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  3. GAWAさんのレビュー一覧

GAWAさんのレビュー一覧

投稿者:GAWA

30 件中 16 件~ 30 件を表示
日本はなぜ敗れるのか 敗因21カ条

日本はなぜ敗れるのか 敗因21カ条

2004/11/24 00:03

山本七平は常に新鮮である

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

山本七平氏の著作にはじめて触れたのは、学生時代(十数年前)のことである。湾岸危機だったか湾岸戦争のころに氏の逝去を悼む記事を読み、それがきっかけで読み始めた。以来学生時代のうちにおよそ入手可能なものはほぼ入手したし、何年か前には文春から全集も出たので単行本でそろえられなかったものだけを買い足して私設「山本七平ライブラリー」を完成したつもりでいた。
ところが、没後十数年を経てまったくの新刊書が出た。
読み終えてしみじみとおもったことは、結局その後の日本は山本七平氏の提起した課題に何一つ応えていないということである。

数年前小林よしのり氏の「戦争論」(幻冬舎)を読んだ時にある違和感を感じだが、結局それは、補給無視・現地事情無視・思考停止の政府・軍首脳によって遂行された戦争を手放しで称揚することはできないということに尽きる。

小林氏(及び「つくる会」)のあの当時における一連の活動の意味は、戦後50周年以降勢いを得た懺悔ムードという「空気」を、雲散霧消させるために別の「空気」を持って来たに過ぎないのではないかと考えられる。

所詮「空気」は「空気」にすぎず、情勢が変われば雲散霧消し、実態を正確に把握し、失敗があったのであれば原因を究明し、再発を防ぐべく対策を講じるといった方向へは結びつかないものであるという趣旨のことを山本氏は「空気の研究」で述べておられたと記憶している。
つまり、実体のほうは何一つ変わっていないのに情勢次第で変わったような気になっているに過ぎないというのが日本社会の実態なのである。

私は会社に入ってかれこれ十年近くなるが、本書の記述で身につまされるような箇所がいくつもあった。自分の勤める会社が大日本帝国のようにならないよう自分に何ができるか考えるためにも本書をはじめ、山本氏の著作を何度でも読み返さねばと思った。

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太平記 古典を読む

太平記 古典を読む

2007/06/10 12:34

古典「太平記」をかいつまんで読む

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「はじめに」で永井路子氏は「『太平記』は決して南朝びいきの書ではない。もっと複雑な中世的歴史観をふまえた魅力ある歴史小説である。」(p9)と述べている。

本書を通読して自分もそう思った。

まずは、軍記物というだけあって、戦闘シーンの描写は実に生き生きとしていて、まさに血湧き肉躍るといった印象を受ける。敗れた武将たちのそれぞれに壮絶な最期も過剰なほどに劇的で読むものに衝撃を与える。
また、ところどころに挿まれる怪異譚についても、さまざまなことを象徴していて「太平記」の政治観・歴史観が一筋縄ではいかないことをうかがわせて興味深い。
それから、南北に朝廷が分立して以降の、日本全土を巻き込んで骨肉が相食み、敵と味方がコロコロと入れ替わる文字通り血みどろの権力闘争の記述も、政治というものの本質・人間というものの本性について深く考えさせられる。

翻って考えてみると、中学高校の歴史の授業でこの時代について習ったことは、「一味さんざん北条氏」で1333年に鎌倉幕府が倒れて、後醍醐天皇が建武の新政で、足利尊氏が室町幕府の初代将軍で、南北朝は3代義満の時に統一される、、、と言った程度のことだったような印象がある。確かに、中高生程度の頭では南北分立以降の騒乱にはついていけないだろうし、戦前の皇国史観の反動からいろいろとデリケートな問題を含んでいる時代だからあまり深く触れないことになっているのだろうか。

ともあれ、非常に面白かった。

本書は文庫本で276ページとなっており非常に読みやすい。
「太平記」全巻をかいつまんで要旨をのべつつ、一部逐語訳に近い現代文を原文と並べて記し、所々に永井氏の解説が加わるという構成になっている。
特に永井氏の解説は、左右の特定の史観にとらわれない自由な視点から、その時代をより正確に理解できるよう適切になされていて、この解説が加わることで、「太平記」の読み応えをいっそう深いものにしている。

