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PNUさんのレビュー一覧

投稿者:PNU

243 件中 1 件~ 15 件を表示
銃とチョコレート

銃とチョコレート

2006/05/31 23:17

大人だって、冒険したい。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 貧しい移民の子・リンツは探偵ロイズに憧れていたが、偶然に怪盗ゴディバに迫る品を手に入れ捜査に協力することに。
 講談社ミステリーランドの一冊。最初はありがちなお子様向けかと危うく思い込むところだった。なんてエキサイティングな展開なのだろうか!
 そして悪ガキのドゥバイヨルにリンツが虐められるシーンには背筋寒くなるほど。さすが「死にぞこないの青」などの壮絶なイジメられ小説の著者だけはある。キャラ立ちも相当なもので、一読しただけで一生涯忘れられなそうな人物目白押しだ。
 私は今まで発行されたミステリーランドを全巻読んでおり、胸揺さぶる筋立ての島田荘司「透明人間の納屋」、妖美さが印象的な篠田真由美「魔女の死んだ家」、バトルから目が離せない高田崇史「鬼神伝」がお気に入りであったのだが、本書は一等に躍り出た。
 ミステリーランドって、こども向けを意識してるせいかイマイチ読みごたえがないんだよね、そう思っている人にこそ、本書をお読みいただきたい。その印象は、必ずやくつがえされるはずだから。ちょっとスパイシーではあるが、大人もこどもも等しくわくわく出来る、そんな冒険に旅立つことが出来るのだから。

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アゴールニンズ

アゴールニンズ

2005/07/06 09:48

恋して悩んで戦って…

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ヴィクトリア朝を模した世界。ただし、出てくるのは全て竜である。
ヴィクトリア時代っぽい身分制と宗教観を持つドラゴン・ワールド
「ティアマト国」。
父の死に、うら若きドラゴンの姉妹・セレンドラとヘイナーは
それぞれ違う家に引き取られていく。
互いに苦労しつつ、相手を思いやる姉妹の運命やいかに?
ドラゴンにとことんこだわった作りで、人物紹介も
登場「竜物」紹介になっているくらい。
竜ばかりとはいえ、家族を思う気持ちや恋心は人間と変わらず
熱いのだ。ただ…ちょっぴり習慣が違うくらいで。
ヴィクトリア朝には思い入れや興味がない私だったが、
読み進めればキャラクターの魅力ですいすいと作中世界に
引きこまれていった。
物語の中心となるいきいきとしたセレンドラの魅力は
言うまでもなく、微妙に個性の異なる同腹の妹ヘイナーも良いし、
子竜たちも可愛いし、生真面目なペンや善良で苦労人のフェリン、
若々しいエイヴァンやひょうひょうとしたシャーも素敵だ。
そして忘れてはならないのが嫌われ者のフレルトやデヴラクだろう。
彼らはけして好かれないだろうが、
彼らのおかげで物語は躍動感を持ち、引き締まったと思う。

ストーリーはクラシックで典型的に思えるかもしれない。
人によっては都合良いとすら感じるだろう。シンプルでストレートな
恋愛&貴族のお家騒動ものだが、竜世界の風俗や習性
(ここら辺は紹介してしまうと興がそがれるので、
ぜひ読んで確かめてみて!!)が面白く、
味わいを深めて素敵な小説になった。
すべてのドラゴン好きに強力におすすめしたい。

