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DBさんのレビュー一覧

投稿者:DB

167 件中 31 件~ 45 件を表示
聊斎志異

聊斎志異

2024/02/18 00:59

中華ファンタジー

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今回のバベルの図書館は中国文学です。
この蒲松齢が書いた『聊斎志異』は十七世紀に書かれた民間伝承を材とした怪異譚集で、世界四大奇書の一つとも言われるそうです。
およそ500篇もの短編が収められている中から選び抜かれた14篇と、同じく中国の『紅楼夢』から二篇の話が収載されています。
ボルヘスによれば中国で『聊斎志異』が占める位置は西洋で『千夜一夜』の占める位置に匹敵するそうだ。
地獄の法官が登場したり、妖狐や人語を解する虎が出てきたりと怪異譚の名に恥じないが、どれも面白い。

「老僧再生」という話では高徳の老僧が転んでそのまま入寂してしまったが、魂が抜けだして同じころに馬の暴走で事故死した名望家の御曹司の肉体に入り込んでしまった。
その日からその御曹司は妻妾をよせつけず、祖米だけを食べ、金儲けに興味を示さなくなってしまった。
そして高僧がいた寺に向かうと、そのまま自分が反魂再生した話をして元の地位におさまってしまう。
こうして見た目は三十くらいなのに八十年余りのことを語る誠篤な高僧が有名になったのだが、逆もあったらそれはそれで面白い。

「狐仙女房」は身寄りがなく貧しい男が病に伏していると、絶世の美女が「あなたの奥さんになりにきた」と言う。
病気を治し家も一瞬で豪邸に、御馳走とお酒まで並んだ手妻はまさしく妖狐。
そのまま夫婦として暮らしていたが、あまりの来客の多さに夫を連れて神仙の住む場所へと帰っていったという。

「猛虎贖罪」は一人息子を虎に食い殺された老婆が知事に訴え、老婆のあまりにも必死な様子に下っ端役人に命じて虎を逮捕させる。
虎に老婆の倅の代わりになるようにと言うと、頷いた虎はそれから老婆に鹿を持ってきたり金を咥えてきたりと孝行し老婆は金持ちになって、その孝行は老婆が死ぬまで続いたという。

他にも人の皮をかぶって若い女に化けた鬼が出てきて騒動を巻き起こす話や、道士の幻術を題材にした話など様々だ。
冥土の判官と飲み友達になったら心や心臓を入れ替えて科挙を首席で合格できるようにしてくれただけでなく、妻の首を美人の物と取り替えたという話には「それでいいのか」という疑問が残らなくもない。
『紅楼夢』の方は宝玉の夢の話と賈瑞が鏡に憑りつかれて死ぬ話だったが、幻想的ではあるが長編の抜粋だけにとりとめがない感じだった。

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星から来た船 上

星から来た船 上

2024/02/18 00:58

情と絆のSFコメディ

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2018年くらいにこの新井素子の「星へ行く船」シリーズの復刻版を読みました。
その時懐かしく読みながら「他にもエピソードなかったっけ?」と思いつつそのまま忘れていましたが、先日2019年に本作が上梓されていたことを知りさっそく読んでみました。
「星へ行く船」からさかのぼること数年、水沢所長の婚約者の麻子さんを語り手にした話です。
プロローグでは水沢所長が火星のリトル・トーキョーで探偵事務所をしているという紹介に始まり、火星の宇宙港で生後数週間で生き別れた弟を待つシーンとなります。
もちろんこれが「星へ行く船」シリーズのヒーローである太一郎ですが、水沢所長の母親の兄である山崎氏に引き取られて末っ子長男として育てられていた。
上に四人の年が離れた姉がおり、大病院を経営する山崎氏の財力で乳母代わりのお手伝いさんや義兄たちすべてに可愛がられて成長した太一郎だったが。
あまりにも構われ過ぎたらしく、十六歳で家出をしてそのまま地球を出てあちこちで合法と非合法の狭間の世界を放浪する。
そしてとうとう太陽系を出ていこうというところで産みの母親の顔を見ておこうと思い立ち、火星に住む兄の水沢所長に連絡してきた。
半年前に自分たちの母親が病死したことも知らないままで。

火星に降り立った太一郎ですが、彼を「ぱぱ」と呼ぶ幼女とその保護者の顔をした月村真樹子がくっついてきていた。
そこから「大山鳴動して鼠一匹」事件と名付けられた事件が幕を開けます。
子どもは「祥子ちゃん」という名前だったが、どうやらシリウス星系から火星へ来る途中で母親とはぐれた様子だった。
「星へ行く船」シリーズで「レイディ」というあだ名となった真樹子だったが、祥子が捨て子だと判断してそのまま祥子を引き取る気で火星に降り立つ。
だが祥子の祖父母が娘と孫の行方を必死で探しているという情報に、土星で待ち合わせをして祥子を連れていくことに。
そこに祥子の母親の亮子と、本人は子供がいることを知らない亮子の元恋人の山坂氏が登場して大騒動に。
とてつもなく不毛でまどろっこしいやりとりがあり、土星の宇宙港を占拠したどこか抜けているテロリストの集団があり、クラッシャーの名をほしいままにする太一郎と真樹子カップルの活躍ありで楽しめる。
この二十三世紀くらいを舞台にしているのに昭和の価値観にあふれたSFはどの世代まで通用するのだろうとは思ったが、懐かしく楽しく読み返しました。
復刻版用の書下ろし短編も締めくくりに相応しかった。

