ごろんちょさんのレビュー一覧
投稿者:ごろんちょ
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しゃべれどもしゃべれども
2001/03/19 07:56
頑張るみんなの姿が心地よい
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緊迫のミステリーでも何でもないのに、読み始めたが最後、登場する五人の人物たちの行方が気になって、ラストまで目が離せなくなりました。
皆なにかに迷い、傷つき、自信を失っている。それは純文学にありがちなテーマなんですが、この物語ではそれらを堅苦しく捕らえることはせずに、ある時は軽妙に、またある時はしんみりと、そうしてある時は感動をもってして、絶妙のバランスで物語が進められていきます。
爽やかな読後感には、思わず「よし、私も頑張ろう!」なんて思ってしまったほどです。
椰子・椰子
2001/07/26 10:50
目の前で繰り広げられる摩訶不思議な世界
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いやあ、それにしても妙。妙すぎて何だか気持ちのいい小説。川上弘美の小説というのは、えも言われぬ独特の雰囲気があって、パスカル短編文学賞を受賞したころから注目をしている作家さんなのだけれども、この作品中の雰囲気といったら、幻想的なんて生やさしい言葉では表し切れないくらいだ。
作者自身「あとがきのような対談」で、もともとは夢日記から始まった作品で、半分くらいは実際の夢を元に描いていると言っている通り、作中に登場する人物たちも小物も状況設定も、何もかもがとってもシュール。主人公が「一緒に冬眠させた子供たちが、二倍の大きさにふくらんでいる。湿度の関係か?」などと、よくよく考えたら(考えなくても(^^;))ギョッとしてしまうような状況も、淡々とした日常生活の一こまとして表現されて行く。
そうして物語を読み進めるうちに、やがて読み手は作者の術中にはまり「ああ、そんなこともあるかもしれないなぁ」と何とはなしに納得してしまう。恐らくは私たち自身、自分の夢の中では、何度となくこの物語にあるような不条理な場面に出くわしているものだから「上座にパンダが一匹いるのが、どうしても解せない」などと唐突に言われても、そうだよね、うんうん、と納得してしまうのだろう。幻想的と言えば、小川洋子の描く作品も幻想的ではあるが、それは練りに練って作り出されたガラス細工のように繊細な世界であるのに対して、川上弘美の描く世界はもっと根元的な、DNAの記憶に迫るかのような骨太の幻想性が満ち満ちているのである。
それでも下手な作家が描いたならば、読むに耐えないくだらない世界になってしまうのだろうけれども、不可思議なりにきっちりとまとめ上げているあたり、さすがは彼女の力量のなせるわざだと、私などは心底感心してしまう。勇気が出たり、感動したりする作品ではないけれど、この心地よい幻惑感は一読の価値あり。
蒲生邸事件
2001/03/19 07:50
単なるSFにあらず
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文庫として発売されるとほぼ同時に買ってあったのですが、手に取るまでにずいぶんと時間がかかってしまいました。この作品は、時間旅行者が登場するために「SFミステリー」といった言われ方をすることがあるのですが、元々SFがあまり好きでない私は、この部分で躊躇してしまっていたのです。
それでも、読み始めてみれば何のことはない。確かに時を遡るのだからその部分ではSFだし、蒲生大将の死因を云々する部分は、ミステリーとも言えるでしょう。しかしこの作品は、そういうカテゴリーを突き抜けてしまった、もっと良質の小説だということを知りました。
宮部みゆきの物語構成力や文章力の素晴らしさは前々から知ってはいました。けれども「歴史」という大きなものを取り扱ったにもかかわらず、それらが最後まで破綻することなくきっちりとひとつに収束している様は、まさに圧巻でした。ラストシーンは涙なしには読めないですし、読み終えた後は、しばらくぼーっとしてしまうほど。
生きることの意味、人生の大切さ、懸命に前を向いて歩いて行くことは時として辛いけれど、それに立ち向かって行く勇気……。そういった諸々のことが(本文中で押しつけがましく書かれているわけではないのに)ふと頭の中を過ぎったりもしました。こういう作品を読んでしまうと、純文学なんてもういらないなぁ、なんてついつい思ってしまいます。
定年ゴジラ
2001/03/19 07:48
夢は叶ったのか