山本七平氏も「太平記」に注目しており(「山本七平の日本の歴史」)、永井氏と山本氏が「太平記」について対談していたらどんな会話が交わされただろうかと思いをめぐらすのも楽しい。

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王国の鍵(あすかコミックスDX) 6巻セット

王国の鍵(あすかコミックスDX) 6巻セット

2007/04/22 13:25

映画「ロード・オブ・ザ・リング」三部作相当の感動と興奮を全6巻で

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「ファンタジーものの少女漫画」と侮ってはいけない。
読み始めるとたちまち惹き込まれて全6巻を一気に読破せずには居れなくなってしまうこと請け合いである。
重厚かつ壮大なストーリー、緻密に張られた伏線、魅力に溢れた登場人物たち、そして絶妙に配置された笑い、、、、それらが渾然一体となって、読者を作品世界に引き込んでゆく。
主人公(たち)は、単純な善でも悪でもない普通の「人間」である。それゆえあるときは苦悩し、あるいは迷い、時には過ちを犯したりもする。その一方で着実に成長もしていく。そうした過程が丁寧に描かれているのも本作品の大きな魅力である。
以下あらすじを少々、、
舞台は隣国との戦争が絶えないとある王国。
主人公は第二王子のアーシャ。
国王と第一王子が同時に戦死したことにより、アーシャが王位を継ぐべきところではあるが、「剣を握ったことも無い王子では、隣国との緊張を抱えたわが国の王として心許ない」と横槍が入り王位継承の議論は紛糾。そして出された結論は「王国の伝説的秘宝『王国の鍵』を手に入れた者を次の王とする」ということであった。
アーシャも王位継承者候補の一人として「王国の鍵」を求める旅に出る、、、
道中「竜人(りゅうじん)」「竜使い」など「王国の鍵」にまつわる者たちが現れ、謎はますます深まってゆき、「誰を信じ、誰を疑うか、何を選び、何を退けるか」アーシャに課せられた運命や如何に?、、、、
これ以上はネタばれになるので、私の拙い紹介でほんのちょっとでも興味が湧いた方は是非とも全6巻そろえてお読みください。
また、本作品が気に入られた方は紫堂恭子氏の他の作品「グラン・ローヴァ物語」全4巻「癒しの葉」全8巻などもお勧めです。

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戦後日本の論点 山本七平の見た日本

戦後日本の論点 山本七平の見た日本

2007/03/29 23:23

主著を通して山本七平を正当に評価する

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

発行年月を見ると2003年7月とある。書店の新書の新刊コーナーに平積みされていたときには、今すぐ買わなくてもいいかと思っていたら3年半の間に「取り扱いできません」状態になっていた。
幸い書店のちくま新書のコーナーに並んでいたので、買って読むことができた。
読み終えての感想は、今読むことができてよかったということである。
というのも、まず本書で大きく取り上げられているのは山本七平氏の天皇論であるが、そこでは、本書の発行時には書籍化されていなかった「ベンダサン氏の日本歴史」(2005年3月に「山本七平の日本の歴史」として書籍化)が、「現人神の創作者たち」および「昭和天皇の研究」とともに論じられている。
自分にとっては、本書の発行時には「ベンダサン氏の日本歴史」などまったく見聞きしたことの無い本であり、「現人神の創作者たち」も学生時代に一度読んだがあまり面白くなかったという印象しかない本であった。したがって、もし発行時点で本書を読んでいたら、知らない本・面白くなかった本について延々と論じられることとカタカナ語の多さにうんざりして途中で放り出してしまっていたに違いない。
「山本七平の日本の歴史」を非常に興味深く読み、「現人神の創作者たち」も昨年読みなおして面白さがようやくわかってきた今だからこそ、本書を読めてよかったと思っている。
本書においては、これらの主著で展開された山本(ベンダサン)氏の天皇論のポイントが良く整理されており、着眼点の特異性などが高く評価される一方で、飛躍がありすぎる点については批判もなされている。
必要以上に崇め奉らない高澤氏の姿勢は好感が持てる。
天皇論のほかには昭和の戦争論・戦後論が、「小林秀雄の流儀」、「ある異常体験者の偏見」、「私の中の日本軍」、「一下級将校の見た帝国陸軍」を通して論じられている。こちらは山本氏と司馬遼太郎氏と対比させて論じるところが特に興味深く読めた。
本書は山本七平氏の著作をより深く理解するための一助となる本であるといえるだろう。

