1: 2014/01/27(月) 19:57:34.33 ID:Cuy/NfzY0

11: 2014/02/04(火) 03:01:41.52 ID:O4wV3IVn0
581

--失われた王国--

ざっ

勇者「さぁ、ついたわ。ここが私達の本拠地よ」

ひゅおおぉ

アッシュ「……近づき始めてから気づいていてたことだが」

ポニテ「やっぱここ……」

ツインテ「あの時の……!」

盗賊「あれ? ポニテらここに来たことあったん?」

ちOちんぷらぷらさせながらポニテに近づく盗賊。

ポニテ「! ちょ、ちょっとパパ! 前隠してよ!!」

盗賊「あー、ごめんごめんー」

勇者「……はぁ」

頭を抱える勇者。

12: 2014/02/04(火) 03:02:15.56 ID:O4wV3IVn0
582

--失われた王国--

ぱちっ

勇者は着けていたマントを取り外して盗賊に渡す。

勇者「ほら、これで前隠して」

ポニテ「駄目だよママ! マントが汚れちゃうじゃない!!」

盗賊「えっ!?」

ツインテ「な、なんてゆうか随分個性的なお父さん……ですね」

アッシュ「個性的で済ましていいのか……」

レン「ただの変Oにゃ」

ハイ「ですね……」

魔法使い「ぶほっwwwちOちんぷらぷらwwwwソーセージwwww」

キバ「あ、元に戻っちゃった!」

13: 2014/02/04(火) 03:02:59.17 ID:O4wV3IVn0
583

--失われた王国--

がやがや

難民男「あ、勇者様だ!」

難民女「勇者様! みんな! 勇者様が帰ってきたわ!!」

わー!

一斉に勇者の周りに集まる人々。

難民青年「勇者様おかえりなさい!!」

難民少女「おかえりなさーい!!」

勇者「ただいまみんな。新たに運び込まれた人たちはどう?」

難民老人「今若いのが怪我人達を治療しています。……ですが、何せ数が多くて人手が……」

老人は顔を曇らせた。

14: 2014/02/04(火) 03:05:30.09 ID:O4wV3IVn0
584

--失われた王国--

勇者「わかった。新しい怪我人は治療塔にいるの? 私も手伝いに行くわ」

難民中年「!? だ、駄目です! 勇者様は働き過ぎですよ! 少しはお休みになられた方が……」

難民眼鏡「そうだそうだ! それくらいは自分たちの手でやるさ……! 何から何まで勇者様に任せてたんじゃ、勇者様に申し訳がねぇ!」

わー! わー!

盗賊「……」

その光景を見ていた盗賊は、静かに昔のことを思い出していた。



  --過去--

  ザワザワ

  勇者は処刑場の真ん中で拘束されていた。頭に布を被せられていて、勇者からは周りが見えず、周りからは勇者の顔を確認することが出来ない。

  一般人A「あれが魔族ですか……まぁ恐ろしい! 首から下は人間と全く変わらないじゃないですか」

  一般人B「ちょっと小さいわね。子供なのかしら……でもきっとあの布の下は醜い顔に違いないですよ」

  一般人C「おらー!! よくも西の王国潰しやがったな!!」

  一般人の投げた石が勇者の頭部に当たる。

  勇者「づっ!!」

  兵士K「投石をやめなさい!!」

  勇者の頭にかぶせられた布が赤く染まっていく。

  勇者「……」

15: 2014/02/04(火) 03:06:07.00 ID:O4wV3IVn0
585

--失われた王国--

盗賊「……」

わー! わー!

盗賊「……ふ」

盗賊の口角があがってしまうのも無理はない。

ツインテ「……凄い……」

ハイ達が見たのは、人々に心の底から心配されている勇者の姿だった。

アッシュ「……これが勇者……か」

人々は辛い状況にありながらも勇者に笑いかけている。

ポニテ「私達が……目指したもの」

人々は勇者がいることで、少しも絶望していなかった。

勇者「……ありがとうみんな。でも私は大丈夫だから」

勇者はそう言って微笑んだ。

16: 2014/02/04(火) 03:07:46.63 ID:O4wV3IVn0
586

--失われた王国--

ざっ

盗賊「あー、みんな落ち着けってー。勇者にだけやらせはしないよ。強力な回復魔法を使えるの、俺達がいっぱい連れてきたからさ」

ざわ……

難民老人「あ、盗賊だ……」

難民男「あの役立たず!……どうせまた今回も勇者様に迷惑をかけたに違いねぇ!」

難民女「このごくつぶしー!」

難民少女「ろしゅつきょー!」

難民人妻「氏ねー!」

難民中年「勇者様から離れろー!」

わー! わー!

打って変わって怒号が飛び交う。

ハイ「……なんですかこの違い」

レン「一体この男何したのにゃ……」

盗賊「はっはっはっ、愛してるよー」

はらり

マントが取れて真っ裸で手を振る盗賊だった。

17: 2014/02/04(火) 03:08:58.65 ID:O4wV3IVn0
587

--失われた王国--

ツインテ「勇者さん」

勇者「ん?」

ツインテ「あの……治療、ボクも手伝っていいですか?」

勇者「……もちろん。ツインテの治療能力の高さは知ってるわ。是非手を貸してね」

ツインテ「は、はい!」

ポニテ「あ、じゃあ私もなんか手伝う!」

アッシュ「ふん、施術なら俺も多少出来るぞ」

ハイ「時間制限がありますが私も……」

レン「レンは道具とか器材作るにゃ」

ぞろぞろ

難民中年「あの子らも勇者様が? でもちっと若くねぇか?」

難民老人「勇者様が選んだ人たちだ……きっと大丈夫に決まってるさ」

18: 2014/02/04(火) 03:10:11.22 ID:O4wV3IVn0
588

--失われた王国、治療塔--

竜子「おせーぞ代表! 外に薬草取りに行くのにどれだけ時間かかってんだ!!……ってなんだ、随分大人数になったな」

代表「王国の入り口らへんで会ったんでね。一緒にやってきたんだ。はい、薬草」

ばっ

竜子は薬草をひったくるように受け取った。

うぅう……

ツインテ「ひどい……これ全部怪我人ですか……?」

治療塔のフロアは広い。それが一階から四階まで全て怪我人だと言うのだ。

竜子「全部じゃないね。もう氏んじまってるのもいる。24時間以内に蘇生しなきゃいけないんだが蘇生しただけじゃ回復しきれない! またしばらくすると治しきれなかった傷が開いて氏んじまうんだ! くそ!!」

勇者「今のここの責任者は貴女なの?」

竜子「そうだよ! あのハゲ、結界が弱まってるから見てこなきゃいけないとか言って出てった!」

ハイ「ハゲ?」

19: 2014/02/04(火) 03:11:08.82 ID:O4wV3IVn0
589

--失われた王国、治療塔--

アッシュ「はっ、なんだ、寄生系のめんどくさい魔法攻撃でも受けて苦しんでるのかと思ったぜ」

ポニテ「ほんとだね~。回復不能攻撃を受けてるわけじゃないみたいだし」

竜子「はっ!? お前ら何言ってんだ!?」

レン「くあぁ。レンは指輪の生成だけやってればよさそうにゃ……むにゃ」

ハイ「です、ね」

竜子「だからぁ!!」

ツインテ「あ、あの……」

おずおずとツインテが手をあげる。

ツインテ「ボクが治しても、いいですか?」

20: 2014/02/04(火) 03:12:53.41 ID:O4wV3IVn0
590

--失われた王国、治療塔--

竜子「……どいつをだ?」

ツインテ「えっと、この塔にいる人たち全員、です」

竜子「」

竜子は口を開けて固まった。

竜子「……このくそ忙しい時に何を言い出すかと思えば……」

竜子は振り返って患者の患部に薬草を塗る。

竜子「お前みたいな餓鬼一人で何ができるってんだよ! 状態異常になってるやつも少なくない。そいつらの症状を全部見極めて治療して回復させる。これだけで一体どれだけの手間がかかると思ってんだ!」

アッシュ「いいぞツインテ。やっちまえ」

アッシュは親指で指図。

ツインテ「は、はい。奥義、絶対回復領域」

ぱぁああ

ツインテの奥義展開と同時に暖かい魔力が空間を満たしていく。

患者「う、うぅ……ん? なんだ……? この暖かな光は……」

21: 2014/02/04(火) 03:13:49.29 ID:O4wV3IVn0
591

--失われた王国、治療塔--

ぱぁああ

患者「! い、痛くなくなった……!? あの深い傷が一瞬で治った!?」

重症患者「……暖かい……なんて、暖かいんだ……」

ツインテ「……」

ツインテは目を瞑り、指を組んで拝んでいるようだった。

ぱぁああ

竜子「!? はぁ!? ほんとに……全員いっぺんに治してるっていうのか……?」

きらきらきら

少年患者「綺麗……」

青年患者「女神様……女神様だ……」

老人患者「ありがたや……ありがたや……」

ぞろぞろ

動けるようになった患者達はツインテに向かって拝み始める。

22: 2014/02/04(火) 03:14:44.51 ID:O4wV3IVn0
592

--失われた王国、治療塔--

竜子「ひ、一人回復させるだけでも結構魔力もってかれるんだぞ……? それを状態異常回復や蘇生まで同時にやってるっていうのか……? 何百人単位で!?」

ぱぁああぁあ

ポニテ「ずっとこれが当たり前のように旅してきたけど、よくよく考えるととんでもないことだよねー」

目が==なポニテ達。

アッシュ「全くだ。結婚したい」

レン「相変わらずレンのツインテは ああ!う…美しすぎます!」

ハイ「はぁ。長旅の疲れも取れます~」

竜子「……ばけもんじゃねぇか」


23: 2014/02/04(火) 03:17:06.51 ID:O4wV3IVn0
593

--失われた王国、治療塔--

ツインテ「こんな感じで……うわっ!?」

目を開けたツインテ。するとフロアにいる全員がツインテに向かって土下座をしていたのだ。

ツインテ「い、一体何が……」

ざっざっ……

?「……ん? ツインテ、ちゃん? ツインテちゃんかい!?」

ツインテ「!? この、声は……」

振り返るツインテ。

?改め賢者「やっぱり! ツインテちゃん無事だったんだね!!」

ツインテ「お父さん!?」

踊子「ほら言ったじゃないですか~私達の子が簡単にやられるわけないって~」

ツインテ「お母さん!!」

賢者と踊子が現れた。

盗賊「おっす賢者さん。ただいまー」

勇者「私達さっき帰ってきたとこなの。結界は大丈夫だった?」

賢者「えぇもちろんです。これから全員の治療をしようと思ったのですが……やれやれ、さすがは僕の自慢の子供だ」

賢者はツインテに近寄って頭をなでた。

賢者(……けれど……あの時から一切成長していない……)

