えにぐまさんのレビュー一覧
投稿者:えにぐま
天空の蜂
2015/08/31 15:33
総合的に考えたら、名作。
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この作品の最も素晴らしい点は、震災以前に書かれたことである。
「事故」以前の原発に対する日本人の感覚や境遇を、様々な登場人物を通しバイアス無く記している。
しかし以前の感覚を失ったのは読者にも言えることだ。
例えば、原発の安全を訴える人物と危険を訴える人物、蓋然性で考え、安全神話側がより説得力を持つように思える読者の方が多数派だったはずだ。
原発反対派がその危険性を訴えても、真には迫らない。
しかし現実に「事故」は起こった。
これはフィクションの科学的アプローチが現実の壁を崩してしまったということでもある。
つまり、現実の方が作品をある部分で踏襲してしまったことによって、
作者すら確信を持って意図した訳ではないメタ的で圧倒的なテーゼが読者の心に迫るのである。
この説得力は震災以後に記されたものでは得難いものだと思う。
作者は、それに更に幾層ものテーマを重ねてエンタテインメントとして結実させている。
しかしそれ故に正当な評価を得られにくいかも知れないが、後世に残すべき作品であると思う。
読む側は、これが震災以前に書かれたものであることを確と認識し、
自身の以前の価値観ともう一度向き合うべきだと思う。
新世界より 上
2015/09/20 03:36
SFファンタジ世界に翻弄される。ちゃんとリアリズムには片足突っ込んだまま。
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
エンタメに特化してここまで読ませ、面白い作品は中々無いと思う。
話の引っ張りも重層的で作品世界に引き摺り込まれる。
「面白み」のアイデアがいくつか盛り込まれている。
一つだけ注意したい点は、導入部が意図的にスローテンポになっていること。
万が一そこで投げてしまわぬように。
そこは溜めであり、そこがあるからこそ、
その後展開が爆発し、転げるようにほとんど止まらなくなる。
先に解説読んだ方、
「私を離さないで」とは完全にレベルも次元も違うので安心してください。
武家屋敷の殺人
2015/09/15 12:39
パンパンに詰め込みすぎてちょっと歪。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
自分の好みとしては小島正樹氏の現時点での最高傑作。
終盤の謎の解決の怒濤が半端じゃない。
ただそれだけの謎の解決の為には、当然伏線が必要なわけで、
そのために解決編に至るまでの物語のリーダビリティがちょっときつかった。
大丈夫な人はいいのかも知れないが、自分としては語り手が信用出来なすぎて
物語に入り込めなかった。
また極たまにあるのだが、提示される謎があまりに突拍子も無いものもあって逆に興味を失ってしまう部分もあった。
これはまともな解決にはならないのでは、と。
(一番気になったのは明らか何か知ってんじゃないの?と思われる人物。自分だったら徹底的に詰め寄りたかった)
ただ物語のバランスを欠いてまで張り巡らせた伏線の回収は圧巻だと思う。
自分はトリック偏重主義なので。
そこは必読といっていいほどではないだろうか。
オリジナリティもあるし、既存の謎の変化球の解決もある。
前半部の読者の不満も激しい巻き返しで一緒に回収されてしまいそうなお話。
ダイナー
2015/09/07 16:21
空腹時は胃が混乱するので控えましょう。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
傑作。
あるいは名作かも。
いつでも殺されそうなので常にクライマックスという表現も当を得ているかと。
ありきたりじゃない本を読みたい方にお薦め。
ただ最後の展開は、個人的にはちょっと…ね。
グロ有りで、最初の数ページ読めばその方の評価は決まるでしょう。
非情すぎると案外ブーブー言う人いますからね。
ただ少し我慢すると、日常のすぐ隣にある極限世界が楽しめるかもしれない。
舞台は食堂ですからね。ダイナーの集うダイナーだけど。
隻眼の少女
2015/09/30 12:45
本来はミステリマニア向けの極北。
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「書店員レビュー」が既に素晴らしいけど少しだけ。
麻耶雄嵩氏は既存のミステリを踏まえ、その一歩先の作品を書こうとしている作家。
なので幾らか下地が無いと、何が実はテーマなのか判らない可能性が高い。
そういう意味ではメタフィクションの作品。
けど文体や作品内雰囲気が固いとかいうことは無くむしろユーモラス。
帯に釣られて買ってこの作品が面白いと思えた人はミステリに向いている。
麻耶雄嵩氏の他の作品は言うに及ばず、「密室殺人ゲーム王手飛車取り」等、
一歩先じたいくつかの作品を多いに楽しめるかもしれない。
プリムローズ・レーンの男 上
2015/09/20 02:13
評価それ自体が面白みになる類の話。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
上下合わせてのレビュになります。
帯が「二転三転四転五転!?」と煽りに煽ってましたが、
まぁその看板に偽りは無いでしょう。
確かにミトンをはめた男が殺された事件から、話が大きく、しかし着実に進みます。
一見地味に思える殺人から膨らんでくのは作者の狙い通り。
謎がでかすぎると話の土台自体を見失って肩透かしになる話はありますが、
この作品はしっかりまとめたと自分は思いました。
たぶんこういう作品に興味を持つ方は、そういうメタな楽しみも含めていると思いますので、
もう敢えて余計なことは言いません。
自分としては十分及第点。
普通の探偵小説を期待してブーブー言う人はいるかもしれないですね。
ふたり探偵 寝台特急「カシオペア」の二重密室
2015/09/20 01:24
題名が古くさい(きっとわざと)が中身は非常に現代的。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
結構好きな作品。
メインの密室の真相が良い。
物語の設定(「ふたり探偵」の理由)は先例が幾つもあり、並の面白さだが、