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定年退職をしたものの、その先の人生を見つけられずに、宙ぶらりんな心持ちの主人公たち。35年ローンを組んでやっとの思いで手に入れた我が家は、終の棲家でありえるのか。滑稽とも言える軽快なテンポで描かれて行く彼らの姿は、それゆえにそこはかとない哀しさを醸し出しています。
惜しむらくは、山崎さんの奥さんがやや紋切り型だったこと。家庭の主婦にだって、それなりに悩みや苦労はあるものですが、山崎さんの奥さんにはそういったところは全く見あたりませんでした。大地のような包容力を持つ、完全無欠の女性……、まあ、男性諸氏の理想像なのでしょう。
それはさておき。「夢は叶ったのか」。そう自問自答する山崎さんの姿には、思わずこちらの胸までが熱くなりました。
自分の人生をふと振り返りたくなった時、ほんのちょっぴり弱気の虫が頭をもたげた時、自分のいるべき場所はここではないんじゃないかと思った時……。この本をぜひ手にとってみて下さい。流行のビジネス書のように、大きな活字の簡単明瞭な答えは提示されていませんが、じわじわと効いて来ること間違いなしです。
ぼくたちは、銀行を作った。 ソニー銀行インサイド・ストーリー
2001/07/23 10:07
とぼけた味わい
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1万4000人が購読したメルマガ「はじめての銀行のつくりかた」を一冊の本にまとめたもの。たった3人ではじめたプロジェクトが「ソニー銀行」として実を結ぶまでの様子が、軽妙な文章で綴られている。
けれども、これからネットビジネスをはじめようとしている人たちの参考になるとか、ソニー銀行の経営方針が書き記されているとか、いわゆるビジネス書にありがちな内容の本ではない。
メルマガから誕生した本というだけのことあって、全編とぼけたおかしさに包まれている。脱力系というか、ほのぼの系というか、とにかく「不景気」「デフレ」「失業」などの、暗いニュースばかりが飛び交う昨今にあって、ふっと肩の力が抜けるようなそんな内容である。
だからこそ、読んでいて楽しい。私は本を読んで笑うということはあまりないのだけれども、この本ばかりは「ぐふふふ」と笑ってしまう個所がいくつもあった。大きな文字でイラスト満載。気軽に楽しく読める本である。
六番目の小夜子
2001/03/19 07:52
良質の学園ドラマでもある
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NHKでドラマ化された時は、ホラーとミステリー部分ばかりが強調されていたようですが、原作を読むとそれに付け加えて、学園ドラマ的要素が色濃く流れているのがわかります。
作者がどこまで意図していたかはわかりませんが、学校に伝わるミステリアスなゲーム展開に緊迫感を覚える一方で、自分自身の高校時代を回想しなくてはいられないようなノスタルジックな雰囲気が、そこここに顔を覗かせています。
大学受験を控えた主人公たちの、刹那的とも言える日々の積み重ね。淡い恋心。心に染みる卒業式。そして何よりも、脳裡にこびりついて離れないほどの強烈な印象をもたらしたあの学園祭のシーン。
夜遅くまで文化祭の準備に明け暮れた高校時代。年に一度の文化祭には、いつもと違う何かが起こるような気がして、訳もなくそわそわしたり。必ず終わりが来ることを知りながらも、そんなことなど気付かないふりをして、必要以上にはしゃいで見せたあの頃。そんな経験のある人ならば、きっとこの物語の良さがわかると思います。
すいかの匂い
2000/12/16 07:55
幼い頃の残酷な記憶
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江國香織の作品は、どれもこれも平均点以上なので、読む本がなくなって来るとついつい手にとってしまいます。が、この作品集は、私自身はあまり好きになれませんでした。
いつもと変わらず「うん、その感覚わかる、わかる」のオンパレードなんですが、この作品集で取りあげられている『その感覚』というのが、私にとっては決して心地の良いものではなかったからです。
たとえば、青春時代を扱った小説を読んだ時。たいていそこには恋に関する話題のひとつやふたつあって、読んでいる私もその頃を思い出して、うっとりと懐かしんだりするものです。たとえ当時、それが大失恋の不幸な出来事であったとしても、時の経過とともに美しい思い出に浄化されている場合が多いので、そこに苦痛は感じません。ただひたすらに懐かしいのです。
ところがこの作品集で取りあげているのは、だいたい小学生くらいの少女の記憶。駄目なんですねぇ、この頃のことを思い出させられてしまうと、なんか心の中に茶色いインクがひたひたと染みて来るかのような居心地の悪さを覚えてしまいます。
