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るーくさんのレビュー一覧

投稿者:るーく

8 件中 1 件~ 8 件を表示
岳 1 (ビッグコミックス)

岳 1 (ビッグコミックス)

2006/09/09 13:50

遭難者

19人中、18人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

山岳救助ボランティアの三歩は、遭難者を発見すると、まず「良く頑張った。」と声をかけます。
体中−頭蓋骨までも骨折し、ヒューヒューと息を吐くだけの遭難者に向かって、「そうだね、わかってる。心配ないよ。」と声をかけます。
「君の家の今晩のおかず、何だろうね。」
遭難者を背負って運びながら、絶えず声をかけ続けます。
この作品の遭難者たちは、山を甘く見た軽率な登山者ではありません。
事前に準備をしても事故に遭うことはあるでしょう。
中には生きて戻れない人もいるでしょう。
生きて戻れたとしても、遭難者はものすごい孤独や恐怖に怯えた時間を過ごすはずです。
作者はそういった遭難者の孤独・不安・死の恐怖を丹念に描き出します。
「良く頑張った。」
発見された遭難者にとって、その一言がどれほどの安堵感を与えるか。
それは想像に難くありません。
山を知り尽くした三歩だからこそ言える優しい一言だと思います。

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だれが源氏物語絵巻を描いたのか

だれが源氏物語絵巻を描いたのか

2005/11/19 08:30

変わらないもの

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日本人なら誰もが知っていると言って過言ないであろう「源氏物語」。
この物語を題材にして数々の絵が描かれてきたようです。
その中でも傑作とされる国宝・源氏物語絵巻。
それを描いたのは誰か?
“誰”というのは特定の画家一人を指すものではありません。
国宝・源氏物語絵巻は多くの人の共同作業で作成されたものだそうです。
筆者が問題としているのは、その共同作業がこれまで言われてきたような男性の専門家集団ではなく、女性の素人集団ではなかったかということです。
もちろん、筆者は、専門家や男性の手が入っていることを否定はしません。
しかし、男性らしからぬ人物の描かれ方・構図・配色などに注目します。
そして、才能と技量のある女房を中心に、姫君や高貴な女性を含めた沢山の女性の手によって“楽しく”作成されたのではないかと考えているのです。
なぜ、そのような考えに至ったのか。
長年美術教育に携わってきた筆者は、女の子と男の子、女性と男性では、描く対象も描き方も違うことに気付いていました。
そして、国宝・源氏物語絵巻の中に、女の子の女性の描く美意識を見出すのです。
変わらないものがある。
そう言われることがあります。
でも、それが何なのか、意外と思いつきません。
もし、一千年前の女性と同じ美意識を共有しているなら…
なんだか誇らしい気持ちが湧いてきます。
そして、もし、あなたに女の子のお子様がいらっしゃるなら。
彼女の描く、星がきらきら輝く目をした、微笑む王女さま。
それは、個性のないステレオタイプの稚拙な絵なのではなく、女性らしい美意識の表れかもしれません。

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きみがぼくを見つけた日 上

きみがぼくを見つけた日 上

2008/08/05 17:08

カバーを見るだけで涙ぐんでしまう本

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

草原で何かを祈る少女。
きっと少女の頃のクレアなんだろうな・・・と思うと、目頭が熱くなり涙が浮かんできます。

原題が「The Time Traveler's Wife」というこの作品。
その名の通り、タイムトラベラーのヘンリーと彼の妻となったクレアのお話です。

ヘンリーは、自己の意思とかかわらず時間旅行をしてしまうタイムトラベラーです。
どの時代の、どの場所へ送り込まれるのか、ヘンリー自身にも分からない。
移動はまさに身一つ。衣服ですら、運ぶことはできません。
タイムトラベルの直後にやるべきことは、まず身の安全を確保し、衣服を手にいれ、いつどこにいるのかを確かめること。
タイムトラベルという奇癖はヘンリーを悩ませ、彼を命の危険にさらし、彼を愛へと導きます。

クレアのもとに留まりたい。
クレアのもとに帰りたい。
そう願うヘンリーの意思に反して、彼はタイムトラベルを続けます。

ヘンリーがクレアに出会ったのは、クレアが六歳の時。
それ以来、クレアはずっとずっとヘンリーを待っていました。
少女の頃は、彼女の時代にヘンリーが会いに来てくれることを。
結婚してからは、彼女のもとにヘンリーが戻って来てくれることを。

彼に会えますように。
彼が無事でありますように。
祈る姿がカバーの少女に重なり、涙を誘います。

内容も、原題も、邦題も、装丁も素敵な一冊です。

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ルポ貧困大国アメリカ

ルポ貧困大国アメリカ

2009/08/17 12:53

なぜ教育や医療は国が行うべきなのか

8人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

災害対策、教育、医療が民営化され、格差が広がり貧困層が増加、固定化していくアメリカ。
貧困層の行きつく先の一つとして戦場(兵士としてであれ、民間人としてであれ)が挙げられている。

