ばんばんさんのレビュー一覧
投稿者:ばんばん
楽毅 第4巻
2002/05/10 22:40
自分は見事に生きたかどうか。本人は問わずとも、その答えは人生にある。
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楽毅の才を高く評価した燕の昭王の三顧の礼により、楽毅は燕に向かう。真に人材を求め、治世にも優れた昭王は、強国斉を打ち破りたいという願いを持った人であった。その願いを叶えるため、楽毅も招かれたのである。
そして、楽毅もまた、自分を信じ、実力を発揮する場を与えてくれた王に応えたいという気持ちを抱き、敬愛する孟嘗君を追い出した国でもある斉を打ち破るという目的に向かって邁進する。そして、後世の語り草にもなる、見事な戦いと占領行政を見せ、斉の大半を平定するのだ。
しかし、栄光に満ちた日々は信じてくれた王の死により、意図せぬ更迭を受けることより終わる。そして楽毅は亡命し、燕はほとんど手に入れた斉を失うことになる。
その生涯において、見事に生きたかどうか。
自らが提起した質問にはその人生で十分に答えていると言えよう。見事な生き様だ。
楽毅 第3巻
2002/05/10 22:38
祖国の滅亡とわずかな雌伏のとき
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とうとう、中山国は趙の猛攻の前に滅亡する。
敗軍の将である楽毅は、その力を認められ、敵からも声がかかるほどの活躍を行ったが、初めて経験する祖国の滅亡という事態に、深い悲しみを受ける。それは、想像を超えた事態であった。
その中で、滅ぼした当人である趙の武霊王が後継者を悩んだことにより趙も乱れ、勝者が永遠に勝者でないことを感じさせる。
楽毅は、そのような中にあって、雌伏の時を過ごす。あわただしいその生涯において、唯一の潜伏の時期である。
最も良く戦った敵将が楽毅を一番評価するかと思えば、優れた王であり、部下の使い方もうまい武霊王が後継者を変えた上にまた悩んだり、人が人を知ることの難しさを、痛感させられる。
楽毅 第2巻
2002/05/10 22:37
苦しい状況の中から生まれる真実
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第2巻では、楽毅が隣国趙の侵略に対し、その全力を尽くして戦う姿が描かれている。局地的な勝利を得ながらも、圧倒的な国力の差と、時の勢いにより、中山国は国土の大半を失い、滅亡寸前となる。その中で、真に信頼できるものたちと出会い、優れた敵将と戦い、楽毅は能力を成長させていく。優れた個人でありながら、周囲の力を発揮させることが出来るその懐の深さは、もし大国に生まれていればと感じさせる。しかし、小国ゆえに、敗戦の状況ゆえに、個人は磨かれ、光っていくのかもしれない。将来の楽毅のための雌伏の時だとすれば、天はあまりに過酷である。そして、将来かかわりを持つことになる燕との同盟を模索するところで、第3巻へと続いていくのだ。
楽毅 第1巻
2002/05/10 22:36
人が見事に生きることはむずかしい
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燕の楽毅。その名前を知ったのは、三国志の中で、軍師諸葛孔明が若い頃自らをなぞらえていたということからだった。どういう人かは知らなかったが、気になる存在だった。その楽毅が、主人公として私の前に再び現れたのが、この本だ。
第1巻は、燕の楽毅でなく、中山の楽毅という登場である。小国の宰相の嫡子として生まれた楽毅は、中の悪い大国である斉の国に留学し、時の実力者、孟嘗君に出会い、成長していく。そして、中山の国王の出来の悪さ、その時代認識の甘さから来る戦争により、大国趙の侵略を受け、存分にその実力の一端を発揮するが、勢いには抗いがたく、宰相である父の死を迎える。
第1巻では、斉の首都で「人が見事に生きることはむずかしいことだな」とつぶやく楽毅のせりふが印象的である。その後の生涯を通して、貫いた信念を感じさせる一言だ。
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻
2002/04/28 21:37
村上春樹に出会ったしまった本
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この本は、私が村上春樹に出会ってしまった本である。
