あきさんのレビュー一覧
投稿者:あき
東の海神西の滄海
2001/09/15 12:55
国を治めるということ…
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
十二国記シリーズの第三作目です。十二国のなかでも、2番目の長い期間、国を統治している延王と、その国の麒麟である延麒が、まだ、国を統治し始めて間もない頃の話です。
雁国は王が不在の期間が長く、国は荒れ果てていました。今回、王に選ばれたのは、異世界である日本からやってきた青年。国のことなど考えてもなさそうな様子に臣下のものたちは業を煮やし、なかには快く思わないものもおりました。そんな中、延麒になつかしい友人が訪ねてきます。しかし、それは巧妙に仕組まれた罠でした…。
十二の国の中で、私が最も好きなのがこの作品の舞台になる「雁」です。一見、無責任に思えながらも国民に誰よりも思いを寄せている雁の王、延王と、ぶっきらぼうな、少年のような態度をとりつつも、実は思慮深い麒麟、延麒。麒麟は、血を嫌い、万が一体に浴びるようなことになると病気になってしまう存在なのですが、その麒麟が罠にはまってしまい、反乱分子に軟禁されてしまうのですね。
国にとっても不可欠な存在なので、王が心配するのは当然…のはずなのですが、どうもそんな感じには見受けられない様子に、臣下が「なんたる阿呆だ」と嘆くのです。でもね、そんなわけないじゃないですか。この、王なりの心配の仕方というのが、非常に印象的でした。国を守る為には多少の流血も止むを得ないという考えが多い王の中でも、この延王は特別で「ひとり死ぬ度に、俺の肉がはがされるのだ」というんですね。これにヤラれました。勿論、延麒も負けず劣らずの、とても魅力的なキャラクターです。
刊行された順で言うと3作目なのですが、時代背景では1番古いので、この作品から読むのも良いかもしれません。
風の万里黎明の空 上
2001/09/15 12:58
心はただひとつ…この国を救いたいという力が集まったとき
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十二国記シリーズ、第四作目です。「慶国」の王は若き女王。しかし、その若さもさることながら、先王の女王が無能だった為に、またも女王かと嘆く声が渦巻いていました。
そんな中、もっと市中の様子を知りたいと、王自らが下界へと赴いていきます。そして、そこで見たものは、想像を凌ぐ貧困と、先王から仕えている官吏たちの悪政でした。
身分を隠したまま、民の様子に愕然としている景王は、芳の国を追放された元皇女と、日本からこちらの世界に流されてきた少女とに出会います。若き女王を含めた三人の少女が、慶の国を救うべく立ち上がりますが…。
読後感爽快です! 特に景王と後々出会うことになる芳国の皇女が、ただのわがまま姫から聡明な少女に変わって行くさまは見所ですよ。年代の近い(←心だけは 笑)女性が活躍する為か、ものすごく感情移入して読んだ作品でした。
十二国記シリーズに出てくるキャラクターたちは、誰もがイキイキとしている印象を受けるのですが、この三人は更にそう感じました。
旅の終わりの音楽
2001/06/09 00:16
運命に翻弄される楽師たち
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あの、タイタニックの伝説の楽団が主人公ということで、興味津々、読んでみました。出てくる登場人物も、勿論、その生い立ちもフィクションですが、史実と重ね合わせたかのような見事な作品でした。
運命の船に乗り込むことになったメンバー。ある者は、遠く故郷を離れたいがために参加し、ある者は欠員の補充だったり、集められた理由もバラバラ、腕前もバラバラ、年齢もバラバラというメンバーたち。それぞれに夢を見、喜びを感じ、悲しみを味わいながら、その日を迎えるのですが…。
誰もが知っている悲劇の船、タイタニック。自分たちに課せられている仕事の先にあるものを知らずに彼らはまさに命をかけて演奏するのですが、そこに至るまでの、彼らが歩んできた人生にスポットを当てた作品です。とても切なく、叙情的な雰囲気のまま、最初から最後まですすんでいくのですが、グイグイ引き込まれていきました。そして、気付いたら泣いていました。
それぞれの人生の旅路の最後を思うと、途中から哀しくて哀しくて…。これから先、何度も読み返すであろう一冊になりました。