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生命の起源 地球と宇宙をめぐる最大の謎に迫る

生命の起源 地球と宇宙をめぐる最大の謎に迫る

2024/02/18 00:54

生命のはじまり

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生命の起源という究極の神秘の解明を求めて、第十九回日本宇宙生物化学会大会で行われた「生命機能の起源を探る」というシンポジウムの内容を書き下ろしたのが本書だそうです。
11名の教授たちの共著ということですが、うまくまとめてあって一つの流れとして読むことができた。

荒涼とした宇宙空間の中で、生命に満ち溢れている地球。
この地球の生命はどこから来たものなのか。
2010年当時の生命の起源としては、地球外起源説であるパンスペルミア説と地球起源説である有機物地球起源説、無機物地球起源説があるという。
原始海洋中で有機物が単純なものから複雑なものに進化したという化学進化は海底の熱水噴出孔の発見でより重要になったそうです。
他にもアミノ酸が重合していって生命の起源になったという最も古典的なタンパク質説や、RNAワールド説、名前が面白いゴミ袋ワールド説という物もあるそうです。
そこから約十五年たって今の主流はどれなんだろう。

生命の起源が何だったにせよ、原始生命体は原始細胞だったのは間違いない。
細胞とは何か詳しく説明してあるけれどもここはまるで生物の教科書、細胞膜の構成や性質を復習しました。
原始細胞はがらくたワールド・RNAワールドを経てDNAにより遺伝情報を伝える現生の全生物の共通祖先「コモノート」へと発展した。
このコモノートは超好熱菌だったと考えられているが、このコモノートが一つではなかったと考える学者いて様々なようだ。
その舞台となりうる熱水噴出孔や、最古の微化石がシアノバクテリアか化学合成細菌であるかという話、生命のエネルギー獲得方法とその進化について語られます。

38億年前に産まれた原始生命はそこから20億年かけて真核細胞からなる真核生物へ進化した。
真核細胞にはDNAを収めた核、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リソソーム、液胞などがあり、植物は葉緑体も持っている。
ミトコンドリアや葉緑体は元は共生体であることがわかっているが、これらの取り込みも食作用をはじめ様々な説があるようだ。
真核細胞の成り立ちと特徴について丁寧に説明してあった。

こうして生まれた地球生命は進化と絶滅を繰り返しながら変化していく。
2600万年の周期で海洋生物の絶滅のピークがあり、白亜紀末の大量絶滅もこれに重なるそうですが、地球の近くで超新星爆発が起こってガンマ線が地球に降り注いで絶滅が起こるスターバースト説はオルドビス紀末の大量絶滅の原因かもしれないそうだ。
地殻のプレートの相互作用を伴うマントルの上昇流で火山活動が活発化して起こる気候変動と温暖化により絶滅が起こるスーパープルーム説は、ペルム紀末やエディアカラ紀末の大量絶滅を引きおこした。
そして巨大隕石の衝突により太陽光がさえぎられて寒冷化が起こり絶滅が引き起こされる巨大隕石説は、地球上のイリジウムの含有量がその決め手となるそうですが、白亜紀末の大量絶滅の原因とされている。
原始細胞から始まった生命が絶滅を乗り越え、反動で進化が加速して繁栄していく様子が目に浮かぶようだった。

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鳥の箱舟 絶滅から動物を守る撮影プロジェクト

鳥の箱舟 絶滅から動物を守る撮影プロジェクト

2024/02/18 00:49

絶滅に瀕した鳥たち

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「鳥の箱舟」と訳されるこのフォト・アークですが、世界の動物園や保護施設で飼育されている1万3000種の動物をすべて写真で記録するというプロジェクトで、写真家のジョエル・サートレイが中心に立ち上げたものだそうです。
サートレイはアメリカのネブラスカ州に住んでおり、渡り鳥のルートの一つであるセントラル・フライウェイにあるため春になると多くの鳥が南風に乗ってやってくるそうだ。
日本人が燕を心待ちにするような気分だろうか。
本書ではサートレイが撮影した動物の中から280種の鳥類の写真をまとめているが、ここにはプロジェクトの目的である絶滅の危機にある動物の姿を知ってもらうことで関心を集め、保護につながってほしいという思いが込められている。

ページを開くと、色鮮やかな鳥が羽毛の一本一本まで見えるほどくっきりと映った写真が続きます。
ターコイズブルーの身体に嘴と尾羽に黄色いアクセントカラー、頭部と尾羽に黒い部分もあって美しいカンムリエボシドリはアフリカ西部~中部に生息するそうですが、こんな鳥が飛んでいるところは楽園に違いない。
アフリカオオコノハズクも中央アフリカの鳥だそうですが、オレンジ色の虹彩の真ん丸の目が可愛い。
ハトは身近な鳥だと思っていたけれど、世界に351種が生息するそうでカンムリバトやクジャクバトを見るとその多様な姿や色がインパクトあります。