なんとその出会いは、国語の教科書だった。世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドという2つの異なる話が、微妙な距離感を持って交錯し進んでいくその物語を、授業で見たのである。
変な本だな、どういう人なんだろう。
そう考えたのが運のつきで、風の歌を聞けやダンスダンスダンスなどにはまっていってしまったのである。
教科書には絶対難しすぎる。今でも理解できているかどうかあやいいものだ。
2つの世界+自分の現実世界の3つの世界が妖しく交錯しながら惑わせてくれること間違いなしの1冊だ。
カンガルー日和
2002/04/23 21:34
奇妙なやさしさあふれる一冊
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題名にもなっているカンガルー日和もいいが、収録18作品の中でもお勧めなのが、「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子と出会うことについて」だ。原宿の裏通りですれ違う男女。その出会いとも言えないようなことから男はその女に惹かれ、後でどう話しかけるべきだったか考える。そして考えた結果は…。馬鹿げているとも言えようが、誰もが一度は考えてことのあるような自分だけのストーリー、自分が主人公で物語のような恋をするような展開、何かを思い出し、心が優しくなる1冊だ。また佐々木マキさんの挿絵がいい。
空飛び猫
2002/04/23 21:32
翼のある猫っていったい…
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これは絵本である。そして美しい物語である。
翼をはやして街に生まれた猫の4兄弟が、自分たちで生き、最後には心優しい兄妹に出会う話である。まとめてしまうと簡単だが、その美しい挿絵と、躍動感のある文章は、翻訳作品である本作品の魅力を上昇させているのではないか。猫が翼を持つという奇想天外な発想を普通に描いていることが大人でも読める本になっている原因であろう。心が優しくなる1冊だ。
哀しい予感
2002/04/16 22:06
家族という愛のかたち
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流れるような文章で、淡々と進めているが、なんとも難しい。
取り上げているテーマが難しいのだ。突き詰めれば、それは家族ということに尽きる。みんなが家族というものを成り立たせるために演じているその姿が、妙なリアリティを持って迫ってくる。
そして家族を大切にするがゆえに家族を演じるが、その本心の愛ゆえに家族でないことを願うという相反する姿。その切ないほどの生き方に、心打たれるのだ。生きることは楽しいね、出会うことはステキだね、そんな使い古された感情を押し付けずに感じさせる一冊だ。
士は己を知る者のために死す
2002/04/14 20:45
人間が存分に大事にされた時代
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戦国の四君と呼ばれた男たち。それぞれに違う国を支え、王を凌ぐ声望を持ち、幾千もの食客を持った。通信手段も満足に発達していない時代に、その名を現世のみならず後世にまで轟かせたのである。機械等がない洗練されていない時代のため人間、その能力が重視され、であるがゆえに賢人は賢人を求め、能力を十分に生かせる場所を求めた。そんな男たちの頂点にあった男たちの物語がこの本である。もちろん完璧ではない生身の人間であるがゆえに弱さもあり、そこが人間の魅力でもある。
彼らは間違いなく時代にも恵まれ、存分に力を発揮した。それが幸せな生涯であったかどうか。それは読んだ人間が考えることかもしれない。彼らは、幸せかどうかなどと、おそらく考えはしなかった。なすべきことをなそうとしただけなのである。
豊臣秀長 ある補佐役の生涯 上
2002/04/11 20:45
最高の補佐役に徹した誠実な生き方
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もしもこの人が長生きしていたら、果たして徳川幕府というものはあっただろうか。豊臣秀吉の弟にして、最大の功労者、豊臣秀長のことである。その才は堅実で、多くの武将に愛され慕われ、進むだけ進むことに専念した秀吉の後ろを、見事なまでにふさいできた。そのフォローにより秀吉は迷いなく進めたに違いない。惜しむらくは、なぜ早死にしたかである。この人さえいれば、秀頼が若くとも、子飼いの大名たちが割れることもなかったであろうし、家康も忠臣のまま終わったに違いない。どんな世界を見せてくれたか、想像するだけでも楽しい。