24人のビリー・ミリガン 上
2000/12/22 21:51
だれにでも有り得る心のなかの別人
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ダニエル・キイスの代表作の一つ。
24の人格が存在する「ウィリアム・スタンリー・ミリガン」という、実在する青年を取材して書き上げたノンフィクションです。
本のトップページに、それぞれの人格が書いた絵が掲載されていますが、ひとつひとつの絵のタッチが違うことから、とても一人の人間がかいたものには思えません。
やはり、本当に、別人格がいたということで納得してしまいます。
しかも、その人格は、年齢、出身、性別、はては操る言葉のなまりまでもが変るというのだから、驚きです。
幼い頃に精神的な虐待を受けると、その防御策のひとつとして、それらに耐えうる人格が形成されてしまうことが多いらしいのですが、例にもれず、ミリガンもその一人だったようです。
まだほんの幼い少年が、血のつながらない義父から受ける性的虐待。それにより形成された多数の人格。長い間、目覚めることのなかった本人格。
たった一つの体のなかに、24人もが同居している、ちょっと考えもつかないような現実が確かにあったのでしょう。
この作品は、『ビリー・ミリガンと23の棺』という続巻があり、それぞれ上下巻ずつ4部で完結しています。
最初は、ちょっと長いかな〜とも思いましたが、一気によみあげてしまいました。
なくなることのない幼児虐待。虐待されたことによりできてしまった人格が起こす事件。
そして、その被害にあってしまった若い女性。
ひとつの歪みから起きるめぐってしまう悲劇と、その困難に立ち向かうドキュメントが書かれていました。
シュトルーデルを焼きながら
2001/09/15 13:11
一世紀に渡る家族の物語
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ユダヤの伝統的なお菓子「シュトルーデル」。生地を薄く薄く伸ばし、巻き上げて作る焼き菓子にはお話が欠かせません。お話を生地の間に練りこみ、挟むことでお菓子はより甘くなり、一層美味しくなります。一世紀に渡る家族のお話が語られ始めます…。
「サラ母さん」「バーティー大おばさん」「ウイリーおじいちゃん」と、語り手と時代を変えて語られる物語は、どれもホッとできる暖かいもの。そして、ユダヤ人であるが為に受けた差別や虐殺にも触れられていて、話に深みと重みを加えています。
さすがに一世紀に渡る話だけに、登場人物がちょっと複雑に絡んでいて、関係がわからなくなることもありました。終わりの方で家系図が出てくるのですが、「ああ、この人はこういうつながりだったのか〜」などと、後からうなづいたことも…。また、その家系図には、ホロコーストで亡くなられている方の名前も入っていて、ユダヤ人であるというだけで受けた悲劇を思い、胸を衝かれます。
この本は、児童書として刊行されていて200ページに大きめの文字で、振り仮名がついているため、大変読みやすいです。かと言って、決して軽いのではなく、非常に感慨深い点も随所にあり、大人も充分読み応えがある作品だと思います。
華胥の幽夢
2001/09/15 13:09
あの国は?あの人物は??十二国記ファン必見
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十二国記シリーズの番外編です。5作品の短編集です。これまでのシリーズに出てきた王や麒麟たちのそれぞれの話です。本編に劣らず、とても面白かったですよ。
また、本編にはあまり出てこない、才国の麒麟、采麟や、漣国の王、廉王、奏国の宋王が出てきます。そしてそして、本編「図南の翼」では謎めいた存在の「利広」の驚くべき正体が…!! この作品以外のものは、シリーズとはいえ、その作品ごとに説明があるので独立して読んでも違和感があまりなさそうですが、こればかりは全てを読んだ後でなければ面白さが半減しそうな作品です。
けれど逆に、これまでのシリーズを全て読まれた方ならば、必読ともいえる短編集です。
図南の翼
2001/09/15 13:00
単純に楽しめた十二国記
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いつでも明るく、前向きな珠晶にのせられ、ぐいぐいページが進んでいきました。スピード感でいったら、十二国記シリーズで一番ではないでしょうか?