踊子「……」

24: 2014/02/04(火) 03:17:57.72 ID:O4wV3IVn0
594

--失われた王国、治療塔--

う、うぅ……

ポニテ「!? ツインテちゃんの絶対回復領域で治せない人が!?」

アッシュ「! そうか。欠損か……例え魔法でも無から有は生み出せない。ここに無いものは治すことが出来ない……」

ツインテ「!」

ツインテは西の王国でのレンを思い出す。

アッシュ「どれ……回復が出来ないのなら苦しみが長引くだけだ。いっそ俺が楽に……」

しゅぴぃん

アッシュはナイフを抜く。

ポニテ「!! アッシュ君!!」

すたすたすた

???「げほっ、ごほっ」

アッシュが近づいたその人物は血を吐いた。

25: 2014/02/04(火) 03:18:48.59 ID:O4wV3IVn0
595

--失われた王国、治療塔--

すたすた……

アッシュ「……!?」

???「がはっ!……ぜぇ……ぜぇ……」

からん

アッシュは、ナイフを落とす。

???「はぁ、はぁ……お久しぶり、ですね……あなたの声が、聴こえたと思ったら……」

腹部に巻かれた包帯の隙間から血が滲んでくる。

アッシュ「そんな……」

???「大きく、なりましたね。アッシュ」

弱々しく笑うその人物は、秘書。

アッシュ「お母、様……」

ハイ、ツインテ、ポニテ、レン「「「!?」」」

26: 2014/02/04(火) 03:19:33.17 ID:O4wV3IVn0
596

--失われた王国、治療塔--

ツインテ「えっ!? アッシュ君のお母さん!?」

ポニテ「そんな、こんな再会だなんて……」

勇者「……やっぱり」

レン「……」

アッシュ「そんな! なんでお母様が、こんな!」

アッシュは地面に膝をつき、秘書の右手を握る。

???改め秘書「……皆の、いるところで、その呼び方をしてはいけない、と、言ったでしょう?」

アッシュ「く……」

秘書「ふふ……さすがに、魔族の相手はきつくて……失敗して、食いちぎられてしまいました」

アッシュ「!」

秘書の腹部の左側が異様に凹んでいる。

27: 2014/02/04(火) 03:20:24.59 ID:O4wV3IVn0
597

--失われた王国、治療塔--

アッシュ「……お母様」

秘書「呼んでは、いけないと、言っているのに……困った子」

秘書は震える左腕を伸ばしてアッシュの頬に触れる。

アッシュ「お母様……!」

アッシュの頬に一筋の涙が流れる。

こつ、こつ

盗賊「お」

その場に現れた西の王に気づいた盗賊は道をあけた。

こつ、こつ、こつ

アッシュ「……? 西の王? なぜここに」

西の王「……勇者が次に戻って来た時に話がある。そう言っていたな? 話を聞きに来たぞ。秘書よ」

28: 2014/02/04(火) 03:22:03.61 ID:O4wV3IVn0
598

--失われた王国、治療塔--

秘書「ご足労、おかけしました。ぐっ!」

ぼたたっ

アッシュ「! お母様! 無理するな!!」

秘書はなんとかして上半身を起こそうとしている。

西の王「……」

秘書「はっ、はっ……西の王様。お伝えしたいことがございます……」

西の王「なんだ?」

秘書「この子、アッシュは……私が作り上げたホムンクルスです」

アッシュ「!?」

ハイ、ツインテ、ポニテ、レン「「「!?」」」

勇者「……」

西の王「ホムンクルス……人工生命か。確か国際法で禁止されている禁術だが……お前一人でやったのか?」

レン(……)

秘書「いえ、私は人を頃すしか能の無い女……ご想像の通り、研究員に手伝わせました」

ぼたたっ

アッシュ「……そんな……」

秘書「私は……はぁ……生まれてからずっと闇の道を歩んで来ました……だからこそ、光に……憧れました。勇者という、人類の希望に……」

29: 2014/02/04(火) 03:24:11.97 ID:O4wV3IVn0
599

--失われた王国、治療塔--

アッシュ「お母様……」

秘書「でも私では成ることが叶いません……成れるわけもありません。この手はいつだって人の血で真っ赤に染まっていました……勇者とはまるで対極の存在でした……でも、だからこそ、せめて……私は夢を見ました……」

西の王「……」

秘書「この子を勇者にする。それが夢です。……そのためにこの子には勇者因子を組み込んでいます……もっとも、人造勇者が持つ危険性、暴走を恐れた私達は何重にもリミッターをかけました……ふふ、そのせいで今も表面には出てこないようですが……」

秘書は弱々しく笑う。

秘書「ラッカーの、サンプルも組み込みました……私が頃した、暗殺組織の先代の毒属性です。私の人頃しスキルも組み込んであります」

西の王「……何を組み込んだかなどとはどうでもいい。そのアッシュの、ベースとなっているものは誰だ? 誰の血を使い、お前はそのホムンクルスを作ったのだ?」

秘書「私の血……そして、貴方様の血でございます」

アッシュ「!!」

ツインテ(それって)

西の王「……こいつのことは自分が育てた最高の切り札と聞いていたが……そういうことだったのか」

アッシュ「……」

秘書「……はい」

アッシュ「お、お母様! じゃ、じゃあいつもカーテン越しに話していたお父様は」

秘書「あれは私の配下の者よ……今まで騙していてごめんなさい」

30: 2014/02/04(火) 03:28:40.57 ID:O4wV3IVn0
600

--失われた王国、治療塔--

西の王「……お前が言いたいのは……これを、我が子として認めろ、と言うことか?」

アッシュ「ッ!」

秘書「はい……何を勝手なことと、思うでしょう……恥知らずの私でさえ、そう思います……本当ならばこれは、誰にも喋らずに墓場まで持っていくつもりでした……うっ!」

ばしゃっ

アッシュ「お母様! もういい! やめろ!!」

ぐぐ……

秘書「でも、もう私は長くはありません……そう悟った時……言わずにはいれなくなったのです。貴方様から、認めの言葉を聞かずに氏ぬわけにはいかなくなったのです……!」

秘書は全ての力を振り絞って上半身を起こそうとしている。
眼はもはや虚ろ。焦点も合っていない。

西の王「……」

秘書「ひゅー、ひゅー……西の王様……」

ざわ、ざわ

アッシュ「……お」

西の王「俺は王だ。王が法を破るわけにはいかない。……それが俺の血をベースに作られたホムンクルスだなどと、認められるはずがない。ホムンクルスは禁忌の存在だ」

アッシュ「」

西の王はそう断言する。

秘書「……ひゅー、ひゅー」

勇者「……」

盗賊「……」


31: 2014/02/04(火) 03:32:02.11 ID:O4wV3IVn0
601

--失われた王国、治療塔--

西の王「あ、あの日の過ちか。そうだ、思い出した。こいつはあの時の子か」

ぽんっ

わざとらしく、西の王は手を叩く。

アッシュ「……へ?」

西の王「思い出した思い出した。あぁなるほどなぁ。そういうことか。お前は俺の立場を思って今まで内緒にしてくれていたのだな。はぁ~……まさか出来ていたとはなぁ」

ざわざわ

ハイ「……あはは」

ポニテ「……いやいやそれはそれでスキャンダルじゃん」

西の王「法に触れているわけではない」

賢者「……」

踊子「そう……そういうことにするのね」

すっ

秘書「……あ」

西の王は秘書の手を取った。

西の王「……今まで……俺に尽くしてくれたこと、深く感謝する。……ろくな礼もできずにすまなかった」

秘書「あ……」

西の王「……俺とお前との子、アッシュは俺に任せてゆっくり眠れ」

アッシュ「」

秘書「」

つー

秘書「ありが、とう……ございます」

秘書は生まれて初めて泣いた。

32: 2014/02/04(火) 03:34:17.78 ID:O4wV3IVn0



…………
……


黒づくめの男「……はっ? 今なんと申されました?」

黒づくめの男は汗をたらしながら聞き返す。命令を聞き返すなど、本来ならばありえないことだ。

秘書「暗殺者の心得がなっていませんね。二度言わねばわかりませんか? ならばあえて言いましょうもう一度。……明日の幼稚園の運動会、アッシュの活躍がばっちり見える場所を今のうちからしっかり確保しておけ、と言ったのです」

黒づくめの醜男「お、お言葉ですが……明日は前々から追っていた砂漠の風の団員が、西の王国近辺に現れるという情報が……」

秘書「聞き返した次は口答えですか! そんなことはどうでもいいのですよ! ちゃんと場所を確保し、この魔法式ハンディ○ムでアッシュの勇士を取るのです!! それがお前達の明日の任務です!!」

黒づくめ一同「「「ははっ!!」」」

しゅたたっ!

秘書の気迫に押された黒づくめの者達は一瞬でその部屋からいなくなる。

秘書「……はぁ」

秘書はためいきをつくと、胸元にしまっていたブローチを開く。

秘書は、

秘書「……ふふ」




嬉しそうに笑った。

40: 2014/02/11(火) 01:48:16.01 ID:f1Zv9w8G0
602

--過去、王国--

兵士X「――俺が騎士団分隊長の座に?」

受付「えぇ。普通入団してすぐにこの座につけませんよ? 全ては王様のご好意……感謝することです」

兵士X「……」

受付「……どうしました? 不服そうな顔ですね。よもやこの程度では満足できないと?」

受付は書類から目を離して兵士Xの顔を見る。

兵士X「いや、功績が認められたのは素直に嬉しいのだが……夢への方向が違うものだから」

受付「? 夢への方向?」

兵士X「……俺は……西の王国を再建したいと思っている」

兵士Xは受付の目を見て言った。

受付「……たかが兵の分際で大きく出ましたね。……夢だなどと……馬鹿らしい」

41: 2014/02/11(火) 01:49:13.68 ID:f1Zv9w8G0
603

--過去、王国--

とんとん

受付「夢を見るのもいいですけれど、それより現実を見なくてはいけませんよ。今の貴方がそんなことを言ったところで誰も本気になどしません」

兵士X「……全くだな」

兵士Xは苦笑する。

兵士X「一人では到底不可能な夢だ。強力な協力者が必要不可欠、だ」

兵士Xは独り言のように呟く。

受付「……」

兵士X「……君は、どうなんだ?」

受付「は? なにがです?」

兵士X「君に夢は無いのか?」

受付「」

兵士X「なんだか君は、ただの鋭利なナイフのように思える」

42: 2014/02/11(火) 01:50:24.90 ID:f1Zv9w8G0
604

--過去、王国--

受付「……」

兵士X「自分の意思も、趣味も何もない。ただ単に主に命じられることを遂行する一本の」

しゅぴぃん

受付のナイフが兵士Xの喉元に当てられる。

受付「雇用主に対して随分と口が過ぎますね……わかっているのですか? 貴方程度の命など、所詮替えのきく消耗品に過ぎないことを」

兵士X「そして、ナイフのような寂しい輝きをした瞳をしている」

受付「!?」

少しだけ、たじろぐ受付。

兵士X「君の夢はなんだ? それはあの老いぼれの下で手を汚し続けることで叶うのか?」

受付「っ……わたしに、夢など……」

兵士X「無いのか? それなら君は……」

受付「黙れ!」



ナイフの先端が兵士Xの首に埋没する。

つー

兵士X「……感情、あるじゃないか。それなら執着するものもあるんだろう? そして夢も」

受付「!」

43: 2014/02/11(火) 01:51:55.17 ID:f1Zv9w8G0
605

--過去、王国--

受付の脳裏に勇者の姿が浮かんだ。

受付(心が、揺さぶられる……精神攻撃?……いや、ただ単に)

兵士X「……」

受付(本心を、言い当てられただけ)「……私に夢があったとしたら、一体なんだというんですか……貴方に何の関係が?」

兵士X「俺の夢に協力して欲しい。その代わり、俺もまた君の夢に協力する」

受付「……は、は? いきなり何を言って」

兵士X「俺が夢を叶えるのにもっとも必要なのは君なんだと、直感でそう思った。その戦闘力、巧みな権謀術数……君の力、俺に貸してくれ……!」

ずっ!

