2024年12月15日
『グラウンデッド 翼を折られたパイロット』<METライブビューイング> を観ました。
戦闘機乗りの女性・ジェスが、妊娠・出産を機にドローン操縦士への転向を余儀なくされ、やがて心を病んでいく…というストーリー。
この題材をオペラにしたのは冒険的だと思います。軍人が主人公、衣装も華やかなドレスとかではなく軍服。評価も定まらない新しいオペラだし、楽しめるかな?と疑問があり、観る方としても少し冒険でした。
結果、かなり面白かったです。音楽も含めて映画っぽい感じがしました。自分には縁遠い世界で取っつきにくいかと思ったけれど、すっと入り込めました。
主演のエミリー・ダンジェロの歌と演技が大変に良かったです。この役にピッタリ。いつも思うのですが、良いオペラ歌手って演技力もすごいですよ。
主人公ジェスとドローン操作でパートナーになる若者が面白かった。ゲーム感覚の軽いノリで、メロンソーダ片手に仕事してんの。
アフガニスタンの敵をラスベガスから遠隔操作で殺す。その恐ろしさが描かれていました。敵のことは何でもかんでもギルティと決めつけて攻撃するというシーンもありました。「正義の戦争」に疑問を呈する内容になっていたと思います。ドローンだから残酷というわけでなく、飛行機からの爆撃でも同じですよね。敵の顔が見えるとキツイだけで。相手も自分と同じ人間だと思いはじめたら、戦争なんてやってられないのでしょう。原爆を落とした飛行機のパイロットの気持ちを想像してしまいました。
軍隊は極端な男社会ですね。男声合唱の中で主人公の女声ソロが際立つ場面が多いです。主人公ジェスが妊娠した際、秘密にしておくから始末してきなさいと言う上司!ドン引きしました。出産後、異動を命じられたジェスは「それは妊娠したことに対する罰ですか?」と問います。どうなんでしょうね。モヤモヤします。彼女が男だったならずっと飛行機乗りでいたでしょう。途中で親になったとしても何の問題も無く。
夫がマトモな人だったのは救いでした。彼のハミング良かった。私も泣けたよ。
冒頭のジェスの空を飛ぶ喜びを歌う曲、ショッピングモールの爽やかな場面から一転、影がさしていくところ、ジェスともう一人のジェスによる不穏な重唱、などが印象的でした。
見応えがあり、面白かったです。見逃さなくて良かった。アメリカ人だからこそ作れた、メトロポリタンオペラらしい作品だと思いました。こういうチャレンジングな新作オペラは応援していきたいです。