読人不知さんのレビュー一覧
投稿者:読人不知
しをちゃんとぼく 2 (ヤングジャンプコミックス)
2018/12/08 23:24
グロいのにやさしくてあたたかい
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飛び散る血飛沫と内臓。
脳味噌を改造した車も走るよ!
絵面はどう見ても地獄絵図なのに、やさしくてあたたかい。
でも、ホラーではない。不思議ジャンルの漫画です。
しをちゃんにとって「メメント・モリ」は、死を有する者たちとは違う意味を持っています。
死神さんの写真を枕の下に敷いて寝るくらい永遠の憧れ。
でも、会って写真を撮らせてもらえたのが地味に凄いです。
今回も繰り出されるパワーワード。
「物理的におかしいお客様」で腹筋崩壊。
他人の痛みがわからなくても、無頓着な残虐性を持たずに人一倍やさしくなれるしをちゃん。
心は人一倍痛みを感じてます。
しをちゃん目線の評価。
「無論だ。大抵のことはできない」
身の程をわきまえた力強い宣言。
当たり前のことが当たり前にできる有難さを再確認。
怒りは圧縮されて爆発した悲しみ。その発想はありませんでした。
しをちゃんの視点には色々な気付きがあるなぁと感心。
なんせ、何があっても死なないから、救命の者の言い分も尤もだけど悲しい。
でも、苦手を押してまで駆けつけてくれる人が居て幸せ。
力を求めし者=ちかもとさんの細やかな配慮、いつ見ても和みます。
生き方は不器用だけど、優しさをちゃんと行動に移せるイイ人。
やさしいのに不器用で理解されにくい生き方。
彼岸花=死人花。
丁寧なあいさつに困惑する彼岸花さん。
顔がないのに各コマの彼岸花さんの表情がほんのり伝わるメルヘン回で和みました。
石と人らしさについていい勝負してみたり、死刑執行人に気遣いを見せたり、普通に生きていたのでは気付かない種類のやさしさが見られて長生きしたようなお得気分。
語を操りし者さんは酷い目に遭っても意外と生きてるし、不幸でも誰も責めないし、八つ当たりしない辺りがしをちゃんに似ていると思いました。
誰も傷つけないやさしさが生んだ諦念。こういう人こそ救われて欲しいと思いました。
永遠の存在が、有限の命を持つあらゆる存在と関わって、全てを見届けるその出会いが哲学的で味わい深い本です。
しをちゃんとぼく 1 (ヤングジャンプコミックス)
2018/12/08 23:19
スルメのような本
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「死を失いし者」略して「死を」→「しを」ちゃん。
死なないことを恥ずかしく思い、死を有する者たちに遠慮して生きる永遠の存在。
「死ぬこと」を初めとして色んなことができないけど、持っているやさしさは深い。
それが、しをちゃん。
何があっても死なない安心感。
どの回も、しみじみ味わい深くて面白いです。
繰り出されるパワーワードの数々。
ぼくの「燃やしても起きない人を起こせる軍事力はないよ」がツボ。
名義の者さんの「生きてるのに人権がないなんて」発言も好き。
「救命の者」「名義の者よ」
この独特の言い回しがなんだか好きです。
天国にも地獄にも行けない。彷徨える存在のしをちゃん。
憧れのお葬式…入口と言うかお見送り大会。
誰かの夢と思い出と共にずっと「在る」のも悪くないんじゃないかな。
治安の者の手を煩わせないように気を遣うしをちゃん。
いい人だけど、あんまり幸せそうでなく、でも、そんな不幸な感じでもない不思議な人。
毎度のぼくの常識的なツッコミがじわじわ笑えます。
冷静に的確に、でもやり込めてやろうとかそんなんじゃなくて、ありのままに受け入れつつ、ツッコミ。
「我が友」と言うより、介護の者と言うか、世話の者と言うか。
巻末の「細かいポイント」を見て最初から読み返すと、また味わい深い。
スルメのような本です。
2017/10/11 00:24
年齢も生い立ちも全く異なる人々がひとつの艦で巡り合う
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生い立ちも立場も異なる人々が、乗艦するに至る理由が淡々と綴られる比較的長い序章。