先例があるからこそある意味それを逆手に取ったようなトリックが良い。
あーなるほどなぁと関心させられた。
自分にとっては正に盲点を衝かれたが、もしかしたら見抜く人もいるのかも知れない。
舞台は列車内でも話は結構広がってます。
巷を騒がすシリアルキラの話が出たり。
こういうのも自分としては好み。
美しき凶器
2021/09/29 22:55
人の話。
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
基本はサスペンス作品。
アクションシーンに絡まって徐々に事件の背景が明かされていく。
スポーツ科学を扱った作品だが、
同じ趣向なら謎解きに重点が置かれた「鳥人計画」の方が個人的には好み。
「美しき-」は映像化に適した作品。
アクションが派手でそちらがメインだが、設定にはユニークさもある。
スポーツとドーピングの恐ろしさ。
謎解きを期待して途中で合わないと思った人も、
たとえ飛ばし読みでも最後まで読み通す価値はある。
東野氏はあえてあっさり書くことが多いように思うが、
読後の余韻はかなり深いと思う。
安楽探偵
2019/05/24 13:27
狙いは面白い
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安楽椅子探偵をただ安楽してるだけ、という皮肉にからめて、事件の依頼人の証言が推理の手がかりのすべてとなってしまう安楽椅子探偵が推理を誤る、事件の真相を見抜けず真相は意外なものだった、というのが狙いの作品。
狙いは面白いのだけれど、そこからぶれてしまっている作品もあり、全体としての完成度は今一つと言わざるを得ないか。
最近刊行ペースが速いので締め切りの追われてるのもあるかもね。
回廊亭殺人事件
2015/09/21 16:52
うーん
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
設定はよく、グイグイ読ませる。
感情面の描写も多い。
代わりに解決編だけがしりすぼみな印象。
二つの種類の異なるトリックを合わせた試みは判る。
そこに作者の、人間も描くというらしさ、
事件から不可解な展開に発展するらしさが加わっているのは伝わるが、
いかんせんトリックがちょっと小粒。
意表を衝かれることと何でも有りは全く違うが、少々後者に寄っている。
つまり結果として伏線が足りない。余り出せないということ。
読んでいる間は楽しいが。
現在の東野氏を知らないとしても、
器用な作家であることは伝わる作品。
小指物語
2015/09/08 21:39
自殺に興味ある方はどうぞ。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
自殺を巡る物語。
自殺を多角的に考察している。
しかし安易に肯定したり否定したり、気持ちの悪い話ではない。
文体や登場人物はラノベ感覚に近いものがあり、話の全体のトーンは基本的には明るい。
それ故人物造形や物語に善くも悪くも幅ができ、
若者には大嵌まりの人もいそうだし、おじさんには軽くて単調な展開に思えた。
しかし、ラストの山場が素晴らしい。
テーマに絡めた物語の落ちもきちんと考えられたものだし、
そこに至るまでの登場人物の語る自殺についての哲学的思弁は、
全て肯定できるかは判らないが、一読の価値はある。(たぶん)
もう少し何らかの評価がされないだろうかと思っている。
惜しむらくはこの題名と表紙だけは何とかならなかったのだろうか…。
(忘れたけど何かにかけてあるのはわかるんだが)
私たちが星座を盗んだ理由
2015/09/06 12:58
トリック好きは1,2の作品の為に読む価値がある。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
トリック(サプライズ)に重点を置いた評価になるが、
1「恋煩い」、2「妖精の学校」が特に良い。
特に2のメタな仕掛けは出色。
個人的には短編ミステリ史に残る出来だった。
その他、全体的に既存のミステリ作品とは異なる世界観を創り出そうという姿勢は素晴らしい。
しかし作風の広がりは感じさせるが、作者が元来持つ切れ味鋭いヘビーなトリックは鳴りを潜めている。
そろそろ初期の作品のようなダークでゴリゴリの新本格も読んでみたい気がする。
無実
2019/04/18 16:35
とにかく無駄な文章が多いのが問題だ。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
発行禁止やどっかの国で話題になったのは社会でタブー視されることの多い事柄を扱ったから。
小説としては特に面白くはない。
「車椅子生活の妻」を用いて面白くなりそうなアイデアもあったものの、不発。
飛ばす価値のある無駄な文章がとにかく多いので、どんどん飛ばしても全てを把握できてしまう。
スタープレイヤー
2019/04/15 16:57
行き当たりばったりで良くはない
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オープンワールドRPGを下敷きにしたファンタジー。
ストーリーは行き当たりばったりで、初めに設定した小説上のメタ設定はどんどん緩められていき、向こうの世界の原住民が出てきた時点で終わったと思った。
貴志祐介らの様なストラテジーものを期待するなら肩透かしだし、何でも願いが叶えられるという文言から広がる発想の自由さと物語の広がりはイコールではない。
巨獣めざめる 上
2015/09/26 14:56
嫌いじゃないけど。好きでもない。
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上下合わせてのレビュー。
好みの問題はあるが、内容に比して長過ぎると感じた。
確かに全体の展開に、その長さの一部に意味があるのは判るが、
メインになるようなSFアイデアはほとんど一つなのでそれにしては長過ぎる。
帯にあったようにシモンズが好みの人には良いのかもしれないが。
前半は確かに惹き付けられた。
結構ライトなSF。
続編がまだまだあるようだが、確かに続きが気にならないことはない。
文章が切り詰められてプロットが複雑になれば読みたい。
第一部だけの評価はメインのアイデア含めて芳しくない。