アップで足の形や目の形、嘴の様々な形を比べてみたり、インコの色比べをしたりと鳥の種それぞれの違いによって食性や生息地域が違うのが簡単に解説してある。
翼を広げた姿やとんでいるところを写真に収めているものもあり、空を飛ぶために特化した体の構造がよくわかります。
次の世代を作るための求愛と営巣や、知能や情動、本能についても簡単にまとめられていて、鳥類について楽しみながら知ることができる本になっている。

絶滅を食い止めるためには何ができるだろうか。
カリフォルニアコンドルは1980年代にわずか22羽にまで減ってしまったが、そのすべてを捕獲し繁殖を続けた結果数百羽にまで増えて自然に定着させることに成功した。
レイサンマガモも12羽から数百羽に回復でいたそうで、保護活動の重要性を教えてくれます。
本書は未来の世代に動物の姿を伝えることを目的としているそうですが、残っているのは写真だけというような未来にならないようになってほしい。

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古代末期 ローマ世界の変容

古代末期 ローマ世界の変容

2024/02/18 00:49

帝国の変化

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ローマ帝国の歴史は、草創期、黄金期、そして衰退期にわけられると考えられてきた。
476年に西ローマ帝国が消滅するまでの数世紀を衰退期と考え、巨大な帝国が分裂し変質していって滅んだ後に暗黒の中世へと突入していくという考え方だ。
だがこの古き良きものが失われていく時代という考え方が実は間違っていて、この古代末期には古いものと新しいものが共存した豊かな時代であったと著者は述べる。
それまでの「ローマ的」なものに、新しいものである「蛮族」の影響とキリスト教会という新たな権力が加わり多様性に満ちた時代であったとする。

古代末期はセウェルス朝の終焉からディオクレティアヌス治世の前半である「三世紀の危機」と呼ばれる時代、ディオクレティアヌスからコンスタンティヌスまでの「四帝統治」の時代、コンスタンティヌス二世からテオドシウスまでのキリスト教会が勢力を伸ばしていく時代、そして東西ローマ帝国と蛮族侵攻の時代へと変遷していく。
西ローマが蛮族との戦いで疲弊し領土を失っていく中でも、東ローマはコンスタンティノポリを中心に経済的に繁栄していたが、キリスト教内部での宗教対立が激化して政治にも影響をもたらし、フン族のトラキア侵攻ではアッティラに貢納するという脅威もあった。
この中でも蛮族問題に対してローマ軍が直面した問題や、経済の変転として通貨や税制、農村での問題、都市への食糧供給と窮乏について詳しく語られています。

ローマ末期とキリスト教会の関係は切り離せないものがあるが、一世紀前半に発生し時に迫害を受けながら、四世紀には少数ながらも強力な宗教として帝国内に拡大していた。
キリスト教が国教となりそれまでの古代文化は滅んだのではなく、キリスト教が古代文化を吸収し、古典文化にヘレニズム化された聖書文化を加えて後世に伝えたのが古代末期の主要な特徴だそうです。
そして権力という意味でも、古代都市で政治の中心となっていた都市参議会は負担の増大を理由に参加者を減らしていき、その空白となったところへキリスト教会の司教たちが穴を埋めていった。
それに伴いそれまで娯楽として広まっていた演劇、剣闘士競技、戦車競走、音楽、踊りや鯨飲飽食、売春を避けて貧者や病人への救済を尊ぶようになる。
キリスト教以外の異教はもちろん、キリスト教内の異端も排除され、堅牢なピラミッド型の集団が確立していく。
古代末期とは古代文化の莫大な遺産を引き継ぎ変容させて次世代へと引き渡した誕生の時ともいえる。
それを宗教、政治、経済、道徳などから多角的に論じた本でした。

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座敷童子の代理人 6

座敷童子の代理人 6

2024/02/18 00:47

遠野をかける陰陽師

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遠野を舞台にした妖怪ファンタジーです。
前巻でお互いの好意を伝え合った作家兼温泉宿の住み込み番頭の緒方と、温泉宿「迷家荘」の女将和紗だったが、その後もなかなか進展せずに手をつなぐくらい。
まあ職場と住まいが一緒で距離は近いが父親と祖母も一緒に暮らしているし、緒方の部屋には座敷童子や河童、化狸に妖狐が同居している状態ともあればなかなか二人きりになるチャンスもない。
そしてトラブルは客の姿でやってきた。

表紙にもなっている直衣に烏帽子姿の青年と少年ですが、「久我兄弟」という陰陽師だそうです。
しかもそのビジュアルで人気を博して本が売れ、さらにはテレビで陰陽人生相談というコーナーまでできてしまったという。
話のネタとしては面白そうだけれど、相談内容的にネタが尽きるのも早そう。
その日のテレビで語られていたのは「金縛り」についてだったが、雑学王の座敷童子によれば仰向き寝をやめれば金縛りにもなりにくくなるそうです。
だがその夜に見事な金縛りにあった緒方の姿勢は横向き寝で、座敷童子の蘊蓄に疑問を呈することとなる。
金縛りの原因は緒方の上に座り込んだ落ち武者の幽霊だったので、生理的な金縛りとは違うと思うけどね。

