それにしても緒形敦は、どうして自分の出演作の明確な見どころなどより、「世界」というコメントを強調したのか。1582年に長崎を出航した使節は大変な航海を経て、ローマ教皇の元に到着した。使節の少年たちが目指した世界に対する眼差しを自らの経歴と重ねるところがあるのだろうか?
というのももともとは緒形拳や緒形直人と同じ俳優ではなく、ファッションデザイナーを目指していた時期もあるという緒形敦は、高校時代を留学先のアメリカで過ごしている。
ファッションに傾倒しながら世界で見聞した彼は、最終的には俳優の道を選び、帰国する。山田孝之や山﨑賢人、横浜流星が所属するスターダストプロモーション所属となり、山﨑が出演するドラマ『陸王』が俳優デビュー作となった。
『陸王』で緒形敦が演じたのは、主人公・宮沢紘一(役所広司)が切り盛りする老舗足袋会社「こはぜ屋」の息子である宮沢大地(山﨑賢人)の親友役。第1話から登場していて、その初登場がかなりいい感じ。
互いに就職活動中の大地と広樹(緒形敦)が、公園のベンチに座って近況を報告し合う場面。苦戦を強いられているふたりの視界にランニングに励む一団が入る。先に気づいた広樹が、一団の方へぱっと視線を遣る。
この視線移動がとてもいい。演技の段取りとして動かして置きにいった感じでもないし、なかなかこうはならない。演技とは、これくらいほんとさりげない単純さに徹するべきである。新人俳優のお手本のような演技だなと筆者は思った。
<文/加賀谷健>