赤木かん子さんのレビュー一覧
投稿者:赤木かん子
からすたろう
2000/09/01 16:52
教師とは何をする職業なのかを誇り高く宣言した名作!
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この本の作者、八島太郎は一種の伝説の人物です。戦前夫婦ともども特高に捕まって拷問された後、アメリカに逃げのび、そこで絵本作家になりましたが、描くものはほとんど自分の子どもだった頃、の懐かしい懐かしい日本の田舎、自分が育った村のことでした。
そのあたりの詳しい話が知りたい人は「八月の太陽に」(品文社)をお読み下さい。(ちなみにハリウッド・スターの“マコ”は八島太郎さんの息子さんです。)
この「からすたろう」は6年間せっせと学校に通っていたのに何も覚えられないちび、という少年の物語です。
ちびはいつもにこにこしていましたが、内心悲しかっただろうと思います。でも気がいいのでそんなこと、思いつかない。まわりの子どもたちも子どもなのでそんなふうに気がまわらない。というわけでなんとなくみんなで無視したりバカにしたりしてたところへやってきた新任の先生は、ちびをバカにしなかった・・。
ちびの書いた読めない習字もまんなかにはりだしたし、放課後もよく話をしてちびが動植物にとても詳しいことを知りました。
そうして学芸会のとき、小さい村ですから村の人のほとんどが見に来ます、ちびはからすの鳴きまねをしたのです。
全員が驚きました。なぜならちびは子どもを呼んでいる母ガラスやそのほかのからすの鳴きまねをみんながそのからすが何をいっているのかわかるくらい上手にしたからです。
大人も子どもも、ちびが通ってくる遠い山道を思い浮かべ、みんなにきにもとめてもらえないのに雨の日も風の日も通っていたちびのことを初めて意識してハッとしたのです。
その教師は村の中にちびのいる居場所を作ったのです。一生、彼の幸福の土台となる居場所を。
人を幸福にするのも、不幸にするのも人なのです。
この本は八島氏が小学生の時にやってこられた二人の教師に献げられています。
狐
2001/10/05 16:52
新美南吉全集のなかに入ったままだったらほとんど誰にも知られていなかったであろう話が、絵本に蘇りました
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
新美南吉全集のなかに入ったままだったらほとんど誰にも知られていなかったであろう話が、絵本としてよみがえりました。
まずこの本を見つけだし、絵本に仕立ててくれた編集さんに脱帽。こういうのが編集者の醍醐味よね。それに絵本の形にすると場面ごとにページをめくらなくちゃいけないから時間がかかるでしょう。短編としてさっさと読んじゃったらよくわけのわからない?話になってしまうものがゆっくり読むと目から鱗で意味がわかるようる・・、少なくとも私はなりましたね。昔読んだことがあるはずなのに、そのときはよくわかってなかったんですね〜。
一人っ子で大事に育てられているのでかなり甘えんぼの文六ちゃん10才が、祭りの日、大きい子たちに連れられて下駄やさんに下駄を買いにいくんですね。そうするとそこのおばあちゃんが“祭りに下駄をおろすと狐がつくきに”と、ボソっというのよね、そこのおばちゃんはあわてて狐がつかないおまじないをしてあげる、とフォローして、一応みんな安心するんですが、お祭りで遊んで、ちょっと寂しくなる帰り道、文六ちゃんがうっかりコンコン、と咳をしたものでみんな即座に文六ちゃんに狐がついた!と思い、文六ちゃんもみんながそう思ったなってわかるんですね。で、みんな妙にしーんとなって歩いて、いつもだったら送ってくれるわかれみちのとこにきてもさっさと帰っちゃうの。
こういう感性って大人にはないよね、という瞬間を実に巧みに捉えていて、やっぱり新美南吉って天才だったんだなーと思った一冊でごさいます。このラストももう一波乱あってそれもまたすごいんですが、それは自分でお読みください。
あっ、いい忘れたけど、長野ヒデ子さんの絵もぴったりあってすごくいいよ。
きんぎょのおつかい
2000/08/01 15:18
与謝野晶子の名作絵本で復活
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この絵本の作者はあの!あの与謝野晶子です、なんと。
彼女が人の子どもを生んでいたのは知っていましたが、お話まで書いていたとは知りませんでした。
でも、文章がうまくて子どもが生まれて可愛がっていたら・・・。そりゃ、お話のひとつやふたつ、つくるだろうからね。今まで世に忘れられてたほうが不思議、なのかもしれません。
お話はとてもシュール。
きんぎょが三匹、新宿すていしょんから省線(今のJRね)でお茶の水すていしょんまでのって、おつかいにいくのです。
きんぎょが?水なしで平気なの?と思った次のページで案の定、息ができない、苦しい、と、じたばたしたきんぎょたちは親切な駅員がもってきてくれた水入りのタライに入り、やれやれとようやくほっとして旅をしてお茶の水につき、おつかいを頼まれたおうちに行って、(ただしなんでいかなきゃならなかったのかは、つまりおつかいの内容は書いてません。こういうとこってホント、うまいよ。彼女ってとてもよく子どもを知ってたんだね)帰りはもっとゆったりと窓の外の景色をみるゆとりももって、無事に帰ってきます。
これはレトロチックな絵も良かった!