兵士Xはナイフに突き刺されながらも顔を近づける。

受付「!」

ぽた、ぽたた

44: 2014/02/11(火) 01:56:48.37 ID:f1Zv9w8G0
606

--過去、王国--

受付(こ、この人……!)

ぽたっ、ぽたたっ

ナイフは相当深く入っている。

受付「……貴方なら……私の夢を、叶えられるというんですか?」

受付は、視線を泳がせながら言葉をつむぐ。

兵士X「叶えてみせる。そのために必要ならば……俺の人生を賭けよう」

受付「!!……他人の夢のために、自分の人生を賭けると……?」

兵士X「あぁ。だから、俺の夢のために力を貸してくれないか……?」

受付「……」

ぽたっぽたたっ

二人は長いことそうしていた。床一面が赤く染まるほど……。



ぴちゃっ

受付「……いいでしょう」

ずるっ

受付はナイフを引き抜いた。

受付「貴方を……次の私の主としましょう」

兵士X「うっ……げほっ……気を失う前で、よかった」

そう言って兵士Xは青い顔で笑った。

45: 2014/02/11(火) 01:57:58.25 ID:f1Zv9w8G0
607

--失われた王国、墓地--

ざっ、ざっ

アッシュ「……」

西の王「……」

西の王はスコップを使って地面を掘っている。
氏んだ秘書を墓地に埋めるために。

ざっ、ざっ

アッシュ「……」

西の王「こんな、ものか。本来ならもう少しまともな葬儀をやってやりたかったがな。今は有事、仕方がない。手が空いているものには仕事が待っている」

アッシュは軽くなってしまった秘書を穴に運んだ。

すっ

西の王「……」

46: 2014/02/11(火) 01:59:30.88 ID:f1Zv9w8G0
608

--失われた王国、墓地--

花を持たせ、そして土をかけていく。

ざっ、ざっ

西の王「……」

アッシュ「……」

ざっ、ざっ

西の王「……バカな女だ。子供が欲しい、の一言も言えないとはな」

アッシュ「!」

スコップを動かす西の王が喋る。

アッシュ「黙れ……お母様を……悪く言うな」

西の王「……」

西の王はアッシュを一瞥すると、再び土をかけていく。

ざっ、ざっ

西の王「……互いの夢のために協力すると……約束しただろうに……」
ひゅぅうう

小さく呟いた言葉は風にかき消されてしまう。

47: 2014/02/11(火) 02:01:42.53 ID:f1Zv9w8G0
609

--失われた王国、墓地--

ざっ……

作業が終わると西の王は空を仰ぎ、腰を叩く。

西の王「ふー……なんてざまだ。こんな単純作業で体を重く感じるとはな……いくら一線を退いて長いとはいえ」

アッシュ「……」

アッシュは母の墓をずっと見つめていた。

西の王「アッシュ……秘書との約束だ。バックアップが必要なら、俺が出来る範囲で手を貸そう。だが、俺はお前の親にはならない」

アッシュ「……!」

振り返るアッシュ。

西の王「秘書の手前ああ言ったが、あれは嘘だ。お前を我が国の王子として迎えることは無い」

そうきっぱりと西の王は言う。

アッシュ「……あぁ、わかっている。俺だって、今更あんたを父親と呼ぶつもりは無い!」

西の王「あぁそれでいい。お前の親は秘書だけなのだからな」

アッシュ「」

ぐっ

西の王はアッシュにナイフを差し出した。

西の王「これはあいつのナイフだ。お前が持っておけ」

そして西の王は踵を返した。

ざっ

西の王「……お前はお前の思うがままに進め。何にも縛られることなく、母の夢を、叶えるために」

48: 2014/02/11(火) 02:04:36.87 ID:f1Zv9w8G0
610

--失われた王国、東--

がやがや

賭博師「お、いた参謀長さんよ」

参謀長「ん? あぁ賭博師さん。貴方は無事でしたか」

参謀長ともこもこに抱きつくようにして眠っている姫を見つけて走り寄る賭博師。

賭博師「あぁなんとかな……色んなもんをうしなっちまったけどさ。いやぁここには色んな人がいるから見つけるのも大変だったぜ」

賭博師は姫を見る。

姫「すー、すー」

姫の目元には泣きはらした跡が。

賭博師「……そっちも大変だったみたいだな」

参謀長「見ての通りですよ。盛大にやられました」

参謀長は手を広げてジェスチャー。

参謀長「まさか既に敵がもぐりこんでいたとは思いませんでした。あのGのやろぉ……」

賭博師「Gさんかよ、まじか……っと、募る話もあるだろうけどさ、先に他のやつらの居場所教えてくれないかな? あいつの……病気のこともあるしさ」

参謀長「あぁ、調教師さんをお探しでしたか」

賭博師「あー、すまねぇな自分のことばっかりで」

申し訳なさそうに頭をかく賭博師。

参謀長「彼女なら氏にました。生き残ったのはここにいる私達と研究員さんと機械兵士だけです」

賭博師「         」

参謀長「そういえば最後の言葉を預かっています。貴方といられて幸せでした、と」

賭博師「         」

49: 2014/02/11(火) 02:05:35.24 ID:f1Zv9w8G0
611

--失われた王国、中央広場--

魔剣使い「侍様! ご無事でしたか!?」

侍「おぉ! 魔剣使い殿。おぬしこそ無事だったか……いや、本当に不幸中の幸いでござるよ」

二人は抱き合って再会を喜ぶ。

魔剣使い「……少し、若返っていませんか? 皆さん」

通信師「体を少しいじられましたからね。所謂全盛期の肉体ってやつです」

魔剣使い「! すごい……! 皆さんが全盛期の姿だなんて、なんて心強い!」

符術師「期間限定だったけどなー」

魔剣使い「……へ?」

医師「もう私達五人は戦うことが出来ないんですよ。反動でね」

医師は震える手を見せる。

50: 2014/02/11(火) 02:06:36.61 ID:f1Zv9w8G0
612

--失われた王国、中央広場--

すたすたすた

ツインテ「けどまさかアッシュ君がホムンクルスだったなんて……びっくりしました」

ポニテ「全く気づかなかったよね。でもそんなの関係ないよ。だってアッシュ君はアッシュ君だもん」

レン「……ポニテ」

ハイ「はい、そうですねポニテ先輩」

盗賊「ポニテ……お前ほんといい子に育ったんだなぁ……」

盗賊は泣きながらポニテの胸に顔をうずめる。

勇者、ポニテ「「さりげなく娘にセクハラすんな!!」」

どぎゃっ!!

盗賊「おごぶっ!?」

勇者とポニテによる同時ツッコミを受けて痙攣しながら地面に倒れる盗賊。

レン「さすが親娘にゃ……」

賢者「相変わらず、なのかな盗賊君は……」

踊子「みたいですね~」

51: 2014/02/11(火) 02:07:54.36 ID:f1Zv9w8G0
613

--失われた王国、中央広場--

盗賊「いてて……でもま、この分だと言っても大丈夫だろう」

盗賊は立ち上がって砂をはらう。

勇者「! え、と、盗賊……?」

おろおろと盗賊に近寄る勇者。

ポニテ「へ? 何を?」

勇者「そ、それはまだ早いんじゃ……」

盗賊「何言ってんだ。今のポニテになら言っても大丈夫だよ。ちゃんとしっかりとした大人になった」

ポニテ「え、えへへ……」

ポニテは褒められてとりあえず胸を張る。

盗賊「それに、最終決戦に挑むんだから、自分のことはちゃんと知っておかなきゃいけないだろう?」

勇者「う……で、でも」

賢者「? 何か打ち明けたい秘密でもあるのかい? 盗賊君」

盗賊「うん、ポニテ、お前実は火の精霊だから」

52: 2014/02/11(火) 02:08:53.94 ID:f1Zv9w8G0
614

--失われた王国、中央広場--

盗賊はいつものように、にこにことした表情で、勇者はおろおろとしながら盗賊とポニテの顔を交互に見ている。

ポニテ「」

ツインテ「」

レン「」

ハイ「」

賢者「え、えぇ……?」

踊子「そ、それはまた~……どういうこと?」

ポニテ「えええーーーーーーーーーーーーー!? ぱ、パパママそれどういうこと!?!?」

盗賊「あぁ。だからお前は種族で言えば人間じゃなくて精霊ってこと。ん、半精霊かな?」

ハイ「いきなり人じゃないよ宣言!?」

レン「人間失格にゃ!!」

53: 2014/02/11(火) 02:10:09.82 ID:f1Zv9w8G0
615

--失われた王国、中央広場--

どさっ

ポニテ「……」

ポニテは地面に膝をつく。

勇者「ぽ、ポニテ!」

勇者は駆け寄ってポニテの肩を抱く。

賢者「盗賊君、それはどういうことなんだい?」

盗賊「……簡単に言ってしまえば、勇者のちっちゃな体で子供を作るのはちょっと危険だと思ったわけでありまして」

踊子「嘘ばかり~」

踊子はふふふと笑う。

踊子「盗賊君みたいなペド野郎が、母体を危険にさらすとか、その程度で子作りを断念するとは思いません~」

勇者の顔が真っ赤になる。

盗賊「ひどい言われようだな!?……ちぇ……怖かったんだよ、俺らに子供が出来るのが」

54: 2014/02/11(火) 02:14:55.94 ID:f1Zv9w8G0
616

--失われた王国、中央広場--

盗賊「勇者は、王様とトリガーから勇者の生まれ方ってやつを知らされててね、俺もそれを勇者から教えて貰った」



  王様「勇者因子を持つ者は生まれからして違うのだ。王の家系、伝説の人物の血筋、竜の子孫。全て特殊な生まれ方をしている」



賢者「ごく……」

盗賊「そして俺らは魔王を倒した勇者パーティだ。英雄だ。偽ることの出来ない過去だ。しかも片方は魔王になりかけた勇者……その間に出来た子供が次の勇者になる可能性は……間違いなく高いと思った」