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天皇恐るべし 誰も考えなかった日本の不思議

天皇恐るべし 誰も考えなかった日本の不思議

2007/02/03 18:08

かくて、「現人神」は完成した

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まず、本書を読むにあたって山本七平氏の「現人神の創作者たち」(単行本は1983年刊)(以下「創作者たち」と呼ぶ)は必読である。「創作者たち」のあとがきで山本氏は育成者と完成者さらには昭和天皇の人間宣言までを記してはじめて終止符が打てるという趣旨のことを述べていた。しかし、その後山本氏の著作に「創作者たち」ほど腰をすえて現人神を追跡したものは見当たらず、関連するテーマとして「昭和天皇の研究」があるぐらいである。
「七平さんがやらないのならば、自分がやろう」と(あるいは「自分にはもうできないから小室さん代わりにやってよ」と山本氏に頼まれて)小室氏が上梓したのが本書なのではないかと勝手に想像している。
本書は特に栗山潜鋒「保建大記」(および崇徳上皇)に焦点を当てた保元の乱以降天皇の権威が失墜し、江戸時代の崎門学派を経て、キリスト教的(三位一体の)神としての現人神が成立する過程の詳述と、廃藩置県・大日本帝国憲法・教育勅語の持つ本質的な意味についての解説がされている。
同じく小室氏による「『天皇』の原理」(1993年刊)は、本書の参考書としてユダヤ教・キリスト教・仏教・儒教・予定説・因果律の理解を助けるものと思われる。

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山本七平ライブラリー 12 現人神の創作者たち

山本七平ライブラリー 12 現人神の創作者たち

2006/10/21 15:24

日本人を呪縛し続けるもの「靖献遺言」謝枋得編・攘夷

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は学生時代に一度読んだ。ほとんどなじみの無い江戸時代の儒学者(山崎闇斎、浅見絅斎、佐藤直方、栗山潜鋒、三宅観瀾、、)と、それぞれの「中国」論や湯武放伐論や南北朝論さらには赤穂浪士討ち入りについての評価などが原文の引用でずらずらと並び、読むのにひどく難渋したという程度の印象しか残っていなかった。
このたび書評を書くにあたって十数年ぶりに再読・再々読してようやく、本書の面白さがわかった。特に面白かったのが第二部のまとめの「売国奴と愛国者のあいだ」の章(p181-196)である。
この章は岸田秀氏との対談「日本人と「日本人病」について」で岸田氏が「日本軍とダブって見える」というネズミの実験の引用から始まる。
T字路の突き当たりの片方(たとえば右側or明るい側)に餌、反対側(左or暗い側)に電気ショックという装置にネズミを置き、左右明暗にまったく法則性の無い条件で実験し続けると、ついには例えば右なら右に曲がり続けるという固定的な反応をとるようになり、反応が固定化したネズミは右が必ず電気ショックという条件にとしても常に右に曲がり続けるという。
バンザイ突撃で玉砕を繰り返すという日本軍がまさに反応が固定化したネズミとダブるわけだが、山本氏はこの話を発展させモデル化し幕末以降現代に至るまで、日本人の外交に対する態度はまさにこの固定的反応であると論じている。
「軟弱外交否定、決裂も辞せず一歩もひくなと、断固主張するのが勝利と国家保全の道」でありその逆をすれば亡国となるという信念のもと近代化という成功を収めてきたが、客観情勢の変動にもかかわらず、そのまま突き進み、1945年8月15日を迎えることとなる。「痛い目」にあった日本人は戦後は今度はその真反対の路線をとり経済大国というこれまた成功を克ち得たわけだが、そうなるとまた客観情勢が変わっても同じ路線をとり続けることが主張されると指摘している。(p183-184)
また、幕末から戦後まで間一貫しているのが「攘夷」という発想であり、「口で尊皇をとなえても、洋夷と結託している幕府は尊皇ではない」「鬼畜英米と妥協しようとする政府は国賊」「口で民主主義をとなえても、米帝と結託している政府は民主主義ではない」という各時代のスローガンを例として示している。(p185-186)まるで現在の対米(ポチ保守)・対中韓(領土問題)を巡る外交論議を預言しているかのようであり、山本氏の慧眼に驚くばかりである。
このような発想の基となっているのが浅見絅斎が著し、幕末維新の志士のバイブルとなった「靖献遺言」であり、その中の宋末元初を扱った「謝枋得編」であるというのが山本氏の主張である。
「水土論」の熊沢蕃山も、「中朝事実」の山鹿素行も、崎門派の祖である山崎闇斎も、幕府の御用学者である林家も、みなそれぞれ神道に傾倒してしまった話などほかにも面白い箇所はいくつもあり、読み返すたびに新たな発見がありそうな一冊である。

