tapiko96さんのレビュー一覧
投稿者:tapiko96
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シュレミールと小さな潜水艦
2021/12/31 23:59
戦争と白ネコ。
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コロナ禍あるある、ではないが、部屋の片づけをしていたら、だいぶ前に買ったこの本が出てきた。
最初の方を読んでいたら、ああ、これが斉藤洋初期の名作の文だなぁと懐かしくなった。
ユーモアを交えつつ、状況を説明していく、その配分が素晴らしいのである。本当に外国の港町で船乗りたちに交じって酒を飲んでいるような(あ、児童文学作品ですが)。
港町の酒場にいた白ネコのシュレミールは、潜水艦のアルムフロッサーと出会う。
アルムフロッサーはコンピューターを搭載した海軍の潜水艦で、電子頭脳を持っており、ものを記憶したり、考えたり、判断したりできる。
今でいうAIではないか!(また、潜水艦内の床を掃除するため、掃除機の小型ロボットも登場する。これも今や近いものが存在する)。
その最新型潜水艦が「故障」し、人間の言うことを聞かなくなってしまうのである。
爆発のショックで、「心」が生まれてしまい、戦争の道具としての自分に、戸惑いを感じてしまう。
そこで逃げ出そうとしていたところで、ネコのシュレミールと出会い、二人?で、戦争を止めようとする…
1989年に講談社で発売されたものが、絶版になっていたのだが、偕成社から文庫で復刊された。
講談社版の長新太の挿絵も個性的で勢いがあるのだが、偕成社版の挿絵も物語の世界を優しく表現しているし、手に取りやすいサイズになった。
ネコと潜水艦、潜水艦をとりまく海軍の人々…という独特のキャラクターが出てくる世界が魅力的で、今でも色褪せていない。ティム・バートンが映画化してくれないかなぁ。
斉藤洋作品を初めて読むなら『ルドルフとイッパイアッテナ』を猛プッシュしますが、ぜひ、こちらの隠れた名作『シュレミールと小さな潜水艦』も猫パンチしておきます。

せかいいちのねこ
2021/12/10 00:15
不思議な世界に浸る。今の自分の幸せに気付く。
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今の自分が不安で、他の誰かになりたいと思っても、なかなかなれない。
もし、なれたとしても、自分より幸せでないかもしれないし、誰にでも悩みがある。
ねこのぬいぐるみのニャンコは、持ち主の男の子にもっと愛されるため、本物のねこになりたいと願う。それには、ねこのヒゲを集めるといいと聞いて、家を出てヒゲを集め始めるが…というストーリである。
その途中で、いろいろなねこたち(いぬをつれているねこもいる)に出会ったり、一緒に家を出た仲間がいなくなって探したり、実はいじわるだと思っていたねこがそんなにいじわるでなかったことに気付いたりと、さまざまな展開がある。
「おしゃれは基本よ」
と、ある町で出会った、本屋のねこが言うのだが(名言…)。
ヒグチユウコさんの本に登場するねこたちは、みんなファッショナブルなのである。
絶妙な柄のカラフルな服を着ている。そして、おしゃれにうるさいはずの本屋のねこはニボシをムシャムシャ食べたりするから、やっぱりねこだなと思って、おもしろい。
不思議でカラフルな世界の中に、心をぎゅっとつかまれるような何かが詰まっている。
それがヒグチユウコさんの作品の魔力だ。
この本を読み終わった時には、さらに、ああ、誰でも不安な気持ちを持っているかもしれないけれど、それでいいんだという「救い」があるように思った。

十年屋 1 時の魔法はいかがでしょう?
2021/12/01 00:01
十年という月日の重さを、ふわっと感じる魔法の世界。
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『銭天堂』が大ヒットしている廣島さん。私はこっちのシリーズ推しです…。
ちょっと宝塚の男役さんのような、かっこいい魔法使いが出てきます!
外国のどこかのような不思議な街、かわいい猫の執事、捨てられない宝物…。
この作品に込められた世界観、そっと誰かに教えたくなります。
登場人物の気持ちにぐぐっと思わず入りこんでしまう不思議なマジック…そんなところは『銭天堂』の世界とも似ているかもしれません。。