踊子「……」

盗賊「生まれてくる子がもし勇者因子を持っていたら? 更に、勇者が何かの拍子に魔王になってしまったら?……そんな最悪の事態になっちまったら、どうなる……?」

ポニテ「……」

盗賊「俺は勇者を護るために次の勇者と戦うと誓ったよ。敵が誰だろうと関係ないとも勇者に言った。でもそれが、その相手が……自分の子供だったら……?」

勇者「……ッ」

唇を噛み締める勇者。

ツインテ「……なんて、壮絶な……」

賢者(それが事実だとしたら、それを僕らも知っていたなら……僕たちも子供を作ろうだなんて、思わなかったかもしれない……)

盗賊「……」

ポニテ「……」

盗賊「……俺はあまりにも悩んだせいでいんぽになった」

賢者、踊子「「はっ!??!」」

55: 2014/02/11(火) 02:16:51.13 ID:f1Zv9w8G0
617

--失われた王国、中央広場--

踊子「あ、あんたって人は~! 娘の出生に関する大事な話の最中になんちゅう~!!」

盗賊「うっ……せっかくの、勇者との、うっ、ううっ……」

泣き始める盗賊。

レン「こいつ最悪にゃ……」

人の親をこいつ呼ばわり最悪呼ばわりのレン。

ハイ「子が子なら親もって感じですね……」

呆れ顔のハイ。

ポニテ「……」

盗賊「すん……でも勇者は子供が欲しがってたし、俺もすんごい欲しかった。勇者の子供だよ? クッソ可愛いに決まってんじゃん。そしたら見るに見かねた火の精霊様が俺達に提案してくれたんだよ。二人の魂をベースにした新しい命を作り出すことに協力してやろうって」

賢者「!」

勇者「南の島の守り神、火の精霊様だよ」

56: 2014/02/11(火) 02:19:14.46 ID:f1Zv9w8G0
618

--失われた王国、中央広場--

ポニテ「お、おかしいと思ってたんだ……超レアスキル、魔力変換炉……。魔法王国の図書館にあった書物に記録されていることと、私の性質は全然違った……これはむしろ精霊の特性に近い、って思ってたんだ……だから私、どうせならこれを有効に利用しようとして、精霊化を……考え付いたのに」

ツインテ「……確かに精霊様の体は魔力で出来ていると聞きます……体を維持するのも魔力……本来ならその激しい魔力消費をなんとかするために、魔脈張りめぐる妖精郷から動かない……。でもポニテさんは人間として動き回るから、エネルギーが足りなくて、いつも代替エネルギーとしての食事の量が多かったんだ……」

レン「……思い返せば色々とヒントはあったにゃ」

盗賊「大体さー、おっOい見てみろよー。こんなんだぞ勇者の。おっOいマウスパッドの商品化出来ねぇんだぞ? ポニテと全然違うじゃんよ」

勇者の胸板を撫でながら説明する盗賊。

勇者「……あの時火の精霊様にお願いしたのよ。ここだけはなにとぞ、なにとぞって、ね!!」

どごっ!

盗賊「おぱぁう!?」

勇者の肘鉄で悶絶する盗賊。

ポニテ「……私、パパとママの、実の子供じゃ、無かったんだ……」

涙を流すポニテ。

57: 2014/02/11(火) 02:21:00.59 ID:f1Zv9w8G0
619

--失われた王国、中央広場--

盗賊、勇者「「それは違う!」」

二人は叫んでいた。

ポニテ「っえ」

盗賊「生まれ方がちょっと特殊なだけだよ。言っただろ? 俺らの魂をベースにしてるって」

勇者「ポニテは紛れも無く私達の子供なんだよ!!」

がばっ!!

勇者はポニテを抱きしめていた。

勇者「……ポニテ、確かにあなたは私がお腹を痛めて産んだ子じゃないよ……? でも、私はいつもポニテを想ってきた。ずっと愛してきたよ?……嬉しかったよ。私に、本当の家族が出来たって思った……」

盗賊(あれ? 俺と結婚した時は?)

勇者「いつも大事に想ってきたよ……私はお腹は痛めてない、でも、ポニテを想って、ずっと心を痛めてきたんだよ」

ポニテ「……ママ……」

二人とも涙を流している。

盗賊「……」

鼻を搔いたり後ろを見たりして落ち着かない盗賊。

賢者「~~」

お前も何か言えよと指図する外野。

58: 2014/02/11(火) 02:24:25.48 ID:f1Zv9w8G0
620

--失われた王国、中央広場--

盗賊「まぁ、そういうことだよ。お前は昔も今もこれからも、ずっと俺らの子供だ。ただいい機会だし、この後の戦いのために自分が精霊種だってことを自覚して貰いたかったんだ。精霊ならではの戦い方も意識できるなら、ポニテが生き残る確率があがると思うから」

盗賊は腰を下ろしてポニテの頭を撫でる。

ポニテ「うん……パパのバーカ」

ポニテはぐしゃぐしゃに泣きながら笑った。

盗賊「うん、馬鹿なんだ」



レン「……やれやれ。結局仲のいい家族って所を見せ付けられただけみたいにゃ」

母親を思い出して少し寂しいレン。

ハイ「ですね……」

ツインテ「ぐすっ」

ツインテはついつい貰い泣き。

賢者「! つ、ツインテ、君は大丈夫だよ!? 君とフォーテはちゃんと僕らの子だ!! ちゃんと滅茶苦茶して出来た子だから!」

踊子「何をトチ狂ってんですかあなた~」

ツインテ「あ、はは……別にボクは心配して」

ドクン!

ツインテ「――え」

ばちん!!

リボンが二つとも弾ける。

レン「! このタイミングで人格が変わるのかにゃ?」

ポニテ「ぐすっ……あれ? こんなの、見たこと無い……」

ツインテの髪の毛が短くなっていく。

しゅぅう

ハイ「ツインテ先輩の髪型が、セミロング、に?」

踊子「一体、何が~?」

勇者「……」

ツインテ?「ふぅ……お初にお目にかかる、かな?」

ツインテ?が顔を上げた。

ふぁさっ

ツインテ?「『僕』はツインテ。ツインテの主人格。言わばツインテゼロだ」

65: 2014/02/18(火) 02:48:38.70 ID:4mRbfnEp0
621

--失われた王国、中央広場--

ざわ

ポニテ「雰囲気が……変わった」

ツインテ「……」

レン「今までも色んな人格を見てきたけれど、でもこれはなにかが決定的に違うにゃ……」

ハイ「なんといいますか……無機質な感じがします……」

アッシュ「ツインテ……お前」

ポニテ「!? 何しれっと参加してるの!? アッシュ君お墓の方に行ったんじゃなかったの!?」

レン「ツインテの話になるとワープでもなんでもござれにゃこの変O!」

66: 2014/02/18(火) 02:50:35.53 ID:4mRbfnEp0
622

--失われた王国、中央広場--

ざわざわ

賢者「ツインテゼロって……え?」

踊子「私たちも一度も見たことが無いですね~……」

ツインテ「そうだね。僕はあまり表面に出てこなかったから」

落ち着き払っているツインテ。

アッシュ「おいお前、いきなり現れておいて……主人格と言ったな」

ツインテ「言ったとも。アッシュ」

にこりと笑いながらアッシュを見るツインテ。

レン「!」

ポニテ「呼び捨て!?」

アッシュ「……主人格を名乗るやつは他にもいたような気がしたが、主人格はいつものツインテールのツインテだろ。アイツが最も表層に出ていたのを一緒にいた俺達が知っている。だから」

盗賊「それよりもなぜ今になって出てきたのか、って方を先に聞くべき事なんじゃないの?」

鼻をほじりながら盗賊は言う。

67: 2014/02/18(火) 02:52:58.56 ID:4mRbfnEp0
623

--失われた王国、中央広場--

アッシュ「あのツインテが本当のツインテであることを確認するよりも優先すべきことなどあるか!!」

怒鳴るアッシュ。

盗賊「ひぃ! 今時の若者は怖いよぉ!!」

くすくす

ツインテは笑う。

ツインテ「その人の言う通り、他にも確認すべきことがあるだろうに。なぜ最初にそれを聞いて確かめなくてはいけないと判断したのか……その焦りよう……それは君がもう自分で理解しているからなんじゃないのかい?」

アッシュ「」

ポニテ「……」

レン「この存在感……今までと桁が違うのにゃ」

ハイ「まるで、フォーテさんを前にしているような感覚です」

68: 2014/02/18(火) 02:56:21.59 ID:4mRbfnEp0
624

--失われた王国、中央広場--

アッシュ「そ、そ……」

ツインテ「……」

アッシュ「存在感の大きさが証拠になるか!!」

ツインテ「そうか。じゃあ全部教えてあげるよ。どうせ僕もそのつもりで出てきたんだし」

勇者「……」

ツインテ「全ての勇者達が魔王になる瞬間に願った想い……『次こそはハッピーエンドを』。僕はそんな勇者達の強烈な願いが星の内部に蓄積することで生まれた魔力生命体なのさ」