珠晶の聡明さには非常に好感を持てたし、「大人が逢山へ向かっても王に選ばれないのなら、子供の私が行くべきだ」という持論は読んでいて気持ちが良かったです。今までのような、人間のドロドロした部分があまりなかった分、単純に楽しんで読めた作品でした。
また、この珠晶は、これまでに登場してきたキャラとは少し違った印象がありました。単純なようで計算高く、その割には人への暖かさもあるのにそれを見せることはあまりせず、それがあくまでも自然体。最初は、鼻っ柱の強いだけの女の子なのかと思っていたので、十二国記で初のハズレかと思ったんです。ところが、それは全く良い方に裏切られました。
しかし…これだけハズレがないシリーズっていうのもすごいな〜と改めて実感です。
風の海迷宮の岸
2001/09/15 12:53
ジワ〜っとする感動を…
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十二国記シリーズの第二作目です。日本のとある家庭で暮らす少年。ある日、彼は折檻されて寒い蔵に押し込められました。その時、ひらひらと揺れる白い手を見つけます。その手の方に近づいていくと、どこか異世界へと導かれてしまいます。
しかし、その異世界こそが、本来自分がいるべき場所、生まれ故郷だと知り、少年は驚きます。しかも自分は、天からの意思「天啓」に従い、国の「王」を決める「麒麟」であると聞かされるのです。「麒麟」とは、慈悲のみの存在で、人ではあらず、人の形にもなれる神獣。そして、唯一王を選べる、いわば、国の守り神的存在であると知ります。
まだこちらの世界のことを何も知らない、この幼い少年も「戴国」の王を選ばなければならないと言われます。その大役に不安を感じますが、容赦なくその日はやってきます…。
前回の「月の影 影の海」とは変わって、とても穏やかな気持ちで読めた作品でした。けれども、そこは小野不由美。しっかりハラハラドキドキする場面もふんだんにあります。
十二国記は、どの作品も好きなのですが、これは特に気に入りました。まだ幼い少年(泰麒といいます)が可愛いんですよ! もともと「慈悲の生き物」なので、優しいのは当然なのですが、なんかね、とっても良い子なんです。折檻を受けても、それを強いている人を恨まず、気が滅入るような嫌なことがあっても前向きで。そして、痛々しいんですよ。
日本で暮らしている時に受けた折檻が理由で、自分は何もできない小さい存在なのではないかと思い悩むんです。なんだか、胸をつかれるような主人公で、読み終わったときにはジワ〜ッと暖かいものが広がりました。
りかさん
2001/06/09 00:31
歴史ある人形が語る切ない物語
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お人形というのは、思いが強く入るものだと昔から良く言われていますが、この作品に出てくるお人形もそういうものばかり。古いお人形であればある程、何人もの手を渡り、思い出も多く、お人形が語る話も重いものばかり。しかも、どれもみな切なくて、ちょっと寂しいもの…。
相手がお人形なので、一部ホラーチックな感もありますが、実に深い内容の本だと思いました。特に、親善大使として遠い地から渡ってきたママードールの話は格別でした。戦争の悲劇に巻き込まれてしまったママードール。おそらく、本当にこういう話はあったんじゃないかなと思うと、哀しくて寂しくて…。
幼い頃、私が持っていたお人形達は幸せだったのかな…。そんなことを思わず考えなくてはいられない作品でした。
ぼくを探しに 新装版
2001/06/09 00:25
だれもが探す−たりないかけら−
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あまりにも有名な絵本です。丸いはずの「僕」が、かけている一部分を探して旅をする話です。1ページにごく僅かな文章しかなく、絵も「丸」「三角」「四角」「線」のみで表現されていて、非常に簡単な本です。だけど、すごくすごく、心の深いところまでひびく絵本です。
