obandegansさんのレビュー一覧
投稿者:obandegans
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月の満ち欠け
2017/04/25 15:06
パズルの完成する快感
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
佐藤正午の新刊「月の満ち欠け」を読んだ。傑作です。初め奇妙な話の連続に読み進むのが怖く、それでも複雑な構造にグイグイ引き込まれ、リアリティのある描写に怪奇譚が息付き、破綻無しに全ての伏線が回収された時に大いなる感動。一気読みで涙しました。
2666
2015/09/12 12:04
多、重
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「2666」とにかく重い本です。秤に乗せると1.23kgある。
作者のロベルト・ポラーニョはチリ人。なるほど南米の作家と思わせるところ多々あります。2003年に50歳で死んでいるので、この2666が遺作と言うことになる。五部からなるこの小説は、それぞれのパートが独立したものであり、そして連動している。
第一部は欧州四か国からの男三人と女一人が、ドイツ人ノーベル賞候補作家アルチンボルディを追ってメキシコに向かう物語。男女の三角関係そして四角関係が複雑に絡み合う。しかし何も起こらない。アルチンボルディの謎は深まるばかり。
第二部には作者を思い起こさせるアマルフィターノという大学教授が中心となって進んでいく。彼を取り巻くメキシコ北部の街の空気、この不穏な空気がページをめくる度に重ねられた行く。物干紐に吊された幾何学本の不吉なイメージ。
第三部はアメリカ人の黒人新聞記者を通してアメリカサイドからみたメキシコが書かれていく。ボクシングの取材のはずがメキシコ北部サンタテレサで起こる連続女性レイプ殺人事件に関わっていく。緊張感と剣呑さがひしひしと伝わる。
第四部は正に悪夢。ここまでも夥しい登場人物の数だけれども、ここで一気に数百人が加わってくる。その大半は殺された女性被害者。名前と短いがその人の生前の様子と惨殺状況が記述されていく。延々と果てしなく何百人も…。
この悪夢に満ち満ちた物語は一体何なのだ。気になって「メキシコ、女性連続殺人事件」でグーグル検索してみた。そして驚愕する。「シウダーファレス女性連続殺人事件」現実の話だ。1993年以来500人以上の女性が殺されている。未解決。何度も真犯人とされる人物が逮捕されるが、殺人は止まない。
第五部は一転、物語性に溢れている。いくつもの物語が入子状に構成され、ドイツに1920年に生まれたハンス・ライターがいかにしてアルチンボルディになっていったのかが記述されていく。ライター自身の経験と入子の物語は今次大戦の凄惨な絵姿の記述に終始する。
最後の最後、物語がある方向に収斂して行く様を感じた時は、かなり気持を揺さぶられましたね。解体されたものを見ていたはずが、実はきちんと組み上げられていたものなんだと気付いた驚きも加わる。詳しいことは書かないことにするけれど、第五部の終わりは第一部に繋がっているんです。
本当、知らなかった。500人以上の女性被害者と言うが、ざっと見てみると不明者等含めた推計で5000人は超えてくるようだ。アメリカの格差、国境、自由貿易、麻薬組織、政府の腐敗…他人事では無い、日本企業もこの構造の中で大きく関わっている。
時を刻む湖 7万枚の地層に挑んだ科学者たち
2015/11/16 09:14
奇跡の湖です
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近頃読んだ本の中で際立って面白かった一冊。下手なSFよりもずっと奥が深いし、なまじのミステリーよりもぞくぞくするストーリー。そして最後には大きな感動が湧き上がってくる。
「福井の湖、考古学の標準時に」と始まる本書の湖が「水月湖」奇跡の湖です。湖底の地層から7万年分の年縞が見つかり、炭素年代測定法を補正しつつ5万年間の時間目盛精度を飛躍的に向上させた。
年縞の1年に相当する厚さは0.6ミリ程度。これが45メーター。綺麗に残るには条件がいくつも必要だった。先ず水月湖には流れ込む川が無かった。つまり湖底を乱す水流が無いということ。また湖底は30メーター以上の深さ。湖面の風等の影響も受けない。そして湖底が酸欠状態を保ってきたことが重要。酸欠すなわち生物が居ないと言うことで、湖底をかき混ぜることは無い。条件が一つずつ出てくるけれど、次のものには本当驚く。水月湖は埋まらない湖だと言うのだ。
