オレンジマリーさんのレビュー一覧
投稿者:オレンジマリー
勝間和代のインディペンデントな生き方実践ガイド
2009/08/15 11:42
経済的にも精神的にも独立した生き方を目指す。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
元々は兄が勧めてくれた著者だ。
私は母国、日本では親元を離れて暮らした事はなかったけれど、渡米してからというもの親の援助とは無縁の状況下で何年も留学生活をしているし、父親の教育方針の『成人したら親に頼らない』を心がけている。だから、インディペンデント=独立した生き方とはどういう事を、この著者は指しているのだろうと興味を持った。
読み易いな、と第一に思ったのはしっかりと色んな事を定義し、議論している事だ。インディペンデントな生き方とはどういった条件を備えているとか、そういう道を歩むにはどういうふうにしていくべきかとか、分かり易く説明している。面白いと思った点は取り入れ実践し、特に興味が湧かない事は取り入れず、取捨選択は読者にある。私が自分なりに試し、良かったという事も結構書かれていて共感できた点もあったので、自信にも繋がる。移動時間に読書をする、家事しながら英語を聴く、目標を細かく設定して手帳に書き込む、などだ。目標なくして前向きに歩んで行く事は困難な事だと思う。だから、私は元旦に一年の目標を設定し、月々に何を成し遂げるか、今週は何をしなくてはいけないのか、そういう事を手帳に書き込んでいる。目標を達成していく都度、自信にも繋がっていくし達成感も味わえるので、次へのステップアップにも目を向けていける。
そして、社会的な女性の立場を真っ向から検討し、どういうふうに対処していくのが成功の元なのか、そういった事への着手も凄いと思った点だ。確かに、そういう先入観は幼い頃から芽生えたり植えつけられたりしているな、と納得いく事もある。女性向けに仕上げられている一冊なので、女性が男性と対等に社会を渡っていくにはどういった資格が有利で、どういった事が有効的なのかと色んな助言を、作者が自身で得てきたものを読者に提供している。インディペンデントな生き方をするには、どうしたら良いのかというノウハウは本当に参考になる。
女性が何のハンデ(経済力の問題や、就職に関わる事)も無しに自由に生きていくにはどうしなくてはいけないのか、試してみる価値は大いにあると思う事が沢山描かれている。実際にウェンディ(依存して生きていく女性たち)だった著者が自己改革を行い、大いなる成功を遂げてインディ(経済的にも精神的にも独立した女性たち)の部類に入った知恵は自分への励みや参考に成り得ると思う。更なる飛躍、より良い収入を目指す女性達には勢いに拍車をかけ、やる気や勇気を突き動かすきっかけになる一冊だ。
あなたが私を好きだった頃
2005/12/19 11:35
古びたフィルムを観ているよう。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
私はあまり、エッセイに手を伸ばさない。しかし、先日書店へ行った時にふと、本書が目に留まり、そして少し眺めた後、レジにそれを持って行っていた。帯に書かれている「日本にもこんな感性を持っている人がいたんだ! と感動した」というセンテンスがとても気になったのだ。大きな「国」で囲った範疇だ。ページを開くのが楽しみだった。
人は誰だって、人生の中で後悔を幾度と無く経験している。あの頃に戻れたら、とかあの時ああしていれば、とか何かに躓く度に、途方に暮れた時に思ってしまう。
本書は、著者自らの経験を通して書き下ろしたエッセイである。
とある恋人たちの、出会いと道のりと、そして別れ。出逢った時には希望を抱き、途中で雲行きが怪しくなり、そして目の前から道が薄れて行って最終的に別々の道を歩んで行く決意をする。読み終えてまず思ったことは、古びたフィルム、黄ばんだアルバムを観ているようだいうことだった。
過ちというのは、大抵気づかないものだし、運良く気づけたとしても遅すぎる。だから過去に遡ってそれを修復したい、と思うことはごく自然なことかもしれない。