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摩天楼の怪人

摩天楼の怪人

2005/11/09 11:26

名探偵・御手洗潔

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 病床につく大女優ジョディ・サリナスは昔犯した犯罪を告白した…
しかし、それは不可能犯罪。だからこそ、ジョディは容疑を免れていたのだった。ミタライはこの謎を解けるのか!
 美麗なカラー挿画付きの豪華な本格ミステリである。著者「後書き」もあり製作過程やネタ元が知れて面白いのだが、ネタバレしないよう最初から順序よく読むのがおすすめ。
 ようやく、「ネジ式ザゼツキー」以来ようやくの御手洗潔復活である。いちおうシリーズとしては石岡君が活躍する「龍臥亭幻想」が出てはいたのだが、こちらではどうも作中世界にのれなかったのである(それは私がカズミストではなくミタライアンのせいだけではないはずだ)。
 それが本作では違った。しょっぱなから50年前の殺人が明かされ、御手洗が挑戦を受ける…本作は、過ぎし日の名作群「占星術」「斜め屋敷」「暗闇坂」…etc.の流れをくむ、大作にして傑作ミステリーなのだ。これでもかと起こる密室殺人や猟奇殺人にまたたくまに魅了されてしまい、ぐいぐいと引きこまれ、本の分厚さを全く感じぬうちに読み終えることが出来た。挿話ひとつひとつにまで煌めきを感じるつくりで堪能した。
 また猟奇的犯罪を扱いながら、そこに社会派的側面も盛り込まれており、読後いろいろと考えさせられるところも余韻深い。
 無粋なことを言えば、果たしてこの現象は実際に起こりうるものなのか…?など疑念がわきそうな部分もあるが、これだけ酔わせてくれるのならば物語としてアリだろう。
唯一気になったのは、物語における彼の存在が微妙に影が薄く感じられること。御手洗の頭脳のキレは感じられるものの、彼が名探偵という称号に倦んでいるのでなければよいのだが。名探偵・御手洗潔の次の活躍を鶴首して待ちたい。

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最後の一球

最後の一球

2006/12/12 21:18

努力が奇跡を起こすミステリー

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 御手洗と石岡のもとを相談に訪れた青年。そこからリンクしていく途方もない物語は、まさに島荘節と呼びたくなるダイナミックな味わいを持っている。
 最初はタイトルやカバー画からバリバリの球界ミステリかと思い、野球に興味ない私が読みこなせるか不安に感じたのだけれど、読み始めれば杞憂だった。多少最近の作品が薄味だったり強引な面があろうとも、やはりこのお方は凡百の小説家の及ばぬレヴェルのページターナーなのである。
 読み終えて、これは御手洗シリーズでなくとも成立する話だな、と思ったけれど、最初の奇妙なテイスト、そしてラストの爽快さはやはり御手洗の存在あってこそなのかもしれない。
 内容は地味に感じられるかもしれないが、私は好きだ。最後の一球に込められた想いと力に打たれる。
 現代の少し冷酷な歪んだ社会で、第一線に出るわけではないが努力を惜しまず真面目に懸命に生きる人々、そんな人々を暖かな眼差しで見つめ、エールをおくる小説であると思った。

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死体はみんな生きている

死体はみんな生きている

2005/07/01 10:32

コンポストは興味がある。製造工程を考えず、結果だけを見れば、であるが。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

みんなが知ってる火葬、土葬以外に、
遺体がたどる道はあるのだろうか。
あるのだ。
しかも、解剖の献体・医学標本以外の想像もつかない選択肢が…。

著者が体当たりで取材をこなすスゴい1冊。
巻末の資料文献一覧を見ればわかるが、膨大な論文などから
死体の歴史を丁寧に掘り起こしていて興味深い。

そして紙上で終わらず、著者は現場に出掛けていく。
五感を駆使して、その場所でなにが起こっているかを、
若干のブラック・ユーモアを適度に交えながら詳細に記述して
いくのだ。
死を隠蔽する文化に育った日本人には、著者のユーモアや
容赦なき事実の記載が不謹慎に思えるかもしれない。
しかし、著者は両親の遺体をはじめとして、遺体に敬意を
はらっていることはその描写から十分に伝わってくるはず。

各章ごとに驚きの事実が明かされていき、読み終えるのが
惜しいほどの興奮の1冊であった。著者は豊富な文献を調べ
多くの知識を持ちながら、臭いという自然な感情、
研究のためとはいえ数十体の首が並ぶ光景に違和感を覚える
などふつうの視点を忘れない。そこが私のメンタリティに
ぴたりとマッチして、たいへんに興味深かった。

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告白

告白

2005/04/25 09:54

ああ、おもろ。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

河内十人斬りを起こすに至った熊太郎の人生を幼少より丹念に
書き起こす! 内面描写がリアルかつすさまじい衝撃の文学。

かのクラシックミステリ「八つ墓村」の元ネタである
岡山三十人殺しは知っていたけれど、
寡聞にして河内十人斬りは知らぬ私であった。
こんな事件が実在し、河内音頭にまで唄われているとは。
なんだかマザー・グーズになったリジー・ボーデン事件みたいね。