アッシュ「」

ポニテ「」

レン「」

ハイ「……はい?」

69: 2014/02/18(火) 02:57:19.61 ID:4mRbfnEp0
625

--失われた王国、中央広場--

ツインテ「つまり、僕は魔王とその後ろにいるトリガーを打倒し、この永遠に続く戦いを終わらせるために創られた存在なんだ」

賢者「い、いやちょっとまって……ツインテは、え?」

勇者「……残念だけど赤姫もそのことを観測していたと言っていたわ。ツインテの言ってることは本当のことよ」

踊子「!……あ、赤姫様がそんなことを~……?」

勇者「黙っててごめん。私も最初に聞いた時は貴方達に話そうか迷ったんだけど……」

賢者「……」

ツインテ「いいかな? 話を続けさせてもらうと、僕は形を持たない存在だったから体が必要だった。そしてそこの二人の子供として生まれることになった」

賢者「……」

踊子「……」

ツインテ「だけど誤算が一つ起きる。トリガーが僕の存在に気づいたんだ。そして僕の思うようにはさせまいと、僕の一部を変質させて、フォーテを作り上げた」

賢者「!?」

70: 2014/02/18(火) 03:04:59.76 ID:4mRbfnEp0
626

--失われた王国、中央広場--

ツインテ「勇者因子を使わずに魔王を倒すために創られた僕。それに気づいたトリガーは、逆に魔王以外の強力な力で勇者を滅ぼしてしまうことにしたんだろう」

勇者「魔王の数はもう足りているからね。勇者が魔王になるのを待つ必要は無い。これ以上魔王の骨は必要が無い」

ハイ「……」

ツインテ「僕は魔王を倒すよりも先に倒さなくてはならないものを見つけた。フォーテを。生まれたばかりの僕はフォーテを倒すために自分を改良していくことにしたんだ」

ツインテはさらさらと何の感情も込めずに言葉を紡ぐ。

ツインテ「最初に僕が作ったのは防御機能。目の前のフォーテから自分を守るために僕は盾を作り出した。どんな攻撃にも耐えられる無敵の盾を」

そう言ってツインテは魔力を操り、水で髪にウェーブのかかった自分の顔を作り出す。

アッシュ「! あの時のツインテ……まさかその機能というのは多重人格か!?」

ツインテ「そう。各ステータスをまんべんなくあげるんじゃなく、一つのものを特化させたものじゃなければフォーテには対抗出来ないと思った。ただ、たった一つのことしか出来ないのであればそれもまたフォーテには適わないだろう。特化しつつも色んなことが出来るようにする。それには、多重人格がベストだと思ったんだよ」

ポニテ「……攻撃のストレート。情報のサイドテール」

レン「防御のウェーブ……そして……治癒の、ツインテール」

ツインテ「完全に特化した人格をいくつもそろえることで、自分だけで最強のパーティを組める。先代の勇者も似たようなことをやっていた」

71: 2014/02/18(火) 03:07:01.07 ID:4mRbfnEp0
627

--失われた王国、中央広場--

勇者「……」

ツインテ「最初に生み出したウェーブは初めてだったせいか精神の作りがいまいちでね。大人しすぎてコミュニケーションもとりづらいものになってしまった」

アッシュは震えている。

ポニテ「……それが本当だとしたら、君は何に特化してるの?」

ツインテ「ん? 僕? 僕は精神操作。もしくは生成、なのかな?」

アッシュ「ふ、ふざけるな」

ツインテ「?」

アッシュ「あ、あのツインテは……お前の作りものだっていうのかよ!?」

がしっ!

ツインテ「……」

アッシュはツインテに掴みかかる。

ツインテ「……そうだよ。対フォーテ戦にとって最も重要な人格だ」

アッシュ「っ」

ツインテ「治癒機能。あれは人の心すら癒し、全てを愛で包み込む。対フォーテ用に作り上げた、フォーテが好むように調整した人格だ」

72: 2014/02/18(火) 03:09:01.15 ID:4mRbfnEp0
628

--失われた王国、中央広場--

アッシュ「」

ツインテ「僕の最高傑作と言ってもいい。現にフォーテはあのツインテの前では骨抜きだった」

アッシュ「」

アッシュの指から力が失われていく。

ツインテ「君もそうだったんじゃないのか? 反応を見ればわかる、君もツインテを好んでいたんだろう? だからそんな風に動揺している。でも恥ずべきことじゃないよ、あれは誰にでも愛されるように、そう作り上げたんだから」

アッシュ「」

アッシュはツインテから手を離した。

ツインテ「……落ち込まないでよ。最初に僕がデザインしただけで、各人格は一人でに育って行ったんだから。生まれこそ異質なれど、今はれっきとした人間として生きている。それは君らと変わらないだろ?」

アッシュ「……」

ポニテ「……」

73: 2014/02/18(火) 03:10:13.64 ID:4mRbfnEp0
629

--失われた王国、中央広場--

踊子「! まさかあの時、旅に出たいって言ってきたのって!」

ポニテ「? あの時って、最初の時のこと?」

踊子「そう、あの日ツインテちゃんは旅に出たいと言ってきた。魔王を倒さなくてはならないって……本当は私の可愛い可愛いツインテちゃんを、たった一人で旅に行かせたくは無かったんだけれど……」

ツインテ「ご想像の通り、あの時は僕が意識を操らせて貰った。内気なツインテを旅出たせるには、親に旅に出ろと言われるのが一番だと思ったから」

賢者「……」

ツインテ「……僕はまだまだ実戦で力を磨かなくてはならなかった。だから旅にでなきゃいけなかったんだよ。……そんな顔をされると心が痛む」

勇者「……今になって出てきた理由はなに?」

勇者がツインテに質問する。

ツインテ「僕がどんな存在であるかを知ってもらうために。同じ志を持つ者が他にいるのだから協力するのが得策だ」

74: 2014/02/18(火) 03:11:23.98 ID:4mRbfnEp0
630

--失われた王国、中央広場--

レン「……しかし……」

ハイ「最強のホムンクルスに半精霊……そして対魔王用に作られた多重人格……このパーティはとんでもないですね……」

影が薄いハイは顔を引きつらせている。

ツインテ「とりあえずフォーテは僕にまかせて欲しい。それを言いたかった。そのための戦力は整えた」

勇者「……」

盗賊「ま、そういうのは後だな。うん後」

ツインテ「へ……?」

盗賊の間の抜けた声が辺りを黙らせる。

盗賊「作戦会議はこれからやるのよ、自己紹介はしてもいいけどさ、役割分担はこの後でだ」

ツインテ「あ、あぁ、すまない……」

強大な存在感を持つツインテが全裸のおっさんに謝ってしまう。

盗賊「というわけで、これからバーベキューをします」





ツインテ「……はい?」

ハイ「私の口癖が!」

75: 2014/02/18(火) 03:12:07.98 ID:4mRbfnEp0
631

--失われた王国、中央広場--

ジュー

侍「いやぁ旨そうな匂いでござるなぁ!」

わいわいがやがや

勇者「……あんた買出しって、まさかこれをやるために?」

盗賊「そうだよ? 言ってなかったっけ? あちちっ」

勇者「……はぁ。魔王との最終決戦が控えてるっていうのに、あんたは……」

盗賊「はふはふっ! だってさぁ、こうしてたら緊張もほぐれるかと思ってさ。それに最後の晩餐になるかもしれないんだぜ? そしたら旨いもん食いたいじゃん?」

勇者「ポジティブなんだかネガティブなんだか」

76: 2014/02/18(火) 03:13:32.82 ID:4mRbfnEp0
632

--失われた王国、中央広場--

アッシュ「……」

アッシュは一人ぽつんと川を見ている。

アッシュ「……はぁ」

がさ

ツインテ「あの、アッシュ君。向こうで食べないんですか? 皆さん楽しんで食べてますよ?」

ツインテは元のツインテールのツインテに戻っていた。

アッシュ「ツインテ……」

ツインテはお皿に肉と野菜を取って持ってきてくれていた。

ツインテ「はい、アッシュ君の分取ってきちゃいました。明日は決戦がありますし、緊張して食欲がわかないのもわかりますけど、それでも食べないと駄目ですよ?」

77: 2014/02/18(火) 03:14:28.01 ID:4mRbfnEp0
633

--失われた王国、中央広場--

アッシュ「……」

  ツインテ『あ、それと今言ったことは他の人格に教えないでね。意識しちゃうと作戦に支障がでるかもしれないので。このことは君達が心許せる人間だと判断したから教えた事なんだ』

アッシュはツインテの言葉を思い出しながら皿を受け取る。

がっ

アッシュ「……くっそーーー!!」

がつがつがつがつ!!

ツインテ「! ちょ、ちょっとアッシュ君、急いで食べたら体に悪いですよ!」

おろおろと心配しているツインテ。

アッシュ「こんなにも天使なのに! 天使なのに!……違う、ツインテは、ツインテなんだ!! 関係ねえええええええええええええええ!!」

がつがつがつがつ!!

赤姫「呼んだ?」

78: 2014/02/18(火) 03:15:31.46 ID:4mRbfnEp0
634

--失われた王国、中央広場--

ブラ「ツインテ、ちゃん?」

ツインテ「え?」

ツインテは後ろから声をかけられる。

ツインテ「……! ぶ、ブラさん!? ブラさんですよね!? 生きてたんですね!」

ブラ「やっぱりツインテちゃんなのね!」

がばっ

抱き合う二人。

番犬「ツインテたちがここに来ていたことはすぐにわかっていたんだが立て込んでいたようなのでなバウ」

メイド「ま、無事で良かったと言っておいてやるでございます」

ちびメイド「ですますー!」

やみ「おにくおいしー」

79: 2014/02/18(火) 03:17:45.01 ID:4mRbfnEp0
635

--失われた王国、中央広場--

アッシュ「……あの戦争以降見なかったからな。氏んでいたものと思ってたぞ」

メイド「ふん、それは私達の台詞でございます。あんなよわっちいツインテ達では……今はそこそこやるようでございますが」

アッシュをじろじろと見ているメイド。

ツインテ「……あの、さっきから気になっているんですけど、この子ってまさかヤミさんですか?」

ブラ「……違うの。私の子供、やみ。よ」

やみ「? おねえちゃんだれー?」

アッシュ「やはり別人か。ならヤミはどうした?」

メイド「……あの戦争の時に連れ去られました。恐らくは魔王側に」

アッシュ「!!」

番犬「一通り探し回ったのだが見つけられなかったバウ。だからずっと機会をうかがっていたバウが……」

メイド「まさか……ここに戻ってくるなんて、でございます」

メイドは懐かしそうに、忌々しそうに失われた王国を見渡した。

80: 2014/02/18(火) 03:19:02.98 ID:4mRbfnEp0
636

--失われた王国、中央広場--

きゅいーん、ががー

研究員「ふぅ。やっぱり新型の機械兵士を整備するには時間がたりないですー。旧型のウーノちゃん達とは構造が全然違っていますからぁー」

研究員はテンテンの体を直しているのだが、思ったように進まない。

ざっ

参謀長「やっぱりお前も生きてたか」

研究員「? んー? 誰です?……って思ったけど、あぁ魔導大老ですか。まだ生きてたんですねぇ。ってか若返っちゃってるし。うらやましい」

参謀長「その名前はもう捨てました。ほら肉を持ってきた。食いな」

研究員「あーはーはー。しかし懐かしいですねー。魔導長ちゃんは元気してますー?」

参謀長「……わかりません」

研究員「相変わらずですねー」

81: 2014/02/18(火) 03:21:43.51 ID:4mRbfnEp0
637

--失われた王国、中央広場--

しゅぴっ! きぃいいいいいいん!!