このお話を発注してこの絵をつける…ということを考えた編集者にお礼を。
その人がいなければこのお話は永遠に埋もれたままだったかもしれないのです。
編集者っていうのは本当に“本を作る”人なんだね。
もちろんこのお話を書いた与謝野晶子にも脱帽。だって極上品だよ。
彼女ってやっぱり天才だったんだね。
当時、彼女を活かそうと思った編集者っていなかったのかなぁ。
とりあえず、一度は子どもたちに読んでやって欲しい一冊です。Y・Aにもいいよ。
みにくいシュレック
2001/02/16 14:04
この絵本はついに日本図書館協会選定…にならなかった…ものです。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
そうかなぁ。ウィリアム・スタイグの最高傑作の一冊だと思うんだけどねぇ。
まずお話は“あるところにとてもみにくい夫婦がいました”から始まります。
そうして、息子のシュレックは二人よりももっともっとみにくいのでした・・となり、どのくらいみにくいかというと“野原の生き物は残らず逃げ出し、逃げずにかみついたヘビは死にました”と続くのです。この絵本は199・年度No.1だと私は思ったのに、ほとんど動かないんです・・とセーラーさんにいわれたので、よっしゃぁ、と講演会のあるたびに紹介してたんですが、たいていこの第一ページ目で大爆笑になります。
こんなおもしろい本があるとは知らなかったとよくいわれましたが、幸い重版になり、絶版!の危機はまぬがれました。ま、今のところ・・だけですけどね。
このあと、シュレックは占いばばに世界一みにくい姫と結婚するよ、といわれ、姫を探しにいって一目で恋におち、(そう、だからこれはラヴロマンスでもあるわけだ)まわりじゅうを蹴飛ばしながら幸せに生き延びるのです。
読んだら元気になるよ。
といっても、これを描いた時は、スタイグはもうすでに80ん才。日本ではスタイグは「ロバのシルベスターとまほうのこいし」で有名ですが、60才までニューヨークの新聞社で風刺漫画を描き、定年退職したあと、絵本作家になってすでに30年!
いささかも筆が衰えるどころか“シュレック”を見た感じでは、もうこの年になったんだからいいたいこといってもいいよね!(とホントに思ったかどうかはわかりませんが)という感じでますます舌峰鋭くなっています。
まったくたいした男だよ!
きつねの窓
2000/10/26 17:50
色と小道具にかけては誰ならぶ者のない童話作家、安房直子の代表作の一つです。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
色と小道具にかけては誰ならぶ者のない童話作家、安房直子の代表作の一つです。
おっとりと優しく、それでいて芯のぴりりとひきしまった短編をたくさん書かれ、私のところに“探偵依頼”がくる数でも上位3位には確実に入っている作家です。
というのもお話のタイトルはほとんど覚えていない、ストーリーもうろ覚え、なのに忘れられない、もう一度読みたい、という人が多く、しかも、夕焼け色のスリッパとか、空色のいすとか、お皿の中を飛んでいる真っ白な鶴などがワンポイントのようにくっきりとそこだけ残っているんですね。
だからそれだけから本を探さないとならないわけで、こういう色と小道具の組みあわせはたいてい安房直子です。
この『きつねの窓』もスト−リーは忘れてしまったのに指の先を青く染めて窓をつくってのぞく・・というところだけ覚えていて探してる人がとても多く、何度“それは安房直子さんの『きつねの窓』だと思います”という手紙を書いたことか!