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「関係の空気」「場の空気」

「関係の空気」「場の空気」

2006/07/08 11:20

「山本学」の発展的継承

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

約三十年前、山本七平氏は「空気」を「発見」した。(「『空気』の研究」)
山本氏の盟友であった小室直樹氏は、これを日本社会を分析するための重要な社会学の専門用語としてpneuma「ニューマ」と呼ぶことを提起し、自身も日本社会の分析に駆使している。(たとえば「日本の『一九八四年』」など)
しかし、小室氏以外にこの「空気」概念を駆使して日本社会の分析を試みたのは、本書が初めてではないかと思う。
著者の冷泉氏は、自身がサラリーマン時代に体験したことや海外で日本語教師として日本語を教えた経験をもとに、「空気」概念を「関係の空気」と「場の空気」に発展させた。
「空気」に深く関与しているのは日本語であり、日本語には一対一の私的な「関係」においてコミュニケーション上の利点がある一方で、3人以上の公的な「場」においては正確な意思の伝達の障害となる面があるということをそれぞれ「関係の空気」「場の空気」という概念に整理している。
そして「関係の空気」「場の空気」という概念を駆使することで、現在の日本を覆うさまざまな社会問題について問題の本質を明らかにし、その対応策まで提言している。
個々の論点について、異論反論疑問等もたれる方があるかも知れないが、本書を通じて「山本学」の更なる発展があることを期待したい。

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参謀学「孫子」の読み方

参謀学「孫子」の読み方

2006/11/03 21:15

あたりまえといえばあたりまえなこと

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

江戸時代までは四書五経をはじめとする中国古典は一般教養の基礎であったが、明治維新を機にまったく省みられなくなってしまった。そんな中国古典の中で「孫子」は現在でもかろうじて生き残っているものの一つであろう。
書店のビジネス書のコーナーには必ずといっていいほど「孫子」モノがあり、そうした「孫子」モノの帯には「戦わずして勝つ!!」といったうたい文句が記されていることもある。
確かに「戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」という一節は本文中にあるが、「孫子」には楽して勝てる秘策が記されているわけではない。
「孫子」に述べられていることを一言でいえば、戦闘・戦略・政略のさまざまな場面を生き延びていくための基本原則である。
そこで述べられているのは、当たり前といえば当たり前な、いたって常識的で合理的なことばかりである。
しかし、いざというときに合理的常識的な判断ができなくなるというのが人の世の常であり、そうした場面で取り乱さないためにも「孫子」が読まれるということであろう。
また、基本原則を押さえたところで、自分が置かれた状況がどの場面に相当するのか、正確な判断ができなければ対応を誤ることになり、勝つことはおろか生き残ることすらおぼつかなくなる。正確な状況判断・応用力が名将と愚将の違いであろう。
本書は、「孫子」の各篇通りに各章が分かれており、各章が漢文読み下し・現代語訳・具体的事例を交えた補足説明という内容となっている。
引き合いに出される具体的事例は、元就・信長・秀吉・家康といった戦国武将もあれば、ナポレオンもあり、あるいは反面教師としての日本軍もあり、「経営の神様」と呼ばれた経営者のある事業からの撤退もあり、文字通り古今東西を網羅している。
「孫子」の入門書として最適な一冊といえる。