本書の中で、彼女は色々な人の言動に振り回され、そして恋人への不信感を募らせてしまう。感情の移り変わりがやけに自然に表現されているので感心していた。前が見えなくなってしまった時、私だっていろんな人の言葉に耳を傾け、そしてそれを鵜呑みにしてしまうことがある。人の意見は、あくまでその人個人のものだ。自力で導き出した正当な答えではない。参考にすれば問題ないのだが、人はそういう時に冷静さを欠くものだ。
語り口が敬語なので、柔らかく過去を語っているような印象を受ける。現在と過去の境界線が、きっちり引かれているのだ。
登場する洋館の雰囲気、登場人物の心理、風景などがやんわりと描かれている。なんていうか、フィルム越しにそれらを眺めているような、輪郭が掠れているような感じだ。
彼女がなぜ、そういう行動をとってしまったのか、なぜそういう状況を導き出してしまったのか、なぜそういうふうにしか考えられなかったのか、ちゃんとした根拠がある。
女性として共感できることが多い。
セピア色の記憶の断片のような本だ。
きっと私が今、失恋したてだったら思わず涙していただろう。
絶望で終わらないところが良いと思う。じっとりと終わってしまう本だったら、余計に意気消沈してしまうから。失恋の痛みから、一歩を踏み出すのに励みになる一冊と、言えるかもしれない。
真鶴
2008/09/05 02:16
ついてくるもの。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
私は結構単純な読者だ。読んだもの、そのままを受け止める方だと思う。読解力が高い方ではないので、本書は少し読み辛かった。
読み終えてまず感じたことは、よく分からなかったということだった。結局主人公の過去に何があったのかは明かされず、だけど物語の最後には何かと決別し、終わる。
普段、読書をしていると感情の浮き沈みであったり、物語の盛り上がりを感じるものだけれど、本書は一定のテンポで進み、終わる。何かの電波のように途中、少し乱れたりはするけれども、全体的には一定だった。また、平仮名表記が頻出しているので、不思議な感覚に陥る。漢字で表してあれば、また違った雰囲気が漂うだろう事柄が、平仮名で書かれているので主人公は子持ちの立派な大人であるのに、どこか幼さを残しているよう。柔らかいイメージを与えられる。
ついてくる者の存在は、辻仁成の『ピアニシモ』を思い起こさせてくれた。ピアニシモではちゃんとしたヒトとして主人公と一緒に居た存在があったが、本書では他人には見えない、影のような存在が主人公と対話を成す。薄くなったり、濃くなったり、人の形を成したり成さなかったり、男であったり女であったり子供であったりするようだ。
誘われるように幾度となく主人公・京は真鶴へ足を運んでいく。そこではお祭りのシーンもあるが、私にはなんとなく違う世界でお祭りがあって、立体的でないように感じた。活字でも、色んな雰囲気が伝わってくるものだけれど、本書ではお祭り独特の活気が感じ取れない。主人公の心が別にあったからかもしれないし、目的がべつにあったからかもしれない。
幻覚のような現象も、真鶴で主人公の身に起こる。待っても待っても時計の秒針だけが時を刻んで分針が進まく、バスも来なかったり。船が燃えたように見えたけれど、実際は燃えていなかったり。本書を読み進めるにあたって、物の哀れを感じる箇所がいくつかあった。
実体の無い感覚で、終始物語は展開されていたような気がする。京の娘である百と京の母親は日常を過ごし、ちゃんとこの世界にいる。思春期を迎えて親から離れていこうとする百を寂しい気持ちで見守ったり、いなくなってしまった者を想い続ける京。最後は決意を固めて、前へ進もうとする。
川上弘美の作品は初めてではないが、装丁があまりに綺麗で手に取った一冊。川上弘美は恩師高評価し、勧めてくれたので印象的だけれど、個人的には本書よりも『光ってみえるもの、あれは』であったり『神様』の方が好きだ。
世界の果ての庭 ショート・ストーリーズ
2007/03/13 01:12
理解し難い一冊。だけど…
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書についての私の最初の感想が、ちょっと不安でもあったので他の書評を拝読させていただいた。やはり、皆、私と同様に「なんだ、これは?」という感想を抱いている。そして、それが本書の狙いなのではないかと思う。完結する物語はいくらでも存在するが、こうして未完のように完結し、完結しているようで、新たな謎を投げかけている本はあまり見ないように思う。正直、こういう本を手にしたのは、初めてのことなので多少困惑した。
