figaroさんのレビュー一覧
投稿者:figaro
ロウソクの科学
2017/11/30 07:48
科学の面白さを教えてくれた本
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
初めてこの本を手に取ったのは中学1年の時だっだ。まだ消費税が導入される前、1986年の頃だったと思う。
当時の岩波文庫は活字が小さく読みにくく、敷居が高いなという思いが強かったが、「ファラデーがこんな本を書いているのか」と思い、読み始めてみた。
この本はファラデーが行った「クリスマス講演」をまとめたものだが、燃焼について中学生の私を夢中にさせた。
当時の私は燃焼とはただの酸化反応だと頭の中で片づけていた。しかし、この本を読んで、ロウソクが燃焼するためには溶けたロウが芯を伝っていかなければならない等々、化学現象の塊であることを知り、目から鱗が落ちるような衝撃だった。
新版は活字が大きくなり、とても読みやすくなっている。今の科学少年も、昔の科学少年もぜひ手にとって読んで頂ければと思う。
ホンのひととき 終わらない読書
2017/11/17 10:10
本への愛情、そして児玉清さん
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
著者中江有里については、女優としてドラマやCMにと活躍されていることは知っていたが、特にファンというわけでもなく、いわゆる、「芸能人」のひとりという見方をしばらくしていた。
親近感を持つようになったのが書評番組で児玉清さんのアシスタントとしてよく拝見するようになってからである。
児玉さんが芸能界随一の読書家であることは以前から知っていたが、番組の中で著者のコメントを聞くたびに、「あー、この人、本が大好きなんだなあ」と思うようになった。
初めて著者の本を読んだが、縦横無尽に読んでいく読書量に驚いた。「読破」というよりも著者の場合は、親しい人に会ったり、接したりそんな感じの読書なんだなあと思った。
本書の中で児玉清さんのことが多く書かれていた。亡くなられて6年以上が経つが、著者の児玉さんへのまなざしがとても暖かく、あの書評番組でご活躍されていたことが昨日のように思い出された。
恋するハンバーグ
2017/05/25 22:43
食堂をこよなく愛する著者の視点
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
すでに知られたことだと思うが、著者は元々、会社の社食で実際に定食を作っていたプロの「食堂のおばちゃん」であった。
松本清張賞受賞後、本業の「食堂のおばちゃちゃん」を辞め、作家業に専念することになるが、著者の「食堂愛」とでもいうのか、料理と人の描写はとても優しく、そしていずれもが美味しそうだ。
作品で描かれている出来事は、世間を震撼させるようなものはない。むしろ私たちの日常にも起こりそうなことだ。だが、食堂をこよなく愛する著者の視点は、人と人に起こる些細な出来事も、美味しそうな食事とともに、ホッコリさせてくれる。
次作が楽しみだ。
幕末下級武士の絵日記 その暮らしの風景を読む 新訂
2019/11/16 10:10
下級武士なりの豊かさ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「のぼうの城」の舞台となった忍藩下級武士の絵日記である。
下級とはいえ武士なので、なにか堅苦しいイメージがあるが、この絵日記を見ている限りそのイメージはない。近所にある寺の僧侶らと句を楽しんだり、宴会を開いたりしている。宴会は自宅だけでなく、料理屋でもやったりして、毎日とは言わないが、かなりの数である。
本人の才能なのであろうが、当時の生活を生き生きと描写していて、その絵を見ているだけで楽しい。
絵日記の綴ったこの武士、藩から謹慎処分を受けてさぞかし大変だったのではと思うのだが、それはそれで日々を生きている。下級武士は下級武士なりに豊かに生きようとしている、そんなことを思いながら本書を読んだ。
大きな字の美しい日本語選び辞典
2019/09/14 10:31
言葉への限りない愛
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あるテレビ番組で、この辞典の企画に携わった編集者が特集された。何気なく見ていたが彼女の言葉づかい、言い回し、それらを聞いていると、彼女の言葉への限りない愛を感じた。そういう彼女の気持ちが「まえがき」からも分かる。
使うももちろん良し、読んで良し、楽しい辞典である。
モダン
2018/05/27 21:08
ああ、NY
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出張でNYに行った。
仕事は辛かったが、帰国前日は自由時間が持てたので、MoMAに行った。
アンドリュー・ワイエス「クリスティーナの世界」を目の前に、私は、「あー、ついに会えたんだ」、と感無量であった。
これだけを見に来たわけではないのだが、工業デザインをアートとして扱った初の近代美術館だけに、モダンアートの秀作を見るたび「あー、MoMAっていいなあ」と思った。
この作品を読むたび、あの時、あの瞬間、そしてNYの街の音までが聴こえてきそうだ。
ときをためる暮らし ききがたり
2018/05/03 10:51
豊かな生活、豊かな人生
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民放のドキュメンタリー番組でこのご夫妻を知った。
物質に溢れかえっている豊かさではなく、静かだけど心と精神が自然とともに満たされているなあ、そんなことを思った。
自分たちが食する野菜を育てる。日々の食事に使うものもあれば、保存に回すものもある。着るものも、ちゃんとしたものを購入し、そしてそれを何回も修理しつつ着続ける。安いものを買ってきて、だめになったらポイ。大量消費社会は、いろいろと手間をかけて大切に使い続けるということを吹き飛ばしてしまった。どっちがいいのだろうか?
