ねじの話 ファスナー材料 金属 第二回 鉄鋼金属

ねじの話 ファスナー材料 金属 第二回 鉄鋼金属

今回は私たちの生活に深くかかわる「鉄」に焦点を当ててみます。

ねじの話 ファスナー材料 金属 

第一回 金属とは

第二回 鉄鋼金属

第三回 炭素鋼

第四回 合金鋼

第五回 ステンレス鋼(近日公開)


「鉄(iron)」 概要

鉄(iron 元素記号はFe)は地球の地殻に豊富に存在し、我々の日常生活において非常に重要な金属で、純粋な鉄(iron)は白い金属光沢を放つ金属元素のひとつで、遷移元素と分類され原子番号26の元素です。室温付近での密度は7.87 g/㎤、融点は1536°C、沸点は2863°Cです。太陽やほかの天体にも豊富に存在し、地球では地殻の約5 %を占めます。

鉄の性質は熱処理によって大きく変化します。鉄は高温で加熱してから急冷することで結晶構造が変化し、硬度や強度が向上します。この性質を利用して「熱処理」が行われます。熱処理は鋼鉄や他の合金の特性を調整するために広く使用されています。「焼入れ」は鉄を急冷することでより硬くて脆い結晶構造を作り出し、逆に、「焼戻し」では焼入れした鉄を再度加熱して冷却することで硬度を下げ柔らかくすることができます。このような特性は、鉄や鋼の製造や加工において重要な役割を果たします。熱処理についてはこちらのブログもご覧ください。

鉄の鍛造や圧延といった加工プロセスも、鉄の結晶構造を変化させ、その強度を向上させます。


「鉄の結晶構造」と「温度」

鉄は室温では α鉄(フェライト)、熱すると γ鉄(オーステナイト)、γ鉄をさらに熱すると δ鉄(デルタフェライト)へと変化します。これらの相の違いは、鉄の結晶構造によって決まります。

純鉄の結晶構造と温度


α鉄(フェライト):

室温から約910°Cまでの温度で、純鉄は「α鉄(フェライト)」と呼ばれるフェライト結晶構造を持ちます。α鉄は、体心立方(BCC)の結晶構造をしており、鉄原子が8つの隣接原子と接しています。この構造は比較的柔らかいです。

γ鉄(オーステナイト):

約910°Cから約1394°Cまでの温度では、純鉄は「γ鉄」と呼ばれるオーステナイト結晶構造を持ちます。γ鉄は面心立方(FCC)の結晶構造をしており、鉄原子が12の隣接原子と接しています。γ鉄はα鉄よりも密に詰まっており、高温ではより柔らかくなります。

δ鉄(デルタフェライト):

約1,394°C以上の温度で純鉄は、γ鉄がさらに変化して「δ鉄」(BCC構造)という異なる結晶構造を持つことが知られています。高温下での特殊な相です。1536 °C以上では液体の純鉄となります。

参考:BCCとFCC

BCC(Body-Centered Cubic)と FCC(Face-Centered Cubic)は、結晶構造のタイプを表すものです。これらは金属などの物質の結晶構造を特徴づける重要な概念です。 BCC (Body-Centered Cubic / 体心立方構造):

体心立方構造


BCCは、3次元の立方格子を持つ結晶構造です。この構造では、各格子点に原子が配置されるだけでなく、格子の中心(立方体の中心)にも原子が配置されます。原子が8つの角と1つの中心に位置することから、「面心立方構造」とも呼ばれます。BCC構造は、鉄など一部の金属の低温相で見られます。この構造は、一般に密に詰まっており、強度が高い傾向があります。


FCC (Face-Centered Cubic / 面心立方構造):

面心立方構造


FCCもまた、3次元の立方格子を持つ結晶構造ですが、各格子の角とそれぞれの面の中心に原子が配置されます。この構造は、「面心立方構造」と呼ばれます。FCCは、銅やアルミニウムなどの多くの金属に見られます。FCC構造は原子が密に詰まっており、高い融点や柔軟性、加工性を持つことが特徴です。 これらの結晶構造は、金属や他の物質の性質や挙動に大きな影響を与えます。例えば、BCC構造は一般的に温度が低い条件下で安定し、磁性を持つ金属が多くこの構造をとります。一方、FCC構造は高温条件下で安定し、多くの金属が高温でこの構造をとります。


