最初にやっておくべきことを聞きましたが、今度は「絶対やってはいけないこと」はあるのでしょうか。すると、どんなに関係が悪くなっても避けた方がいい2つのことを教えてもらいました。
高級家具の共同購入には注意が必要。
「まず1つは、
共同で物を買うことです。不動産はもってのほかですが、よくあるのが高額家具を共同で買うことです。名義書類のない買い物は親の死後に所在不明で揉めがちです。とはいえ、名義を何かしらの書類で残せたとしても、相手は毒親ですからリスクヘッジにはなりにくいんです。
また頭金をどちらかが払う買い物の場合、出どころを後から追求するのが難しくなります。高い家具、高級時計、家の改装費用などは、とにかく共同で購入はすべきではありません」
過去萩生田さんが担当した相談者の中には、父と長男2人で家具を共同購入したところ、父の死後、母と折り合いが悪くなり「長男には渡せない!」と母が主張。トラブルに発展した例もあるそうです。血を分けた親子での争うほど悲しいものはないですが、こればかりは仕方ありません。毒親の勢いに押し切られ、長く自分の足を引っ張るような買い物や契約の類はしないよう気をつけましょう。
「やってはいけない事の2つ目は、
親の連帯保証人や、親から借金をすることです。過去担当したケースでは、親とどうしても縁を切りたかった相談者が、何とか話し合いをした結果、『この契約書にサインしたら縁を切ってやる』と親から言われ、書類の中身をきちんと確認せずにサインしたそうです。後日わかったのは、それが1000万の借金を親からしているとする契約書だったのです。
当初家に押しかけ、喚き散らす毒親を払いのけるために契約書を結んだのに、今度は借金を返せと親が毎日怒鳴り込むようになってしまった、なんとも悲惨なケースです」
このケースでは、相談者さんは精神的に参ってしまい最終的には自死を選んでしまったそうです。以前のコラムで、毒親に侵された子どもは、年齢が上がるほど毒によるストレスで健康問題が出てくるという話がありました。今回のケースのように、毒が精神的な大ダメージになり、早くして子が命を落とす最悪のケースもあることは、覚えておきたいところです。
「ちなみにこのケースであれば、もし裁判になった場合、個人間借用書と金銭の動きを両方証明して初めて母親が裁判に勝つことができます。そういう意味では対処ができたのですが……非常に悔やまれる一件です。こういった最悪のケースもありますから、とにかく
親から手切れ金をくれと言われても、個人で対処するのは危険です。弁護士などに相談し、冷静かつ専門的な対処をしていくのが良いでしょう」
毒親の程度は様々ですが、もしご自分が毒親の子であったなら、今のうちから出来る準備は少し考えておいても良いかも知れません。
また可能であれば、親がダメでも
兄弟とは仲良くしておいた方が良いと萩生田さんはいいます。血を分けた“だけ”なのに、その繋がりは一生涯絆にもなるし、毒にもなる。人との繋がりが希薄といわれる時代ですが、親と最後までどう関わるか、毒親育ちに関わらず、少し考えてしまうのでした。
【お話を伺った人】
NEXTi法律会計事務所代表弁護士 萩生田彩
東京都生まれ。2012年弁護士登録。17年より現職。『遺産分割実務マニュアル』(共著)ほか。
<取材・文・イラスト/おおおしまりえ>
おおしまりえ
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:
@utena0518