ニックさんのレビュー一覧
投稿者:ニック
蚤と爆弾 新装版
2019/06/02 14:56
戦後の理屈に距離を置く
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大戦末期、細菌兵器の実用化実験を重ねていた731部隊に迫る1970年の戦史小説。同じ題材を告発的なタッチで描いた森村誠一氏の「悪魔の飽食」は1981年から発表され大ヒットとなり、当時10代だった僕もその内容に戦慄したものだが、本作はそれよりも10年以上前に発表された。太平洋戦争が軍の暴走という理由だけで説明することに違和感を感じて戦史を扱うようになったという吉村氏らしく、戦争の悲劇、戦時下の狂気を戦後の理屈で短絡的に批判する視点とは距離を置きながら、事実を積み重ねることで読者の想像力を駆り立て、戦争への考察を促してくる。
冬の鷹 改版
2019/05/23 22:04
まるで見てきたかのよう
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氏にとって初となる、江戸時代を舞台にした歴史小説。解体新書に関わった前野良沢と杉田玄白、対象的に生きた2人の人生を描く。まるで見てきたかのうような描写の連続に感服する。それらは膨大な史料を緻密に検証した上で書かれていることが他のエッセイ等で明らかにされている。
白い航跡 新装版 下
2019/10/30 15:42
森林太郎がヒールで登場
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下巻では主人公の兼寛が海軍で脚気撲滅に奮闘する姿に加え、慈恵病院、資生堂、生保業界など多岐に関わる活躍が描かれる。陸軍医の森林太郎がヒールとして登場する構図も面白い。
破船 改版
2019/10/16 20:07
漂流舟がもたらす悲喜こもごものドラマ
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江戸時代、貧困にあえぐ漁村に漂流船がもたらす悲喜こもごものドラマを文学的に描く。民俗学的な題材を多く盛り込み、他の吉村作品とは異なる読み応えがあった。
わたしの普段着
2019/08/25 18:16
逝去する前年に編まれた晩年の随筆集
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逝去する前年に編まれた晩年の随筆集。他で目にしたエピソードも多いが、軽妙な筆致によりどれも新鮮に楽しめる。作品執筆の裏話も興味深い。
大黒屋光太夫 上
2019/08/19 00:56
丁寧で読みやすい漂流記
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著者の数ある漂流記の中でもっとも面白い内容。光太夫たちの一進一退の苦労話が章立てで整理されていて、記述も丁寧で読みやすい。下巻やいかに。
彰義隊
2019/06/03 00:28
吉村氏最後の歴史小説として合点がいく
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吉村昭最後の歴史小説。「桜田門外ノ変」「天狗争乱」などの著作で水戸藩士が幕末の変動に与えた影響を描いてきた著作の流れからして、戊辰戦争を描く本作は題材としてとても合点がいく。主人公である輪王寺宮が上野から日暮里、根岸、三河島へと落ちのびていく行程は、そのエリアで生まれ育った吉村氏こそが描く必然性に充ちている。
赤い人 新装版
2019/06/02 13:30
北海道開拓の犠牲になった囚人たち
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囚人の労働力を北海道開拓に利用すべし、過酷な労働により死んだら死んだでそれもよし、とする明治新政府の方針のもと、厳寒の地で強制労働を強いられた囚人たちの壮絶な物語を描く。明治維新というものが徳川から薩長への政権交代に過ぎず、政治犯となった旧幕府側の人々が、近代国家と呼ぶには程遠い監獄制度の中で犠牲になっていったことを知る。北海道の成り立ちについての関心も深まった。
深海の使者 新装版
2019/05/29 16:47
生死を賭した濃厚な群像ドラマ
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ドイツとの軍事同盟を全うすべく、戦時下の大洋に生死を賭した者たちを描く戦史小説。海軍士官、技術者、外交官らがそれぞれに課せられた困難なミッションに向き合い、知恵を絞り、忍耐を極める様が、生存者への徹底取材により細部まで描かれ、凄まじい情報量が詰め込まれている。濃厚な群像ドラマのように感じた。
関東大震災 新装版
2019/05/23 22:07
東京を愛する人必読
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東京を愛する人必読!関東大震災の惨状を伝える名著。膨大な証言と資料を適確に整理し、ポイントをわかりやすく、出来事をリアルに描いている。震災と敗戦とはわずか20余年間の出来事であり、激動の東京がすぐそこにあったこてを改めて感じる。
秋の街
2019/11/23 13:32
生と死を扱った傑作揃い
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昭和50年代に書かれた短編小説集。日常と非日常の境をなくす新鮮な視点やリアルな表現に貫かれ、生と死を扱った傑作揃い。
日本医家伝 新装版
2019/11/19 01:25
近代医学への転換に対する氏の関心や着眼を俯瞰できる。
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江戸後期〜明治期の近代医学への転換期を題材にした氏のその後の名作長編群の底本となった短編集。「冬の鷹」「ふぉん・しいほるとの娘」「白い航跡」「雪の花」「北天の星」「暁の旅人」をイッキ読みするような感覚で、それらの作品に取り組んだ氏の関心や着眼を俯瞰できる。
鯨の絵巻
2019/11/11 00:45
動物と生き、戦う男たちを描く短編小説集
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動物と生き、戦う男たちを描いた短編小説集。表題作は明治期に生きた一捕鯨漁師の生涯を記す。江戸時代から行われてきた古式捕鯨の様子を克明に描写、その後の漁法の変化など、時代とともに移り変わる漁師の人生を描く。
遅れた時計
2019/11/07 00:36
読む者を飽きさせない吉村らしい短編集
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吉村が50歳前後に記した短編小説集。自殺、万引き、見合い、遺体捜索など、吉村らしい題材や設定、巧みな小説構成で、読む者をまったく飽きさせない。