asuraさんのレビュー一覧
投稿者:asura
パーム 35 6 (WINGS COMICS)
2012/04/02 05:00
大長編最終章直前の過去編がついに完結
16人中、16人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ジョイの書くジェームズの伝記で始まる過去編「蜘蛛の紋様」完結の6巻。
ロナルド・エリーを撃ち刑務所へ逃げ込むことに成功したジェームズ。少年刑務所を経てボアズやサロニーが入所する以前の刑務所にフリスやティットや「オールスター・プロジェクト」で揃う刑務所仲間が登場する。犯罪組織からようやく抜け出せたジェームズの本領発揮、ボスの博愛っぷりに務所仲間はおおいに混乱し規律正しい服役生活を強いられる。
ジャネットと同棲を始めたがカーターだったが、死が身近すぎて孤独な心は彼女との平凡な幸福を思い描けずに苦しむ。
29年の歳月をかけ「蜘蛛の紋様」の巻末から「あるはずのない海」に繋がるように描かれています。
ジェームズがアーサー・ネガットと交わした最後の会話も明らかに。
これでPALMは本編9章まで完了し、最終章「TASK」を残すのみ。息子さんの祐という名前はTASK(果たすべき仕事、義務)から付けられたそうです。
1960年生まれの作者が中学時代から構想を始め生涯をかけたライフワークと云えるパームシリーズ。完結は不可能と言われながらようやくゴールが見えてきました。
心を揺さぶるセリフが所々挿入され普遍の死や愛について描かれ、海外ドラマのような醍醐味を持ち合わせるシリーズ。舞台である80年代は遠く過ぎ去りましたが色褪せない物語の完成を無事見届けたいものです。
シリーズの概要は獣木野生の公式HPで閲覧できます。
文庫版は15巻(愛でなく6)まで出版中。
BASTARD!! 27 暗黒の破壊神 (ジャンプ・コミックス)
2012/03/25 17:19
進まないストーリーと作者の欲求で一冊。
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
発売延期につぐ延期でようやく3年ぶりに出ました。
待ちに待って頁をめくってみれば__
ひどい。内容が。
前回から続くポルノ・ディアノとのエロ決戦で一冊丸々使ってます。
著者のモチベーションはエロを描くことと以前から承知はしていましたが。
しかも同人誌の「地獄編」の一部を使いまわして本編は地獄の底に至った程度で進んでいません。
画像処理に異様に手間がかかっているのは感じられますがモノクロ少年コミックサイズでは潰れてしまってぼんやりです。萩原氏のアナログ時代の線の鮮明さとトーン処理の美しさを実感しているだけに遅筆の原因がそのせいかと思うとげんなりします。
魔王たちのリアクションは楽しいけど観客でしかなかったしウンチクもあったけれど黙示録や神秘学を複合的に絡めた壮大な物語の本編に立ち戻って欲しい。再び次巻待ちです。
炎路を行く者 守り人作品集
2012/03/05 06:57
ヒュウゴとバルサと__。それぞれの少年期
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
[炎路の旅人]
新ヨゴ皇国の若き王子を攫ったタルシュ帝国ラウル王子の密偵<鷹(ターク)>ヒュウゴ。何故家族を殺し故国を征服した国の兵となったのか。少年時代のヒュウゴが鷹となるまでの物語。
[十五の我には]
自分のためにジグロが何を失い過酷で理不尽な運命を負ったかを思い、世話をかけることが苦痛だった15歳のバルサ。三十を過ぎたバルサが昔の自分とは違う目で若き日を振り返る。
「炎路の旅人」は長らく存在は知られながら世に出ていませんでした。「蒼路の旅人」より先に誕生したにも関わらず本編の脇役であるヒュウゴを主人公で読めばタルシュに抗うチャグムへの感情移入が薄れることを配慮して見送られたもの。十五のバルサと抱き合わせることで出版されました。
蒼路~「天と地の守人」を読んだときヒュウゴは新ヨゴを侵略させまいと枝国になる道を示し、別の行動をとったチャグムに期待する複雑な人物でしたがその意志が炎路から繋がっていたと納得できます。
「闇の守人」でバルサはカンバルの地の底でジグロと過ごした痛みと苦しみを吐き出します。ですがシリーズを通してバルサが思うジグロはいつも温かいです。