染物屋さんの青いつぼに指の先を染めて窓を作ってのぞくと、その人の見たいものが見える・・・・・・。
この設定は子どもの皮膚感覚にあっていて自分もやってみたい、と思う子どもが多いのかもしれません。
今は安房さんの本も、ほとんど品切れ、絶版が多く、早くどこかで完全全集が出ないかなと思っているのですが・・・。
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セイリの味方スーパームーン 生理なんでもハンドブック
2002/05/10 16:54
楽しくっておもしろくって読みやすい。子どもたちの強い味方、スーパームーンが生理のことを教えてくれます
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ようやくできたか! の「セイリの味方スーパームーン」です。
今までも“生理”についての本がなかったわけじゃないけど、どういうわけだかそういう本って絵がダサイ、みっともない。
とてもじゃないけど読む気のおきないグループと、かたや“オンナノコのヒ・ミ・ツ”みたいなハートとお花が散らばったマンガチックなタイプと、どっちかしかなかった。
そして前者は魅力がないから子どもに出せない・・・気のきいた司書なら後者も買うけど、気のきかない人は買ってくれないし、ヘタすると一行か二行、トンデもない記述がチョロっと入ってたりするから丹念にチェックしなくちゃならない・・・。
でもそういうチョンボさえなかったら(この前読んだのの中には、お母さんは私にばっかりお皿を洗わせてお兄ちゃんや弟は遊んでる、という悩みに、お母さんはあなたのためを思ってやっているのです、というひどいのがあったぞ。あ、そう、じゃ兄や弟のことは考えてないってわけね、だったよ)そういう雑誌の付録のようなののなかにすっごくいいのがあったりするんだよ。
で、つねづねこの中間のが欲しいな〜、と思ってたらやっとつくってくれました!
おとなしめの、ちびまる子のヒット以来、もうジャンルになってしまった感のある“エッセーマンガ”ですが、読みやすく、品がよく、子どもの悩みそうなことにきちんとこたえてくれています。
学校は(中学校でも)そろえておくといいでしょう。
欲をいえば、もっと俗っぽいバージョンも欲しい!女性自身みたいなのー。
あれだとむずかしすぎて読めない子もいるんだ。
さらに中・高生にセックス&妊娠バージョンも欲しいよ〜。
やっちゃダメ!ったってやるんだから、ただ単にそういったって脳がないじゃん。
けなすよりケアするほうが先でしょ?
「ママンガ」のティーンエージャー版を、学校や図書館が買いやすい装丁つけて、どっか出してくれないですかねえ。
うんと字の大きいのをー。
オレゴンの旅
2001/04/06 17:37
ベルギーの二人組、ラスカルとルイ・ジョスがつくってくれた、まるでフランス映画のような美しい一冊です。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
といえばおわかりでしょうが、かなり対象年齢の高い絵本です。
というより年齢の上限はなく、むしろ下限があるといったほうがいいかも。
もちろん大人だからってみんながみんなおもしろがってくれるとは限らず、小さい人のなかにも心が動かされる人がいないとはいえませんが、わからないものはわからないというのも事実だからね。
ストーリーはひとことでいってしまえば、アダルト・チルドレンの癒しと再生です。
主人公はサーカスのピエロ。彼は自分が小人であることに耐えられず、舞台をおりても白塗りと赤い鼻を人前でとることができない男です。つまり素顔になれないの。
ところが同じサーカスの熊、オレゴンに故郷のロッキー山脈に返してくれ、と頼まれて乗せてくれた二人で6000キロの旅をするのですが、途中トラックの運転手に、なんで顔を塗ったままなのかと聞かれ、とれないんだよ、といささかつっぱって答えると、向こうに“じゃあこの世界一でかい国で黒人やってるのは楽だと思うのかい?”いわれたことで、彼は初めて自分だけじゃないということを悟るのです。
そうして空や風、広い草原、あたたかいくまのオレゴンに抱かれて眠る日々のなかで、彼は少しずつ癒され、遂にロッキー山脈まで辿り着くと、オレゴンはオレゴンに!僕は約束を果たしたぞ!と自分は自分の属すべき人間の世界にもどっていくのです。
森に白い化粧と赤い鼻を置いて・・。
ぼくがほんとにほしいもの
2002/08/30 13:03
主人公は、犬が飼いたいと思っている男の子。でも両親はまったく認めてくれません。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
1976年に日本で出版された時にはそれこそ全くと言っていいほど無反応だったと思います。