筆者は教育や医療は国が行うべきものであることを前提としているが、なぜ教育や医療は国が行うべきなのだろうか。
なにをバカなことをと笑う人もいるかもしれない。
教育や医療は国が行うべきであることは当たり前ではないかと笑う人もいるかもしれない。
でも、それが当たり前ではないから、民営化するべきだと考える人がおり、実際に民営化されて(されそうになって)いるのではないだろうか。

民営化するとアメリカのように悲惨な結果になるから民営化してはいけないのだろうか。
私はそうではないと思う。
結果が悪いからではなくて、もっと根本的な理由があると思う。

根本的な理由を考えていないから、根本的な理由について理解がないから、根本的な理由について社会的合意がなされていないから、ぶれが生じ、隙間につけこむ輩が現われ、隙間に転げ落ちる人が出てくるのだと思う。

筆者はこの根本的な理由が日本国憲法25条にあると考えているようだ。
ただ、その論証が弱い。ないに等しい。
そこが一番大事なところのはずなのに。
それとも、読者一人一人に何が問題の出発点なのか、何が根本的な問題なのか、それについて疑問を抱き、それぞれに考えて欲しくて、敢えて書いていないのだろうか。

私は教育や医療を国が行うべき理由は憲法25条ではなく、憲法13条の問題だと思う。

日本国憲法第13条には、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と書かれている。
一方、日本国憲法第25条1項には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と書かれている。

人は感情を持つ生き物だ。
それぞれが感情を持ち、全ての人の感情と全ての人が感情を持つことは尊重されなければならない。
例えば、奴隷制度が許されないのは、人を道具として扱い、道具とされた人の感情とその人が感情を持つことを無視するからではないだろうか。

自分の感情や人の感情を尊重する生き方、それは人格的に生きることだ。
感情は学習することで深化する。
より人格的に生きるために、学習、教育が必要なのではないだろうか。

生存が脅かされると、生きることに精一杯で、それ以外のことに関心をもったり、感情を持ったりすることが困難になる。
生存が脅かされる状況では、人は人格的に生きることができない。
だから、医療や福祉によって安心して暮らせることが人格的生存に必要なのではないだろうか。

そして、人格的に生きることは個人的な問題ではなく、国民全体の(そして人類全体の)問題であるから、人格的生存に必要な教育や医療は国が行うべきなのではないだろうか。

憲法25条に書かれてる健康で文化的な最低限度の生活は、その生活が目的なのではなく、手段だと私は思う。
だから、私は教育や医療を国が行うべき理由は憲法25条ではなく、憲法13条の問題だと考える。

貧困ビジネスや戦場ビジネス(この本に書かれている貧困層をターゲットにした軍事関連のビジネスを総称する私の造語。)が許しがたいと感じるのは、ビジネスの主体が人を金儲けの道具として扱っているからではないだろうか。
金儲けが許しがたいのではない。
人を道具としているところが最低なのだ。

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瞳に輝く星

瞳に輝く星

2005/02/28 19:33

何度でも読みたくなるロマンス小説

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

リンダ・ハワードの作品の中でも大好きな作品です。
サスペンス色は薄く、ロマンスが中心のお話です。とはいえ、サスペンス部分も、ヒロインとヒーローの関係進展に大きな影響を及ぼしていると思います。
最初は反発しあっていた独立心の強いお嬢様とたくましい隣人の牧場主の距離がどのように近まっていくのかが読みどころです。ヒーローがヒロインを温かく見守り愛情を深めていく過程がとても心温まります。意地悪なライバルが登場することも無く、ある意味安心して読める展開です。