「蒼路の旅人」で15歳の成人ノ儀を迎えたチャグム。ヒュウゴは生き延びたたのが12、13歳で人生の選択をした2年後はおよそ15歳。年齢も立場も違う3人を同じ歳の少年として読むことができます。
本編の流れに比べるとボリュームは少ないですがシリーズの補完として読むことをお勧めします。
シュトヘル 5 (ビッグスピリッツコミックススペシャル)
2012/02/03 10:57
漢前ユルール覚醒
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「シュトヘル」を騙る金国軍に捕まり玉に彫られた西夏文字の辞典、玉音同が取り上げられた。奪還の機会をうかがっていたが頭の男がシュトヘル(須藤)を恐れる部下の前で殺してみせようとする。
1、2巻のシュトヘルが殺伐としていたことを考えると現代っ子(男子高校生)須藤の入ったシュトヘルはあまりにかわいらしい。
そして今回一瞬で一皮剥けたのがユルールです。西夏の文字を背負うと決めて以降も守られる立場だったユルールが大事な人を失った甘さを後悔しているからこそでした。今までの被り物や負った傷が巧みにユルールの転換を描写しています。
前巻に続き自分に正直でいい奴なイバハさんがいいキャラです。読者はスドーのことを知っているだけに不憫~とニヤニヤできるかも。
今巻は大ハンが執拗に西夏文字を憎む理由が描かれています。
TIME KILLERS 加藤和恵短編集 (ジャンプ・コミックス)
2012/01/28 15:49
青の祓魔師以前
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
青の祓魔師の繊細さに至る前の作品で男性っぽい作品やアート系を意識したものも入っています。
僕と兎
赤茄子
赤い大地に生まれた戦士のはなし
USA BOY!!!
ひめごろも取説漫画
人生街道はぐれ星
ニライ
主と某
乙女の祈り
ホシオタ
深山鶯邸事件
用心棒、戦士、といったモチーフが多いですね。
最近の作品に近いのは「ホシオタ」「深山鶯邸事件」でしょうか。
SQで読みきり掲載された青の祓魔師の元になった「深山鶯邸事件」がいちばんしっとりと情緒があり、きれいにまとまっています。低級悪魔が大切な少女を守るために祓魔師になる。昔の作品が好みの水準に至らなくともこの作品だけでも買う価値はありました。
少年王女 1 (シルフコミックス)
2012/01/28 15:27
女装少年と残念なメガネ
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
女尊男卑の国で街には粗野で強欲な女であふれ、見目のいい男は奴隷として売られるか娼婦として弄られる。
そんなモーリアン王国のスラムで孤児の少年アルベールが奴隷商人にさらわれる処を買い取った貴族がいた。秘密裏に連れて行かれた王宮でアルベールと瓜二つの王女アレクシアに影武者として仕えるよう命令される。
女装を物語の主軸に置くとき必然性を加味しないと違和感が出るのですが入れ替わりということで自然に成立しています。
王女アレクシアは傲慢な上流階級の女の一人ではなく世継ぎの身で国と民を見るために身代わりが必要でした。アルベールも彼女に理解者となり新しいものの見方を教えます。少年少女ともにかわいらしくきれいで描かれる衣装がまたかわいい。
話をスムーズに進めるためありきたりの部分もありますが、絵柄と女装っ子を楽しめる人にはお勧めです。
雪広うたこが絵柄を担当する、人間でありながら魔界の選帝公である『魔界王子』も美麗です。
やじきた学園道中記 15
2012/01/12 02:54
再開・文庫版での続巻がようやく刊行
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「やじきた道中膝栗毛」になぞらえたチャキチャキの江戸っ娘で腕っ節の強い、矢島順子(やじさん)と篠北礼子(キタさん)が用心棒として学校を行脚するという荒唐無稽な学園ストーリー。
少女漫画ながら喧嘩上等で男性読者も多く、舞台となった観光名所案内も人気が高いシリーズ。
2001年に文庫版14巻が出てからようやく文庫版15巻目の刊行です。
1982年に連載開始し、1991年に完結はなく休止。
その間ボニータでは天界の花将が下界に降りる「BUD BOY」(19巻+番外編3巻、文庫10巻)を連載。
2003年から「赤目編」で復活(コミックス23巻~)。やじきた学園道中記2が継続中。
