“自称・発達障害”の急増に精神科医が本音「自称する人が増えることは悪いことではない」
発達障害とは、生まれつきの脳の性質や、その後の発達の偏りで起こる障害を指します。昨今、世代を問わずに多くの人々の関心を集めています。
現役の精神科医として活動しつつ、YouTubeでは登録者が63万人を超えるチャンネル『精神科医がこころの病気を解説するCh』を運営、精神科診療のカウンセリングを気軽に体験できる不思議な4つのストーリーと解説からなる新刊『夜のこころの診療所』が話題の益田裕介先生にお話を聞きました。
「少々きつい表現かもしれませんが、“発達障害”は、部分的な知的障害ないし、知的能力の低下を示します。
人とのコミュニケーションや、変化に対応することが苦手な自閉スペクトラム症(ASD)や、集中力や衝動性を抑えられない、注意欠如・多動症(ADHD)。読み書きや算数など、特定の学業の一部に関して知的能力が低下している限局性学習症(SLD)の3つの総称になります。
これらは併発していることも多いんです」
取材を進めていると、少々気になる声も聞こえてきました。発達障害の当事者(ADHD)の女性のお話です。
「発達障害そのものが世間に浸透するのはいいけれど、あまりにも“自称・発達障害”が増えているような気がします。ブームというか、なんというか……。
本来なら病院に行って診断されるものなのに、ネットで、まるで性格診断テストや面白い心理テストみたいに扱われているのが少し気になるんです」(30代・女性)
実際にSNSを見てみると、X(旧・ツイッター)やTikTokでは、一部のインフルエンサーや“自称・当事者たち”が、「〇個あてはまったら、あなたも発達障害かも?」「こんな症状は要注意!」など、症例とともにポップに診断を呼びかけているような動画も目立ちます。
また、一部では自分のミスを「俺(私)ADHDだから(笑)」とまるで免罪符のように使うこともあるのだとか。
冗談っぽく使うことが多いようですが、聞いていて面白いものではありませんね。
昨今の“発達障害ブーム”ともいえるこの現象、現役精神科医の益田先生はどのようにとらえているのでしょうか。
「確かに、発達障害が一般的になるにつれ、ミスの言い訳に発達障害を自称する人は増えている気がします。そしてそんな彼らの大半は、病院で診断されたわけではなく、単に流行語の一種として発達障害という言葉を利用しているようです」
自称する以外にも、勝手に相手が“そう”だと決めつけるケースもあるようです。
「SNSを中心に、不祥事を起こした芸能人をADHDだと決めつけるような投稿があったり、または境界知能(知的障害ほどではないが、集団の中では相対的に下位層になってしまう人たち)と決めつける投稿もあります。
これらは差別や偏見につながりますが、新しい言葉が社会に定着する前には、通過しなければならない現象なのかもしれません。
つまり、だれでも使用できるので誤用されつつ広がり、使用されていく中で、複雑で難解な正しい知識があとからついてくるということです」