幼い頃というのは、えてして残酷です。たとえば何の抵抗もなく虫を殺すことだってできる。可哀想と思う反面、心の隅っこで楽しんでいる自分がいた……。そういう今となっては思い出したくもいなような些細な、けれども居心地の悪い記憶が、この作品を読んでいると心の表層にくっきりと浮かび上がって来るのが、私にはちょっと耐え難いものがありました。
ただ、少女の頃の感覚を思い出したいと思っている方には、むろんこの本はお薦めです。作品自体は良くできていますし、文章もとても綺麗で、無駄がありません。
この本に手を伸ばすか、伸ばさないか……。それは読み手の好みひとつかもしれません。
エンデュアランス号漂流
2001/09/01 10:53
希望を捨てないことの大切さ。
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17ヶ月にも及ぶ漂流は、想像をはるかに絶するほどの過酷さで、生還できたのはまさしく「奇跡」という言葉でしか言い表せないほどのものだった。そうしてその奇跡を呼び寄せたのが、悲観的にならずに、常に希望を抱き続け、そうして最大限の努力をするというその姿勢。
ラストは、全員無事生還を果たすことが最初からわかっているのに、それでもやっぱり感動した。
折しも日本は景気が最悪の状態で、ともすれば悲観論ばかりが飛び交っている。将来に希望を抱くということが難しい現状だからこそ、このエンデュアランス号の話が脚光を浴びることになったのではないか、と秘かに思っている。
脚本家はしんどい
2001/03/06 07:49
お気楽さが魅力のシリーズ
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控えめ探偵シリーズ第10作目。<わたし>の書いた脚本が映画化されることに。しかしその撮影現場で次々と不審なできごとが起こる。
お気楽ミステリーということで、大した謎ときも何もないのですが、ついつい読みつづけてしまっているシリーズです。事故調査専門の主人公スタンリーが、今回は脚本家として活躍(?)することに。いつもの事故調査シーンが今回は全くといっていいほど登場せず、ほとんどのシーンが撮影現場そのものになっているのはやや物足りないような気はするものの、まあ、たまにはそういうこともありでしょう。
で、いつもの通り「おいおい!」って感じで事件が解決してしまうんですが、ラストの数ページ、やっぱりいいですね。スタンリーのモノローグなんですけど。
ミステリーというと、読後感の悪いものが少なからずあるんですが、このシリーズは最後がふんわりとまとまっているところが魅力です。脇役陣もみな一癖もふた癖もありながら、決して根っからの悪人はいないし。気分転換用にはもってこいの一冊です。
冬のオペラ
2001/02/12 06:51
北村作品としてはもう一息!?
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北村薫の作品は、トリックの妙というよりも、もっと地味な部分。物語の中にひっそりと紛れ込んでいる人々の存在や、ほんの何げない場面の心に染みるような描写にこそ真価を発揮していると思います。変な表現の仕方かもしれませんが「純文学とエンターテイメントの融合!」なんて感じてしまうこともしばしばです。
で、この作品なんですが。
北村薫の作品としては、やや面白味に欠けているというのが正直なところです。最初の短編2編はあっさりと終わってしまいますし、最後の表題にもなっている中編は、トリックもどうかな?というところですし、加害者の心理の揺れも、あまり上手く描けていないように思いました。
また、作品中に登場する探偵コンビですが、名探偵である巫弓彦の存在感が非常に薄く、とって付けたように事件を解決するあたり、ちょっと拍子抜けの感がなきにしもあらず……。
なんて、けなしてしまいましたが、実はこの作品、同じ作者による「円紫シリーズ」と設定が似すぎているんですね。こちらも中年の落語家円紫師匠(探偵役)と女子大生の<わたし>というコンビで、事件が起こるたびに、円紫師匠か難問題をさらりと解決する。で、いいんですねぇ、この円紫師匠が。言葉のひとつひとつに含蓄があって、<わたし>が信頼を寄せている理由もよくわかる。
私自身がこちらのシリーズを大好きなものですから、「冬のオペラ」を読むとなんだか肩すかしをくらったような気になってしまうのです。あるいは、読む順番が逆だったら、もっと違った感想を持ったかも知れません。
密やかな結晶
2001/03/06 07:47
いかにも小川洋子的作品
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記憶狩りによって消滅が進む島で、小説を書いて暮らしている主人公の<私>は、やがて自分自身をも確実に失っていく……。