まず、本書はいくつかのストーリーが同時に進行し、展開される。個人的に気になっていたのは、脱走兵の話だ。結果的には脱走しなかった戦友たちが帰国出来、脱走に成功した兵士は帰国出来なかった。では、彼はどこに居るのだろうか?彼は脱走後、巨大な駅?のような場所に着くが、そこがなんとも謎だらけの場所だ。いくら読み進めても、その実体は結局つかめない。そもそも、断続的でにやってくる列車はどこからやってきて、どこに向かうのか?トンネル内の恐怖、追ってくる影の恐怖…。まるで捕らわれの身である。どこにも逃げられない、逃げる気すらくじかれる、妙な場所である。このストーリーの終わりも、なんだか新たな謎である。
次に印象的だったのは、若くなる病気にかかった母親の話である。病院の精密検査の結果は何ともないけれど、どんどん若くなっていく母。娘は最初はつっけんどんに接するが、いつしか深刻に心配し始める。母親が、自分を生んだ年齢に達し、だけど退行は止まらない。人間の成長を、巻き戻したようなストーリーである。
読了後、思ったことは本書を理解することは、とても難しいということだ。専門知識が豊富な人には、嬉しい一冊かもしれないけれど、一般的なレベルの知識しか持ち合わせていない私には、読んでいく過程でストーリーを個々として楽しむことしかできない。決してつまらない本ではないが、思わず気持ちが馳せるような本でもない。理解し難い一冊だけど、新鮮でもある。
催眠 Hypnosis
2005/11/06 01:02
催眠?
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
催眠、と聞いて、何を連想するだろうか?
ちゃんとした専門知識を持ち合わせていない人がほとんどの世の中では、本書に登場する数々のキャラクターと同じ意見を持つのではないだろうか。催眠術にかけられる、意のままに操られるから怖い、などなど。そしてもちろん、私もそう想像する無数の人の中の一人であった。
嵯峨がカウンセラーとして、とある占い師に目をつけて、多重人格の疑いを持つ。私は以前、多重人格者の話をテレビで観た覚えがあった。だから嵯峨が言っていたことにはすんなりと賛同できたのだ。そしてそう疑いを持った理由も、きちんとした根拠が語られている。
朝比奈や倉石、実相寺の視点でも物事を見て語っているので、偏った読み方はしないで済んだ。個人的にはこういう系の本は苦手なのだ。主人公だけの視点から読む本を多々楽しんできた私なので、言ってしまえば不慣れで少々浅はかな読書をしてきたのではないかと、自分のことながら思っている。でも近頃、ミステリーに手を伸ばし始めてからちらほらとこういう語り方の本を手にしている。いいではないか!と単純明快な感想を、持っている。
物語の中盤で大きな横領疑惑が占い師である入江にかかる。その響きは私にとってなぜだか、なんとなく「2億円事件」と似ていた。未だ解決されていない、誰もが知っている奇妙な事件。どんな手法で実行したのかは仮説こそあれど、仮説のままで真実は闇に葬られた。そう、本書に出てくる横領事件の裏にも、私が想像できないでいる何かがあるに違いない、と踏んでいた。最終的に、その事件は解決するのだけど、真実はやはり私が想像していたものとは違っていた。読者の意表を突く。
精神病を患う多くのきっかけは、家族愛の不十分さにあったりするのは結構耳にする。とりわけ幼い子たちは親の言動ひとつで尋常でない影響を与えられ、成長していく。入江もまた、寂しい思いをして成長してきた。親の注意が必要だったというのに、満足な注意を向けられずに。本書は、現代の深刻な問題も兼ねて、読者の誤った催眠に対しての知識を修正してくれる。
友人が何人か、松岡ワールドにはまって出られないでいるのだが、共感です。豊富な知識を基に、奥が深い物語を紡いでいる。催眠には続編があるので、書店へ足を運んだときには買い求めようと思っている。
「和」の食 Vol.2 酒好きのココロをつかむおつまみバイブル
2005/10/17 00:45
日本酒は好きですか?