足りないかけらは、誰もが探しているもの。それは、コンプレックスであったり、トラウマであったり、傷を癒すものであったり…。そう簡単にはみつからない−ぼくのかけら−。けれど、ひょっとしたら−かけらがないからこそぼくなのかもしれない−。
読後、色々と考えさせられてしまった本でした。また、絵本を読みながら、はじめて泣いたという、私にとっては宝物のような作品です。
ハードボイルド/ハードラック
2002/05/28 09:13
切なさ満点
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ハードボイルドと、ハードラックという二作品が収められています。
まずは、ハードボイルドから…。
千鶴は、主人公の女性に恋愛感情を抱いており、また、主人公は、ただ、宿が欲しくて彼女の気持ちに応えるフリをして同棲していた。ある日、部屋を出ることを決めた主人公だが、その当日は千鶴ともなんだか分かれがたく、二人でドライブに出かける。ところが千鶴は「あなたが出ていくところを見たくない」と、ドライブ途中の車から、山奥にも関わらず降りてしまう。それからしばらく時間が経過し、千鶴とも連絡をとっていない主人公だが、ある日、一人旅で寄った宿で奇妙な夜を過ごす事となり…。
相変わらず、切なさ満点。もう、心に染み入ること染み入ること…。吉本ばななの作品って、際立って劇的なストーリーではないけれど、印象にはしっかりと残りませんか? 「これは女性にしか書けないだろう」という心情を、本当に絶妙に書ける作家だと思うんですよ。今回読んだこの話も、主人公が千鶴に別れ際に言われた「ハードボイルドに生きてね」という言葉を思い返していく様子が「この感覚、分かるな〜」と、感情移入していき、今こうして感想を書いていても、その感覚が蘇ってきます。
ああ、上手に感想を書けない自分がもどかしい…。
また、もう一作の「ハードラック」は、事故にあい、脳死の状態で人工的に心臓を動かしている姉と、その婚約者の兄に心ひかれていく妹の話です。姉は意識を戻すことは二度となく、あとは家族が、いつ覚悟を決めて、姉の心臓を止めるのか…という決断をするのみという、ズシンとした重い内容の話でした。
ハードボイルドよりも、こちらのハードラックの方が、私の心に強く残りました。誰も、自分のかけがえのない人の「命」はここまでだと決めたいわけがない。でも、それを決めなければならない時があるのかもしれない…。苦しくて哀しい話でした。
百器徒然袋−雨
2002/05/28 09:08
まさか、この人の作品で笑えるなんて
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京極堂シリーズの人気者、探偵・榎木津が主役の短編小説集です。3本の中篇が収められています。
電車の中で読んだときには大変でした。何がというと…笑いをこらえるのが! まさか、京極作品で、これほど笑いを誘うものがあろうとは思ってもみませんでした。
この作品は、これまで京極堂シリーズの一味(?)ではなかった一人の青年が、冒頭の話で榎木津と知り合い、彼に惹かれて全編通して出てくるので、榎木津とこの青年のダブルキャストになるのでしょうか? 本シリーズの主役、京極堂はもとより、関口や木場は完全に脇役です(けれども、京極堂は相変わらず美味しいところをもっていきます) 。
この一冊で、京極夏彦のイメージが、確実に大きく変わりました。
…って、偉そうに言えるほど、まだそんなに京極作品を読んでいないのですが、とにかく、びっくりしました。ストーリーのテンポが早いし、榎木津の破天荒さは、ほとんどギャグです。しかしそれでも、ギャクのノリのみならず、ストーリーがしっかりしているところはさすが。実に読ませてくれる、暖かい気持ちになれるような話もありました。
これは、単純に楽しめるので、多くの方にお薦めしたいのですが、話の内容が、京極堂シリーズを読んでなければ分からないところもあるので、やっぱりシリーズが先かも…。もし、京極堂シリーズを読んでいて、こちらは未読という方がいたら読んでみてください!
