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その時・・・
典子 「京ちゃん、信じておやり」
四人の様子を伺っていた典子でした。
典子 「ねえ、京ちゃん。この子達は本気であんたの事を気にかけてたんだよ。それは素直に認めておあげよ」。
典子の言葉に京香は、なぜ自分が素直にみんなの思いを受け取れないのか話します。
京香 「あたしね・・・実は・・七曲りを、七曲りの皆を恨んでいたんだよ」
典子 「ど、どういうことだい」
京香 「今となっちゃ、逆恨みなんですけどね」
典子 「逆恨みって・・・」
功一 「俺達の事を、ですか」
京香 「・・・そう」
良子 「なんで!」
京香 「覚えてるだろう、二年前七曲りの店がウチを含めて六軒になった時、社長が音頭とって紫苑で頑張ろう会やったろう」
典子 「頑張ろう会?」
良子 「ああ、やった、やった、確か三月だった。コロナもまん防が終わって先の見通しが立ってきた時だった」
登和 「そうだ、多くじゃなかったけど客も戻り始めていた頃だよね」
功一 「うん、うん。みんながっちりマスクしてよ、まだ寒い時期なのに窓開けっぱしにしてみんなで距離とって乾杯したっけ」
典子 「それが、逆恨みとなんの関係があるの」
京香 「・・・・あの時、ウチの人コロナが何とかなるまでって酒断ちしてたの」
功一 「そうだったんすか。でも兄貴そんな素振り見せなかっすけど・・」
京香 「あの人はああ見えてゲン担ぎなのよ。何かをする時必ずあたしに宣言するの。そうして黙ってやるの。他人に言ったら効果が無くなると思ってるのよ。・・・あの時も俺は飲まないって言ってたのを乾杯だけってあたしが進めたの。あの人もみんなに気まずい思いをさせまいと乾杯だけ付き合ったわ。・・・そうしたらあの人、美味いって。・・・ああ、酒ってこんなに美味かったんだなって。・・・あたしそれが何だかとっても嬉しくて進めちゃったの・・・あの人珍しく趣旨替えして厄払いだって飲んじゃった」
功一 「ああ、珍しく兄貴が良い機嫌だったの覚えてますよ」
皆は頑張ろう会の事を懸命に思い出します。
功一 「ああ、珍しく兄貴が良い機嫌だったの覚えてますよ」
登和 「それがなんで・・」
良子 「エッ!・・・まさか!」
功一 「な、なんだよ!」
良子 「兄さんの命日が三月」
功一 「・・ええ、うそ!」
典子 「そうなのかい」
それはコロナの感染に結び付きました。
京香 「症状が出て来たのは五日ぐらい経ってからだった。熱が出て咳をし始めたの。心配になって医者に行ったらコロナだって」
登和 「そんな・・・」
典子 「そうだったの。初めて聞いた」
京香 「あの人が入院してから付き添いも出来ず、ただオロオロしているうちに・・・あの人は逝っちゃった。どうして、何故って言葉が頭の中で渦巻いていた。あんなに気を付けていたあの人が何故って・・・店は開けてたんだからどこでうつったかなんて分からない筈なのに、あたしが飲ましてしまったあの会の事が頭から離れなかった。あたし自分を責めたわ、あの人が逝ったのはあたしの所為だって。そのうちみんなの事も、いや七曲り自体を責め始めたの。そうなったらもうあの人をあたしから奪った七曲りには一日も居たくなかった」
典子 「それで七曲りから出て行ったのかい」
京香 「でもあの人の為に夜逃げみたいにはしたくなかった。家賃や閉店する為のお金をかき集めて残した。あたしの頭にあったのはあの人に恥をかかしたくないそれだけだった。そうしてみんなの前から姿を消した。他の人を思う余裕なんてなかった」
悲痛な京香の叫びに言葉を亡くした一同でしたが、京香は今まで胸の内にしまっていたものを吐き出しことで素直な自分を取り戻したようでした。
功一 「姉貴が思っちゃったんだからどうしようもねえよな。・・・やあ、でも考えもしなかったな、頑張ろう会か」
良子 「そんな風に結びついていたんだね」
登和 「まさかね・・・」
京香 「本当の事は分からないんだけど・・」
典子 「そうでも思わなきゃ納得できなかったんだろうね」
京香 「正直いうとあの時は本当にそう思い込んでいました」
典子 「そうだったんだね」
典子 「で、どうだい。諸々の気持ちをさらけ出した今の気分は」
京香 「・・・ええ、お陰様で楽になりました」
良子 「姐さん帰って来たんだね」
京香 「こんなあたしを迎えてくれるの」
功一 「当り前田のクラッカーだよ」
京香 「こんなあたしが仲間にはいっていいの」
登和 「何言ってんですか。当たり前じゃないですか」
良子 「みんな姐さんの事待っていたんですよ」
京香 「いろいろ気を使わしちゃったね」
典子 「これでスッキリしたね」
京香 「ええ、お陰様で。本当はみんなにどんな顔で会えばいいのか分からなかったんだ」
功一 「そんな顔で我慢しておきますよ」
良子 「功さんったら」
京香 「じゃ、こんな顔でよろしくお願いします」
皆の喜ぶ姿を見て再出発の思いを強くする京香でした。
撮影鏡田伸幸
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