おそらく子どもも大人も、この絵本が言っていることを分かる人はまだ少なかったのでしょう。
主人公は、犬が飼いたいと思っている男の子。でも両親はまったく認めてくれません。
で、ある時、うしろをついてきて仲良くなった(そう、誰でもいいって訳じゃないものね、友達は)、犬を一計を案じ、彼は自分の服を着せ、友達のフレッドだよ、といって家の中へ入れます。
子どもには友達が必要と思っていた両親は喜んで迎えてくれますが、なにせ犬ですからどこか変。
で、これまた不安になった二人は、ヘンな友達つくられるより、ペットでもかわせようかしらと思いつきます。
そうして出かけたペット屋で逆に彼は、みんな好きだけど、一番欲しいのはこのフレッドなんだ、といって服を脱がせ、ばらすのです。
それでもダメというほどこの二人は頭が固くはなかったので、フレッドは無事に飼えることになりました。
この両親に悪気はありません。でも正直いって、生きていくのには何が必要で大事なのかというポイントはずれているし、ちっともわかってはいません。
たとえば大事なのは子どもの気持ちより世間体よねとか・・。
そうすると、それを敏感に感じ取る子どもは不幸だ! とは言い切れませんが幸福にはなれないのです。逆にはっきりとこれってひどいことだよね、といってもらえにくい、ということが子どもをよりいっそう苦しめるのです。
ポプラ社に無理をいって1999年にようやく復刊してもらったのですが、(順調に売れてるそうで、ほっ・・。損はさせられないものね。)今の小学生、特に、3、4年生にはとてもウケてしまいました。
こういう真綿で首をしめられるような苦しみ、なんだかよくわからないけどおなかの真ん中にいつもずしりとあって消えてくれない、侘びしさ、せつなさ、悲しみ、ぽっかりと黒い穴のあいたような感覚を感じている子どもたちがそれだけ増えたのでしょう。
一度は読んでやって欲しい一冊です。
なん者ひなた丸ねことんの術の巻
2001/06/01 20:18
少年忍者ひなた丸が大活躍するおもしろい幼年文学。毎日少しずつ読んでやるのに最適です
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
成長期の男の子と、その子を守る保護者的人物の物語を書いたら天下一品の斉藤洋の幼年文学です。
ここには現代の男の子像と男の子が成長するのに必要な要素が全部入っている、といえるでしょう。
忍者一族に生まれたひなた丸の望みは、尊敬するおじいちゃんやお父さんのように早く一人前の忍者になること‥‥。これが第一要素。
そうして稼ぎにいっていていない両親のかわりに引退した忍者であるおじいちゃんが彼を育てていて教育してくれるわけですが、まず物語のはじめに一つ忍術を勉強する‥‥。
彼は早く忍者になりたいですから一心不乱に練習します。そうしておじいちゃんも決して無理なことはさせません。これが第二要素。
そうしてマスターするとお城から仕事が入る。
おじいちゃんは子どものひなた丸にできるかどうかちゃんと吟味して(もちろんひなた丸は行きたくてしかたがないわけです)しぶしぶ出してくれる‥‥。
喜びいさんで出かけたひなた丸は危険な目にあうわけですが、アラ不思議‥‥。その本の最初にマスターした技でみごと脱出‥‥という実に満足できる仕上がりに各巻なっている、幼年文学の傑作シリーズです。
ひなた丸は淋しいのを我慢して暮らしている現代の子どもですが、自分が本当に危くなったら絶対にお父さんやおじいちゃんが助けにきてくれると信じている、守られた子どもでもあるわけです。これが第三要素。
ひなた丸もおじいちゃんも、子どものひなた丸はここまでがんばれば充分、という一線をきちんと持っていて、ひなた丸はおバカな子どものようにオレはできるできる、とできないことまでいわないし、卑怯でも不正直でもないのです。
毎日一章ずつ読んでやるのに最適。一章、15分ほどでおわります。
くまの子ウーフ
2001/05/11 18:33
日本の幼年文学史上、燦然と輝く、神沢利子の「くまの子ウーフ」です。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
子どもなんてのはなんにも考えたりわかったりしていないものだ(だから大人が教えてやらなくちゃ、になるのでしょうか)と思われていた時代に、違うよ、子どもはね、立派な哲学者なんですよ、ということを見事に証明してくれた作品です。
おしっことうんちをするから、ウーフはおしっこでできているんだ、とからかわれ、真剣に自分は何で、できているのかと悩んだり、水不足の時に体の小さなねずみやりすたちからウーフはずるいよ、1人でぼくたち60匹分の水を飲んじゃうんだから、と責められて、でものどはかわくもん、と悩んだり。
あなただったらすぐに返事ができますか?