この厚みが、上下巻を通じて物語の土台を成して、イージス艦に乗っているのは「自衛官」という「職業」ではなく「人間」だと、折に触れて再認識させてくれます。
ひとりひとりにこれまで歩んできた人生があり、背負うものがあります。それはひとりでは抱えきれない重荷かもしれません。
硬直化した組織と日本と言うシステム。その中で翻弄されるイージス艦の乗組員たち。
誰が敵で誰が味方なのか。誰の言葉が真実で、どこまでが謀略なのか。「あれ」の行方は――謎が謎を呼び、ミステリ的な側面にどんどん引き込まれます。
丁寧な説明があるので、自衛隊の組織の予備知識がなく、護衛艦の見学をしたことがなくても、状況と館内の様子をすんなり想像できて読みやすかったです。
絵本・遠野物語 新装版
2017/10/11 00:23
遠野の風の色が見えるような絵本
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挿絵の独特の色遣いが、遠野の郷に吹く静かな風のようです。
有名な河童や雪女など、一度は聞いたことのある名前の妖怪も、日本各地でその土地ごとに別の話が伝わっていて、ここで語られるお話は今まで知らなかった一面を見せてくれます。
冒頭に地図が掲載され、本文中にも具体的な地名がたくさん出てくるので、遠野を訪れた際の妖怪ガイドブックとしても参考になると思います。
秋の夜長に一夜一話ずつじっくり読みたくなる絵本です。
世界の猫の民話
2017/10/11 00:21
猫の民話がぎっしり詰まった玉手箱
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人の身近にいる普通の猫から、人間並みに喋って大活躍する猫、動物同士で駆け引きする猫……
人を助けてくれる猫も居れば、まんまと人を出し抜いく猫もいて、猫の目のようにくるくる変わる姿も憎めません。
遠く離れた土地に類話があったり、猫飼いあるあるがあったりと、世界各地の人々が猫に注ぐ眼差しがわかって、猫好きとしては嬉しい詰め合わせ。
民話に描かれた猫の姿が色々見られるお得な一冊です。
三びきのやぎのがらがらどん ノルウェーの昔話
2017/10/11 00:17
北欧民話の知恵と力
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同じ名を持つ三匹の山羊が、魔物が待ち受ける橋を渡る為、知恵と力を使う物語。
小さい山羊のがらがらどんは、知恵を使って魔物のトロールを出し抜き、中くらいの山羊のがらがらどんも言い逃れしつつ素早く駆け抜け、大きい山羊のがらがらどんは……
目的を成し遂げる為に必要なのは、肉体的な強さだけではない……弱い者にも「知恵」など「力」とは別の強さがあることに気付かせてくれます。
知恵や素早さをきちんと使う為には、魔物の恐ろしさに怯んで引き返さない「勇気」も必要です。
お話としても面白いですが、問題を解決するのに方法はひとつではない、と言う柔軟な考え方のヒントを与えてくれます。また、物事の価値を画一的に判断せず、幾つもの視点からひとりひとりの長所を見出す目も、同時に養ってくれます。
大きくなってからも、何度でも読み返したいお話です。
世界の郷土菓子 旅して見つけた!地方に伝わる素朴なレシピ
2017/10/11 00:14
甘いお菓子の道は険しく厳しく命懸け
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ユーラシア大陸を自転車で横断して収集した郷土菓子の本です。
訪問先のお家に泊めてもらったり、お菓子のレシピを教えてもらったり、著者が日本の料理を作ったりと、現地の人たちと交流する旅行記としても読みごたえがあります。
途中、病気になったり盗難に遭ったりと、かなり酷い目にも遭ったようで、生きて帰国できてよかったと思いました。甘いお菓子を訪ねる旅路は険しく厳しく命懸けの大冒険でした。
一部のお菓子は、日本でも入手できる素材でアレンジしたレシピも載っていて、読者が実際に作れるようになっています。