「鉄」と「炭素」

鉄と炭素の合金化は鋼(Steel)として知られ、鋼の特性は炭素の含有量に大きく影響されます。炭素は鉄と結合し、鉄の結晶構造を変え、鋼の特性を制御します。


鉄鋼金属は、主に鉄と炭素を主成分とする合金であり、さまざまな工業製品の製造や建築、輸送などの分野で広く使用されています。鉄鋼は、鉄鉱石を精製し、適切な割合で炭素を含有させることで作られます。炭素は鉄と結合し、鉄の結晶構造を変え、鋼の特性を制御します。炭素鋼(carbon steel)はそうした鉄鋼の一つです。炭素以外の含有元素の量が合金鋼に分類されない量以下になっています。加工が容易で廉価なので一般的によく使われる鉄鋼材料です。

フェライト(α鉄)は、727 °Cで最大溶解量約0.02 %の炭素を固溶する(完全に溶け込ませる)ことができます。それで工業的には含有炭素量0.02%未満の物を純鉄(iron)、それ以上かつ炭素量約2.14%以下の鉄鋼を炭素鋼あるいは鋼と呼び、炭素量2.14%以上6.67%未満は鋳鉄(ちゅうてつ cast iron)と分類されます。これ以上炭素量が増えると、脆くなってしまうため工業用途で使われることはありません。また、純度の高い鉄も、脆く加工性が悪いため、工業製品では使われません。

炭素含有量と機械的性質の関係


炭素鋼は炭素の含有量で「低炭素鋼」「中炭素鋼」「高炭素鋼」の3つに分類されます。炭素含有量の変化は、鋼の結晶構造に影響を与えます。

• 炭素量0.02%未満の鉄は「純鉄」

• 炭素量が0.02%~2.14%のものは「鋼鉄」

• それ以上の鋳鉄は「鉄」

炭素含有量と鋼種



低炭素鋼:

0.25%未満の炭素含有量を持つ鋼です。低炭素鋼は柔らかく、加工しやすい特性を持ちます。一般的に溶接性が高く、良好な靭性を持つため、一般的な製造業や建設業で使用されます。

中炭素鋼:

0.25%から0.6%の炭素含有量を持つ鋼です。中炭素鋼は硬度と強度が向上し、熱処理によって硬化させることが可能です。工具や機械部品などに適しています。

高炭素鋼:

約0.6%以上の炭素含有量を持つ鋼です。高炭素鋼は非常に硬くて耐摩耗性に優れていますが、脆くなる傾向があります。刃物やバネなど、硬さと切れ味が要求される用途に適しています。

鉄と炭素の組み合わせが、多様な特性の鋼を生み出します。炭素鋼の非常に強靭で耐久性という特性は、製造業、建築業、自動車産業などの幅広い分野で使用されており、用途に応じた材料を選択する際の重要な要素です。


合金鋼


合金鋼(ごうきんこう)は、鉄に主要な合金元素を添加して作られる鋼の一種です。その特性は、通常の炭素鋼よりも優れた機械的性質や耐久性を有し、幅広い産業分野で使用されています。合金鋼には、ステンレス鋼やクロムモリブデン鋼(耐熱鋼)、高張力鋼(ハイテン)などがあります。合金鋼の特性は添加された合金元素の相互作用によって生まれ、単一の金属よりも優れた物理的・化学的特性を得ることができます。

例えば、鉄鋼にクロムを添加することで耐食性が向上したステンレス鋼が生まれます。食器や建築分野に腐食に強い材料として提供されています。

合金鋼に含まれる主な金属元素


次回からは、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼に注目します。


参考:非鉄合金

主に鉄以外の金属を主成分として含む合金は非鉄合金と呼ばれます。例えば、アルミニウム合金、銅合金、亜鉛合金などです。これらの非鉄合金も、それぞれ異なる特性を持ち、様々な用途に利用されています。

アルミニウム合金は、軽量かつ耐食性があり、航空機や自動車の部品などに広く使用されています。また、銅合金は導電性が高く、電気配線や電子機器などに適しています。亜鉛合金は耐蝕性に優れ、建築材料やジュエリーなどに使われています。

コメントを閲覧または追加するには、サインインしてください