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沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ4

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ4

2004/09/18 23:02

年末年始に全巻ぶっ通しでもう一度読みたい

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

先週末bk1より「予約受付中!」との案内メールが来た。即予約したところ昨日届いた。昨日は帰宅したのが午後11時をまわっており仕事で疲れてもいたので、はやる気持ちを抑えて就寝。そして本日、満を持して午前9時から一気に読んだ。その感想が上記の書評タイトルである。


まず夢枕獏先生に感謝します。
相次ぐ掲載誌の変転にもかかわらず、原稿枚数2600枚(巻ノ二の帯による)にも及ぶ超大作を書き上げるのは並大抵のことではないと思います。

井上ひさし著「吉里吉里人」で、主人公の小説家が、少年向けの雑誌で伝奇ホラーを連載していたところ「怖すぎる」との父兄の抗議があったために打ち切りにされてしまったのを、「結末を考えずに済んで楽ができた」という趣旨のことを編集者に話すというシーンがありました(読んだのはかなり昔のことなので少々不正確かもしれません)。前半に大風呂敷を広げたはいいが、どうやってまとめようかと考えあぐねて筆が進まない最中に、掲載誌が「休刊」になったりしたら、これ幸いとそのまま放置してしまうという誘惑にかられる作家もいないではないでしょう。

しかし、夢枕獏先生は、空海という超天才にして日本史上最強の超能力者を主人公に据え、9世紀当時の世界の中心であった唐の長安を主な舞台とし、同時代の歴史の教科書に出てくるような有名人(白楽天など)やさらには時代をさかのぼった玄宗皇帝・楊貴妃らを巻き込んで、読む者を魅了してやまない、見事な「宴」を催してくれました。

「あとがき」によりますとまだまだ書きたいことは山ほどあるようなので、夢枕獏先生のますますの健筆をお祈りします。(9/18記)

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沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ3

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ3

2004/08/30 21:33

いよいよ佳境!

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

待ちに待った第3巻が出た。bk1で取り寄せて、休みの日に一気に読んだ。
読み終わっての感想は「嗚呼!! 続きが気になる!!」…これに尽きる。

この第3巻では、1,2巻の段階ではおぼろげで断片的であった唐王朝を襲う呪詛の全体像が、次第に明らかになっていく。
しかし、まだ全てが解き明かされるというわけではなく、また、われらがヒーローである空海がいかにしてその呪詛に立ち向かうかというのも第4巻のお楽しみのようである。
本の帯に有るとおり「いよいよ佳境!」なのである。

果たして空海はどのような宴を催すのか? 第4巻が出るまでまた辛抱強く待つよりほかない。(8/30記)

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沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ1