この河内十人斬り、動機だけから見ると金と女という
まことに陳腐なありふれた理由で起こったらしいのだが、
それが町田康の手にかかればあら不思議、高等な頭脳を
持ちながら肉体礼賛主義の農村に生まれ落ちてしまった男の
孤独と苦悩がこれでもかと読者の胸にせまるではないか。
この饒舌さ。人とのコミュニケーション媒体であるはずの言葉。
その言葉が頭脳にあふれるたびに、主人公・熊太郎がより
一層孤独になっていくというパラドックスがたまらない。

多くの疑問を残しつつも、積み重ねられた恨みが激流と
なって噴出するクライマックスは圧巻。殺人を犯す時の、
どこかファンタジックで夢の中のごとき思考の流れにも
魅せられた。常識から考えればメチャクチャであっても、
犯人には犯人だけに納得しうる理屈があるのだろうか。
傑作だ。

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龍時 03−04

龍時 03−04

2004/07/08 17:18

リュウジよ、永遠に

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

サッカー小説「龍時」、最終巻である。

 本作がただのサッカー小説ではない特徴は、タイトルの「03-04」の文字が示すとおり、現実とシンクロしつつ並行して展開していくことにある。現実に2004年夏に開催されるオリンピックでは、スペイン&ブラジルといった強豪がまさかの予選落ちをしているが、小説中では勝ち残っておりリュウジたちと死闘を繰り広げてくれるのだ。誰もが見てみたい&こうであったらいいと思う理想のサッカーが展開していく。選手の葛藤も生々しく、都合のよさや嘘っぽさを極力排除した迫真にみちた描写は、サッカー好きの心をふるわさずにおかないのである。

 主人公リュウジはもちろん、ライヴァル・梶や代表監督はフィクションの存在であるが、現実に存在する選手たちと違和感なく描き上げられているのは驚きだ。たとえば石川・曽ヶ端・田中(敬称略)といった実際のJリーガーたちも出てくるのだが、リュウジをチームメイトとしたら、彼らならこうするであろう期待を裏切らぬ活躍を小説中で見せてくれるのがたまらない。
 実在の選手をキャラクターに起用して小説を描くというのは、同人の世界では普通に行われていることだが、「龍時」は当代随一の書き手を得たことにより見事なサッカー小説として結実していると思う。W杯やJリーグの好ゲームを観戦した時の高揚感そのままに、本作から並ならぬ興奮と充実感を得たのであった。
 
 私はこの優れたサッカー小説が、著者の死という不本意なかたちで断ち切られてしまったことが無念でならない。作家の死は、その中に内包する物語の死であり、それはあまた息づいていた愛すべき登場人物たちの死をも意味していたのだ。リュウジの父は、監督の妻のインタビュウから何を得たのか。リュウジと父が和解することはあるのか。オリンピック決勝の行方は。そして何より、サッカーに全身全霊をかけるリュウジは何処へ行くのだったか?

 あまりに惜しまれて、誰かサッカー通の作家さんに本作の続きを描いてはもらえまいかと祈りたくなってしまったが、もし代作が実現したとしても、それはもう野沢尚氏の小説「龍時」ではありえないのだ。それは、なんと悲しいことだろうか。これから龍時には、様々な可能性が拓けていたはずだった。彼は日本A代表として、ワールドカップ2006年ドイツ大会に出場したはずだ。私は彼の活躍を見たかった。どんなに読みたいことか。今はもう、夢想することしかゆるされないなんて…。 

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チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光