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
日本人に生まれたからには、日本酒を「美味しい!」と嗜みたい。だけど私はお酒が弱く、ビールはグラス1杯で顔が赤くなってしまう。その後気にせず飲み続けると頭痛はするし、気分も悪くなるから、ワインやビールよりもよっぽど強い日本酒なんて、飲めないな…と半分諦めていた。それに、辛いアルコールは苦手なので、尚更無理かなと思っていた。そう、日本酒といえば、強くて辛い、と先入観を持っていたのです。
ところがニューヨークに住み始めてから兄に、日本酒を勧められて「水みたいだから、本当に。飲んでみなよ」という言葉を半信半疑に思い、一口にぐいっとショットを呷った。喉ごしが良く、するすると通る感じがして、辛くもなくてマイルドだったのです。飲み易い、と真剣に思った。だけど飲み易いからとはいえ、飲み過ぎると後でくる、というのが日本酒らしい。
先入観が実体験によって払拭され、私は少しずつ日本酒にも手を伸ばし始めた。マイルドで、飲み易いものを探して、ショットグラスで1杯飲む程度。正にそれは私にとって「嗜む程度」なのだ。程よく身体が温まる程度。
そして本書との出逢い。日本酒に合った食事やおつまみが載っているのだ。更に日本酒の種類について詳しく書かれている。純米酒とはなんだ、吟醸酒とはなんだ、それに合った地方のおつまみ。
本書に載っている食事をいくつか試しに作ってみたが、とっても良かった。たまに、料理本に載っているレシピで、あまり美味しくない物があるが、本書のレシピは私にはとりあえず合っていたのでほっとした。あさりと白菜の酒蒸し鍋、しょうが雑炊、おろしたっぷりの味噌汁、とろろがゆ、などなど。変わった料理に惹かれる。とくにとろろがゆなんかは、風邪ひいた時にも良いなと思う。
日本酒に合ったおつまみを知りたい、どんな日本酒が自分に合うのか、そういうことに興味がある人には欠かせない1冊だと思う。
友情 改版
2003/11/04 13:01
友情…?
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武者小路実篤の代表作。この、なんとも厳つい名前が気になって本書を手に取ってみた。
読み始めてまず気になったのは「〜せずにはいられない」などの二重否定表現。それが頻繁に出てくるので、強調、強調、強調という感じがしてなんだか強調が当たり前になって変な印象を受けた。
主人公は杉子に恋をして、その恋が要となって物語は動く。
この本に登場する人物は皆そうなのだが、かなり自分中心に語っている。唯我独尊というか…。個人的には好かない性質ですね。
それぞれが想う相手を崇敬し、言い過ぎだって程褒めちぎる。そして相手の言動を自分にとって都合の良い解釈をしている。恋愛って人をこんなにも幸福な気分にさせるのか、と感心した程だ。
主人公の親友・大宮と杉子の想いは途中で察することができた。でも大宮の言動は主人公を尊重していて「友情」を感じたが、クライマックスでその印象は覆された。大宮と杉子の手紙のやり取りを読み、人間て怖いな、などと思ってしまいました。友好的に見えて実際何を考えているのか分からない。当然の事と思えばそれまでだが、自分が心を許した相手が表面と全然違った事を考えていたらショックだと思う。自分の気持ちを殺して友情を優先しろ、とまでは言わないが、もう少し思いやりのある計らいがあっても良さそうなものだ。最後があまりにあっけなくて、拍子抜けしました。
本書を読み終えて、友情の奥底を考えた。友達とまっすぐ向き合って誠実に接しても、相手に伝わらない事だってあるし、自分は誠実だと信じていた事がその人にとっては誠実でないかもしれない。そうしたら人とどう接したら良いか、そもそもそれが分からなくなってしまう。結局は難しく考えずに思うまま接すれば良いのだと思った。
薄い本なのに、読破するまでに結構時間がかかってしまった。最後まで本書に入り込めなくて残念でした。
未来のうてな 11巻セット
2003/10/10 01:43
「うてな」とは?