三月は深き紅の淵を
2002/05/28 09:02
謎のルールが謎を呼ぶ
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これは、鍵となる本「三月は深き紅の淵を」をめぐる連作短編集で、4作品が収まっています。
それぞれの作品は、主人公となる人物も、その人物への本の関わり方も違い、各作品、独立した話になっています。けれども「作者は明かすな・一人につき一晩のみの貸し出し・コピーは厳禁」などという本につけられた条件は一貫しており、それによりまとまりがついています。
一作ずつ、本当に読み応えがありました。本を巡る謎解きもさることながら、一作ずつ完全に独立しているうえに、まったく雰囲気の違う話が織り交ぜてあるので「まさに一冊で4度美味しい」本でした。
数冊、恩田陸さんの本は読みましたが、長編よりも、このぐらいの中篇小説の方が、特に面白く感じます。
黒祠の島
2002/05/28 08:57
ただの怖がらせホラーではありませんよ
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明治政府は、神道を崇敬する対象とすることを国民に義務付けた。これにより、全国の神社は国家の定めた様式に統一されたが、なかには統一されない神社もあった。これらの神社を称して「黒祠」といい、邪教とされた。
主人公は、ライターや作家の依頼を受けて取材を請け負う式部という調査員の男性。式部が担当している作家、葛木志保は、ノンフィクション作家として好評価を得ていた。しかし彼女は、式部に自宅の鍵を預けて忽然と失踪してしまう。彼女の行方をさがすうちにたどりついたのは、黒祠の島、夜叉島だった…。
小野不由美といえば、ファンタジーというイメージがありますが、この作品はファンタジーのファの字もなく、背筋が寒くなるようなミステリー・ホラーです。毎度の事とはいえ、その設定の奇想さ、不気味さにはあっという間に引き込まれました。
余所者には決して心を開かない夜叉島の人々。単身乗り込んだは良いが、連続殺人事件が起きても、誰も本当のことを話そうとせず、孤立無援に…。こういう描写がいちいち不気味さと不思議さと怖さに溢れていました。
閉ざされた島に残るのは根が深い暗い因習。島は風車と風鈴に溢れていて、黒祠の神の供養の為に、海の牛を流す。背がゾーッとするようなエピソードが満載です。
私はホラーが苦手ですが、それはあくまでもただの怖がらせホラーの場合。この話は、そういう意味では読み応え充分!! 中身が詰まったミステリーホラーを読みたい方に大推薦の一冊です。
グリーン・マイル
2002/05/28 08:52
ありきたりの言葉では語れない程の感動
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双子の少女を強姦した挙句、殺害したコーフィーが、主人公のポールが看守を務める刑務所に、死刑囚として入所してきます。しかし、どうもその様子は、その罪状に似合うような凶悪犯のものではなく、このコーフィに接しているうちに、おおよそ刑務官としては、似つかわしくない感情を持つようになってきたポールと数人の看守たちは、ある時、信じられないような奇跡を目にします。
人の心が生む憎しみ、慈しみ、愛情、悲しみ、怒り、蔑み、喜び…。他人が思うそれらの感情が、自然に自分の心に流れ込んできてしまうコーフィは、知りたくもない感情を知りながら、誰の毒にもならず、ただ純粋に、良心を持ち続けます。最後に自分を待つのは、冷たい電気イスだと分かりながらも、憎しみの一つも残そうとしないコーフィが発した言葉「疲れたんだ」は重かったです。そして、なんとかコーフィを、電気イスから助けたいと願っても、無力でしかないポールと仲間の看守たちの心情が痛い…。
ありきたりの言葉しか思い起こせない私が、これ以上感想を書くのは無駄なことかと思う程の名作です。どうしようもないぐらいに泣きました。これまで幾冊の本で涙を流してきましたが、これがたぶん一番です。
全六巻、決して長いと感じる量ではありませんでした。一気に読めます。イチオシ!