2006/03/16 21:56

大学病院に息づく魅力的な人々

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 東城大学病院の万年講師・田口はいきなり病院長に呼び出され、病院のエース「チーム・バチスタ」の術中死調査を依頼される。これは事故か、それとも殺人なのか?!
 『このミステリーがすごい!』大賞受賞作だが、実に完成度の高い作品。
 出世には縁がないが、心には正義の灯ともす主人公・田口には素直に好感が持てるし、食えない高崎病院長を始めとして脇役一人ひとりに至るまで味があるのだ。キャラ立ちのみに終わらず、プロットも見事である。前半・後半で聞き取りが繰り返されるのを単調と観る書評家もあるが、私は質問者により表れ出でるペルソナの変化に目をみはったので退屈は感じなかった。
 なによりすごいのが、大学病院に息づく魅力的な人々。かつては大学病院にいたことのある私から見ても大変にリアルだ(なるほど著者は現役の医師らしい!)。
 私が読書中感じた疑問は、現実に手術成功率100%ということはあり得ないのに、たとえ3例術死が続いたとしても即座に[事故か殺人か?]と調査に乗り出すものだろうか、という点。だが著者は、ここに漫画の世界から飛び出したかのようなエリート天才外科医・桐生を配することによって、読者の疑問を退けてみせる。
 あと真犯人の動機はやや抽象的に思われるかもしれないが、その世界に身をおいた者なら想像は出来る(許されることではないが)。
 ただ一つ欠点があるとすれば、田口の動物知識が不足していて比喩がやや不正確(例えば柴犬は猪狩りの猟犬にもなる犬なので、あの人のイメージにはしっくり来ない、etc.)なことが挙げられるが、たいしたキズではないだろう。名探偵役の白鳥はそれらしく癖のある憎めない困ったちゃんで、本作一作で使い捨てるには惜しいキャラ。再登場を期待したい!
p.s.白鳥の切り札でもあったアレについては柳原三佳著のノンフィクション「死因究明」が詳しい。

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チョッちゃん

チョッちゃん

2006/02/27 21:58

可愛いよ、チョッちゃん。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 毛が抜け、みすぼらしくやせさらばえたメスの野良犬。どうやら彼女には、子犬がいるらしいのだが?動物好きの一家が、野良だった母犬と心通わせた感動のノンフィクション。
 私はどうやら意地っ張りというか天の邪鬼なところがあって、世間が‘感動’とか‘泣ける’などと言うとわざとそういうたぐいの本は読まぬよう避けてきたのだった。なのになぜこのベストセラーの感動本を手に取ったかと言えば、私がそういう性質をも凌駕する程の犬好きだったからに他ならない。
 表紙カバーの写真で、仲良さげに寄り添う二匹の老犬。それに惹きつけられ、手に取ったのが年貢の納め時、事実に基づいて書かれた本書は、私の感動のツボを押しまくる1冊であった。
 犬の親子の情愛が人間のものと変わらず、尊く素晴らしいものであると知った。そして種を超えて、生き物が信頼しあえるということも。何を言ってもチョッちゃんの奇跡の行動という事実の前には嘘臭くなってしまう。動物好きな人であれば、ぜひ一読してみてほしい。
 血統書付きの流行りの犬種のみをありがたがる人もいるが、チョッちゃん(柴犬ということになっているが、実際は柴系雑種ではないかと想像する)雑種であるから一等落ちるなんて考えは愚かだ。チョッちゃんは元ノラであってもかくも賢く、素晴らしい犬なのだから。
p.s.犬の話だけではなく、捨て猫を救うお話&可愛い猫写真も載っているので猫派な人にもおすすめ!

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アムールヒョウが絶滅する日

アムールヒョウが絶滅する日

2006/02/14 23:03

アムールヒョウは、絶滅してしまうのか?

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

あのジャイアントパンダよりも少なく、今にも絶滅しそうな
動物がいる…それはアムールヒョウ。保護する人々の努力と、
この美しい生物の生態を探るノンフィクション。

ロシアで取材中の著者(TVディレクター)が、ふと出会った
アムールヒョウの剥製に魅せられ、ヒョウの映像を撮ろうと
努力するさまが圧巻。寒さ厳しいロシアの大自然での撮影過程が
ユーモラスなだけに、その後語られるアムールヒョウの危機的状況が
胸にせまる。
人類の繁栄のためなら、動物が一種滅ぶくらいが何事かという意見が
あることは知っている。けれど、人間によって棲みかを追われ、
絶滅の危機に瀕している動物を見て、心痛めずにはいられないのも
また人間である。

巻末には、WWFへのメールアドレスが載っており、
ここにメールするとアムールヒョウ保護募金の講座、
そして保護活動内容などを知ることが出来る。
本書を読み終えて、私も初めてWWFに募金してみた。
出来ることから一歩一歩だが、アムールヒョウ絶滅阻止に
貢献出来れば…と願っている。