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恥ずかしい話だが、本書第一巻で私はポロポロ止めど無く涙を零した。あの、健の母の生命の灯火が今にもふっと消え入りそうなシーン、たまらない。感受性の強い高校生の頃読み始めたが、接したことのないタイプのマンガだっただけに、夢中になった。
健の持つ宿命「放浪」、そのせいでいろんな事が身に降りかかる。本人が望んでいなくても。苺ちゃんとの恋仲はどうなるんだろうとハラハラしたが、物語の終盤では立場は入れ替わる。絶えず変化があり、退屈しないマンガでした。
うてな、それに登ることができたなら過去と未来が見渡せる。過去を見ると無数の道をぎゅっと一本に紡ぎ上げる自分が見え、未来を見ると無数の道が開けているという。登ってみたいなと思うけれども、実際登る勇気はなさそうだ。
前世とか来世とか、結構興味を持っている自分であるから、本書はかなり楽しめました。前世の行いが現世に響くのならば、私は一体何をやらかしたのだろうと思う(苦笑)。
最初は全という不可思議な少年の存在とか、北一とか、ゼロとか、架空の世界が目前に広げられて戸惑ったが、慣れるとスラスラと入りこめた。
先日大好きな「アンビリバボー」で観たが、幾度生まれ変わっても魂は変わらないという。ソウルフレンドという、転生してもまた身近にいる友達がいるんだとか。怖いほどの「運命」、私たちはそれに抗うことはできない(らしい)。
だとしたら、自分の魂だけが記憶する運命の人だとかソウルフレンドだとか、現在だと誰にあたるのか気になる。たまにはそういう、現実から離れた世界に身を投じるのもおもしろい。
伊豆の踊子 改版
2003/10/06 18:09
癖があるけれど、悪くない。
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端的に感想を述べると、難しい。誰が話しているのかが不明確な所もあり(私の知識が浅いからかもしれないが)何度も同じ個所を読んだりした。川端康成は初めてだけど、芸者の描写がすごく繊細で素晴らしい。芸者の口紅の滲み、とかふとした仕種の説明。うまく言えないが、現在大活躍している作家の本では味わえない面白みが在る。
本書は「伊豆の踊子」「温泉宿」「抒情歌」「禽獣」から成っている。
三島由紀夫の後書きに記されているように、静的、かつ動的なデッサンによって的確に組み立てられた処女の内面は、一切読者の想像に委ねられている。川端康成が、読者に与えるのはあくまで輪郭だけだ。あとは読者それぞれが彩色してゆく。 本を読むという行為、それは単純に目で字を追うだけではない。想像力を駆使し、活字を自分なりに映像に起こすことも可能だ。楽しみ方は人それぞれだがそういう意味で、物語を原稿用紙に活字としてカタチにしていく作家というのは偉大だと思う。
二十歳の主人公は自分の性質が孤児根性で歪んでいると厳しい反省を重ね、その息苦しい憂鬱に堪え切れないで伊豆に赴いた。全然関係ないが、旅人という言葉を思い浮かべると松尾芭蕉が浮かぶ。そこで旅芸人一行と出会い、行動を共にし、そして最後はその旅芸人たちと別れるというストーリーなのだ。宿でのエピソードやその街でのエピソードが多いが芸人の生活も窺える。ものすごく感心した表現をいくつかあげてみる。
私には分からない古風の不思議な形に大きく髪を結っていた。それが卵形の凛々しい顔を非常に小さく見せながらも、美しく調和していた。髪を豊かに誇張して描いた、稗史的な娘の絵姿のような感じだった。(P9)
水死人のように全身蒼ぶくれの爺さんが炉端にあぐらをかいているのだ。瞳まで黄色く腐ったような眼を物憂げに私の方へ向けた。身の回りに古手紙や紙袋の山を築いて、その紙屑のなかに埋もれていると言ってもよかった。(P10)
私は涙を出委せにしていた。頭が済んだ水になってしまっていて、それがぽろぽろ零れ、その後には何も残らないような甘い快さだった。(P45)