その落ち武者は鱒沢と名乗り、戦国時代から遠野を見守っているという。
だが何者かの襲撃を受けてしまったため、回復のために緒方の精気を吸いに来たのだとか。
そのために金縛りにあわされてはたまらないが、なし崩しに受け入れてしまっているのが緒方のいいところなのだろう。
そしてテレビに映っていた陰陽師の久我も迷家荘に客として訪れることで、陰陽師と妖怪たちの大抗争に発展するかと思いきや。
この陰陽師はどうやら妖怪が見えないらしく、河童にどつかれても無反応だった。
やっぱり襲撃者は別にいるのか、落ち武者の勘違いではないかと話が流れそうになるも、ある夜に緒方の目の前で鱒沢は打ち取られてしまった。

さらには久我が黒い影に取りつかれたことから八幡権現に話を聞きに行きます。
下戸で甘党の八幡様は緒方がお気に入りで、会いに行くとお菓子を山のようにくれるのが微笑ましい。
管狐が登場して大昔の契約の話を探ってみたり、遠野の鬼門の話も出てくる。
エピローグでは大陰陽師も一瞬だけ登場するので、次巻も楽しみです。

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ローマ人の物語 12 迷走する帝国

ローマ人の物語 12 迷走する帝国

2024/02/18 00:47

乱立する皇帝たち

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三世紀に入って、ローマを支配するのはセヴェルス朝だった。
前半ではセヴェルスの息子カラカラ帝と、その甥にあたる2人の皇帝について語られる。
内乱を制した北アフリカ出身の皇帝セヴェルスと、シリアの神官の娘ユリア・ドムナのあいだに生まれたのがカラカラ帝です。
カラカラ浴場の遺跡が世界史に載っていたのを記憶しているが、その両親を見ても帝政初期のローマ皇帝の姿とは随分と変わってきたことだけはわかる。
共同統治者であった弟を殺し、皇帝としての自負も高らかなカラカラ帝が行ったのは、帝国内に住む自由民をすべてローマ市民としてしまったことだった。
人類平等の宗教家から見れば賛美すべき法案だったはずだが、税収のアップが目的だっただろうこの法は目的を果たさなかっただけではない。
それまでのローマの社会を支えていたローマ市民としての誇りと、非ローマ市民の持っていた向上心を奪い去ったのだ。
よかれと思ってやってみたことが最悪の結果になってしまういい見本です。

謀殺されたカラカラ帝のあとに皇帝となったのは、近衛軍団の軍団長だったマクリヌス。
しかし戦後処理の不手際と、カラカラの叔母ユリア・メサの陰謀でマクリヌスは退場。
ユリア・メサの陰謀で皇帝となった孫たちも、ヘラガバルスはローマ皇帝になってもシリアの神官としての振舞いが目についたという理由で暗殺される。
そして弟のアレクサンデルもそれなりに努力はしたものの、経験と力不足によって軍団兵に殺された。

ここから軍人皇帝たちが乱立し、さらにローマのリメスが破られる「三世紀の危機」と呼ばれる不安定な時期に突入していく。
西では二百五十年もの間ローマを守っていたゲルマニア防壁が破られてゲルマン民族が侵入してくるし、東ではウァレリアヌス帝がササン朝ペルシアとの戦いに敗れて虜囚の憂き目にあい、パルミラの女王ゼノビアが皇帝属州だったエジプトを奪取した。
ローマ皇帝は絶対権力者というよりはローマ帝国の舵を取る将軍か首相のようなもので、不信任案が通れば死ぬしかない。
それが二十人から僭称も含めると四十人もの皇帝が乱立する結果となった。

途中でアウレリアヌス皇帝のような有能な皇帝がローマを建て直そうとした時期もあり、蛮族を叩きパルミラ問題を解決するも奴隷の策略で謀殺された。
その後も次々に現れては消える皇帝たちの治世のもとで、迫害を受けなお組織を強化していったキリスト教が勢力を伸ばしていく。
国教化もすぐですね。

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メキシコ古代都市の謎テオティワカンを掘る

メキシコ古代都市の謎テオティワカンを掘る

2024/02/18 00:46

テオティワカンの遺跡発掘

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著者の杉山博士はメキシコ国立人類学歴史研究所で考古学調査に従事していて、マヤ、メキシコ中央高原の遺跡、アステカ王国の大神殿遺跡などを調査しているそうです。
特にこの紀元一~六世紀にメキシコ中央高原に栄えた古代都市テオティワカンを43年にわたって研究しているそうで、本書にはその知見が詰まっていた。