三葉学園高等部・関東番長連合総長徳成雪也が三重の西の勢力へ挨拶に向かい赤目で消息を絶った。弟分(雪也)の捜索に赤目瀧川高校に転入するやじきたコンビ。埋蔵金目当ての外野の団体ツアーだけでなく二人が見知った連中まで嗅ぎまわりピリピリする学校。忍者の修行スポット赤目に眠る秘密と雪也の行方は。
現在では死語のバンカラだの番長だの、昭和で連載が休止したにも関わらず意外に違和感がなく相変わらずで嬉しくなります。ホスト時代のキタさんにやられ道を踏み外したセレブ嬢・瑠璃子姫の暴走に期待がかかるもののキタさんのたらしっぷりがまだまだ本調子ではないようなので星4つ。
復活だからか「赤目編」はかなり既出キャラが出張ってます。さんざん黒幕設定されながら現役連載時に一切登場しなかったあの人も登場。
リンドバーグ 5 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
2012/01/05 03:52
漢の一騎打ち__新章直前の終焉
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
グラナロッサ王国女王エスペランサの眼前を切り抜けたシャーク空賊団一行はかつてのシャークの相棒を預けていた男の村へ向かう。
伝説の浮遊王国エルドゥラから連れ出し空賊に放り込んだ男を純真な少年ニットはずっと量りかねていた。シャークの過去が語られ、善悪の秤ではなく自分が見たままの真摯で情の厚い素顔を知る。
再び女王エスペランサの前。グラナロッサ側が要求してきた妹姫ティルダの身柄と引き換えの一騎打ち。因縁を清算する機会に危険を知りながら挑むシャーク。
1巻から真の主人公かと思うほど魅力あるアントンシク氏の筆力が最も活きた大人の男シャーク。その集大成と言えるのが今回の5巻。
男臭さとか、女王や親友との仲が匂わすように描かれたり本当に巧みな作者です。描ききったキャラクターが物語では不動の存在になったのは間違いない。
本誌では新章が始動しました。
マンガ日本史の南方熊楠を同著者が描かれました。
こいわすれ
2012/01/01 05:03
記憶と心、忘れるのはどちらだろう
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
まんまことシリーズ3巻目。
拳で挨拶を交わす親友三人組は相変わらず。かつての勤勉からお気楽者にがらりと豹変した町名主の跡取り息子高橋麻之助。愛しい女房の懐妊にさらにめでたく優しい男になったので、支配町ではないよろずもめごとまで引き受けてしまう。
「おさかなばなし」
江戸本所の“置いてけ堀”に河童が出た!?
お堀に引きずりこまれたのは頼りなはずの町名主というからさあ大変。
「お江戸の一番」
狂言と書画を合わせた番付が売り出された揉め事が麻之助に持ち込まれた。
畑違いの勝負と恋の鞘当ての行方は。
「御身の名は」
町名主を呼び出す文は来るのに会えはしない。
女狸の正体は。
「おとこだて」
旗本の妻女に貢がせる色男。
悪友吉五郎に男惚れする貞吉らがさも犯人のようによみうりに書かれた。
団子を食われた麻之助も高値な櫛を売り払った男を追いかける。
「鬼神のお告げ」
富くじを当てた古着屋に囁いた“三戸の虫”のお告げには。
あの富興行。あの場に縁の者が、もうすぐ死ぬ。
こぼれる命に麻之助は間に合うか。
「こいわすれ」
ふわりふわりと糸の切れた麻之助。橋から落ちる町娘と一緒に川に落っこちた。
親ばかの大店の娘との破格の良縁を破談にした件の暦とは。
裁判というほど厳正でなく皆の落ち着きどころへ落とす采配には人柄や人情が感じられ興味深い町名主という仕事。支配町以外からも麻之助を慕う者から相談事が持ち込まれ、飄々と解決してしまうのだから面白い。若だんな大事の妖怪が賑やかな「しゃばけ」とは異なり、生々しさではない残り香のような恋しい想いが全編に漂うシリーズです。
しかし今回は過日の恋の痛みとは別種の悲しみが麻之助を襲います。
幸福な日々にぽっかりと開いた落とし穴。麻之助を慕う者たちが多いほど痛ましく、自然に口にする名前が哀しいです。
戦闘城塞マスラヲ Vol.1 負け犬にウイルス
2011/12/21 07:36
トモアキワールド
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