この旅を経て主人公が得たもの、川端康成は明言していないが私なりの答えを抱けた。甘い快さを胸に、読み終える事ができた。
インストール
2003/08/03 19:05
文章力はすごい。でも…
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
奥が浅い。辛口かもしれないが、若さの勢いでドーンと書けた印象を受ける。もし次の作品が発表されても読みたい、という感情は正直湧かないな…。
高校生でこの文章力というのは、あるいは可能性かもしれない。まだまだ若いのだから、いくらでも磨けると思う。てきぱきとストーリーを進めているせいか、深みの点で欠けている。さすがに処女作で現役作家陣と比較するのは酷なので、やめておくが文章は勢いだけでは完成しないよ。深みやバランス、そういう技術を磨き上げてから挑戦するならまた挑戦して欲しい。あとはもっと多くを見て多くを感じて多くを読んで、感性を豊かにして欲しい。感動を味わうだけ心はいろんなことを吸収すると思います。
話題になっているから(最年少の受賞者という)買ってみたが、再読の予定は今のところない。あるいは同年代の人達なら、思いを分かち合えるかもしれない。
源氏物語 巻1
2010/08/21 01:38
平安時代に誕生した不朽の名作。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
古典の授業では、何度か現代語訳に苦労した古い古い長編小説、源氏物語。学生だった私が光源氏に抱いたイメージは、女性好き。平安時代では当たり前だったのか、帝や貴族が幾人もの妻を抱える世。瀬戸内寂聴さんの手によって、不朽の名作として長年伝えられてきた長編が現代語訳されたものなので是非読んでみたいと思って手に取った一冊です。
光源氏の誕生から描かれている。授業では、どの章をやったのかは全く覚えていないけれど、光源氏がなんとも美しい容姿を持って生まれた事を思い出した。そうだ、美男子なんだ、とページを捲る手は早まった。けれど、物語の中に数々登場する短歌だったり、絶対敬語であったり読みにくさも感じられる。表現が大げさだな…と、正直思った箇所もいくつかあった。
光源氏が度々使う、前世からの縁、という言葉。出会う女性出会う女性にそんなふうに感じられることが真剣である表現なのかもしれないけれど、それがかえって滑稽にも映ってしまったり。妻がありながら、他所の幼き可愛らしい姫を理想の女性に育て上げたいという発想もちょっと引いてしまう。現代を生きる私から見ると、異常さを感じずにはいられない流れもある。
これだけ年月を重ねても伝わっている小説なのだから、何かしら絶対的な良さがあるに違いないと思うけれども、巻一では光源氏の女性に対する真剣さや母親の面影を追う姿などがちょっと滑稽に映ってしまって評価は低めです。現代の小説を読む感覚で読み始めたことの結果だと思うので、巻二からは文学に触れる心境で読み進めたらいいかもしれない。古典文学の面白さや魅力が分かっていれば違った読み方が出来たかもしれない。古典文学も楽しみたいという気持ちもあるので、色々と次への対策を考えています。
流しのしたの骨
2007/09/10 00:25
風変わりな家庭の日常。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
江国香織の本を手に取ったのは、いつぶりだろうか。まだ十代の頃に恩師に借りた数々の書籍の中に、江国香織の本が混ざっていたのは覚えている。大人で、ちょっと切ない空気を纏っているストーリーが印象的な作家だ。当時の私はまだ子供で、どうにも解せない何かがあったように思うけれど、年月を経て経験も積み、今読んだら昔理解できなかったことも理解できるかもしれない、と単純な動機で読み始めた。
語り手は、三女のこと子である。
家族のメンバーはそれぞれ個性ある性質で、特に他の家庭に傾注したことがない私にとっては、ちょっと不可解でもあった。日本の家庭、というよりは海外の家庭、という範疇に属する方が自然な気もした。
