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37歳女優の“唯一無二のたたずまい”。カンヌ2冠作品、新ドラマでも魅せる妙技とは

 9月29日より、直木賞作家・黒川博行の小説「勁草(けいそう)」を実写映画化した『BAD LANDS バッド・ランズ』が公開中。その目玉は、安藤サクラと山田涼介が犯罪者の姉弟を演じていることだろう。
©2023「BAD LANDS」製作委員会

©2023「BAD LANDS」製作委員会

 内容は「予測不能のクライムサスペンスエンタテインメント」という看板にいっさいの偽りなし。危険極まりない状況に追い込まれるハラハラが前面に押し出されており、主人公姉弟の「正しくなさ」を含めた複雑な感情を呼び起こすドラマも実に面白かった。  さらなる魅力を記していこう。

悪の天国をじっくりと時間をかけて描く

©2023「BAD LANDS」製作委員会 主人公姉弟の生業のひとつはいわゆる「オレオレ詐欺」。被害者からカネを受け取る「受け子」の手配もしており、大阪府警特殊詐欺班の刑事たちはその捜査に動き出している。  映画の中盤までは、犯罪者たち(と彼らを追う警察)の「日常」を主に描いていると言っていい。特に序盤は大きな事件があまり起こらないため、人によっては少し退屈に感じられるかもしれない。  しかし、公式の触れ込みに「ここは、嘘、暴力、騙し合い、なんでもありの悪の天国」とある通りの、「犯罪がはびこる猥雑な世界」をリアリティを持ってじっくりと描くことも重要だった。  その悪の天国は、そうではない者にとっては地獄のようでもあり、それを「覗き見る」ような面白さもあるはずだ。  そして、中盤の「取り返しのつかない事件」が起きてからはグッとエンターテインメント性が増し、「一歩間違えば死に直結する綱渡り」をノンストップで続けているようなハラハラが展開する。  その綱渡りは、やはり序盤で悪の天国をたっぷりと描いていたからこその真実味がある。上映時間が143分とやや長尺の部類ではあるが、なるほどそれだけの時間を使って描写を積み重ねた必然性もあるのだ。

面倒見が良くて悪人には見えない安藤サクラ

©2023「BAD LANDS」製作委員会 犯罪者たちの日常を描く序盤で目立つのは、主人公の「面倒見の良さ」。もちろん、彼女は老人を狙った許されざる犯罪をしており、客観的にみれば擁護できるはずがない悪人のはずだ。  だが、安藤サクラの持ち前の「サバサバしている」印象も手伝ってか、はたまた大阪弁のハマりっぷりもあってかどこか親しみやすく、どこにでもいる普通の気の良いお姉さんのようにさえ見えるときもある。  たとえば、仕事がうまくいかなかったときにも共犯者に善意の「日当」を払ったり、路地でたむろしている男性たちに気兼ねなく声をかけたり、やんちゃを通り越して迷惑をかけまくる弟に対してなんだかんだで味方でいてあげたりもする、といった具合だ。  それでいて、一人で淡々と食事を作る様などからは「これまで誰にも頼らずにたくましく生きてきた」ことも想像できる。  だからこそ、「なぜ彼女が犯罪の世界に来てしまったのか?」という過去も気になってくる。そこで思い知らされたのも、彼女がやはり「普通の人だったのに、不幸の連続のために、ここに来てしまったこと」だった。  なぜ彼女は「そうするしかなかったのか」「何を諦めてきたのか」……それぞれ、かなり重い事実がサラッと語られたりするのだが、そのことがむしろ「過去を気にしていないように取り繕っているが、実はものすごく傷ついている」彼女の内面を表しているようでもあった。
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「表向きは明るい」からこそ際立つ「裏に秘めた暗い感情」
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