テオティワカンはメキシコシティから車で一時間ほどのところにあり、今は遺跡公園となっていて世界最大級のモニュメントである「太陽のピラミッド」と「月のピラミッド」、そして「羽毛の蛇ピラミッド」がそびえている。
東西南北の一貫した方向軸を持つ均整の取れた壮大な計画都市だそうですが、謎だらけの古代都市遺構でもあるそうです。
テオティワカンには約十万人の人口を抱える都市だったと考えられているが、その都市に住む人々がどのような民族でどんな言葉を話し、何を規範としてピラミッドを作ったのか、どのような政治体制だったのか、今でもわからないことは多い。
今では台形のピラミッドも上部がどのようになっていたのかもわかっていないそうです。

テオティワカンを含むメソアメリカ文明はトウモロコシ、カボチャ、インゲン豆、アボカド、トウガラシ、トマト、綿花、タバコ、アマランサス、チア、カカオなどの多くの植物を栽培していた。
そして家畜に適する大型動物がいなかったことが特徴だが、シカやウサギ、ノブタ、ネズム、モグラやリス、魚、貝、野鳥に爬虫類、昆虫と多種の生物を蛋白源としていた。
そこから生まれたのがオルメカ文明、マヤ、テオティワカン、山頂都市モンテ・アルバンだ。

これらの遺跡の中でも最大のテオティワカン遺跡には、「死者の大通り」を中心軸として北端に「月のピラミッド」、東に「太陽のピラミッド」、南端に「城塞」と「羽毛の蛇ピラミッド」が配置されている。
都市計画を立てることができるだけの強力な支配者が存在し、独自の宗教が発展していたのは間違いない。
月のピラミッドは何回も新しくより大きなピラミッドで覆われていって、七つのピラミッドが重なっている構造だそうです。
それぞれに埋葬墓があり、生贄や副葬品、ピューマやクモザルといった動物の生贄が葬られていた。
発掘の様子を見取り図や写真を加えながら詳細に解説しています。

太陽のピラミッドや羽毛の蛇ピラミッドにも同じように埋葬墓があって様々な生贄が埋まっていたそうですが、テオティワカンの人々はそのような儀式によって何を信じ何を願ったのだろう。
「テオティワカンに来てはいけない」という言葉で結ばれる本書ですが、著者のように人生を捧げてしまうほどの魅力があるのが伝わってきた。

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菓子屋横丁月光荘 6 光の糸

菓子屋横丁月光荘 6 光の糸

2024/02/18 00:44

消えていく家

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久しぶりの月光荘です。
月光荘のイベントスペースとしての活動も軌道に乗り、大学を卒業してそのまま月光荘の管理人に就職した守人は母方の親戚との再会やゼミ生たちとの交流もあり人との絆を深めていっている。
浮世離れした雰囲気はそのままに、それでも他人と積極的にかかわれるようになったのは数々の出会いを通して学び成長したのだろう。

人との出会いはもちろんだが、家の声が聞こえるという特殊能力を持った守人には家との出会いもまた大切なものだった。
ゼミ仲間だった田辺の祖父母が暮らしていた家では昔の養蚕の光景が伝わってきたし、ゼミの教授とその友人で月光荘のオーナーでもある島田に連れて行ってもらった古民家を改装した蕎麦屋では昔機織が行われていたという話を教えられる。
店では「とんとん、からー」という機織の音が響いているのが守人の耳には聞こえてくる。
それは古民家が過去の記憶を再生しているかのようだ。

その古民家の特徴的な柱から、古民家に住んでいた「マスミ」という名の女性の子孫と古民家の縁をつなぐことができた。
蕎麦屋の閉店と共に取り壊しが決まっていた古民家だったが、気にかけていたマスミが何年も前にその一生を終えたこと、その子孫に会えたことで満足したようだ。
「イエ、ナクナル。デモ、イイ。モウ、タクサン、ミタ。モウ、カエル」という古民家の台詞に胸が締め付けられる。

月光荘に出てくる古い家の話を読んでいて思い出すのは祖父母の住んでいた家だ。
古い農家で中庭があって半地下には竈や五右衛門風呂にポンプ式の井戸があり、お米が入った大きな収納庫や台所、木の階段を上がると畳の部屋と水田が見下ろせる縁側、すりガラスの木の扉。
夏休みに何度か訪れただけだが、今でもガラスの模様まで目に浮かんでくるくらいはっきりと思い出せる。
その後改修したりもしたが、今ではもう取り壊されて近代風の家が建っているのだろう。
祖母を亡くし祖父が施設に入ってしまうことになった田辺が祖父母の家に執着する気持ちが自分に重なっていく。

消えていく家があり、形を変えて残る家があり。
そんな姿を形にしようと、守人はカイコの吐く糸に人の一生を読み取ることができる娘を主人公にした小説を書き上げた。
儚い糸でも織れば布になり、周りと繋がっていくことができる。
そろそろ紙屋も川越にやってくるだろうし、川越ワールドの今後が楽しみだ。

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ローマとパルティア 二大帝国の激突三百年史

ローマとパルティア 二大帝国の激突三百年史

2024/02/18 00:43

二大帝国の激闘

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古代ローマ帝国、それは地中海世界を支配した巨大な帝国だった。
そしてパルティア帝国、それは西アジアを支配した古い歴史と高い文化を持つ帝国だった。
この両者がユーフラテス川を挟んで睨み合い、時に互いに領土を侵略しながら戦い続けた三百年の歴史を追っていきます。