決まった朝食、半熟たまご、セイロン茶2杯、温野菜にバナナ、を長年摂り続けている家族。途中、突然昔見た覚えのある「山折り」とかそういう言葉が出てきて、何だろうか…?と訝しがっていると折り紙の作り方であったり。中学生の弟を「小さな」と呼称する三女。
興味深かったのは、両親がそれぞれ一致はしないがきちんと確立された意見の持ち主だっていうことだ。特に納得してしまった彼らの意見は、結婚に対するものである。結婚した長女が帰ってきて泊まっていくことに、二人は良くは思わないその理由。私が知る現実の家庭は大抵、里帰りすれば親は喜び、是非泊まってゆっくりしていけと勧めさえもする。だけど、本書のこの家庭は違った。
家族のメンバーそれぞれ、お風呂に費やす時間も違う。概して男性は短いように思うが、この家庭では次女のしま子がカラスの行水。だけどここで、私は自分の家族の事を考えた。一番長湯をするのは、意外なことに長兄である。こんなこと、何かのきっかけが無ければ一切考えないことだ。本書では「あ、そういえば…」と自分の家族を振り返る機会がたくさんある。
季節感も豊富に描かれているし、終盤では江国香織らしさを満喫していた。あとがきでは、変な家族を描いてみた、と記されているけれど本当にその通りである。日常の、普段は気にも留めないことなんだけど、こうして小説を通して見ると不思議なものである。これから先、ふとした時に本書を思い出しては自分の家族のことを考えるかもしれない。
切羽へ
2010/11/25 06:07
島の暮らし。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
第139回直木賞受賞作。これまで読んだ、直木賞受賞作は興味深く、面白かったので本書を友人が貸してくれると言って差し出してきた時にはすごく嬉しく、またわくわくしました。一体、どんなストーリーなのだろう、初めて触れる作家さんだな、といった感じに心が弾んでいました。
まず始めに、島の雰囲気、暮らし、景色、方言、郷土料理などが細かく表現されていて驚きました。特殊な魚の呼び名、料理名には当然馴染みも無く、読んでいるうちになんとなく南国の、九州辺りの島ではないかなと思ったりもして。従兄弟が話す方言に似通うところもあったからかもしれない。
本書の帯に書かれていた文章には、切羽の意味がこめられていました。『「切羽」とはそれ以上先へは進めない場所。宿命の出会いに揺れる女と男を、緻密に描ききった哀感溢れる恋愛小説』とあります。だから、恋愛小説なんだ、久しぶりだなという思いもあったし、そのつもりでページを捲っていくと、主人公の女性は既婚なので、まさか不倫の話なのかなと思いました。
どちらかというと、宿命の出会いに揺れる女と男という表現はそぐわない気がした。というか、どの二人?という疑問も湧いてきたほどです。それくらいそっけなく、ちょこちょこと主人公の親しい女友達のちょっかいがあり、物語は終幕へと向かっていったので面食らった。何かを遠まわしに、言わんとしているのか分からないけれども、何も構えずに書籍と向き合う私には理解できなかった。少なくとも、これまで恋愛小説と定義されてきた書籍とは違うカテゴリーに属しているようでもある。
馴染みが全く無い小島の雰囲気や郷土料理の表現には拍手を送りたい気持ちです。けれど、ストーリー的には曖昧だったので星は3つです。もっと、ストーリーに合ったキャッチコピーを考えた方が一般の読書家さんたちには馴染むだろうし、期待も裏切らないと率直に思いました。
最後の息子
2006/09/04 02:18
新しい世界との出逢い。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
最初に、登場人物の呼び名がニックネームであることに私にとって新鮮味があった。特に閻魔ちゃんについては、私はてっきり「女性」だと思っていたんだけど…実は。