だれかを、何か殺して食らわなければ生きのびられないと初めから定められているこの地球という星に生まれた私たちは、どこかでそのたべるということだけでなく、その運命と折り合いをつけないわけにはいかず、そういうものに初めてぶつかる小さい子どもたちのほうがむしろ大人より真剣な哲学者にならざるを得ないのです。
大人は、たいてい、ただ単に考えないようにしてるだけで、ちゃんと考えたあげくきちんと自分なりの明確な結論を出して暮らしているわけではなかったりするからね。
“くまの子ウーフ”のお話は幼年文学のかたちで3冊、絵本のかたちで10冊出ています。
生物の消えた島
2001/02/09 13:25
東南アジアの小さな島が火山の爆発で生物が死滅したあと、どのようによみがえってきたかを描いた科学絵本の
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今から百年ほど前、東南アジアで火山の爆発で生物の死滅した島がありました。
この島は世界中の生物学者の注目のまとになり、定期的に‥‥とまではいかなかったでしょうが、調査の対象になりました。
溶岩で岩だけになった島に最初にどんな草が生え、どんな虫がくるのか‥‥この島は生物学者たちの天然の実験場になったわけです。
という話を著者の松岡さんはコママンガ、各種生物のイラスト、解説‥‥絵本ならではの自由なレイアウトで非常に魅力的に解説してくれています。
生物を描いたら定評のある松岡直英ですが、私はたぶんこの絵本が一番好きだなあ。全体のバランスがとてもうまくとれていて気持ちいいんですよ、読んでいて‥‥。
読んであげれば二、三年生からでもわかるし、高校生、いや大人でもこういう話が好きな人は夢中になるだろう一冊です。
いやだいやだのスピンキー
2000/09/01 16:07
どこの家にもある家族間のいさかいですが、どう和解するかが、みものです。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
どこの家にもある家族間のいさかいですが、一度曲がってしまった息子に、良心がどう対処するか、どう和解するかが、みものです。
ウイリアム・スタイグの本はどれも一級品ですから全部おすすめ、と言えばおすすめです。
ちょっと哲学的な「きいろとピンク」にしても、「ジャブサバジャングル」にしても一般的にウケるとは言えないでしょうが、必ずおぉっという読者はいるでしょう。
ただしそういう人たちが児童室の絵本コーナーにあるこういう絵本に辿り着けるチャンスは少ないと思います。
町の本屋に並ばない本、図書館でも図書館員が導いてくれなければ巡り逢わない本、本のみかけやジャンルとホントの読者がずれている本。
ここで紹介できるってラッキーです。
この“スピンキー”も絵本ですが読者対象は高学年から上だと思います。
スピンキー自身、5年生か6年生といった感じですしね。
ひょんなことからヘソを曲げてしまったスピンキーに対し、両親は頭ごなしに怒鳴りつけたりはしません。とりあえず、あやまってあやまってあやまるのですが、いったんこじれてしまった気分はそう簡単にはなおりません。スピンキーにだって、プライドはあるし、そういう年頃なんですから。
そうしてスピンキーは何日もふくれ続け、とりあえず、家族は“思いつくことは全部やった”といえるまでやり、そのあとはスピンキーが自分のプライドを崩さずにどうやってみんなと和解するか、が残されているわけですが、この難問をどうやって解決したかはご自分でお読みになってください。
小学校の5、6年生に一度くらいは読んでやりたい一冊です。もちろん中・高生にも、ね。
アベルの島
2000/08/16 16:18
才人、ウィリアム・スタイグのすみずみまで磨き込まれた珠玉の一作。繊細で美しい、そして児童文学には珍し
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主人公はねずみの青年アベル。
優しくて気立てもいいのですが、息子を手放せない母親にスポイルされたまま、それが苦しいと感じるところまで辿りついていません。美しいアマンダに一目惚れして結婚しても、親の家から出ようなんて思いつきもしないのです。