世界にひとつだけの「カワイイ」の見つけ方
2021/11/21 00:08
「カワイイ」に徹する、カッコよさ。
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どうしても自信が持てない時や元気が出ない時に時々、開いてみる本です。
疲れてしまって動く気がしない時に、ひとくち、甘いキャンディーを口に放り込むと、意外に動けたりするもので。
増田セバスチャンさんの強烈な「カワイイ」世界に元気がもらえます。
増田さんのアートの写真がところどころ紹介されているのですが、金沢の伝統工芸のアートプロジェクトが特に気に入りました。加賀友禅や水引、手毬など、和の小物も組み合わせることでフレッシュで華やかな「カワイイ」世界を表現できている。
この本を読むと、きゃりーぱみゅぱみゅさんのMVのアートディレクションを担当することになったエピソードや、増田セバスチャンという不思議なお名前の謎も分かるのですが、
一番面白かったのが、増田さんの転機になった一冊の本との出会い。
寺山修司『書を捨てよ、町へ出よう』。
そこから、増田さんの人生が急速に動きだしていくイメージです。
「余力を体内に一滴も残さずに出し切る」という100%、いやそれ以上の力を目の前の仕事に注ぎ込むという仕事の流儀もカッコいい。
独特の「カワイイ」を貫くカッコよさ。
いつのまにか、明日から頑張ろう!というパワーをもらえるのです。
これから仕事に行く時は、ちょっと「カワイイ」マスクをして出掛けようかなと。
ちょっぴりでもカラフルな「心の革命」を起こしたくなる本です。

東京でお酒を飲むならば
2021/11/16 22:09
飲めば都、いざ酒場。
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「好きな酒場で満ち足りた時間を過ごした夜は、街の景色が美しく見えてくる」(p117)
東京でお酒を飲む、ということは、そういうことなんだよなぁと共感できる。
勿論、地方でその土地の名物と一杯やるのもいいのだけれども。
飲んだ後に、きらめく街に溶け込むように帰っていくの好きだ。
著者の甲斐みのりさんは雰囲気をとらえるのが上手い人だなと本当に思う。共感できる。
残念ながら閉店してしまって、もう訪れることができないお店もある(浅草のアンヂェラスも、吉祥寺のロカリテも)。
それでも、この本を開けば行けたような気分になれる。
章ごとにお店の詳細があり、巻末には地図があり、ガイドブック的要素もある。スマホがあればちょっと検索できる情報もあふれている世の中であるが、手元にずっと置いて、ときどき味わいたくなるような本である。
『ランベルマイユコーヒー店』という本も少し前に見た後だったので、京都の珈琲店のマスター奥野修さんと甲斐さんの対談も面白かった。

小さいコトが気になります
2021/12/31 00:18
無敵の共感力。
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イラストが入った絶妙なエッセイと言えば、思い浮かぶのが東海林さだおさん、さくらももこさんの本なのだが、この二人の「巨匠」のいいところをミックスしたのが、益田ミリさんではないか、なんて思ってしまった。
ほんわかしたタッチの絵からの「共感力」に圧倒される。
ポテトサラダの具に何を入れるかというテーマ。自分の好みを究極に再現したこんなモンブランが食べたいという願望。たまごサンドは卵焼きが挟まっている方がいい!という主張…食べ物に関するエッセイは読んでいて楽しい。
東京宝塚劇場のカフェのスイーツは公演にちなんだものが作られていたという。
『エリザベート~愛と死の輪舞』の「最後のダンゴは俺のもの♪」…わー、確認に行きたい!
ふと、哲学的なところ、心に訴えかけてくるところがあるのも、益田さんの作品の魅力である。
「桜の確認」の「人生で、あと何回、桜を見られるだろう?」
「雨の確認」の「空から液体が落ちてくる不思議」…何気なく通り過ぎてしまう日常にも鋭く目を向けている。
「植木鉢の確認」で、沖縄で満開の赤いハイビスカスの鉢植えを見た時には、
「ここの家で、この街で生まれ育っていたら、わたしはまた違うわたしだったのだろうか。そのわたしに、ちょっと会ってみたかった」と語る。
くるっと視点が変わって、ああ、と思わせる。
「送信メールの確認」の誤送信メールには大爆笑、「キーホルダーの確認」には、あるある!と、うなずいてしまった。
懐かしさもあり、温かさもあり、クスリと笑えるおかしさもある。
益田さんは無敵だなと思った。