表紙になっている左側はパルティア人戦士の像ですが、右の一目でローマ人とわかる人物は誰だろうと見てみたらクラッススだった。
イタリアの都市国家として始まり拡大し続けていったローマ帝国が小アジアに進出してきて、セレウコス朝崩壊後の支配権をめぐってパルティアと対立するようになったのはスッラがアルメニア王国との争いに巻き込まれていた時だった。
この時スッラとパルティアはユーフラテス川を境界線とした友好条約を結んでおり、パルティアの方ではローマとの平和的な関係を望んでいたようである。

この平和の均衡が破られたのが三巨頭制時の一画であるクラッススのパルティア遠征だった。
大軍に有能な副将もつけて送り出せば勝ってくるだろうというカエサルとポンペイウスの予想に反してクラッススは大敗を喫し、カルラエの戦いでローマの五万の軍勢が一万のパルティア騎兵に打ち破られたのだった。
このパルティア戦でクラッススが戦死したことがカエサルと元老院の間の内乱へと発展していくのはローマでの話だが、パルティアとの激闘史が幕を開けたのもこの戦いである。

この後アントニウス、アウグストゥス、ネロ配下の名将コルブロ、トラヤヌス、セプティミウス・セウルスとカラカラといったローマの支配者とパルティアの戦いや外交について詳しく見ていきます。
直接戦うこともあればアルメニアやメソポタミアの小国の王位を巡って代理戦争をすることもあり、外交によって平和を贖うこともあった。
ローマの方がより積極的にアジアの支配を進めたがっていたように見えるが、パルティアの方でも内部の勢力争いにローマを利用しようとしてみたり、ローマが弱体化したかのように見えれば侵略してみたりとお互いに常に機会を狙っていたようだ。

著者はこのローマとパルティアの関係をアメリカのイラク戦争と結び付けて考察しているが、ローマの支配欲が両者の関係を決定していた。
ローマが境界であったユーフラテス川を越えて軍事行動を行ったのは、勝利者となりたいという欲求でありローマが最強の帝国であることを証明するためだった。
凱旋将軍としての栄光のためにクラッススはパルティアへ軍を進め、カルラエの戦いで大敗したことがローマを繰り返し東方へ進軍させる理由となった。
そしてパルティアの方でも繰り返されるローマとの戦いが国を疲弊させ、ササン朝ペルシャにとってかわられる原因のひとつになっていた。
両国の歴史をわかりやすくまとめてあり、興味深い本だった。

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シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪

シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪

2024/02/18 00:42

邪悪な神々

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ホームズとクトゥルー神話が融合したパスティーシュの第二弾です。
前作ではホームズとワトソンの出会いとロンドンのシャドウェルで次々に起こる殺人事件、そしてそこに現れる恐怖の影が登場しました。
そこから十五年たち、四十を少し超えたホームズはかわらず古い神々のもたらす悪と戦っていた。

今回の物語はロンドンの精神病院である王立ベスレム病院、通称ベドラムから始まります。
そこに数日前にパークフリートを全裸で徘徊していた傷だらけの男が収容されているとグレグスン警部から教えられ、ホームズとワトソンは件の患者に面会するためベドラムを訪れる。
完全に廃人となったその若い男には左手がなく、火傷のあとなのか顔の左半分が崩れていて見るも無残な姿だった。
だが壁に書きつけられた文字が古い神々の言葉であるルルイエ語であることを見て取ったホームズは、患者からどうにか言葉を引き出そうとするも失敗する。
それでも男の言葉遣いからボストンの上流階級ブラーミンに属していること、手に残る化学火傷のあとから何らかの研究をしていた人物であろうことを読み取ります。

何者かに襲われてベドラムから連れ出された左手がない男の行方を追ううちに、男がザカライア・コンロイという名でマサチューセッツ州ミスカトニック大学がその男の母校であることがわかってくる。
そしてドイルの聖典のようにコンロイの手記が挿入されているところもパスティーシュらしくて面白い。
その手記ではコンロイが脳から抽出した物質を他の生物に投与することで、脳から脳へと意識と記憶を移すことができる実験に成功したことが描かれていた。
その方法でサルにオウムの脳を移植してみたり、犬の心を持つ猫を作り出していた。
「猫は猫だから猫である」と思わなくもないが、コンロイの学友だったネイトのようにそこにビジネスチャンスを見出すものもあり。

ネイトに誘われて謎の生物を捕獲する船旅に出たコンロイはその旅で奇禍にあい左手を失うことになる。
その事件の始末をつけるべくロンドンまでやってきて行ったことはホームズでも手出しができない計画だった。
ベイカーストリートイレギュラーズの正体は浮浪児ではなくトカゲ人間だったという話や、実際にはおどろおどろしい真実を脚色してワトソンが作品を書き上げていったことになっていて面白い。
クトゥルーとホームズの融合を楽しめました。