この辺は、「キレる人」の多量発生と何となく関係があるように思う。
物質的ではなく、精神的に豊かな生活、豊かな人生でありたい。本書からそう思った。
2020/02/09 08:58
独自の世界観と悲しさ
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ここでの世界観は独自だ。そして人間の精神性は、原始時代のようなものであれば単純であるが、その単純さが進化とともに複雑化する。複雑化すると、人間というものは平気で残虐になれたりする。
作品に出てくる子供たちが無邪気でいられるまではいい。しかし、その一歩を踏み出してしまうとグロテスクな世界が広がる。
私が子供のころ、帰宅を促す校内放送でドボルザーク「新世界より」の有名な旋律を流していた。その曲はドボルザークが新世界・アメリカに渡った時の望郷を表現したようであるが、私にはなんとも悲しい気持ちになった。
独自の世界観と悲しさ。本作は一気読みであろう。
まつりのあと
2019/10/29 21:16
「女」として見られたくない女
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この一文を見て、「はっ」とした。
官能小説の書き手に男性が求めるのは、男性の勝手な妄想をいかにして「現実」にするかだ。そして、読み手は「女」を覗きこむが如く堪能し、満足をする。
それが私が少なくとも知っている官能小説だ。
でも、著者の作品を読んで、「はっ」とした。そうではないのだ。「女」は男性の勝手な妄想の世界で繰り広げられている人形ではないのだ。
作品「随心院」の主人公は、可愛いがゆえに周りの女性から嫉妬され、それを疎ましいと思い、「女」の部分を出さないようにしようとする。こういう主人公の設定すら、男性にはとても想像ができない。
女性の描く官能小説はとてもエロく、そして深い。
古典落語100席 滑稽・人情・艶笑・怪談… 愛蔵版
2019/10/20 22:06
落語入門書として最高
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海外出張に出かける間際、空港の書店で何気なく手に取ったのがこの本だ。
軽い気持ちで読みだしていたら、どんどんハマり、機中でずっと読んでいた。落語ってこんなに豊かなんだ、自分は何も知らなかった。帰国したら寄席に行ってみよう、そう思った。
それから十年近く経ち、いろいろな噺を聞くことになったが、今でもこの本を手元に置いて読み返している。
落語入門書としては実にコンパクトにまとまっていて、まさに最高の一冊だ。
世界史で学べ!地政学
2019/09/07 07:47
分かりやすさ、ピカイチ!
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この手の本、学者が書いたものがいくつかある。が、いろいろな知識を披露するばかりで、何ともという感じをもっていた。一方、この本、予備校の先生が書いただけあって、とても分かりやすい。ピカイチ!の分かりやすさだ。
どうも私が習った世界史のいうのは、「お花畑の話」で、どこかで人間の「正義」を信じている、そういうものがあったと思う。でも、世界史を見て分かる通り、領土と権益をめぐる戦い、それが世界史の現実だ。「隣国は潜在的な敵国」、ということが日本の場合、海という「バッファー」があるため、その感覚が鈍い。この本は平坦な文章で、世界の「見方」を教えてくれる良書だ。
世界は変形菌でいっぱいだ
2018/05/03 10:41
自然へ帰ろう
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家と会社の往復、会社での人とのやり取り、文書の往来・・・。そういう日々をずっと続けているが、しばし思うことがある。これは全て、人間の脳にとってもっとも合理的な世界でしかないのだろうと。「自然は不自然」とはよく言ったもので、土砂降りの雨は計画的には降ってこない。突風もそう。
公園に行っても表面的にしか見ていなかったように思う。16歳の著者は、子供のころから変形菌に魅せられ、一人で研究を続ける。この変形菌、公園にもいるようで、私は40年近く生きているが、そんなことに全く気付かず生きてきた。
雨上がりの木株の裏側によくいるそうである。人間の脳が作り上げた世界を離れ、変形菌を見に自然に帰ってみるのもいいのではないだろうか。
MAINTENANCE
2018/05/03 10:26
日常はこの「メンテナンス」で作られる
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私は通勤に都営交通を使う。
景色を見ている時もあれば、新聞を読んている時もあれば、前日の疲れから寝ている時もある。
そんな時であっても、都営地下鉄、バス、都電、すべては安全に動いている。それが当たり前であり、日常だ。
しかし、その日常は、機械のメンテナンスから来るのである。
作業場の裏側が見れる、素晴らしい写真集である。
ペリリュー 1 楽園のゲルニカ (YOUNG ANIMAL COMICS)
2017/11/17 13:01
可愛い兵隊さんと残酷さと・・・
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一気に読み切ってしまった。
駅を乗り越してしまうくらい、買って早々、夢中になって読んだ。
本書で描かれている兵隊は「兵隊さん」と呼びたくなるくらい可愛らしいキャラとなっている。しかし、本書で描かれている事柄は実に生々しい。これが本当の戦場の姿なんだと。
股間に被弾した兵士が「いたい、いたい」と叫ぶ場面、瀕死のアメリカ兵に遭遇し唸るように「ママ、ママ」と言う場面・・・。本書はフィクションという形体をとっているが、参考文献はすべて実録のもの。だから、より一層、戦場の凄惨さが描かれている。
安倍晋三回顧録
2023/07/03 08:43
赤裸々な証言
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政治家のこの手の本というのは、自慢話の類が多い。
しかし、本書は安部氏の本音を赤裸々に描いている。コロナ化にYoutube画像で批判を受けたが、氏は「野党は批判を浴びるほどの情報発信はできないでしょう」と強気発言。
また、数々の外国首脳とのやり取りも実に興味深い。オバマ大統領へは、「日本にはドイツ車などが走っている。でも、ひとつとして左ハンドルはない。アメリカは日本で売れる努力をしていない」と指摘。
これは個人的な感想だが、本書をきっかけにして氏は再登板を考えていたのではないかと思うのだ。でなければ、小池氏のことを「ジョーカー」とは言わないだろう。