良くも悪くも小川洋子的。彼女の作品にどっぷりとはまっている時ならば、あるいは絶賛したかもしれませんが、今となっては少々食傷気味の感が否めません。「現代への消失」だとか「空無への願望」だとか、一応テーマはあるようですが、基本的に彼女の作品というのは、危うさを秘めた極めて繊細な文体にこそ特徴があるように思います。なので、最初の数作品はその心地よい幻想の世界に心を泳がせることができるのですが、数を重ねていくうちに、どうしてもマンネリを感じてしまうのです。もっとも、この作品に限っては、ラストシーンが美しくはあるけれども、あまりに悲しすぎて好きになれないということもありましたが。
Y
2001/07/26 11:00
世間の評価ほどには楽しめなかった
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結末の気になる物語で、確かに最後まで一気に読み通せたけれども、どこかで何かが決定的に足りないような気がしてしまう。18年の時を遡った北川健の女性に対する想いだとか、主人公秋間の心の揺れだとか、そういったものが、どうにもストレートに伝わって来ない。
もっと言ってしまえば、たった一言、二言言葉を交わしただけの女性を救うために、今の人生を捨てて、18年前に戻ろうなどと思えるものなのだろうか。その疑問が最初から最後まで、私の脳裡にべったりと貼り付いたまま、読み終えた今となっても、やはり何ら結論を見出していない。物語の大前提の部分で躓いてしまったため、とうとう最後まで楽しむことができなかったのが残念。
クリスマスツリー
2001/02/11 07:59
繊細な物語だからこそちょっとした違和感
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ロックフェラー・センターで働く主人公の<私>には、その仕事のひとつとして、毎年ロックフェラー・センターに飾る巨大なクリスマスツリーを探し出すというものがあり、その仕事の過程で知り合ったのが、修道女(シスター・アンソニー)でした。ツリーの思い出を語るシスター・アンソニーと<私>の心の交流……とでも言えばいいでしょうか。極めて淡々としたペースで物語は進行していきます。
<私>が読者に語りかけるような形で進行する部分と、シスター・アンソニーの語りとして進行する部分、そのふたつが折り重なるようにして物語自体が進んで行くのですが、実は私はこの部分で強い違和感を覚えてしまいました。
<私>の部分は「思った、感じた」といった具合にすべてが言い切りの形(?)になっているのに対し、シスター・アンソニーの部分は、文章がすべて「です・ます調」で統一されています。これがどうも駄目だったのです。物語がぷっつりぷっつりと分断されているような気がして、なんか醒めてしまうのです。
もうひとつ。シスター・アンソニーは60歳を越えた、いわばおばあちゃんのような女性です。けれども「です・ます調」の一人語りの中の彼女は、どう見ても20代前半程度にしか感じることができません。いきなり「あたしゃねぇ」なんて古くさい言葉を使えとはいいませんが、それでも年相応の言葉使いというものは、やはり存在するはずです。映画やドラマなどと違って、言葉でしかその年齢を読者に伝えられないのですから、やはりそこに何らかの工夫が欲しかったと思います。
これが翻訳のせいなのか、それとも英語を日本語に置き換える上での限界なのか、その辺の所はよくわかりません。けれどもこのことによって、物語の良さが100パーセント発揮されなかったことは事実でしょう。
こういう水彩画のような作品は、ほんのちょっとのひっかかりが大きな致命傷になってしまうことがあります。太陽のような強烈な個性の持ち主は、少々の曇り空ではびくともしませんが、夜空に光る星たちは、住宅街のほんのわずかな明かりにさえも、その存在をかき消されてしまいます。それと同じことです。
原書で読んだなら、あるいはロックフェラーセンターの本物のツリーを見たことがある人ならば、作品への感じ方が違ったかもしれません。
投資信託を買う前に
2001/03/20 09:13
投信の仕組みを理解
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新書版だけあって、浮ついた説明ではなく、投信の仕組みと現実や海外での投信の発展の過程、米国での現状等々、丁寧に記述がされています。
読み終えてみると、きちんと理解して投信先を選びさえすれば案外と投資信託というものは、リスクが低いのかもしれない……などという気分になっています。けれど、そう思いつつ日経新聞をのぞいてみれば、国内の株式低迷のあおりでどの投信も惨憺たる結果(? 素人目にはそう見えます)。
投信の基本を理解するにはいいですが、実際に投信に手を出してみようと思ったその時には、もっと実践的な本が必要だと思います。
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