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ヴィーナス・プラスX

ヴィーナス・プラスX

2005/06/24 16:58

目が覚めると、一面銀色の空が…

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

目覚めたそこは、奇妙な人々のいる異世界「レダム」だった。
チャーリー・ジョンズはレダム人から彼らのことを学ぶよう
たのまれるが…。

導入がいい。
現代人チャーリー・ジョンズがいきなり目を覚ましたら
奇怪な世界にいるのである。直線ではなく曲線で構成された建物、
そして銀色の空。
その世界レダムで、レダム人からレダムを学んでくれるよう
お願いされたチャーリー・ジョンズとともに読者はレダム世界を
見学して歩くことになる。
SFは現実とは異なる世界観を飲み込むまでに時間を要することが
多いが、本書でははじめからチャーリー・ジョンズは異分子なので、
彼と一緒にまっさらな気持ちでレダムを学べるところが巧い。

男女性別なき人々が住む「レダム」の世界と、
ごくふつうの男女が暮らす「ベゴニア通り」の物語が
交互に展開していく。性別が存在しないレダム、
そして男女の性別が存在し、それによって差別や倒錯や葛藤が起きる
我々の世界との対比が面白い。

特筆すべきは「ベゴニア通り」の世界で、ごく普通の中流家庭の
生活を淡々と書いているのに、妙に惹きつけられる。
それは善き父であるハーブ・レイルと妻子、隣人のスミティたちの
描写がリアルで真に迫っているせいか。
レダムの習俗よりも、ベゴニア通りの方が面白く思えたほど
だった。レダムが抽象的すぎて、レダム世界の説明に
想像力が追いつかぬところもあったしな…。

そしてただでは終わらないのが本作。ミステリーと言ってしまっても、
良いかもしれない。このラスト、謎が解けるところ…
そしてそれによって一変する世界、
我ら現代人ののど元に突きつけられた剣、
それはSFを読み慣れた方には古くさいモチーフであろうが、
私は眩暈に襲われるほどの衝撃を受けた。

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悪童日記

悪童日記

2003/06/03 10:18

醜悪な現実を、ものともせぬ強さ

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

戦時中、空爆激しい〈大きな町〉から、母に連れられておばあちゃんの住む〈小さな町〉に疎開して来た双子の〈ぼくら〉。お母さんは、戦争が終わるまでおばあちゃんのもとにいるよう言い残して去ってしまう。初めて会うおばあちゃんは、近所から〈魔女〉と呼ばれるいわくつきの人だった。
 エゴイスティックなおばあちゃんと、彼女のもとにいきなり放り出された双子とのスリリングな暮らしを描く。フィクションとはとうてい思えぬほどの、リアリティと迫力を持つ1冊。目に快いつくりごとを読み慣れた身には、すごくショッキングな本であった。
 実の孫を「牝犬の子」呼ばわりする、吝嗇家で不潔な祖母。そんな偏屈な老婆との同居なんて、平時であればまっぴらごめんであろう。しかし戦時下においては命あっての物種、ゼイタクは言えないのであった。育ちの良い上品なボクたちが、野卑な祖母によって蹂躙されてしまう話なのか?と思ったが、予想を裏切る驚愕の展開に強く魅せられてしまう。
 祖母からネグレクト同然の扱いを受け、周囲からは〈魔女の孫〉として侮蔑を浴びせられる双子は、驚くべき勤勉さでもって互いに鍛錬し、逆境をものともせず育っていく。そして、自らの哲学に従い完璧なまでの合理性と彼らだけの流儀を追究していくのだ。とても意志力が強い。まるで小さき二人の神のようだ。そして、互いに無関心なようだった祖母と孫との関係は、長きにわたる共同生活によって変質していくように見える。だからこそ、この小説のラストは哀しい。
 人は年齢的に大人になると、自らの子供時代の記憶を封印し、コドモと呼ばれる年若い人たちを無力で純真な存在と見なしたがる。確かに子供には純情で潔癖な一面もある。だが、コドモをコドモたらしめている幼さのイメージは、ただ彼らの人生経験の少なさに起因するのみだ。習慣や希望的観測による事実の誤認なく、真正直にものごとをありのままとらえる能力は、堕落を覚えた怠惰な大人からは失われているのである。そして真っ直ぐな彼らは、まだ妥協や諦念を知らず、押しつけの社会常識に従うこともなく、自分たちだけの正義を貫くのだ。それはこの双子のような超人的なタフさでもって可能となるのだ。
 ピュアで天使のような子供なんていやしない。そう見えたとしたら、それは大人によるバイアスが彼らをそう見せかけているだけだ。彼らは大人になってしまった我々と同じ〈人間〉なのだから。 