林トモアキの著作は「ミスマルカ興国物語(刊行中)」→「戦闘城塞マスラヲ」→「レイセン(刊行中)」→「お・り・が・み」と読破しましたが5巻で全編主人公にワクワクさせられたのはマスラヲでした。
魔人だの魔法少女だのラノベらしいけど嫌味のない楽しくて気づいたら引き込まれる手軽な小説です。
目つきが悪い引きこもりニートで拾ったパソコンから極悪ウイルス、電子精霊Will.CO21に取り付かれ死ぬ気(本当にw)で参加した聖魔杯。
目つきが悪い、対人恐怖症、戦士ばかりの戦場で戦闘力0。
通常なら剣に魔法のバトルロイヤルになるところを主人公が上記の仕様なので毎度工夫を凝らした面白い対決になります。
ヒデヲが思い切りがいいし、人がいいのでイライラどころかワクワクしてしまう。5巻完結で全巻見せ場があり、結末も最高でした。まとめ読みをおすすめします。
現在マスラヲの続編となるレイセンが刊行中。
「お・り・が・み」は前(初代)聖魔王の物語。
「ミスマルカ興国物語」はレイセンよりずっと後の世界の物語です。
0能者ミナト 1
2011/11/08 04:51
霊能力0%の退魔師
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
科学が発達した現代社会において忘れ去られた古から息づく異形のものたちを「怪異」と呼ぶ。
存在を忘れた者たちを相手にする生業には法力僧、霊能者、と特別な存在こそ尊ばれるが、そのなかにまったく霊力、法力、神通力を一切持ち合わせない零能者なるものがいた。
無分別な若者たちが犯した禁足地から封じられた「怪異」が開放された。
古い体制に固執した霊能者組織では義務を受け入れた一人の巫女を生贄にするほかその術を考えようとはしなかった。
彼女を救う最後の方法は霊能者組織から爪弾きにされ疎まれている青年、九条湊に依頼すること。
ぐうたらで胡散臭くてとことん言葉が辛辣な皮肉屋。随一の法力ゆえに妬まれ本山で浮いていたユウキはそんな湊に猛烈に反感を持つ。犠牲を甘受した巫女にさえ傍若無人なふるまいで生きることを選択させる。
霊能力が皆無というだけでなく万人を小ばかにする態度が敵を作っているかの湊だがその言葉は間違ってもいないし、湊の能力は洞察力と観察力とはったりをかけ正解を導くその知力にあります。
持ち合わせた者だけが使える霊能力や古い体制に固執する組織ができない解決を湊がやってのけるのは痛快です。科学的な理屈が積み上げられているのがとんでもなのにリアリティを感じて面白い。
まだ組織に毒されていない少年少女はそんな湊に惹かれて押しかけ助手となって居ついてしまうのも微笑ましい。昔組んでいた3人や湊がひねくれるまでの話も気になるところでいつか書かれるのではと期待しています。
第1巻では2話収録されています。
コミックビーズログ エアレイドでコミック化。
烙印の紋章 1 たそがれの星に竜は吠える
2011/11/07 08:02
続きが待ち遠しい仮面の剣士と皇子
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
遠い昔に高度な知能を持つ竜が支配し、その外から人は来たとされる世界。
帝国メフィウスで毎日が生か死でしかない奴隷剣闘士の身でありながら故郷を皆殺しにした男への復讐で心が煮え滾っている仮面の剣闘士オルバ。
放蕩者の皇子ギル・メフィウスが自らの愚行で重篤に陥り、仮面をつけた術士の意図どおりにギル・メフィウスの影武者として引き出される。
成り代わったオルバは生来の知性と剣技で優れた手腕を発揮し、ギルに仕立てた者の思惑などかまわず、ずっと届かなかった標的へ復讐の道を定める。
読みやすいですが骨太のファンタジーとして一押しです(媚や萌えなし)。
主人公が何より能動的で自らの目的のためになすべきことをなす。ギルは指揮官としての知力を発揮し、仮面の剣士オルバは戦場に先鋒となり突撃する。まさに2つの仮面を使いわけそのどちらも危うさを抱えて魅力的です。
十年戦争を終結すべくガーベラから政略結婚に送られたビリーナ・アウエルは本物のギル・メフィウスを知らないせいかオルバはことあるごとに子供っぽい自分をさらけ出してしまう。ビリーナも皇子を陥落しようと意気込んで来たものの女性の魅力に寄らない性分なので女性慣れしないオルバとはいい勝負www。異国でビリーナが心を開くのは仮面の剣士。
主人公だけで魅力がいっぱいですが秘密を明かし仲間に引き入れた元奴隷剣闘士がオルバを心底信頼し、オルバが成そうとすることが見たい欲求に駆られています。特に美貌の剣闘士シークがwww。