レン「く、後半日でどれだけ指輪のコピーを作れるのか……時間との勝負にゃ!」

キバ「大丈夫? 私も手伝おうか?」

レン「キバさん。助かるにゃ」

ハイ「私はレン先輩のお口に肉を運び続けますから。安心して指輪作ってください」

ざっ

代表「なぁ指輪の件聞いたんだけれど」

キバ「うわ、亜人保護団体の代表だ……」

レン「何しに来たにゃ。今レン達は忙しいのにゃ」

代表「露骨に嫌われてるなぁ僕、仕方ないけど。いや、その魔王の指輪の作戦を聞いたんだけど、それ無理だろ。動いてる魔王の指に指輪はめるとか」

レン「にゃ!? そ、そんなのわかってるのにゃ! だからこの指輪にホーミング機能とかつけてなんとかしようとしてるところなのにゃ!」

代表「……それよりもさ。僕らがマントルに書いた魔法陣、あれの内容を変えちゃうほうが得策だと思わないかい?」

82: 2014/02/18(火) 03:22:52.31 ID:4mRbfnEp0
638

--失われた王国、中央広場--

レン「! どういうことにゃ?」

代表「だから、僕らは蘇生不可能の魔法陣をマントルに書き込んだんだけど、その内容をその指輪と同じ効果に書き換えるんだよ。そうすればこの星の全ての魔王の力を無効化できるんじゃないか?」

レン「!! 考えつかなかったにゃ……ん、でもそれ明日までに間に合うのにゃ? マントルとか凄い時間かかりそうにゃ」

代表「え? 明日? 明日なの最終決戦? そりゃ無理だよ、知らなかった」

ハイ「安易な希望を持たせて奪い取る……これが詐欺師の手口」

代表「ひどっ!?」

わいわいがやがや

そんな様子を遠くから眺めている盗賊達。

盗賊「……うーむ。しかし思った以上に時間が足りなかったな」

勇者「そうね。あの子達のために作った修練の塔……入れてる時間無いわね」

盗賊「うん。まぁ、ないもんはしょうがない。あるもんだけでやってかないとね」

83: 2014/02/18(火) 03:23:34.49 ID:4mRbfnEp0
639

--失われた王国、中央広場--

ざわざわ

勇者「じゃあみんな集まったかな?」

ざわざわ

盗賊「慰霊祭兼作戦会議兼最後の飲み会を楽しんで貰ってると思うんだけど、これから作戦会議の時間だよー」

がやがや

護皇「おう、楽しんじゃいるけど酒がたりないぜよーー」

がはははー

ツインテ「ぜ、全然慰霊な感じがしません……」

ハイ「っていうかお酒いれるのに作戦会議って」

はしゃぐ古株勢と、ハテナマークが頭の上に浮かんでいる若者勢。

84: 2014/02/18(火) 03:27:24.88 ID:4mRbfnEp0
640

--失われた王国、中央広場--

勇者「頭がクリアなうちに大事なこと話しておくわ。まず魔王について。踊子」

踊子「はい~」

ぴききっ

勇者は踊子に合図をして、氷のボードを作らせる。

勇者「実は魔王には種類があるって理解出来る? ……種類ってわけでもないか。現代の魔王と過去に魔王だったもの。両方ともトリガーが別ルートからひっぱり出してきた魔王なんだけど、無敵設定を搭載しているのは現代の魔王、つまり別ルートの私だけなのよ」

カッ、カッ

ポニテ「平然と別ルートって……」

侍「凄い会話になってるでござるな……」

カッ、カッ

勇者「この魔王の無敵設定を突破出来るのは現代の勇者のみなの。つまり今は私とハイちゃん」

ハイ「は、はい!」

アッシュ「……その現代の勇者やら現代の魔王、っていう縛りはなんなんだ? なぜ他の奴等には無敵設定やそれを突破する力が無い? 身体の構造にそれほど違いがあるとも思えん」

勇者「元も子も無いけれど、理由は至極簡単、ルールがそれを認めないためよ。トリガーが作り上げた強力なルール。それがちゃんと機能している限り正式な勇者と魔王は一人ずつ……なんだけど」

ハイ「! 今は……勇者さんと私がいる?」

勇者「そう。それに今は違うけど十代目も同時期に存在していた……。これはイレギュラーで済ませていいものじゃないはずなのよ」

ツインテ「……」

勇者「ルールが崩壊しかかっている……そのせいで色んなことのつじつまがおかしくなっている」

ツインテ「だからリセット……なんですか?」

赤姫「そうだな。トリガーはバグの無い初期状態に戻そうとしているんだよ」

91: 2014/03/04(火) 02:23:29.52 ID:8jPRTCcV0
641

--失われた王国、中央広場--

勇者「リセット……私たちはなんとしてもそれを阻止しなくちゃならない。そのためにはトリガーが従える魔王達と戦うことになるわ」

ざわざわ

アッシュ「ただでさえ化け物みたいに強い魔王が複数いるとはな……無理ゲーの極みだ」

ポニテ「正直絶望するよ……」

レン「でも、そのためのレンなのにゃ! 魔王の力を抑える指輪、必ず量産してみせるのにゃ!」

ハイ「ほんと便りにしてますレン先輩!」

ツインテ「でも……できることなら魔王さん達と戦いたくないな……」

92: 2014/03/04(火) 02:24:50.24 ID:8jPRTCcV0
642

--失われた王国、中央広場--

勇者「これから赤姫から聞き出した各魔王の特徴を言っていくわ。誰なら相性良く戦えるか、『みんな』も考えて欲しい」

赤姫「その前に残像兵力を確認しておいた方がよくないか?」

勇者「……そうね。じゃあ先に残存兵力を発表するわ」

ざわ

勇者「まずは先代勇者パーティである私達。勇者、盗賊、賢者、踊子」

盗賊「あと関連メンバーで魔法使いだ」

魔法使い「……俺をついでみたいに言うな……」

心の古傷が抉られる魔法使い。

勇者「後は同じ勇者つながりで、勇者仮パーティからツインテ、アッシュ、ポニテ、レン、ハイ」

ツインテ「み、みんなの前で紹介されるのって……」

ハイ「は、恥ずかしい……ですね」

93: 2014/03/04(火) 02:26:17.59 ID:8jPRTCcV0
643

--失われた王国、中央広場--

勇者「次に人類最高レベルの戦力、五柱。残念ながらその中でも最強の聖騎士は氏んでしまったけど、他の四人は健在よ。魔導長、護皇、射王、元賢帝」

レン「……あれ!? そういえばレンも五柱なのに当然のようにすっとばされてるにゃん!」

盗賊「さっき勇者仮パーティで説明したじゃないか。二回も説明はいらないだろ」

ざわ

失われた王国民「あの聖騎士が……氏んだ……?」

西の王国民「そんな……人類最強とうたわれたあの人が……」

人々は不安を隠せない。

賢者「ま……そうなるだろうね」

踊子「しょうがないじゃないですか~氏んじゃったもんは~」

盗賊「だよね。悩んだって戦力が増えるわけじゃないんだし、あるもんで戦い抜かなくちゃ」

赤姫「お前らほんとポジティブだよなぁ」

94: 2014/03/04(火) 02:28:50.84 ID:8jPRTCcV0
644

--失われた王国、中央広場--

勇者「次、西の王国。変化師と包帯女とテンテン」

西の王「まて……俺が入っていないのはなぜだ?」

勇者「……みなまで言わせる気? 残念だけど、貴方を戦力と呼ぶわけにはいかないわ」

西の王「! 確かに俺は長いこと戦いから離れてきた……だが今は戦力があまりに少ない状況だ。なら盾でもなんでも使い道はあるだろう?」

アッシュ「西の王……」

勇者「いいえ、連携の邪魔になるだけよ。勇者討伐戦争の時ならまだしも、今の貴方にはその価値すら無い」

西の王「ッ!」

盗賊「お、おいさすがに言い過ぎだって……」

おろおろしている盗賊。

賢者「確かに一部の変人を除けば絶望的な年齢ですね。時を重ねるごとに熟成していく魔法系のジョブとは違って、普通のジョブは肉体の老化には勝てません」

西の王「……」

95: 2014/03/04(火) 02:31:03.29 ID:8jPRTCcV0
645

--失われた王国、中央広場--

勇者「次は東の王国。魔剣使い。以上」

魔剣使い「……」

侍「うーむ……口惜しいでござるよ」

医師「今の我々ではバックアップも満足にこなせないでしょうが、せめてこの命尽きるまでがんばらさせていただきます」

勇者「うん、その意気やよし。次……まとめて言うわ。北の王国、南の王国、王国、魔法王国。残存兵力無し。以上」

ざわわ!!

