『英語対訳版 種田山頭火句集』(英訳=三浦久/ジェイムズ・グリーン、青空文庫)
2024年 04月 28日
『Fireon the Mountain』
本書は、自由律俳句の荻原井泉水を師とした俳人であり、乞食僧として各地を放浪した種田山頭火(1882-1940)の句と解説を英訳したもの。山頭火の句集『草木塔抄』中の150句とそれ以降の24句が収録されている。底本は筑摩文庫の『山頭火句集』および春陽堂の文庫版で、青空文庫へは1998年5月に収録されている。
気が付いた点を以下に記録しておく。
❦素直な英訳がついている例――*分け入っても分け入っても青い山(Wading through, And wading through, Yet green mountains still.)
*しぐるるやしぐるる山へ歩み入る(Drizzling,Into drizzling mountains, I enter.)
❦英訳によって意味がより明確になっている例――*また見ることもない山が遠ざかる(This mountain, Which I will never see again, Becoming farther and farther away.)
*けさもよい日の星一つ(Early morning, One star remaining,It’s a good day too.)
*寝覚め雪ふるさびしがるではないが(Waking from sleep---Snow falling, I’m not usually lonely but...)
❦解説のおかげで意味が分かる例――*雨ふるふるさとははだしであるく(My hometown, In falling rain---Walking barefoot)1933年の夏、山口県の故郷に立ち寄ったが山頭火を見知る人はなく、一晩泊めてくれた末の妹も人に見られないように立ち去ってほしいという。外は雨だったので、草鞋を脱いで歩きだしたという。
*ふと子のことを百舌鳥が啼く(Unexpectedly---Images of my son, The shrike's crying)家は破産し、離縁されて故郷を出たが、置いてきた子どのことをふと思うこともあったようだ。
❦英訳が困難だろうと思われる例――*うしろすがたのしぐれてゆくか(A vague shape from behind---Into the drizzle,Disappearing)主体はだれか、誰の視点かなどが様々に解釈できるので訳が定まらないと訳者はいう。
❦もの足りなかったこと――*あざみあざやかなあさのあめあがり(The thistles---How vivid! After the morning rain.)この句は頭韻を踏んだ珍しい句なのに、英訳は頭韻を無視したどうということのない訳になっている。なぜ?
(2024.2.14読了)
山頭火の俳句は不定形なのでうまく翻訳できているように思いますが。青空文庫にはこんなものも入っているので楽しめます。