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ1

2004/08/10 23:11

全巻揃う前から読むか全巻揃ってから読むか

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

司馬遼太郎「空海の風景」、陳舜臣「曼荼羅の人」、榊莫山「空海書韻」等々日本史上最大のスケールを誇る天才・弘法大師空海の伝記小説は数あれど、伝奇小説はというといままで山田正紀「延暦十三年のフランケンシュタイン」ぐらいではなかったか。そこへこの陰陽師でおなじみの夢枕獏によるこの本である。
先日ふらりと立ち寄った書店の店頭ではじめてこの本の存在を知り、早速買おうと手にとってよくよく見ると「全4巻」で第3巻以降は一ヶ月に一冊ずつ刊行されるという。そこで私は考えた。「読み始めたらきっと続きが気になって気になってたまらなくなってしまうだろう。そんな状態がいま(8月はじめ)から9月末までも続くのはたまらない。ちょっと我慢して4巻揃ってから買おう」と。その日は買うのをやめた。しかし翌日には1巻2巻が存在すること自体が気になって気になってしょうがなくなってしまったので全巻揃うのを待たずに買ってしまった。
読み始めるや、空海が当時の世界の中心都市である唐の長安で唐王朝を襲う呪詛の謎を解くべく縦横無尽の大活躍という期待を裏切らないどころか、想像をはるかに上回るスケールで展開するストーリーにすっかりはまってしまった。先週の日曜の午後3時ごろから第一巻を読み始め、途中夕食をはさみ第二巻の17章まで読み進んだとこで午前0時をまわった。明日は仕事なのでそこで第二巻を読みきるのを断念した。そしてこの前の土曜に第二巻の後半を読みきった。
第二巻まで読んでおもったが、やはり全巻揃う前に読み始めて正解だったと思う。なぜなら全巻揃っていたなら、徹夜をしてでも一気に全巻読みきってしまわねば落ち着かないであろうと思われるからである。そんなことしたら生活のリズムがくるって体調を崩してしまうだろう。まずはあと三週間第三巻が出るのを辛抱強く待つことにする。(2004.8.10記)

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日本の戦争力

日本の戦争力

2006/01/03 21:00

日本を含めた軍事の現実-戦争・平和・外交を考える基礎として

13人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

自分が高校生の頃、イラクがクウェートに侵攻した。そして国内論壇では「自衛隊を出す、出さぬ」と言った論議が交わされていたと記憶している。そんななか本書の著者である小川氏の主張は独り異彩を放っていた印象がある。
要約すると「自衛隊の装備・訓練はあくまで日本国内(及び周辺海域・空域)のためのものであり、クウェートの砂漠地帯で戦闘できるような代物ではない。(したがってイラク制裁のために自衛隊を参画させるなどナンセンス)ペルシア湾に展開している米軍の補給は在日米軍基地が支えている。すでに日本はアメリカに対して十分貢献している。」ということであった。
その後の日本は湾岸戦争に関して国民一人当たり換算で1万円以上を負担したものの感謝もされず、おまけに景気まで悪化するという有様だった。
これというもの、政治家・官僚・マスコミ・評論家・一般国民に軍事についての基礎知識が根本的にかけているからだ。というのが現在までも変わらぬ小川氏の基本スタンスであろうかと思う。
そこで、広く政治家から一般国民にいたるまで、予備知識ゼロでも日本をとりまく軍事情勢の基礎が分かるように、Q&A方式の会話スタイルによる記述と丁寧な脚注とで、自衛隊の成り立ちと現在の実力・アメリカとの同盟の意義・在日米軍基地のアメリカ世界戦略上の位置付け・北朝鮮の実力・テロ戦争等々についてやさしく解説した本書を上梓したということであろう。
私自身はアフガン空爆についての突っ込みが甘いのが少々不満であり、イラク戦争についての評価は本書とは見解を異にするが、それは本書の意義をいささかも減ずるものではない。
防衛庁の省への格上げや、憲法改正が具体的政治日程に上がりつつある昨今、軍事の入門書として全国民必読であるといいたい。

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拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる

拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる

2007/06/30 11:09

飯田経夫・日下公人両氏の読者としては物足りない

8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者の身近な体験からはじめて、徐々にコトの「真相」に迫っていくというスタイルの冒頭から2章の途中までは興味深く読み進んだ。
しかし、そもそものコトの発端であるレーガノミックスから日本でバブルが発生するにいたる過程の記述があまりにあっさりしすぎていて、以前から飯田経夫氏の著作(たとえば「泣きごと言うな」「日本経済はどこへ行くのか」など)を読んでいた自分としてはかなり物足りなさを感じた。この過程の説明が足りないと、「日米貿易不均衡の是正」のための交渉がアメリカのマッチポンプであるとの主張に説得力を欠くことになる。
第3章以降の内容は、日下公人氏が既に本書の約10年前に「闘え、本社」(1995年)で述べていたこと(「外国の本社はそのように、とても手広くしたたかにやっている。官僚でも大統領でも自社の販売部長にしてしまうし、ときにはカツアゲする暴力団のようにも使ってしまう。中には違法すれすれまでやるところもある。それは日本人の目から見ればいいことではないし、商人の道にも反するが、しかしそれが世界では常識である。それが国際感覚というものである。さらにいえば、違法なことは法律を変えて合法にしてしまえばよいと考える。自国のみならず外国の政府にもそれを働きかける。それからライバル産業がやっていることは、今は合法でも法律を改正して違法にしてしまう。」(p50-51))の具体例を列挙しているだけという印象を受けた。(あるいは、日下氏の述べたことが10年経ってようやくだれの目にも明らかになってきたということか。)
好むと好まざるとにかかわらず、世界経済はそういう状況にあり、当然ながら日本もその渦中にあるということである。
本書を読んでただ悲憤慷慨するよりも、飯田氏の著作を読んで「よき社会とはなにか」について考えたり、日下氏の著作を読んで未来に備えるのが建設的であると思う。