トルコのお菓子バクラヴァのレシピを見て、トルコ料理店のコース料理に出たデザートが、どんなお菓子だったかわかりました。
今まで味わったことのない系統の味で、日本の食べ物で似た味がないので説明が難しいんですが、とてもおいしかったお菓子です。
お店の人に聞いてみましたが、トルコ語の名称をちゃんと聞き取れなくて気になっていました。
こんなに手間暇掛かるお菓子(生地を半日寝かせるなどで丸一日掛かる感じです)だったとは思いませんでした。不器用な自分には、作れませんが、どんなものかわかっただけでも大きな収穫です。
カレワラ フィンランド叙事詩 下
2017/04/22 02:05
シベリウスの曲を聴く時のお伴に
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日本人にはなじみの薄い北欧の叙事詩。
譚歌だけでなく、「蛇を鎮める呪文」など、呪歌もたくさん収録されていて、古い時代のフィンランド人の宗教観が窺えます。
素朴な詩に謳われる喜びや畏れから、たくさんの違いが見出せますが、同時に、時代や場所、人種が異なっても人類普遍の願いも見つかって感慨深かったです。
巻末には各章の解説の他に、固有名詞の説明が五十音順で入っていました。
シベリウスの交響詩「トゥオネラの白鳥」や、フィンランドの民謡、合唱曲などを観賞する際の助けにもなりました。
生活の世界歴史 1 古代オリエントの生活
2017/04/15 03:56
ナツメヤシの味を確かめたくなる本
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多数の図版が収録され、当時の暮らしを想像しやすく、古代にチグリス・ユーフラテス河畔や、ナイル河畔に暮らした人々の息遣いが感じられる。
これを読んで、ナツメヤシの味を確かめたくなり、輸入食品店でデーツを買って食べてみた。
干し柿を濃くしたような味で、なるほど、これの為なら降水量が少ない土地でも、知恵を絞って工夫して、農作業を頑張れるだろうなぁと思った。
当時の社会の様子が粘土板などから読み解かれ、古代バビロニアでは、奴隷や女性の社会的地位が意外に高く、想像以上に自由だったこともわかった。
各地にみられる神話や伝説の類似や、伝播の痕跡も非常に興味深い。
現代社会よりも合理的な面もあり、シュメール人の特異性には、目を見張るものがある。
技術面でもかなり高度で、例えば、農業は中世の欧州より生産性が高く、現代にまで受け継がれた技術もあった。
生産活動とそれを支える社会の仕組み、人々を幸せにする方法は、決して単一ではなく、その土地に合うものがそれぞれ必要なのではないか、と思った。
グローバル化が進み、価値観の統一が進みつつある今こそ、多様な視点で世界を俯瞰できるように、異なる価値観を尊重できるように、なるべく若い人に読んでもらいたい一冊。
鴻池剛と猫のぽんたニャアアアン! 2
2017/03/23 01:27
鴻池剛とアルフの馴初めが明らかに!
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WEB版では突如現れた詳細不明の「こねこ」アルフレッド。
鴻池氏とアルフの出会いが、本書で明らかにされます。
先住ぽんたの元・飼い主である友人氏の有能ぶりと名前へのこだわりに思わずニヤリ。
困惑しつつも、二匹を大切にして暮らす鴻池氏に「幸いあれ!」と祈らずにはいられません。
それから、以前、何故かぽんたが太って、ダイエットさせても痩せなかった理由も明らかに。引っ越せてよかったです。
独特のテンポに中毒性のある猫漫画です。
皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王
2018/10/02 21:33
謎がじわじわ解けて行く構成
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真は、究極ともいえる草食系男子。
出自による不遇を嘆くでもなく、自身の存在を淡々と受け入れ、何も望まない。ずっと書庫に引き籠って家の中で気配を消す日々。
そんな真が軍師として戦場に引っ張り出された!