魔導長「……疾風ちゃんや迅雷ちゃんがいたら少しは楽になったのに、なの」

ポニテ「そんな……お姉ちゃん達がやられた……の!?」

レン「くっ……氏者があまりに多過ぎるにゃ」

ツインテ「一体……どれだけの犠牲者が……」

勇者「次よ、黄金王国。姫、参謀長、研究員。そして機械兵士三姉妹」

96: 2014/03/04(火) 02:34:09.93 ID:8jPRTCcV0
646

--失われた王国、中央広場--

姫「姫ちゃんがんばる……亡くなった人たちの分も」

勇者「次は失われた王国よ。占師とシャーマン。ちなみにシャーマンは私のパーティに入ってもらっているわ」

シャーマン「いえーい」

勇者「……国家単位はこれで終わりかしら。なら次は砂漠の風」

どよ……

北の難民「さ、砂漠の風!?」

東の王国民「そんな、なんでそんな犯罪者達まで」

鬼姫「はぁー……。全くひどい言われようっすねぇ、否定はしないっすけど」

当然のようにアッシュの隣にいる鬼姫。

アッシュ「鬼姫! お前、生きていたのか!」

鬼姫「当たりまえっすよ。あたしがそう簡単にやられるはずがないっす。仲間は……全部失っちゃった、っすけどね」

そういう鬼姫の左腕は無かった。

アッシュ「ッ……」

勇者「鬼姫、以上」

97: 2014/03/04(火) 02:36:58.51 ID:8jPRTCcV0
647

--失われた王国、中央広場--

勇者「次、亜人保護団体から、代表、熊亜人、護衛姉、護衛妹」

ざわざわ

代表「うぅむ。あれだけのことをした後だから皆の視線が痛いな」

護衛姉「……」

護衛妹「……」

西のおっさん「こいつらのせいで……俺の妻は……!」

盗賊「おいおい、過去はあれでも今は大事な同士なんだ。みんな変な気起こすんじゃないよー」

西のおっさん「うるせーポークビッツー! 黙ってろ!!」

盗賊「いやポークビッツはこっちだって」

そう言って賢者のズボンを下げる盗賊。

ずるり

勇者「何を話してるんだ何、きゃっ!?」

賢者「どうも。シャウエッセン賢者です」

踊子「ポークビッツ風情が随分大きく出ましたねぇ~」

98: 2014/03/04(火) 02:38:10.70 ID:8jPRTCcV0
648

--失われた王国、中央広場--

勇者「つ、次! 人造勇者と無所属。カブト、影月、キバ、X、amazon、シン。そして竜子にブラ、番犬、メイド、ちびメイド。……これで全部かしら?」

ざわざわ

賭博師「……さすがに氏にすぎてて笑えないな……」

賭博師の笑顔には力が無かった。

盗賊「……それでも残った俺達で必ず勝たなくちゃいけないんだ。でないと未来は無いんだからな」

ツインテ「……」

ハイ「……」

勇者「……誰が生き残ったかわかったところで、いよいよ敵の魔王についての説明に入るわ」

勇者が手を後ろにかざす。

勇者「氷属性生成魔法、レベル3」

パキキ

すると、勇者の後ろに氷の彫像が立ち並んだ。

99: 2014/03/04(火) 02:39:54.50 ID:8jPRTCcV0
649

--失われた王国、中央広場--

勇者「じゃあ左から説明していくわ」

勇者は一番左の蜘蛛の形の彫像を指差す。

勇者「これは初代勇者にして二代目魔王、銀蜘蛛。こいつはテンテン等と同じく、機械と呼ばれる古代の兵器よ。復活しかけていたトリガーを再び封印しちゃうくらい強いわ」

赤姫「硬い装甲と凶悪な攻撃能力を持っている。同じ機械兵器で無ければまともにダメージを与えられないだろうね。その逆もしかり。同じ機械兵器で無ければ攻撃を受けることも難しい……っと、そうそう。そういえばファイナルウェポンの赤の剣と青の剣も持ってたなぁ」

包帯女「機械兵器……それならテンテンがいる!」

研究員「ふふん。私の娘たちもいますよー」

勇者「えぇ。銀蜘蛛は彼女らに任せることになるわね」

100: 2014/03/04(火) 02:41:50.92 ID:8jPRTCcV0
650

--失われた王国、中央広場--

赤姫「ただそれもやつらがちゃんとこっちの望みどおりの組み合わせで戦ってくれたらの話だがな。地形変化使いがいたらその問題もクリアできるんだが」

勇者「……次に二代目勇者にして三代目魔王、桃鳥。彼女は不氏鳥亜人と呼ばれる伝説級の存在。その特性はあの銀蜘蛛でさえ滅ぼしきれなかった超再生能力。まともな攻撃では何百年攻撃し続けたとしても倒せないでしょう……」

赤姫「倒す手段はずばり一つ。寿命を削りきる呪いの槍しかないだろう。膨大な寿命とはまた違う仕組みだからな。呪いの槍は十分有効だ。使い手はまだ生き残っているか?」

変化師「! の、呪いの槍は……槍兵が使えたが今は……」

レン「一応レンが錬成出来るにゃ。……でも使い手としては大きく劣るのにゃ。一人での運用は難しいにゃ」

勇者「……痛いわね。レンには他の仕事があるんだけど……でも背に腹は変えられない。桃鳥の相手はレンと連携が取れる仲間達に任せるしかないわね……。続けるわ。次は三代目勇者にして四代目魔王、茶肌。彼は最速の魔王と呼ばれていて」

盗賊「あ、そいつは帰り道に俺が倒しちゃった」

勇者「!……え、倒したって、こいつを?」

赤姫「ほほぅ。めんどくさいのが早々と退場してくれたな。行幸行幸」

アッシュ「帰り道に倒した……? くそ、間抜けに見えてやはり相当のやり手なのか!」

ポニテ「ど、どうなんだろ……自信無いよ……」

101: 2014/03/04(火) 02:43:39.31 ID:8jPRTCcV0
651

--失われた王国、中央広場--

勇者「じゃあ次、四代目勇者にして五代目魔王、腹黒。彼は最強の魔法使い。何かを改造するということに非常に長けているわ」

ハイ「あ、その人私が倒したんじゃ……?」

勇者「あ、そうだった」

ざわざわ

赤姫「うぅむ……。こいつもかなりやっかいな奴だったんだがな……具体例を出すと、一切姿を見せることなく魔王を完封しちゃったくらい」

ハイ「!! そ、そんな人だったんですか……!?」

赤姫「搦め手、変化球の類いにおいては超一級だ。……が、これも慢心と油断のなせる技かな? ほいほい人前に姿を見せるなんて生前では考えられんなー。どうせトリガーに思考を弄られているんだろうな。弱体化もいいとこだ」

ざわざわ

南の王国民「すでに二体も魔王を倒しているなんて……」

王国民「これは……思ったよりも希望はあるんじゃないか?」

勇者「次、五代目勇者にして六代目魔王、ヤミ」

ブラ「!」

ツインテ「えっ!?」

アッシュ「あいつ……?」

ポニテ「そんな……」

ブラ「……」

番犬「……」

102: 2014/03/04(火) 02:47:19.59 ID:8jPRTCcV0
652

--失われた王国、中央広場--

赤姫「こいつはトリガーが作り出した自分の分身だ。言わばトリガーの勇者ルートと呼べよう。一体トリガーが何を思ってこいつを作り出したのか……それは我々にはわかんない」

侍「わかんないのかよ」

勇者「彼は吸血鬼に似た特性を持つわ。エネルギーを吸収したり配下を増やしたり……。本来なら数の暴力で攻めてくるのが怖いんだけど……今はこっちの人の数が大幅に減っちゃったから吸収される人の数も少なくなる。今の状況においては他の魔王と比べてそれほど怖い相手じゃないかも」

メイド「て、てめぇ! ヤミ様を侮辱するなでございます!」

番犬「そうバウ! ヤミ様はハンデを背負っていたとしても、ここにいる人間を打ち頃すことなんてわけないんだバウ!」

レン「おい、どっちの味方にゃ」

赤姫「あー……魔王となり勇者に討たれたヤミ。それをそこの一人と一匹が、ヤミの氏体に力を持たせた……」

メイド「ギクッ!」

番犬「なぜそれを……」

赤姫「私が知らないと思うてか。つまり別ルートからトリガーが引っ張ってきたんじゃなくて、ただ洗脳しているだけ、ということになる。それならばどうにかして洗脳を解いてやることが出来るかもしれないな。例えば……歌とか」

ブラ「! 歌ですか!? わ、私ヤミ様を取り戻すために歌います!」

勇者「うん。ただ……一人のパワーじゃ魔王の精神防御を抜けないと思う。セッションならあるいは、といったところだな」

アッシュ「! 吟遊詩人がいるぞ。あいつに演奏をやらせたらどうだ?」

盗賊「いや、あいつ氏んじゃったって。王国勢は全滅だよ」

ツインテ「……」

103: 2014/03/04(火) 02:48:04.57 ID:8jPRTCcV0
653

--失われた王国、中央広場--

勇者「……次よ。六代目勇者にして七代目魔王、蝿男。こいつは回避特化のイライラする魔王よ。過去に私達の乗った船を襲ったのもこいつ」

ポニテ「! 因縁の相手じゃん!」

盗賊「ちなみにニートを作るきっかけをくれた相手でもあります」

勇者「攻略するには必中系……でいくしかないと思うわ。最初から必中スキルを連打していれば倒せると思う。ただし回避を何度も成功させちゃったら……」

赤姫「人類全滅を覚悟しないとな」

アッシュ「……強いんだか弱いんだかわからないやつだな」

レン「相変わらず魔王は規模がでかいにゃ」

盗賊「初見頃しなだけだよ、多分。アレ以来戦ってないからわかんないけどさ」

104: 2014/03/04(火) 02:50:02.67 ID:8jPRTCcV0
654

--失われた王国、中央広場--

勇者「次、七代目勇者にして」

ズビュル

赤姫「! 来る!!」

勇者「!」

ツインテ「……え?」







ズズズズズズズズズズズズズズズ!!

ハイ「!?」



  オオオオオオオ        オオオオオオ

          オオオオオオオ         オオオオオオ

オオオオ オオ          オオオオオオオ


オオオオ                                      オオオオ                                          オオオオオ

オオオ        オオオオオ     オオオオオオオ!!



一瞬で、辺りが夜よりも暗い闇に汚染されていく……。

105: 2014/03/04(火) 02:50:42.74 ID:8jPRTCcV0
655

--失われた王国、中央広場--

ツインテ「! こ、この感覚!」

アッシュ「フォーテか!?」

ポニテ「……感覚は似てる……でも今までよりも寒気がする……!」

ズズズズズズズズズズ

盗賊「ち……予想より早かったな」

勇者「うん……」

ハイ「……」

オオオオォオォォオ

氏者の腕があらゆる場所から生え始める。

106: 2014/03/04(火) 02:51:35.41 ID:8jPRTCcV0
656

--失われた王国、中央広場--

赤姫「……」

ビチビチッ

空間が裂け、そこから……

にゅるっ

フォーテ?「やぁ……皆さんお集まりのようで。パーティーでもやってたのかな?」

ぞろ

銀蜘蛛「フンフフーン」

桃鳥「なのですっ!」

通信師「そ、そんな……」

ぞろろっ!

フォーテを先頭に魔王達が現れた。

107: 2014/03/04(火) 02:52:59.85 ID:8jPRTCcV0
657

--失われた王国、中央広場--

ツインテ「フォーテちゃん!? 良かった……無事だったんだ……」

ツインテは顔を手で覆い隠し、涙を零す。

赤姫「……いや違うよ。残念だけどフォーテなのは殻だけだ」

ツインテ「……え?」

赤姫「フォーテは、トリガーが作り出した対勇者因子を持つヨリシロだ……今中に入っているのは」

フォーテ?改めトリガー「そう、僕だよツインテ」

ツインテ「!?……と……トリガー、さん……」

ポニテ「! こいつが……」

アッシュ「トリガー……」

レン「フォーテの体を奪ったのかにゃ……」

ハイ「許せません……!」

トリガー「フォーテの精神は壊れてしまったからね。それなら有効に使わなくてはもってないないだろう?」

108: 2014/03/04(火) 02:53:44.23 ID:8jPRTCcV0
658

--失われた王国、中央広場--

ざわざわ

符術師「お、おいおい、いきなりラスボスのお出ましか……? こっちはまだ準備だってできてねーのに……」

魔導長(いやそれよりも……対勇者因子……? それは一体)

トリガー「ははは。みんなには悪いと思ってるけれど、僕は勇者が強くなるまで待ったりはしないんだ」

ズズズズズズズズズズ!!

闇が……世界の全てを飲み込んでいく。

護皇「ッ! なんて、力ぜよ……!」

ハイ「! と、止めないと!」

だっ!