第一部までは魔術の気配は薄いですが、5巻からの第2部で古代の魔術師が台頭してこようともあくまで剣で活路を開くところがたまりません。
もっともっと続きが読みたくなるファンタジー小説です。
ブルームドインアクション
2011/11/07 07:18
美少女とみまごう姿にされた傭兵
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
同じく女装っ子ギャグマンが『ブロッケンブラッド』4巻に収録されていた読みきり漫画を一冊のコミックにしたものです。
どうやら以前はガチムチだった凄腕傭兵が瀕死の状態で最先端蘇生治療を受けて__変態女性博士の趣味で何故か“美少女と見まごう姿”で再生されてしまう。
せっかくなので女子高生として何故かテロリストがやたら潜伏する女子学園に特殊任務で入学し、何故か毎度屈辱に震えながらかわいらしい格好をさせられる。女装×美少女×学園×硝煙(?)。
テンポとノリがよく、ブロッケンのようにお約束展開でも一冊にまとまっているのできりがいいです。
しかも“美少女と見まごう姿”とあるように女体化ではなく外見が美少女なだけで女子を装うことを強要される軍曹が恥辱を感じているところが笑えます。美少女と見まごう~の犠牲者は一人どころではなく、子持ちの中年兵士まで美少女にwww。
らんま1/2のように倒錯した性にジレンマを感じてどたばたする主人公が好きなのですが塩野干支郎次氏はそこのところをよく分かってらっしゃる。
軽いノリでTSギャグを読みたい人におすすめです。
やなりいなり
2011/07/30 06:12
作ってみたくなる鳴屋のおいなりさん
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
江戸の大店、長崎屋の一粒種一太郎は体が弱く兄やたちに外に出してもらえない日々が続く。しかし若旦那を取り巻く妖たちで離れは今日も賑やか。
食欲の湧かない若旦那に守り狐たちが作った特製やなりいなりに皆が舌鼓を打っているといなりに手を伸ばすおかしな幽霊が紛れ込んでいた。
他出するとすぐに寝込んでしまうことになる若旦那は外に出られないけれど、長崎屋の離れには妖の他にも容易ならざるお客が千客万来。体が弱いが頭の巡りがたいそう良い若旦那が出来事のあらましを解いてゆく。
料理書がベストセラーになったこともある食文化豊かな江戸時代。
以前から食の細い若旦那に用意された茶巾たまごや雷豆腐やらおいしそうな料理が出てきましたが今回は全話に「レシピ」がついています。
構成のよい短編集も楽しいですが個人的にはそろそろ『しゃばけ』や『うそうそ』のような長編が読みたいですね。
しゃばけ10周年ということで
『やなりいなり』の初回限定版は鳴家ストラップ付。
新潮社の「しゃばけ倶楽部」で柴田ゆう元絵デザインのかわいらしいグッズが制作されています。
にんぽぽ123 1
2011/07/12 07:17
絵本のような詩のようなちびノラにゃこの癒し
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
白い空間になめらかで均一な線で描かれた崩れのない造形。詩的な情景。
私が鈴木志保女氏に惚れこんだきっかけが今は無きデザイン雑誌『デザインプレックス』の別冊『デザインフレックス』に掲載されていた『タンポポ123』でした。
日本家屋で飼われているもっちりとした顔の着ぐるみを着た子供のような生き物「にゃこ」。ティッシュの空箱を履いた無邪気な姿でありながら威風堂々とする心持はロンメルの行進であるシュールさ。飼い主奥さんは雲上高く慈愛に満ちたグレートマザーの眼差し。
出版されたにゃんぽぽ123は幸福な家から別の空間へにゃこが迷い込んでしまう物語ですが、デザインフレックス掲載作と比べると物悲しさや終わりの気配や独特のシュールさは薄れ、小さくて柔らかなものをにゃこは宝物のように巡って往きます。ちびっきに共通すると思ったら「ちび」も出てきました。
個人的には退廃したシュールさが好きだったので初期の感性が薄れるのは残念です。優しい、かわいらしいものが好きな人にはお勧めです。
鈴木志保:
代表作はアシカを主人公にした終末観世界『船を建てる』や、机上の妖精チビの日常『ちびっき』『ちびこの日記』。小川糸原作の『食堂かたつむり』のコミック版、NHK人形劇『バケルノ小学校』キャラクターデザインを担当。