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日本の酒

日本の酒

2024/02/18 00:38

米と麹と酵母

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「古い文明は必ず美酒を持つ」というのが著者の持論のようですが、発酵、醸造に関する研究では世界的権威の一人で、「酒の博士」として知られた学者が日本酒について語っています。
もちろんどこの地酒がうまいとかいう話ではなく、日本酒の作り方や歴史についての話でした。
あとがきの日付が1964年なので、半世紀前と今では違う部分もあるだろうが日本酒造りを微生物学的に見るというのが面白い。
日本酒は水が重要で、海外で作っても同じ味にはならないというのは何かで聞いたことがある。
だが日本酒を作る時の麹や酵母の働きを詳しく見ていくと、微生物学的にも日本独自の酒になると思いました。

まずは日本酒の基礎として、甘口と辛口があることやごく味や雑味、ピンといった日本酒の味の表現と匂いについて解説してあります。
昔は伏見と灘の酒が有名だったそうで、確かに黄桜や菊正宗といえばどこでも買える日本酒だ。
乱世では甘口の酒が、太平の世では辛口の酒が好まれるという説もあるそうですが、これは甘口の方が少量で満足できるということから出た説らしい。
中国では老酒という熟成させた古酒が珍重されるが、日本ではこの熟成香は好まれず果実のような香りの吟醸香が尊重されている。
昔は極端に精白した米を使って低温で醸造したり特別な酵母を使って作り出していたが、化学で正バレリアン酸やカプロン酸とアルコールの化合したエステルが香りのもとになっていることが発見されてそれらの物質を添加することもあったとか。

品評会や酒税法にも触れながら酒造りの歴史が語られて、最後に麹菌の秘密に迫ります。
麹菌とは単一の菌株ではなく無数の変わり種を含む一大菌群で、変わり種同士で触れ合うと細胞膜がとけて繋がりお互いの内容物が混ざり合うことで一時的な菌株ができるという。
日本酒は米に麹菌を生やして米のデンプンを糖分に変換させ、次にこの糖分に酵母の働きで発酵させることでアルコールとなる。
火入れをすることで殺菌と熟成をしたり、乳酸菌を使うことで酵母以外の菌の繁殖を抑えたりと微生物を見ることもできなかった時代に確立した日本酒の作り方がどれだけ合理的だったかがよくわかる。
日本酒を飲むときは酒蔵での工夫や麹と酵母の働きに思いをはせてみようと思う。

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黒蜥蜴と怪人二十面相

黒蜥蜴と怪人二十面相

2024/02/18 00:34

妖艶な女怪盗

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乱歩の小説の中でも「黒蜥蜴」ほど有名なものはないだろう。
妖しい魅力の黒蜥蜴が映画に舞台に登場したからだろうが、小説でもナイトクラブで身にまとうのは光り輝く宝石だけという全裸で踊る姿を見せつける衝撃的な登場シーンだった。
幾人もの部下を持つ犯罪組織のボスという顔と、宝石愛好家という女性の顔、自分を「僕」といい男言葉で話しているかと思えば涙にくれる女性の顔も見せる。

ある宝石商が所蔵する「エジプトの星」と銘がつけられた貴重な宝石を盗む決意をした黒蜥蜴は、宝石そのものよりも手に入れるのがたやすい宝石商の娘に目を付けた。
予告状まで出して警察と宝石商に依頼を受けた名探偵の明智が守りを固める中で、緑川夫人という名で宝石商の顧客になっていた黒蜥蜴はまんまと娘を手に入れたかに見えた。
だが明智の方が一枚上手だったらしく無事に娘を取り戻すまでが第一ラウンド、第二ラウンドでは長椅子を使ったトリックで大胆にも厳重な警備の屋敷から娘をさらってしまった。

さらわれた娘のあとを追うように黒蜥蜴のアジトを見ていくが、自分の好きな芸術品を集めたと豪語するだけあって宝石や美術品が所狭しと並ぶ。
これだけなら女版怪盗ルパンなのだけど、なぜか美しい人間を剥製にして飾っておくという奇特な趣味まで持ち合わせていた。
明智との頭脳戦に敗れた黒蜥蜴ですが、去り際まで芝居がかった終わり方だった。

続いて登場するのは「怪人二十面相」です。
これも変装の名人とやはりルパンを思わせる。
しかも血を見るのが嫌いで狙うのは美術品というところまで設定が全く同じ。
ホームズならぬ明智と、明智の弟子の小林少年が二十面相に挑みます。

二十面相もまた予告状を出して盗みに入るのだけど、予告状によって普段よりも警備に力を入れようとした結果盗難にあってしまうのは物語だからだろうか。
個人宅の宝石、個人所蔵の古美術、そして美術館の仏像と幅広く触手を伸ばす二十面相だった。
老人から浮浪者、警官、美術館の館長、家出した息子となんにでも変装してしまう二十面相は名探偵にもなりすます。
これに対抗して明智も変装するが、罠には罠を、変装には変装をといったところでしょうか。
小林少年の伝書鳩と少年探偵団がなかなかいい味を出していました。