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殺人の門

殺人の門

2005/12/20 01:53

上手くなりすぎた代償

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

面白かったです。
読み始めたらとめられません。
でも・・・
読後に不快感が残るというか、なんだか納得がいかないのです。
この作品の主人公は、資産家の家に生まれながら数々の不運に見舞われ、坂を転がり落ちるように転落の人生を歩みます。
彼の人生の曲がり角にはいつも小学校の同級生の影がつきまといます。
主人公は、なぜ同級生を警戒していたにもかかわらず、彼の思惑を見抜き彼から離れられることができなかったのか。
同級生は、なぜそこまで主人公を憎まずにはいられなかったのか。
その理由ががよく分からない。腑に落ちないのです。
また、この作品には、同級生に騙され続ける主人公の弱さと、主人公を生殺しにしようと足を引っ張り続ける同級生の憎しみの軌跡が描かれています。
こういった人の弱さや憎しみといった暗い題材が描かれるとき、それらは無色透明なものとして描かれるのではなく、必ず作家の思いが透けて見えると思います。
例えば、弱さや醜さを持つ人間に対する作家の悲しみが感じ取れると思うのです。
ところが、この作品からは作家の気持ちが見えてこないのです。
たかが小説であっても、描かれるのは人の生活であり感情です。
そこには作家の、読者の感情が生まれるはずです。
それなのに、作家は何を考えて何を言いたくてこの作品を書いたのかがわからない。
そのために、単に作品を面白くするために人の人生や感情がもてあそばれたように感じられて不快なのです。
本当は作家の感情が込められているのかもしれません。
ただ、巧妙すぎて読者にはそれが感じ取れないのかもしれません。
でも、そこまで上手くなることはないのではないでしょうか。
かつての東野作品の特徴だった青臭いほどのセンチメンタリズム。
それが技巧の向上とともに失われたことが、長年のファンとしては寂しい限りです。

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ずっとあなたが

ずっとあなたが

2006/10/11 16:15

これはロマンス小説ではない

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「Amazon.com」読者レビューで大絶賛されたスーザン・ウィッグスの現代物です。
スーザン・ウィッグスといえば、ロマンス作家に分類できると思いますが、この作品はロマンス小説なのでしょうか?
ロマンスがないというのではありません。
ロマンスを超えているという意味で、ロマンス小説ではないと思うのです。
元ハリウッドの大スターを父に持つミシェル。
離れて暮らす父親は、ミシェルにとって時折現れるだけの知らない人だった。
十六歳で母親を亡くしたミシェルは、父親との絆を結ぼうと彼の牧場に滞在するが、恋人サムとの関係をめぐり傷つけ合い決裂してしまう。
17年後、父親の病気を知ったミシェルは、腎臓を提供するため、そして絆を取り戻すために牧場に戻ってきた。
サムはミシェルの父親の牧場で働く牧童だった。
サムは父親の顔を知らない。家族はアルコール中毒の母だけで、彼女がトラブルを起こすたびに逃亡するという放浪生活を続けてきた。
サムはミシェルを愛していたが、母のトラブルが原因で牧場を去らなければならなくなった。ミシェルにさよならを言うことすらできなかった。
17年後、モンタナに戻っていたサムは、戻ってきたミシェルに再会する。存在すら知らなかったサムの息子も一緒だった。
邦題を見ると、ずっと一人の人を愛し続けたロマンス小説のような印象を受けます。
確かに、サムとミシェルはお互いのことを心の底で愛し続けてきました。
でも、ミシェルは実はサムのことを何も知らず、サムもミシェルのことを知りませんでした。
サムは息子が存在したことすら知らず、息子もサムという父親の存在を知らずに育ちます。
また、ミシェルは父のことを知らず、手術を前にして父が何を考えているのか理解できません。
さらに、ミシェルは反抗的な息子のことが理解できなくなっています。息子も母であるミシェルのことを知っているとはいえません。
お互いがお互いを「The You I Never Knew」(原題)という関係なのです。
そういった関係を、病気と再会をきっかけに、それぞれが改善しようと努力する姿が描かれています。
この作品は、父と娘、祖父と孫、二組の母と息子、父と息子、祖母と孫という様々な絆がテーマとなっている点でロマンス小説を超えている、だからロマンス小説ではないと思うのです。

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捨て首

捨て首

2006/04/17 09:15

父子の事件簿

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「捨て首」は、時代小説大賞の最後の受賞者・押川国秋さんが描く、南町奉行所定廻り同心日下伊兵衛とその息子新一郎の事件簿です。
しかし、五十歳の伊兵衛が直面する問題は市中の事件ばかりではありません。
息子に仕事を譲るべき潮時。
冷え切った夫婦生活。
親子ほども年の離れた妾との関係。
同心としては優秀な伊兵衛ですが、個人的な問題の解決は不得手。
妻や妾の気持ちに無関心で、自分勝手で、愛とか情といった大切なものが欠けている。
自己をそう分析する伊兵衛は、どうやって身辺の問題を解決していくのでしょうか。
一方、新一郎は父から優秀な手下を譲り受け、新米同心として事件解決に乗り出します。
そりの合わない上司を扱いあぐねながらも、周囲に助けられて実力をつけていく新一郎は父を凌ぐ名同心となれるのでしょうか。
また、両親の不仲を目の当たりにし、自らは苦い片思いを味わった新一郎には、今後どのような出会いが待ち受けているのでしょうか。
中年・伊兵衛と青年・新一郎はそれぞれの問題にどう取り組んでいくのか。
今後の展開が楽しみです。

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