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「天皇」の原理

「天皇」の原理

2006/10/22 08:33

急ぎすぎて残念

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書を最初に読んだのは大学生のときだったが、第7章以降の天皇カリスマの本質についての解説があまりにもばたばたと駆け足で説明されているような印象を受け、あまり面白いと思えなかった。
序に「御成婚記念としたい希望により急いだため、崎門の学の展開過程についての「詳論」は、つぎの機会にまわさざるを得なかった。乞御了承。平成五年五月九日」とあり、小室氏自身も本書が実質的に未完であることを認めているようなので、「詳論」が出版されるのを心待ちにしていたが、その後現在に至るまで「天皇」を主題に掲げた本は出されていないようである。(小室直樹文献目録参照)
後に山本七平氏の「現人神の創作者たち」(以下「現人神」と呼ぶ)も読んでみたが、これまた難解でよくわからなかった。
最近になって、長らく「積ん読」状態にしていた「資本主義のための革新」(以下「革新」と呼ぶ)をたまたま読んだところ、その第二章はまさに崎門の学の展開過程についての「詳論」だった。
そこで十数年ぶりに、まず「現人神」、次に本書、それから「革新」の第二章の順番で通して読んでみた。
「現人神」を読んだおかげで、第7章以降の承久の変を契機に天皇のカリスマが崩壊していく過程の意味はすんなりとわかった。また、崎門の学が下級武士のエトスを変換し明治維新へとつながっていく展開過程についても「革新」で詳述されたのでこれもようやく腑に落ちた。だが、承久の変以降江戸初期に至るまでの間にとことん地に堕ちてしまった予定説的な天皇のカリスマが、復活する過程というのがどうもまだ納得できない。天皇カリスマの復活とイエス・キリストの復活との対比も説明不足との感が否めない。
最近出版される小室氏の本は再版ものばかりなので、「天皇」を主題に掲げた新著を読むことがもはやできないであろうことを考えると、そもそも本書が実質的に未完の状態で出版されたことが残念でならない。

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沈黙の艦隊(講談社漫画文庫) 16巻セット

沈黙の艦隊(講談社漫画文庫) 16巻セット

2005/09/26 13:08

冷戦という時代「テロ戦争」という現代

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

確か、私が高校〜大学の時分、湾岸危機〜湾岸戦争の前後に「問題作」のような扱いで結構話題になった作品である。
学生の間は連載を欠かさず読んでいたが、会社に入ってからは連載を読んでおらず、どう完結したのかまでは知らなかった。
今般全巻を通して読んでみて、感想をひと言。
前半(北極海を抜けるまで)は、潜水艦バトルのアクションと日米関係の政治シュミレーションをハラハラドキドキしながら読んだ。
しかし、後半(ニューヨーク沖近辺〜国連総会)に関しては、話が大きくなりすぎて冗長という印象をうけた。
「テロ戦争」に対するアメリカの姿勢をアフガン・イラク戦争でまざまざと見せ付けられた現在からみると、ニューヨーク沖の戦闘シーンにはまったくリアリティを感じない。
あくまで「冷戦」時代を前提としたストーリーだと思った。
ただ、前半に提示された日米関係に関する問題は、連載当時(湾岸)も、現在(イラク)も相変わらずだというのが深く印象に残った。

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