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スコープ少年の不思議な旅

スコープ少年の不思議な旅

2006/03/13 21:35

スコープ少年少女のススメ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 手のひらに乗るほど小さな箱の中に広がる無限の世界。写真とイメージ文からなる作品集。
 私は最初勘違いしていて、これらは現実の風景を魚眼レンズを通して撮影したのだと思っていた。読んで驚いたのだが、この迫真に迫った風景は、人の手によって造られたものだというのだ。なんだろう、このリアリティは?!しかもスコープの、光を照らす窓を変えると見える世界は昼から夜になったりするのだ。それも単純な昼夜だけではなく、まだ霞がかった朝や、紅美しい夕暮れ時までが表現可能だったりする。
 こんな小さな箱が、世界を内包するなんて。素敵だ。それはミニチュアのジオラマや箱庭に似ていなくもないが、箱の中に介入出来ず覗きこみ眺めるだけである分、世界への焦燥感にも似た憧憬は箱庭の比ではない。ただの箱としても充分鑑賞に耐えるほど美しいというのに、光によって時間の流れる世界が閉じ込められているなんて、スコープの魅力には抗しがたい!巻末の椅子のなんとまあ小さきことよ。続編を熱望するとともに、次回個展が開かれたら、ぜひとも駆けつけたい。

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「超」怖い話Ζ

「超」怖い話Ζ

2005/07/28 17:33

怪談ジャンキー御用達…真夏には、やはりコレ!

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日本最恐を誇る実話怪談集、
2005年真夏を冷ます傑作目白押しで堂々登場!
ううううん、毎回すばらしいっ!
何が良いかって、じわじわとしのびよる厭な何か、グロテスクの衝撃、
民話のような不可思議な訓話、SFファンタジーとも読める
奇想天外な物語…がぎっしり詰まって輝きを放つところ。

怪談シリーズは巻を重ねるにつれマンネリ化や内容の薄さが
気になることが多いが、2005年にめでたく完結した
「新耳袋」全十夜のシリーズと、
本シリーズだけは毎回バリバリにトバしていて楽しませてくれる。**

実話怪談は二度楽しめる。
一度目は、完全な創作掌編集として信じないで読む。かなり面白い。
二度目は、本当に起きたこととして、もし自分の身に起きたら…と
想像しながら読む。背筋ぞわぞわとして、なかなかに面白い。
もしかしたら、読者の身にも怪異が起きて、
三度オイシイかもしれない。
幸か不幸か、三度目の楽しみだけは、私は未経験であるが。

実話怪談というだけで食わず嫌いをしていてはもったいない。
SFやホラーが好きな向きにも強力にオススメしたい。

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新耳袋 現代百物語 第10夜

新耳袋 現代百物語 第10夜

2005/06/16 11:58

堂々の完結、そして…

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

怪談の名作シリーズ・新耳袋も本作でついに完結!メディアファクトリー版から追いかけた私だが、感無量である。
読んで思ったこと。す・ば・ら・し・い!不可思議な話から心温まる話、そして正統派背筋凍る怪異まで、ヴァリエーション豊かな内容は10冊目の本書でも全く劣らず、マンネリズムにも縁がない。構成もすてきで、既刊と円環をなすさまなど見事の一言。そう、この世に人のあるかぎり、恐怖体験は続く。怪異は決して終わらないのである。
「新耳袋」は完結したが、怪異談はこれからも集めてゆかれるとのこと。さらなる、新たなる幽&怪との素敵な出会いを思うと今からワクワクしてしまう。新シリーズの刊行を鶴首して待ちたい。

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