ゆなさんのレビュー一覧
投稿者:ゆな
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2022/05/12 20:41
【ネタバレ】繊細ヤクザの話。
32人中、30人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ゲボ面白い。
下品な言い方で申し訳ないが、この表現しかできない。
不気味・不穏・薄気味悪い、でも印象的で面白い。
こんな小説読んだことない。
かもめ食堂(2006)、食堂かたつむり(2008)を皮切りに、たくさんのごはん小説を読んできた。
これまでのごはん小説は、登場人物がいい人ばかりで構成されているか、嫌な奴が出てきても、おいしいごはんで乗り越えていくかの2択だった気がする。
この本は違う。
種類は違えど、やべーやつしか出てこない。
以下、主な登場人物。
◆芦川(女性)
身体が弱く、『辛い時には無理しない』スタイルを貫く。
故に、やらなければいけない仕事があったとしても、体調が悪ければお構いなしに早退する。もちろん仕事は他の人に振り分けられる。
しかし、体調不良で早退したにもかかわらず、翌日『ご迷惑をかけたお詫びです』と、手の込んだ手作りお菓子を職場に持参する。
バカな男性社員と謎思考のパートババアは、『おいしい!』『芦川さんって本当に家庭的ね〜』と大絶賛。
経験年数が長く仕事への貢献度が低いため異動対象であるが、支店長とベテラン社員(何れもおっさん)の強い要望により、現在の支店に居座り続ける。
◆二谷(男性)
体調不良で早退する芦川の尻拭い要因の1人。
かなり屈折しており、芦川の勤務態度や芦川の作る食事やお菓子に抵抗があるにもかかわらず、か弱い芦川に魅力を感じ、芦川と男女の関係になる。
手作りの食べ物を忌み嫌っており、『カプセルで栄養摂取できたらいいのに』等、厨二臭い思想を持つ。
◆押尾(女性)
芦川の尻拭い要因の1人。気が強く、可愛げがない。体調不良で早退したのに手の込んだお菓子を作ってくる芦川に反感を持つ(当然である)。会社に貢献しているのは確実に芦川ではなく押尾だが、社内では全く評価されていない。
この話は、所謂『繊細ヤクザ』の話だ。
体調不良(重い持病ではなく、偏頭痛などの軽微なもの)でお構いなしに早退し、でも、みんなが尻拭いをしている間に芦川はせっせとお菓子を作り、翌日、会社に持っていく。
バカな男と優しいパートは芦川のお菓子を褒める。
読んでいて思ったのだが、芦川はお菓子作りも料理も好きじゃない。明確に記載されているわけではないが、作る工程よりも『お菓子を振る舞って褒められる私』が好きなのである。
結末の詳細は伏せるが、この物語を読んだ多くの女性が押尾に感情移入すると思うが、押尾は報われない。
繊細ヤクザの大勝利である。
はっきり言ってめちゃくちゃ胸糞が悪い。
かといって、駅のゴミ箱に捨てたくなる小説か?と聞かれれば、全くそんなことはない。
主に芦川の図々しさ(この人は全く弱者ではない。図太くて強かである)がどんどん増長されていく様が面白くて、ページをめくる手が止まらない。
読後感が悪い小説は大体売り飛ばすことにしているが、この本は売らない。記憶が薄れた頃に本棚から抜き出して、怒ったりイライラしたり、押尾に同情したりしながら、また読むと思う。
東京都同情塔
2024/01/24 22:07
わたしの感想がそのまま本書の中に
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ネタバレ。
103ページ
税金を使ってでも社会のお荷物を合法的に閉じ込めて「劣等」な遺伝子を長期的安楽死に追いやるための施設
100ページ
F××××××××××××CK!!!