アクロイド殺し
2022/01/17 22:21
先が読めない、読書の醍醐味。
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『アガサ・クリスティー99の謎』(早川書房)の解説で、棋士の羽生善治さんが『アクロイド殺し』について「犯人が分からなかった」と書かれているから、ええっあの先の手を読める棋士でさえ、騙されてしまった筋立てとはどんなものだろう?と興味を持った。
同じ本にアガサ・クリスティー自身が選んだベスト10も載っていて、2位がこの『アクロイド殺し』だった(1位は『そして誰もいなくなった』、3位は『オリエント急行の殺人』)。
実際に読んでみて驚いた。『そして誰もいなくなった』を読み終わった後、しばらく打ちのめされた感があったが、『アクロイド殺し』も同様。
途中の展開が少しじれったいところもあるが、名作であることに間違いない。
これを書き終えた時のアガサ・クリスティ―の得意顔が目に見えるようである。
結末を早く知りたくて(終わり近くになって、名探偵ポアロが「明日の朝、真相を…」などと言って焦らすし…)、最後のページや解説を先に読みたくなったりもしたが、ぐっとこらえて、ページを読み進めた。
テレビのドラマでも、ネットでもなく、本でミステリーを楽しむ、ということを堪能できた作品でもあった。

シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録
2021/12/24 23:45
「推し」たくなるシェフの熱意。
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実は、この本を読む前に、『東京ディストピア日記』(桜庭一樹)、『パンデミック日記』(「新潮」編集部編)、『ふつうでない時をふつうに生きる』(岸本葉子)といった、いわゆる「コロナ禍をどう過ごしたか」が書かれている本を読んでいた。
作家やアーティストが記した本は今後も増えていくだろうと思う(つい最近『あのころなにしてた?』(綿矢りさ)も発見)。文字通り「緊急事態」だったのだから。
そういった本を読んでいて、ふと、飲食業界はどうだったのだろう…と思った。休業、時短営業、テイクアウトに切り替える…当事者にしか分からない、壮絶な闘いがあったことだろう。
そしてこの本『シェフたちのコロナ禍』に出会った。食と酒に関するテーマを扱う著者によるウェブサイトの記事を、その後の取材や事実関係の補足なども加えて書籍化したものである。
コロナ禍になる以前、ワイン通の友人に連れていってもらった店の「女将」も登場していて、もう一度お店を訪れたような懐かしさも感じた。
そして、シェフたちの言葉に、はっとさせられた。
焼鳥『鳥福』の村山さんの言葉(p95)
〈「あのお店の、あの味」って大抵はささやかで名もないけれど、それぞれにとって人生の思い出そのものにもなる。部活の帰りに先生が連れて行ってくれたラーメン屋の味とか。そういう街の食文化が消えるのは、街のためにもよくないこと〉
コロナ禍は、人々から「食の文化」も奪っていこうとしているのだ!
また新たな変異株も出現して、予断を許さない状況が続いている。
美味しいものを食べて、元気になりたい。ただ、それだけのことがいつ普通になるのだろうか…という複雑な思いもある。
でも、この本を読んで、ピンチをチャンスに変える!というシェフたちの熱意に心を打たれた。
この際だからというので、今までやってみたかったことに取り組んだという人が多い。寿司に合うワインを探しはじめたという寿司屋の店主も、東大の大学院に合格したというシェフもいる。
食通、ワイン通の友人にこの本を読んでもらって「このシェフが作る、こんな料理が食べたいね!」なんて話してみたい。
「苦しい時こそ人を大事にしたい」という、『銀座・器楽亭』の浅倉さん。
スタッフの生活も守っていかなければならないという課題がある。
この本を読んでから、この本の元となった著者のウェブサイトを閲覧してみた。
シェフたちの顔やお店の様子が分かって、さらに応援したくなりました。