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アンダーアース・アンダーウォーター 地中・水中図絵

アンダーアース・アンダーウォーター 地中・水中図絵

2024/02/18 00:33

地球の不思議

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写真集のようなものかと思っていたら、巨大な絵本でした。
まずはアンダーアース、地面に穴を掘って生活する生物たちが紹介されています。
ネズミたちやアナウサギ、イタチやビーバーはよくわかるが、カワセミも洞穴に住んでいるとは知らなかった。
地下を生活の場にしている生きものとしてアリのように身近なものから、餌のミミズを求めてひたすらトンネルを掘るモグラ、アリと同じような巣穴を作って集団生活するハダカデバネズミ、まるで地下都市のような巨大な巣穴を掘るプレリードッグまでその生態は様々だ。
そして根菜類ですがが紹介されます。
意外と大きいコンニャクイモ、名前は知っているけど味は不明なキャッサバ、アンデス原産のオカやウユコ、オシロイバナもどんな味なのか気になります。

そして50メートル以上に及ぶこともある木の根や、人間が埋めたケーブルやパイプ、地下鉄や鉱山といった話が続く。
掘ると言えば遺跡発掘の話も出てきて、アルゼンチンの南端の方で見つかったティタノサウルス類のなかでも最大のドレッドノータス・シュラニの化石の話は興味深い。
洞窟探検もなかなか面白そうです。
深さが2000メートル以上あるというジョージアのクルーベラ洞窟が紹介されていた。
鉱物やマントル、火山の話を経て地球の中心で今度は海の話へ。

湖は地球上の淡水の1%を占めるだけだが、多くの生命の棲み処となっている。
残りの淡水は極地の氷河や万年雪だそうです。
そして地球上の水の97%は海水、地球が水の惑星と言われる所以だ。
サンゴ礁やブルーホールを見るためにも、ダイビングやフリーダイビング、潜水艦の話が続きます。

海の巨大生物としてシロナガスクジラとダイオウホオズキイカが出てくるが、どちらも大きなページに目だけが描かれていてその大きさを想像させるものになっているのが面白い。
そして水に潜る科学者たちとして、日本のしんかい6500も紹介されている。
深海の熱水噴出孔や「失われた都市」と呼ばれる石灰で作られた熱水噴出孔、そして様々な姿の深海生物が出てきます。
マリアナ海溝の底へディープシー・チャレンジャー号でもぐったジェームズ・キャメロンの話を読んだら海を舞台にしたアバターも見てみたくなった。

子供の頃に親に「道路の下って何があるの?」と聞いたことがあるが、その時に本書を読んでいたら進んだ道は違ったかもしれない。
本書を読んで海や地の底に興味を持つ子供たちが増えるといいなと思いました。

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盗まれた手紙

盗まれた手紙

2024/02/18 00:32

人間心理の話

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ポーは『黒猫』や『黄金虫』が有名です。
ボルヘスが選んだポーの短編は、やはり幻想的なものが多い。
表題作である「盗まれた手紙」は幻想というより心理戦だった。
ある大臣が高貴な夫人の手紙を盗み、それをネタに夫人を脅迫していた。
その手紙を取り返すように依頼された警視総監は、大臣の部屋を完璧に捜索したにもかかわらず問題の手紙を見つけることができなかった。
問題の手紙の捜索を依頼された名探偵デュパンは、一番目に付く場所が実は盲点だという推理のもとに見事手紙を発見する。
推理小説の元祖とも言うべき作品に敬意を表して収載されたのかもしれないが、人間の心理をついた小説でもあった。

「壜の中の手記」は難破して船に取り残された主人公が大波の恐怖に揺さぶられるだけのシーンで始まります。
そして巨大な波が来るが、その波に乗っている巨大な船があった。
偶然からその船に転がり込んだ主人公ですが、商船でもなけらば戦艦でもない不思議なその船には影のような船員の姿と外国語を話す主人公が見えないかのような船長が乗っていた。
船長の筆記具を拝借して手記を残す主人公ですが、巨大な船はすでにこの世のものではないかの雰囲気だ。
そして南極の大渦に飲み込まれていくのだが、次にその巨大な船を大海原で見かけたら主人公がやはり影のようになって乗り組んでいそうな話だった。

「ヴァルドマル氏の病症の真相」は死を目前にした病人に催眠術を施して、生きているのでも死んでいるのでもない状態に落とした話だった。
そして「群衆の人」は、町の中でただ大勢の人間に囲まれていることを求める老人の話だった。
過去に犯したであろう罪の刻印が顔に刻まれた老人を通して、都市に埋もれていく犯罪を目に見えない形で提示しているような話だ。

最後の「落とし穴と振り子」は、宗教審問に捕まった男の話だ。
真っ暗な地下牢に幽閉され、じわじわと精神を狂わせるような拷問が続く。
真っ暗な中で落とし穴に落ち込む罠を偶然避けることができたかと思えば、縛りつけられて天井から振り子のような凶器が徐々に降りてくるのを目にする。
どうにか縛られているところから脱したかと思ったら、今度は灼熱した壁が迫ってきて落とし穴に落ちるしかない状況に追い込まれていく。
死の恐怖を真正面から捉えた話だった。

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