魚太郎さんのレビュー一覧
投稿者:魚太郎
2024/11/15 09:11
理念は実現しない
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小生(66歳)が生きて物心ついたころから直近までの、経済動向と政治状況を振り返ることができる書。総じていうなら、どの時代の政治家、政党も、目先の利益と権力争奪闘争にとらわれるばかりで、右なのか左なのかの思想信条すら持ち合わせていないか、あっても実現しようとしてこなかった。この点は自民党も民主党も共通している。その時代の識者たちの崇高なそれぞれの理念が、まったく実現しなかった。しかしこれは、カントの『世界平和のために』が国際連合の設立に至ったものの理念が全く実現されていないことを思えば、人間社会の限界であるのかもしれない。
2024/09/03 12:28
66歳になっての振り返り総括と次世代へのメッセージ
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オデッセイとはHomerの作と伝えられる大叙事詩。転じて「長期の放浪、長い冒険(の旅)、遍歴」という意味でつかわれる言葉だ。この本は山口二郎氏の、「民主主義」を目指した長い旅を回顧したものである。山口氏は1958年生まれで私と同い年。華やかに活動し始めた氏の30歳台が、1990年代前半であった。当時はリクルート事件や金丸事件など、政治腐敗が話題となり「政治改革」と称して選挙制度改革が行われていた。私の記憶では、少しは世の中も良い方向へ変わっていくのではないかという幻想を、抱かせてくれた時代でもあった。しかしこの本を2020年代の前半に、もの悲しい思いとともに読むことになる。社会民主主義的リベラルや、伝統的な左派、保守としての右派、それぞれの立場の賢明かつ聡明な識者たちが喧々諤々の議論をぶつけ合い、社会はどうあるべきかという夢を多くの人が抱いていたのではないだろうか。あれはいったい何だったのだろう。2024年の今、政治資金の裏金問題もあいまいなままに蓋をされ、いつまでたっても結局1990年と同じ状態のまま(あるいはそれ以下)ではないか。あの熱い議論は何だったのか、なぜそれが生かされなかったのか、なぜ全く同じ腐敗が繰り返され、そして何も変わらないように見えるのか。それでも地殻変動のような動きは確実にあるとの指摘に、絶望ばかりしてはいられない。
山口二郎のオデッセイは、目的地にたどり着いていない。66歳となって、まずは総括。このオデッセイは、次世代の人々へ向けてのメッセージとして、これからも生き続けるだろう。エピローグは必読。
2024/05/14 11:11
好き嫌いだけでなく
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中日ドラゴンズという球団について語る時、監督だけを評価しても無意味だ。監督、選手、球団、親会社、地元経済界、そしていわゆるドラゴンズファン、さらには名古屋という文化圏のこと。多角的かつ俯瞰的視野が必要だと知った。全体像が見えた。ただしかし、監督に対して好き嫌いをいうのはファンの自由だろう。好き嫌いで選手を選択する監督もいることだから。
宰相A
2024/02/27 09:37
作家の鋭い感覚
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ディストピア小説のようではあるが、これは現実だ。小説という手法ならではの、創作であるが。しかも作家の世界だけではなく、現状の日本そのものを描いている。アメリカ従属で事実上その属国と化し、国際的にもひたすらアメリカに従順にふるまい、まさに傀儡政権と言われて反論できないような政府を国民が選択している。宰相Aとは当時の現実の日本首相のイニシャルである。特筆すべきは、桐野夏生の『日没』よりも5年前にこの小説が書かれていたということである。
日没
2024/01/29 08:58
本当の小説
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凄い小説を読んでしまった。ハッピーエンドを期待し、願い、祈って読み進んだ読者は、絶望の淵に放り出され、そこに置かれる。ただ茫然とするしかない。しかし冷静になって考えれば、そのような帰結しかないという状況が、現実的に在るのだ。そう、これは実際に起こり始めている現実の、危機意識という言葉をはるかに超えた恐怖を暴露し吐露した話である。逃避せずに考えなければならない。
完全犯罪の恋
2024/01/19 09:57
さすが、芥川賞を「もらってやった」作家
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おそらくは作者の原体験に基づくのであろう私小説。十代の高校生の恋愛譚。約三十年が経過して三者三様に傷痕を残しているのだが、だれも被害者ではなく誰も加害者ではない。その意味でまさに完全犯罪。表現力の重厚さを感じる。
アジアを生きる
2024/01/19 09:26
日本という枠にとらわれず
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「在日」であるということが幸いしてというか、さわやかで公平な視座からの論考となっている。日本と朝鮮(あるいはアジア)の間に格差を設けず、さらに中国、ロシア、アメリカそして欧州へと俯瞰しての思索。普遍的価値とは何なのかをあらためて考えさせられる。
資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか
2023/12/25 10:51
強欲な資本主義は人間の本性か
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「搾取」と収奪」。この言葉の意味と違いを理解するだけでも、この本を読む価値はあるだろう。資本主義は経済システムではなく、制度化された社会秩序であるという。その歴史は、重商資本主義、植民地型資本主義、国家管理型資本主義、そして金融資本主義へと変遷した。資本主義は、すべてを貪り食いつくす巨大な悪として成長し続けている。絶望している暇はないのだが…。21世紀の「社会主義」は登場できるのだろうか。
