辿り着く経路も、その名前にいくつものアナグラムがかかっているというのも手が込んでいるが、本書の中で斎藤十郎兵衛自身が語っているとおり、最早写楽は自身の手を離れて独り歩きを始めていたのである。 浮世絵の素人である斎藤十郎兵衛は原案を描くのみで、実際の下絵・版下絵は最初の大首絵は勝川派を追い出された北斎、以降は栄松斎長喜(後に写楽について証言している)という体制で蔦屋重三郎が財産の半分を持って行かれた定信への意趣返しの如くに版元として世に送るが、本書の最初の雲母摺りの大首絵が何故28枚なのかという疑問は全く抱いたことは無かったので新鮮だった。
それにしても巻末に写楽が誰かを巡る諸説が掲載されているが、「浮世絵類考」等の資料を全く無視した(碌に調べない)ような説がなんと多いことかと思う。 写楽の浮世絵は肖像画としては名作なのだろうが、中年男が女を演じる姿を写実している時点で、役者を美化する役者絵には向いていなかったろうと改めて思う。