一年分の堆積層は薄くても、何万年も経てば湖を埋めるには充分の厚さとなる。ところがこの水月湖は湖底がだんだん沈んでいく湖なのです。近くにある三方断層に引き込まれるように沈んでいる。そしてその沈み具合が絶妙のバランス。
世界の中で何処にも無い、この年縞を1990年代に北川浩之が数えようと考えたこと、そして数えきりC14炭素年代まで確定させていったことは大きい。それに続く成果そして挫折も物語を生む。
次いで著者の関わる時代が来る。イギリス、ドイツと連携しての力強い協力体制で年縞7万枚を新たに数えきる。アメリカサイドとの競合もエキサイティング。新たな技術の発見発展は続く。
最後には全部がまとまる形で科学の基となる標準時計が出来上がる。画期的な成果と言って良い。国を越えライバルを包み込むようにして出てくる研究上の次のステージ。基礎研究がこんなにワクワクするとはそれこそ大発見です。
神を見た犬
2015/09/19 11:41
奇妙な味わい
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著者はイタリア人で短編の名手。この本にも22編が納められている。幻想的ながらイメージが作りやすい作風は、一筋縄では行かないひねり、皮肉、怖さに充ち満ちている。一編毎に気持に染み込んできますよ。
マイナス・ゼロ 改訂新版
2015/09/19 11:40
昭和です
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先日この本のことが新聞の小さな記事になり、再読したくなった。初めて読んだのは高校生の頃。こんなに厚かった?タイムマシンを扱いながら、いにしえの昭和の風俗を実に細かく描いていることに驚く。今だから解ること沢山。
2015/09/21 09:44
ミンコフスキー時空
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時間の流れ。この当たり前のような事を当たり前でなく語る。ミンコフスキー時空の世界観とその解説が実に解りやすく目から鱗が落ちた。虚数の導入がいかに重要な事だったかを知らされる快感。
マイルスの夏、1969
2015/09/13 10:47
ビッチェズ・ブリュー
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新書の電気マイルス三部作は、この本から始まっている。ビッチェズ・ブリューという超ド級アルバムにまつわる事柄だけがまとめられた一冊。洞察の何という深さ。展開のスリリングさ。読んでゾクゾクし通しだった。
マイルス・デイヴィス奇跡のラスト・イヤーズ
2015/09/13 10:43
そしてマイルス
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「エレクトリック・マイルス1972-1975 ワニブックス新書」に続く時代、そして1991年の死までを書いている。復活のマイルスから声を掛けられたマーカス・ミラー。彼は先まで埋まっていたスケジュールを白紙に戻す。ここ泣けます。
エレクトリック・マイルス1972−1975 〈ジャズの帝王〉が奏でた栄光と終焉の真相
2015/09/13 10:39
いつでもマイルス
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マイルス評論の第一人者の著者がまとめるオンザコーナーからアガルタまでの時代。私にとっては生身のマイルスを体験し浸り込んだ幸せな時代。当時の表と裏が詳細に語られていく。冷静な文体にこそ熱さを感じる。
自転車の安全鉄則
2015/09/13 10:27
今の自転車を取り巻く問題はここが原点
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自転車ツーキニストの著者。この国における自転車を取り巻くルールがいかに混乱しているかを暴き出してくれる。とにかく自転車の左側通行を守ることから始めようとの提言には強く共感する。右側通行は命を賭けるほどの危なさです。
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