いらないねこ
2021/12/10 00:14
またここで会えるよ
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『せかいいちのねこ』の後日のお話で、ねこのぬいぐるみのニャンコが、捨てられていた子ねこをひろって、「おとうさん」になるストーリーです。
折れ耳の子ねこが、「おとうさんみたいなミミになりたい」と、とがった耳になるように耳に力を入れて練習するところが健気でかわいい。「でも、どっちのミミでも、おとうさんの愛情は変わらないわよ」と言ってくれる本屋のねこの言葉も好きです。
(『せかいいちのねこ』の時はムシャムシャとニボシを食べていた本屋のねこが優しくて頼りになるおねえさんになっていました…)。
ヒグチユウコさんの描く一つ一つのシーンが印象的です。物語の最初の方では目が見えなかった子ねこが次第によくなっていって、目が開いた瞬間の表情。子ねこが、おんぶできないくらい大きくなってしまった時の「おとうさん」のさびしさ。
血がつながっている親子でなくても…というか、ぬいぐるみと本物のねこという不思議な組み合わせでも、ラストシーンは、しみじみしました。

横丁の戦後史 東京五輪で消えゆく路地裏の記憶
2021/11/28 01:28
酒と泪と男とスナックのママ。
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2021年に読んだ本の中で、かなり面白かった方に入る本だ!
お酒が好き、横丁が好きという人なら更におススメである。
路地裏徘徊家を自称する著者が、舌と足と肝臓(?)を使って飲み歩いて集めたという情報がまとめられている。一見怪しげな横丁にも息づくドラマ、確かに懸命に生きてきた人々の歴史を感じることができるのだ。
著者はまた、ロールプレイングゲームの主人公になった感覚で、長老から言葉をもらい、物語を解くカギを集める…といった感覚が面白いと綴っている。ある意味、今までのフィールドワーク的な本には珍しい若い感覚である。楽しさが伝わってくる。
勿論、表の世界だけでなく、裏のドロドロした部分も書き込まれているが(所々さらりとかわした書き方が上手いとも思った)。
日頃から、正しく酔っ払うことが大事だ!と思っていた。何が正しいのかよくわからなかったが、この本が代弁してくれていると思える部分があった。
コンビニやスーパーでストロング系の酒を買い込み、安く手っ取り早く酔うというスタイルも出てきていることに一抹の不安を覚える、と。
いい味を出していた横丁、古い建物が再開発の波で消えて行っている。
建物自体の老朽化もあるだろうし、人々の飲み方のスタイルが変わってきた、時代が変わってきたということもあるのかもしれない。
コロナ禍が落ち着いたら、楽しく飲みたい。
その時まで持ちこたえてほしい横丁が、この本の中にあった。

黄金の丘で君と転げまわりたいのだ 進めマイワイン道!
2021/11/18 23:27
コロナに負けず、転げまわりたいマイワイン道。
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コロナ禍になる前は月イチ、いや、もっとかもしれない。ワイン好きの友人と集まっていた。
美味しいものと、美味しいワインをワイワイ飲む時間がたまらなく楽しかった。
この本を読んで、そういう楽しい時間を思い出した(文庫版もすでに出版されているようですが、こちらを先に手にとってしまいました)。
ゲヴュルツトラミネール。確かにそんな品種の名前も聞いた気がする。
ワイワイと楽しすぎて、記憶の彼方に飛んで行った、呪文のようなワインの用語。
それは、こういう味わいや香りを表していたのかと、改めて参考になった。
この本の、実験のようなワインレッスン(目隠しをして飲む、器を変えて飲む等)では、先生と参加者のやりとりが面白くて思わず笑ってしまう。さすがに紙コップは、まずいだろ!
そんな笑いもありつつも、「おいしいものを食べると、なぜ哀しくなるんだろう」(p351)という、三浦さんの問いかけと答えに、はっとさせられた。
コロナが落ち着いたら、また、仲間と集まって、美味しい(!)お酒を飲める時間を持ちたい。
…そのためにはもっとワインに詳しくなりたいなー。
ホットワイン(この本には作り方も載っている)を夜な夜な作って飲みながら、そんなことを考えている。
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