アベノミクスは何を殺したか 日本の知性13人との闘論
2023/11/27 17:37
本当の危機のさなかにあるという認識
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じっくりと読み応えあり。13人の識者へのインタビューの神髄、賢人たちの答え。深い洞察にえぐられており、ずしりと重い。『アベノミクスとは国家を率いる政権の「たたずまい」の変質を総称したもの』と最後に総括する。読者は問題意識を共有しなければならない。
柄谷行人『力と交換様式』を読む
2023/11/09 15:34
エピソード、対談、講演、書評
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哲学、文学、経済学に素人の私にとって、「力と交換様式」を読んで十分に理解し得ていないところを、エピソードや講演、対談、書評の紹介で補ってくれた。タイムリーでありがたい、貴重な解説書。理解が深まったような気がする。
2023/05/30 09:53
独裁者の言い分
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独裁者に共通しているのは、独裁の当初は兎にも角にも国民の幸福を目指していたということかもしれない。その目標は国民に平等な生活をもたらす共産主義であったり、宗教的理念であったりする。しかし目的そのものが次第に目的化して、異を唱えるものを独裁者は排除し続けることになる。独裁的権力者がはまり込んでいく、行く先もなく引き戻る道もない迷路だ。人間の性とでも言うべきか。
日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す
2023/05/24 11:07
まともな民主主義へ
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橋爪大三郎先生(弟子でもなく一読者に過ぎないが、これまでの著書や対談を読んでの敬意からそう呼ばせていただく)が書かれた本なので、まず間違ったことは書いてないという先入観(バイアス)を持って読んだことは認める。それにしても、この本の内容は重い。カルトとは何か。その定義から始まり、具体例をわかりやすく解説してくれる。そのカルトが日本を蝕んでいる。そして政教分離とは何か。あらためてもう一度問い直す。社会学者の理路整然とした説明は、腑に落ちる。いまの日本に、本来の健全な民主主義は無い。なんと言っても、カルト教団や宗教系右派団体に喰い込まれ、また逆に利用し続ける自民党と、政教分離という概念をを根本的に無視している公明党が、長いあいだ連立政権を組んでいるような国である。結局はこれを選んでいる有権者に責任があると行き着いて、民主主義の腐敗が絶望のままに継続する。ただ、処方箋はある。自民党は統一教会と絶縁すること。日本会議と絶縁すること。公明党との連立を解消すること。国政政党としての公明党は解散すること。乱立している野党はどれも解散してひとつになること。ただし統一教会との関係が疑われた野党(たとえば、日本維新の会)は、事実関係を明らかにし処分と謝罪をしてから解散すること。要するに、日本の政治は政教分離の原則から逸脱し、構造的に病んでいるのである。有権者一人一人の真摯な一票は、宗教団体の「宗教票」に押しつぶされ、隅へ追いやられている。日本の民主主義をまともなものにするための第一歩は、有権者に委ねられている。
暇と退屈の倫理学 増補新版
2023/04/08 09:07
思考して実践すること
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退屈の第一形式、第二形式、第三形式。暇と退屈の倫理学の実践。人間であるとは、退屈の第二形式を生きていること。そして〈贅沢〉を取り戻し、さらにその生からはずれていくこと。〈人間であること〉を楽しむことで、〈動物になること〉を待ち構えること。次なる課題は暇の王国へ向かうこと。
それにしても哲学者というのは、考えなくてもよいことや考える必要のないことをあれこれ考え、堂々巡りになりながらもさらに考えるべきだと考える人であり、根源的なるものを提示してくれる。
カルト権力 公安、軍事、宗教侵蝕の果てに
2023/03/29 09:10
権力の仮面を剥ぐ
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いまの日本の権力は、社会の病だ。私のような一般人が、新聞やテレビ報道から日ごろ漠然と思い感じていたことが、このように明確に文章化されると極めて鮮明になり、自らの理解と思考が刺激された。恥ずかしながら、例えば「重要土地規制法」も「経済安保推進法」もその実態についてはほとんど認識しておらず、教えられた。自分がぼんやりしすぎているのか、世捨て人になりすぎてしまったのか、目を覚ませと言われているようだ。
力と交換様式
2023/03/14 15:37
Dへの希望
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交換様式A・B・C、そして ”Aの高次元としての回復”としてのD。ほんとうにDは到来するのだろうか。交換様式A・B・Cがもたらす観念的(霊的)な「力」というものは著者の説明の通りあるように思われる。観念的にそう思うだけかもしれないが。いま現実にはBとCによって必然的にもたらされる戦争と恐慌が繰り返されている。いつになったらD がと思いを馳せると、大洪水が来て相当数の犠牲者が出て、人類が破滅した後にわずかの人が生き残り、その時ようやく生存者たちのもとにDが訪れる、そんな悲観的イメージしか今は持ちえないのだけれど。