真がひねり出した「戦わずに勝つ作戦」とは?
いい意味で「なんでやねん?」と続きが気になりました。
その作戦でどうやって勝ったんだろう?と言う謎が、後からじわじわ明らかになって行く二段重ね三段重ねの構成が面白いです。
「男殺し」の宿星故に真に押し付けられた幼な妻の薔姫がカワイイです。
不幸な星の下に生まれても「そんなの関係ないもん」と言う勢いで元気いっぱい。本当は気にしているのに、大切な我が君の為に健気に頑張る姿がいじらしい。
彼らを引っ張る覇王の星の下に生まれた戰皇子。覇王(予定)なのにそんなぼんやりしてていいのかとハラハラ。
敵対する剛国の闘王はキレ者ですが……さてはて。
続きが気になる中華風ファンタジー。
10分間ミステリーTHE BEST
2017/10/11 00:28
ミステリー小説の定義とは何か
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「ミステリー」というたったひとつの共通点で集まった掌編の数々。
これだけあっても、トリックの仕掛けとどんでん返しが、ひとつも被らないのが流石だなぁと思いました。
何本か「あれっ?」と思う作品もありましたが、どれも違った味わいで面白かったです。
お気に入りは「五十六」「刑法第四五条」「ロケット花火」「ほおずき」「最低の男」「七月七日に逢いましょう」。
バラエティ豊かな超ショートショートの詰め合わせに翻弄されました。
ミステリー小説の定義とは何か思わず考え込んで、どうにも結論が出ず。
この一冊を読んだあなたは、「ミステリー小説」をどう定義付けるでしょう。
内田百間集成 9 ノラや
2017/10/11 00:20
内田先生の猫への眼差しの変化
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内田先生の猫に向ける眼差しの変化がよくわかる作品集。
なんだかよくわからない→ペットの鳥の仇→どうでもいい→来た者はしょうがない→ペットの鳥を狙われると危険→ノラやノラや
突如、内田家に現れたNNNのエージェント。
物置の屋根から庭へ降り立った子猫を受け取った内田夫妻。
物置に子猫を住まわせ、敢え無く籠絡されてメロメロに。
ノラ失踪後、どんどん壊れてゆく内田先生の様子がいたたまれません。
クルツとの別れなど、猫好きの方はかなり覚悟して読むことをお勧めします。
易経 上
2017/04/22 02:08
八卦のマニュアル。漢字の勉強にも。
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五経のひとつに挙げられていて、古文や文学史の教科書で名前はよく見かけましたが、読んだことがなかったので買ってみました。
冒頭は、易経の成立と筮竹の取扱説明書。それ以降は、卦の解説です。
百均で買った長い竹串で、実際の動きをちょっとやってみましたが、手が攣ったので諦めて一通り読んだだけで終了。
易者になるには、易経の知識と理解だけでなく、手の器用さも必要でした。
八卦……占いの本ですが、ここから生まれた熟語に気付くと、ハッとして背筋が伸びました。乾坤一擲。
白文、読み下し文、解説が並んでいるので、割と楽に読めます。
漢字の常用外の読みの勉強にもなりました。
猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち
2017/10/11 00:08
猫型のピースが混ざった推理パズル
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無関係に見える事柄が次々と繋がって事件の輪郭が組み上がり、物語りの終盤、謎がするする解けてゆくカタルシスが魅力的。
お笑い芸人を目指す残念なコンビや靴を通して揺るぎない人生哲学を得た創業者など、一癖も二癖もある脇役がお話に奥行きを与えていて、ヒューマンドラマとしても楽しいです。
ただ、多頭飼いなのにトイレの数が少な過ぎるなど、猫の扱いが非常にぞんざいなので、「生身の猫」がお好きな方にはお勧めできません。
ミステリ好きの方と、「可愛い猫のキャラクター」がお好きな方なら、とても楽しめると思います。