なーにがシンパシータワーだよと思いながら読み進めていたら、終盤に差し掛かった箇所にちゃーんと共感できる言葉が書いてある。
主役であるマキナサラだって本当はそう思ってる。だけど社会的に、特にサラのような影響力の高い人物はそういうことを口にしてはいけないのだ。なんて息苦しい。
83ページ
「私には分かるの。それについて一度でも口を開いたらきっと、言うべきじゃないことを言ってしまう。だから言わせないで。言うべきことじゃないことを私は言うことができない。誰も傷つけるべきじゃない。」
すべてが完璧ゆえにやや傲慢で傍若無人なマキナサラにまでこんなことを言わせる始末。
仕事でも日常でも、弱者や配慮すべき対象に苦しめられている人にはおすすめ。
序盤は生ぬるい社会の空気感に本を床に投げつけたくなるが、中盤に登場するマックスの言葉やマキナサラ(の心中)に首がもげるほど頷きたくなる。
マリエ
2023/09/01 15:28
【ネタバレあり】あーーーーーそっち選んじゃったかーーーーー
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ここ数年、どの作品も面白い千早茜さん。
前作の「赤い月の香り」に続き、こちらもすごく面白かった。
主人公は40歳女性、まりえ。
クソみたいな前夫(まじでクソ。この本を読む全女性がこいつに怒りを感じると思う)と離婚し、友人に背中を押される形で結婚相談所に登録する。
個人的に、まりえはそこで出会った「本田」と結婚するものだと思っていた。彼は女性慣れしていない不器用な男性だが、正直だ。彼の言葉には嘘がない。自分を良く見せようとも、相手に多くを求めたりもしない。
詳しくは書かれていないが、いざというとき(大変なとき。聖書で言う「病めるとき」)に頼りになるのは本田だと思った。
ただ、まりえは本田に性的魅力を感じず、知人を介して出会った由井(ゆい。まりえの7歳下、長身、細身、お洒落、さらさらの銀髪、ほどほどに筋肉がついた男性)に性的魅力を感じ、「私は身体で選ぶ人間なんだ」と自覚する。
お待ちなさいって。
性的魅力で言ったら、100人中97人ぐらいは由井を選ぶでしょうよ。
顔が良い、身体もいい、素直な性質(仔犬系)の歳下男子は魅力的に決まっている。
ただし、誠実な本田を捨て、仔犬系歳下男子にうつつを抜かすのはどうかと思った(個人の感想です)。
だってモテるに決まっている。
何度も言うが、若く(33歳)、顔が良く、背が高く、程よく筋肉がついていて、素直な性質で、仕事も持っている。しかも名前は由井。かっこよすぎんか。
太ったりハゲたりしなければ、少なくともあと20年は恋愛し放題だろう。
そういう人間との恋愛(まりえは由井との結婚を見据えた発言もあった)や結婚、疲れませんか。
自らもキラキラした25歳女子なら話は全く別だが、こちらは40歳だ。見た目の老化、体調不良などの不具合がこれからどんどん起こる。
そんな時に横にいるのは若いイケメン。
無理やろ。
カラダは〜単純(シンプル)なのね〜で選んではいけないと思う。
不器用だけど誠実な本田と「そろそろカルビは胃に重いね」なんて言いながら生きていく方が楽しくないですか。違いますか。そうですか。
千早さんがまりえに共感しながらこのお話を書いたのか、そうでないのかは分からない。
ただ、この話に出てくるほとんどの人物が「身の丈に合わない恋愛、結婚」を望んでいるように思えた。
そんなもん疲れるだけだと思うのだが。
人によって感じ方が異なる本だと思う。
いずれにしても、続きが気になってあっという間に読み終えてしまうのは間違いないでしょう。
恋愛の発酵と腐敗について
2022/05/17 19:09
女は海
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
Oggiで紹介されていた本。
Oggiにしてはマニアックなテーマだな…と思い、読んでみた。面白かった。
商店街で働く3人の女が、これまた商店街でベーカリーを営む22歳のダメ男(見た目が良いダメ男なのか、見た目も悪いダメ男なのかまでは言及がなかった気がする。読む限り、どっちにも取れる。そこが気になるのに)に翻弄される話。
正確に言うと、1人の女は何があってもどっしり構え(『港』状態)、あとの2人が翻弄されて気が狂う話だった。
こういう『あの人は、私がいないとダメだから…』みたいにヒモ男を飼う女って、マジで実在するんだろうか。ドラマと演歌と小説の中でしか見たことがない。
上記の四角関係に加えて、モブ(ダメ男に狂った女に執着するストーカー体質のおっさん)の章があるんだけど、それも面白かった。ネットアイドルとかに本気で恋して、脅迫まがいのことをする男って、こういう思考なんだろうなーという感じ。
この本の前に読んだ『おいしいごはんが食べられますように』然り、最近当たりづいている。ラッキー。
見つけたいのは、光。
2023/10/01 15:26
【ネタバレあり】好きになれない登場人物
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この小説自体は好きだ。
ただ、3人いる登場人物のうちの1人(この人の語りから物語は始まっているので、実質的に主人公なのかもしれない)がどうしても好きになれなかった。
【登場人物】
亜希(30代半ば、1歳の子供と夫がいる。無職)
茗子(30代後半、夫がいる。管理職)
三津子(40歳、シングルマザー、大手ゼネコン勤務)
茗子と三津子は好きだ。2人とも、自分が充分な大人だという自覚があり、自分の強みも弱みも知っている。その上で、社会や自分に対する「諦め」も持っていて、人生をそれなりにやりくりしている。
3者の中で亜希だけが異質だ。ブラック飲食に勤める薄給の夫との間に無計画に子を設け、それを知った亜希の派遣会社は契約更新を行わない決定をするが、それに食ってかかる。
子供がいない茗子に「いい歳をして子供がいない人のことをバカにしていると言えば嘘ではない」、見た目も中身もガサツなおばさんである三津子に対し「ブログのイメージと違う。私はあなたが嫌い」と言い放つ。
この人の目的は「自身も仕事を持ち、もう少し余裕のある暮らしがしたい」というものだが、被害者意識が強く、気分の浮き沈みが激しく、母であるというアイデンティティを強く持ち、空港のロビーで人目も憚らず大騒ぎするなど、言ってしまえば「面倒臭い人」だ。
一緒に働きたくないタイプである。
最終章でも亜希が「両手と両足をバタバタさせながらテンション絶頂で話している」シーンがあるが、読者としては引いた。そして、やり手である三津子の部下として亜希がやり仰るとは思えなかった。
「あなたのもとで働かせてください」と言われた三津子も断るに断れなかったと推測でき、三津子に同情せざるを得ない。
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