Kayakさんのレビュー一覧
投稿者:Kayak
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トムは真夜中の庭で 新版
2003/02/16 02:24
活字を追う苦労を感じさせないエッセンス
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
カーネギー賞受賞作。ボストンの『グリ−ン・ノウ』」 シリーズや、ル=グインの『ゲド戦記』などと共に、「大人が読んでも楽しめる児童文学」として親しまれている作品。子どものころに愛読してた本の一つ。
いま、思い返してみると、この本が僕の最初の「読書」だったのだと思う。
それまでは、読書を楽しいと思ってはいても、考えさせられることや、感じ入ることはなかった。あったとしても、気づいてなかった。
内容は、人の夢の中に迷い込む、といったありがちなファンタジーなのだが、内在するテーマとして「時間の永遠性」といった難解な哲学を含んでいる。
哲学性という点においてはエンデの作品なども高い評価を受けてはいたが、ファンタジーであることを感じさせないリアリティにおいて、本書は他の追随を許さない。
いま、あらためて、こうしてページを捲ってみると、児童文学としては異常なほどに細密な描写がなされている。リアリティの強さの秘密はこの辺にあるのだろう。そして、小学生の僕はそれを苦もなく受けいれていた。これは、驚くべきことだと思う。
物語に現実性を持たせるには、イメージを固めさせるために、より多くの描写を必要とする。しかし、描写が増大すればするほど、児童文学としては二流三流へと堕落していく。
エンデは、哲学を注ぎ込む器を完全なるファンタジーの世界へと移し替えてしまうことにより、読者の意識を、あの大量の文章の読解よりも、想像力の方により傾けさせることに成功しているのだと僕は思う(つまり、情景を頭の中で想像するのに忙しく、文字を追うといった作業を感じる暇がないということ)。
しかし、この方法では、肝心の哲学の方が惚けてしまい、結局は「大人でも楽しめる」裏を返せば、「子どもには読み取りにくい」作品になることが多いはずである。
これに対して、ピアスは、まったくの現代(発表当時の1950年代)にその焦点を当てて、物語を展開している。そのために、リアリティと哲学性において、前述の手法をはるかにしのぐ効果を手にしているのだ。
しかし、読むことが苦痛には感じない。今になって、読み返して見て、少しだけその秘密がわかった気がする。
彼女の作品は「少しだけ恐い」のだ。本全体にある種の恐怖感が漂っている。意識してのものなのかは定かではないが、このちょうどいい恐怖感が細かい描写に対する緩和剤として有効に働いている。
もう一つ二つ彼女の作品を読み返して見ようと思う。もっともっと面白い発見が潜んでいるかもしれないから。
アホウドリの糞でできた国 ナウル共和国物語
2005/01/17 11:56
出版業界人にこそ読んでほしい、企画本
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これは、久々のヒット、と思える面白い本。
実際に存在するナウルという国の物語で、資源依存国の隆盛とその資源が枯渇してしまった現在までを描いた絵本。
ちなみにこの本、元ネタは適宜更新というブログの記事。
最近良く見られる「webで面白かったテキストを本にする」というパターンなんだけれども、絵本仕立てにしてみたり、『大人たばこ養成講座』の寄藤文平氏によるこれ以外には考えられない!って言い切れるぐらいマッチしたイラストと組み合わせてみたり、きちんと自社の本としての「編集力」を効かせてるところには、一人の本好きとして賛辞を贈りたい。
原文も勿論ものすごく面白いんだけど、ちゃんと、「本」をほしがっている人に届ける資格を持った本だと思う。
テキストを編集してこそ出版社でしょう。作家の書いたものをそのまま垂れ流すなら、出版社要らないもの。このご時勢なら。
そういう意味では、出版業界の人にこそ読んでほしい本かもしれない。
中身に関してまじめな話をすると、資源の枯渇で荒廃したとは言え、王族とか一部がその資源を占有するんじゃなくて、「国民で分配」ということを実行できていたという事実には驚愕。
もちろん、やり方がまずかったりはしてるんだけど、それを差し引いても、その過去はある意味理想郷に等しい。
なあんだ。豊かな国でやるなら共産主義って大丈夫だったんじゃん。
とか言ってみたりして。
神様のパズル
2003/06/17 00:34
枝葉と幹のバランス
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第三回小松左京賞受賞のこの作品は、とにかくテーマが命の小説だ。
「宇宙は“無”から生まれたー」「なら、人間にも作れるんですか? 無ならそこらじゅうにあるー」
「宇宙創造」というテーマをめぐる「物理」な物語。むつかしい理論を僕たちの手の届くところにおいておいてくれる著者の姿勢はまず見事。
大学のゼミを中心におくことで、ちょうどいいレベルでの物理論が展開される。主人公にあまり頭のよくない生徒を置き、その日記の中で物語を展開することで、著者のその目論見を完全に成功させている。
だが、その物理の部分を簡潔にしてしまったせいで、物語を長編一本で展開するには多少苦しいのか、余計な枝葉で物語が間延びしてしまっている。
もちろん、テーマに焦点をあてすぎると、小説としては面白みを書いてしまうジレンマがあっての選択なのであろうが、いっそのこと、短編ないしは中篇で、テーマの部分のみで完結させてしまったほうがよかったのかもしれない。
ブルボンの封印 上巻
2003/02/16 16:11
藤本ひとみを読むのはバクチに似ている
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ルイ王朝を舞台にする歴史ロマン。
込み入った西洋王家の隙間を見事に駆け抜ける。
藤本ひとみの小説の面白さは、物語の対照となる場所の精巧な縮図を体感できる点に集約される。
当時の風習や情勢を、旨く読者に感じさせる。精巧とは云い難くも、「さわりだけ」といったバランスのよさが物語を妨げず、かつ、物語にリアリティを生む。
実際のところ広げる風呂敷が大きすぎるきらいはあるのだが、それははじめからのお約束として受け入れることができれば、あとは終盤まで一直線で読みきれる筆力におまかせ。
この「ブルボンの封印」では、一組の特殊な生い立ちの男女の旅立ちから、ルイ14世時のフランスとイギリス、果ては鉄化面にまで及ぶ壮大な物語が展開される。
「んなあほな」と思うのか、「いやはやお見事」と感心するのかはあなた次第。
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