というわけで本人は何の苦痛も感じてないんですがこのまま中年になったらやっぱり困るよね、と神様だかスタイグだかが考えたのか、ある日ピクニックに行った時にアマンダの帽子が飛ばされたのです。
で、追いかけたアベルは川に落ち、偶然川のなかほどにできた砂州に流れ着いたはいいのですが、そこから出られなくなってしまった。
初めは誰かすぐにきてくれるだろうと思っていたのに誰もきてくれない。
というわけでお坊ちゃんのアベルもようやく自分が生き延びる算段をしなければならないということに気づき、あまりなにもできないのでカエルにまで笑われ、生まれて初めて自分は半人前だったんだ、ということを理解するのです。
そうして一年。
アベルはアマンダ恋しさのあまり、彼女はまだ僕を待っててくれるだろうかと不安になりながらもついに島を自力で脱出し、愛しのアマンダのもとへとんで帰ります。
そうして嬉し涙にくれてアマンダと抱きしめ合った時のアベルはしっかりした一人前の青年になっていた、という、うーん。これって確かに人間を主人公にすると描きにくいねえ、スタイグってやっぱり天才、でも主人公がねずみだと、ティンエージャーたちは気付いてくれないかも、という一冊です。
読んだ後、自分も少しいい人になれた気がする極上本の一冊です。
歯みがきつくって億万長者 やさしくわかる経済の話
2002/06/07 14:39
はみがき粉を自分たちで作って売って、クラス全員大金持になるという楽しい物語。社会の仕組みもわかります
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
はみがき粉を自分たちで作って売って、クラス全員大金持になるという楽しい物語。社会の仕組みもわかります。
昔、道が渋滞しているのはトラックのせいだ、ということに気がつかれないように先手をうって、道をふさいでるのは牛おし車だ、というキャンペーンをトラック会社がやって、怒った牛おし車の行商人たちがトラックと一大戦争をする、「牛おし車大戦争」というとてもおもしろい物語がありました。
ようするに社会のしくみ、というものを楽しく教えてくれる本だったのですが、どうやらこれも同じ作者のようです。
小学校の天才少年‥‥それも黒人なんだけどね‥‥が、歯みがき粉なんて材料代は1セントかそこらしか、かからないのに79セントなんて高すぎる、と製造販売を始め、これが当たりに当たって株式会社までつくり、クラスメート全員、億万長者になる、というストーリーで、途中、歯みがき粉をつくっている大会社から妨害が入ったり、手作りがまにあわなくなって機械を導入しなくてはならなくなったりと、製造販売をするっていうのはこういうことなんだね、ということを今回もわかりやすく書いてくれています。
おもしろい!
日本の児童文学にはこういう発想って、ないよね、と思う。
“手おし車”も、もう一度出してくれないかな、講談社さん。
きき慣れている人たちになら毎日少しずつ読んでやることもできるだろうと思います。
大人にも楽しいです。
ダイコンの絵本
2002/03/22 15:39
ダイコンをつくってみたいな〜と思ってるあなたへ——。
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これは農文協が今がんばって出している“そだててあそぼう”シリーズの一冊…「ダイコンの絵本」——。
タイトル通り、全部ダイコンの話です。
ダイコンはどこからきてどんな種類がありどんなふうに育てるか…大人でも知らないことがいっぱい書いてあって、おもしろいです。
確かに“練馬ダイコン”とか“桜島ダイコン”のように地名がついていることをごくあたりまえに思ってるけど、それってそれだけたくさんコン“とか、地名がついてるダイコンって多くて、それをあたりまえのように思ってるけど、地名がついてるってことは峠を越したらもう違うダイコンがあったってことなんだって話や、大黒さまにはダイコンをそなえる、それもふたまたダイコンに限るなんて、私は知らなかった…。
可愛い二十日ダイコンだって、ダイコンなんだしね。
つくってみよう、育ててみよう(つまり、シロートが)って本なので、農業としてのダイコンは登場してきませんが、一応この本の通りにやったらダイコンってつくれる…つくれそうだ…つくってみようかな、という気にはなるかも——。
ダイコンのつくりかたのテキストとして一番よみやすい本でしょう、大人にとっても、ね。