項羽と劉邦 上巻
2002/04/02 22:21
わかっていても泣かずにはいられない
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初めてこの本に出会ったのは、教科書の中である。項羽が最後に敗れて、四面楚歌となる有名な場面である。そのとき、背景の知識を持っていなかったが、項羽の哀しさに惹かれたのを覚えている。
その後、全三冊の項羽と劉邦を読んだ。三国志よりも惹かれた。なにゆえ、名家の出で、若く、人一倍勇猛で人一倍愛情深く、生涯で一度しか負けたことのない威厳に満ち溢れた項羽が敗れ去るのか。そして、破ったのはなぜ、負けてばかりで老いた劉邦であるのか。それは人間ドラマであり、人生であり、我々が生きていく中でも必要な経験がつまっている。
そして生きていく中で、成功を求めるのであれば、項羽でなく劉邦を真似るべきである。しかし、しかしだ。項羽には惹かれる。死ぬと分かっていても、何度も応援してしまうのである。それは項羽が、天下人としては適していなかったけど、人間として魅力的だったからに違いないのだ。
沙中の回廊 上
2002/04/01 20:49
晋の士会という天才
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晋の国、士会。特に軍事において天才と呼ばれた男である。天下を取ったような君主でもなく、その才能に比して、残した業績が少ない気がするこの男を、作者は爽やかに描いた。
周囲の人間もそうだが、だんだんと士会の心のあり方から成長していく様は、読むものにも、成長を促す。成長の過程において、巻き込まれ繰り返される勢力争いは、今の世の会社の中にも同様の景色が見られよう。その中で、どのように生きることを正しいとするか、そしてどのように生きるか。
示された生き方は、読者自身をも示唆するに違いない。さわやかに、そして成功する。そのようにありたいものだ。
レベル7
2002/03/11 22:07
レベル7まで行ったら帰れないのは俺たちだ
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レベル7までいったら帰れない、という謎めいた言葉を中心に、いくつかの別々の物語が、最後に重なっていくという複雑で、ながーい話。しかし本は厚いが、あっという間に読める。結局、宮部みゆきワールドに入ってしまい、龍は眠るとかどんどん入っていくしかないのだった。
そういう意味では、この本を読んで面白いと思ってしまったら、宮部ワールドのレベル7なのかもしれない。
奇貨居くべし 2 火雲篇
2002/03/11 21:32
残り3冊心待ちの日々
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秦の始皇帝の父とも言われる呂不韋。ただの商人から最強国家の宰相までのし上がったその印象は、あまり良いものではなかった。先入観として。だからその導入編である1巻、春風編では評価を行わなかった。
しかしその青年時代を描く本書を読んで、あきらめた。今までと全然違う呂不韋の姿だが、とても面白い。また少し癖のある、一般人の姿を描きながら、1人の男としての魅力を余すことなく描いている。
残り3冊を心待ちにしている自分がちと悔しい。
いやでもわかる株式
2002/02/26 23:24
いやじゃないけど本当によくわかる
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株式と聞くだけで、一般的には嫌な気分になりそうだ。わからない上に、イメージが悪い。なんだか株式会社やら証券会社にだまされて損をしそうなイメージ、あるいは労働をせずに利益を得ていそうな株主のイメージ、そんな偏見が邪魔をしているのは間違いない。そのへんの誤りやらなんやらを、すぱっと解決してくれるのがこの本だ。
親族経営から脱して株式を上場しようとする会社の姿を社長等を通して描く一方で、それと交差するように、初めて株式を購入する株主を描くことで、双方からの考え方を浮き彫りにしている。また、時系列的に進むことで、仕組みがよくわかること請け合いだ。
株を始めようという人も、その仕組みだけ知りたい人も、ためになることは間違いない一冊だ。気に入れば、いやでもわかるのシリーズはあと何冊かあるので、これも楽しめる。