吉田修一は、芥川賞受賞者だっていう知識しかなかった。高校時代の世界史教師の趣味が読書で、誰かオススメの作家はいますか、という私の問いに対しての答えが、吉田修一だった。
本書は、その先生が交換留学する生徒たちの付き添いでアメリカを訪れ、ついでに行うことになったNY市内見学で、NY在住の私を訪ねてくださった時に手土産として頂いた。
読み始めてまもなく、今までに感じた事のない雰囲気を本書から感じ取り、多少戸惑った場面もあったが徐々に慣れた。初盤では気付かなかったけれど後に主人公と閻魔ちゃんが付き合っていると記されていて、ただの同居人としか思っていなかった私には衝撃的だった。同性愛をちらほら匂わすストーリーだが、深刻なものではなく、一つのストーリーとして見事に紡ぎあげられている。
閻魔ちゃんは、いわゆるオカマだが「彼女」の「女」としての感情が終盤で弾ける。変わり行く時代の流れをとらえた、彼女なりの「姑」に対しての個人的な意見には、はっとするものがある。私はまだ未婚なので姑という人がどういうふうに映るのか、どういう付き合いになるのか分からないが、きっと同性である限り、摩擦は起こるだろうなと思う。
主人公が閻魔ちゃんに愛されるために明かさない秘密が詩を書くことであったり、愛されることを計算しての振る舞いが興味深かった。他者にとっては「そんなこと相手が知ったって、相手の気持ちが冷めることない」ってことでも、当の本人には重大なことだったりする。そしてそういうことを上塗りしていくために、自分の心に正直になれない。だから、すがる閻魔ちゃんに対してひどい仕打ちをしてしまったり、さらに悪い偶然が重なって閻魔ちゃんは出血してしまったりして…痛々しいシーンもあった。愛されるために、嫌われたくないから冷たく突っぱねたりする。
短編だけれども、その短いストーリー上では人間らしい感情が浮き沈みしている。そして最後の、主人公の「お腹が空いています」の言葉の裏には色々な感情が渦巻いているだろうなと、そう思った。
すみれの花の砂糖づけ
2003/08/18 12:55
短い文章に溢れる愛。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
30分も費やせば、読めてしまう詩集。もちろん詩を解する心を持つ方は、もっと時間を費やして堪能できるだろう。
私は国語の授業でしか詩と触れたことがなかったが、著者が江国さんなので読んでみようと思った。詩というのは短い文章で、伝えたいことを簡潔に、しかし深く伝えなければならない。読者の心を揺さぶるような、ぐっとくる詩も世界には多く存在するだろう。私が知る詩人は、無知もいいところで、ゲーテや俵まちさんくらいだ。
江国さんは不倫や女性の心を、それは美しく麗しく描くことができる。不倫と聞くと、テレビ番組で特集されている、ドロドロした関係を思い浮かべるが、江国さんの描く不倫には粘性がない。それどころか嫉妬心までもが煌びやかな姿をしているのだ。それにはさすがに恐れ入った。
しかしやはり小説、詩、そういった文章上のヒトのココロというのは虚構だ。ありのまま、現実を描いて夢を砕くようであれば、私の小説への関心は氷原と化するだろう。何かへの関心とは、色彩豊かでなくてはつまらない。
あたしはリップクリームになって
あなたのくちびるをまもりたい
日ざしからも寒さからも乾燥からも
あなたのつまのくちびるからも (P62より引用)
愛しいと想う心が浸透します。発想がとても素敵な詩です。
どっちみち
百年たてば
誰もいない
あたしもあなたも
あのひとも (P136より引用)
空しいですね。百年経てばいなくなる、そんな99%確実なことをこういうふうに詩に生かすと物寂しくなります…。
時間は敵だ
ときが経てば傷は癒される
せっかくつけてもらった
傷なのに (P148より引用)
傷をつけた張本人を、忘れたくないのでしょう。普通は、傷を癒したがるものなのに。それを嘆いているようです。
霧海に佇んでいるような気分になります。ふと立ち止まり、見渡しても方向を示すものは何もない。詩の中に溢れる、愛が沁みる。