ハイが誰よりも早く飛び出した。

勇者「! ダメ! 闇雲に突っ込んじゃ!」

109: 2014/03/04(火) 02:54:45.96 ID:8jPRTCcV0
659

--失われた王国、中央広場--

ひゅんっ

銀蜘蛛「ゴメンネー」

ハイ「!?」

ハイの前に銀蜘蛛が現れ、その大きな前足が振りおろされる。

ドガァァァァアァアン!!

アッシュ「!! ハイ!」

ポニテ「ハイちゃんっ!!」

トリガー「……」

しゅうう……

銀蜘蛛の足の下には潰れたハイの氏体が……



盗賊「……はぁ。おいおい、とりあえず飲み会に遅れたら駆けつけ一杯でしょーが」

ハイ「……はい?」

氏体が無かった。
盗賊がすんでのところでハイを抱き抱えて回避していたのだ。

110: 2014/03/04(火) 02:57:24.11 ID:8jPRTCcV0
660

--失われた王国、中央広場--

脳筋「駆けつけ……」

ウェイトレス「一杯?」

盗賊「あぁ、そうだ。せっかくツインテちゃん達が美味しい料理を作ってくれたんだ……。それを食べないうちに戦い始めるなんてなぁ……俺が許しても賢者さんが許さないぞッ!!」

賢者「……え、え!? ぼ、僕ですか!?」

踊子「……盗賊さんは誰かに怒る時は、自分じゃなくて誰々も怒ってたよ、っていう一文を添えるタイプの人間みたいですね~」

魔法使い「最低だな……男らしくない」

シャーマン「まぁまぁ。自分の発言に力は無いと理解してるんだ。多目に見てやろうぜ」

盗賊「なんか俺が非難の対象に!?」

蝿男「で、ででで、でも」

桃鳥「そーですねー。ツインテちゃんがいなくなってからは、料理はウェイトレスさんが担当してたから……正直、まともな料理にありつきたい、って、私思っちゃってます……」

ヤミ「……」

ウェイトレス「なっ!? まるで私の料理がまずいみたいな言い方じゃないッ!!」

魔王勇者(クソマズだもん……)

桃鳥(クソマズって私思っちゃってます……)

ウジ虫(く、クソマズ!)

ヤミ「まずい!」

ドゴォ!

ウェイトレスは真顔のヤミをぶん殴る。

脳筋「そうか? 俺は好きだけどなー! はっはっはっ!」

魔王勇者(黙れ味覚音痴……!)

わいのわいの

トリガー「……はぁ……シリアスキラー……本当にめんどくさい人だね君は。せっかくの緊迫の場面だと言うのに……」

116: 2014/03/06(木) 01:11:21.52 ID:2imxvIY50
661

--失われた王国、中央広場--

トリガーは深くため息をつく。

トリガー「いいだろう。この流れで決着をつけるのは僕としても本望じゃないしね。それに……少し話をしたい人もいるしね」

赤姫「……」

勇者「一時停戦……って考えていいわけ?」

トリガー「うん。誘って貰っているわけだし? この最後の晩餐に僕らも参加させてもらうよ」

賭博師「う、うお……」

医師「魔王がバーベキューに参加って……」

ざわざわ

難民「い、いくらなんでも敵側と仲良く飯なんて食えるか!!」

双方に動揺が広がっていく。

117: 2014/03/06(木) 01:12:56.37 ID:2imxvIY50
662

--失われた王国、中央広場--

パンっ

盗賊が手を合わせる。

盗賊「おし、じゃあトリガー坊主、ちょっとこっち手伝ってくれ」

トリガー「……へ?」

盗賊「いやちょっと肉焼く人間が不足しててさ。怪我人ばっかでやんなっちゃうんだよ」

てへへと笑う盗賊。

トリガー「……ん?」

ぎゅっ

そして有無を言わさずにトリガーを引っ張っていく。

トリガー「ん、ん……? もしかしてそれを僕に……やれって?」

盗賊「うん。代わりにうまい飯食わせてやるからさー」

トリガー「……魔王を統べる僕に肉を焼くのを手伝えと言うのか……」

トリガーはまさかの絶望の表情。

118: 2014/03/06(木) 01:13:57.82 ID:2imxvIY50
663

--失われた王国、中央広場--

たったったっ

二人を見送る勇者とレン。

勇者「……レン、これが最後のチャンスよ。指輪の複製を急いで」

レン「わかったにゃ。ちょっと手先の器用なのもらっていくにゃ」

ちょいちょい

レンは手で合図をし、人を誘って塔の中に入っていく。

ざっ

魔王勇者「……」

そして、一人になった勇者の前に魔王勇者が現れた。

119: 2014/03/06(木) 01:15:01.35 ID:2imxvIY50
664

--失われた王国、中央広場--

勇者「……」

魔王勇者「……」

勇者達は見つめあって立っている。

魔王勇者「……本当なら今すぐにでも偽物を消し去りたいけど……今は押さえてあげるわ……」

勇者「……そうね。私達の決着はしかるべき流れの中で……」

ピリピリ!

侍(い、一触即発の空気でござるよ……)

符術師(あんな化け物達の戦いには巻き込まれたくねぇなぁ……)

魔王勇者「……」

勇者「……」

盗賊「おーい貧Oー」

勇者、魔王勇者「「!?」」

がばっ!

勇者と魔王勇者は同時に胸を隠した。

貧O、魔王貧O「「ひ、貧Oって言うな!!」」

そして同時に叫ぶ。

侍「あらかわいい」

120: 2014/03/06(木) 01:15:52.18 ID:2imxvIY50
665

--失われた王国、中央広場--

ブラ「や、ヤミ様……」

ヤミ「……」

ブラはヤミに近づいていく。

ブラ「ヤミ様……ヤミ様ですよね?」

ヤミ「……」

ヤミはゆっくりと眼を開く。

ブラ「ヤミ様……やっと……やっと!」
ヤミ「誰だお前は」

ブラ「……え」

ヤミは家畜でもみるかのような眼でブラを見ている。

121: 2014/03/06(木) 01:16:49.19 ID:2imxvIY50
666

--失われた王国、中央広場--

メイド「あの目付き……やっぱり」

番犬「あの頃に、戻ってしまっているバウ……」

ブラ「ヤミ、様……あ、あの」

ヤミ「俺は六代目魔王、ヤミだ。気安く人間が話しかけていい存在ではないぞ」

ギン!

ブラ「ぶっ」

ヤミの放つプレッシャーがブラを吹き飛ばした。

ふわ

やみ「!? ままー!」

メイド「! スキル、雷動!」

ギャギャギャ!

メイドは高速で駆け寄ってブラを抱き止める。

122: 2014/03/06(木) 01:18:32.37 ID:2imxvIY50
667

--失われた王国、中央広場--

メイド「大丈夫でございますか?」

ブラ「あ……メイドさん……」

メイド「……ヤミ様がブラにこんなことをするなんて……本当に記憶をいじられてしまったようでございますね」

メイドはヤミを睨んだ。

ヤミ「……」

番犬「間違いないバウ。あの目は全てを狂わされ、魔王になってしまった時のあの目によく似ているバウ……」

ざっざっ

ブラ達を守るように番犬がやってくる。

ヤミ「……我がしもべらよ、なにゆえそんなものの身を案じている? なにゆえ主である俺にそんな目を向けている?」

123: 2014/03/06(木) 01:25:02.17 ID:2imxvIY50
668

--失われた王国、中央広場--

メイド「……お言葉ですがヤミ様。ブラを大事になさらないヤミ様など、私達のヤミ様と認めるわけにはいきません」

ヤミ「……なんだと? 俺は俺だ、何を言っているんだ?」

番犬「すまないバウ、ヤミ様。我らもちょっと前まではそんなこと気にもしなかったんバウが……ブラと生活をしていくうちに思い出してしまったのバウ。我らの愛したヤミ様は、お優しいお方だったということに」

番犬は悟ったような顔をしている。

番犬「今のヤミ様は我々のヤミ様とは違うバウ……。そして元の正気なヤミ様を取り戻すためならば、我らは貴方に弓引く覚悟があるのだバウ」

ヤミ「ほう……しもべであるお前達が、この俺と戦うというのか?……正気でないのは一体どちらの方だ?」

ヤミのプレッシャーは強大で、三人の体力をじわじわと削っていっている。それでもメイドと番犬の決意の目は変わらない。

ブラ「お二方……」

ヤミ「……」

ヤミはブラとメイドと番犬を眺めている。
そして

ヤミ「……ふん。愚かな者共よ……残り僅かの生を楽しんでおけ」

ザッザッ

ヤミはその場を去っていった。

124: 2014/03/06(木) 01:27:54.37 ID:2imxvIY50
669

--失われた王国、中央広場--

がくっ

ブラ「っ……ヤミ様……」

ヤミが見えなくなってからブラは崩れ落ちた。

ブラ「ヤミ様……ヤミ様……」

ててててっ

やみ「ままー? やみはここにいるよー? なんでないてるのー?」

メイド「……」

ブラ「うっ……うぅ……」

ぽろぽろと涙を零すブラ。

ぱしっ

そのブラの頬をメイドが軽く叩いた。

ブラ「」

メイド「……泣いてる場合か、でございます。ヤミ様の洗脳を解く可能性であるとすれば、それはブラの歌声だけなのだと……彼らもそう言っていたでございましょうが」

ブラ「」

メイド「お前がしっかりしなくては困るのでございます。ヤミ様を取り戻す作戦は、全てお前の歌にかかっているのだから……」

べろり

番犬はブラの顔を舐める。

番犬「期待しているバウ。我らの主のために……我らのために」

ちびメイド「あー! ぺろぺろしてるでございますですー!」

やみ「ぼくもぺろぺろー!」

ブラは涙をぬぐった。

ブラ「……はい!」

125: 2014/03/06(木) 01:30:01.46 ID:2imxvIY50
670

--失われた王国、中央広場--

盗賊「ちょっと料理遅くない!? みんな待ってんだけど!」

じゃーじゃー

トリガー「む、む……申し訳ない。今チャーハンが出来上がるから……って、なんで僕がチャーハンまで作ってんのさ」

おぉぉおおおぉぉお

トリガーは氏者の腕を使って大量のチャーハンを作っていた。

トリガー「てかバーベキューなのにチャーハンて」

盗賊「つべこべゆうなよ! みんなが食べたいっていうんだから仕方ないんだよ!」

バンバン!

テーブルを叩く盗賊。

トリガー「頼む。頼むからもう少し僕を恐れてくれないかな? 仮にも僕は、この世界を作ったり管理したりこれから壊そうとしている存在なんだよ?」

盗賊「えー……でも料理遅いし……」

トリガー「え、えー……」

トリガーはもう自分でもどうしたらいいのかわからなかった。

126: 2014/03/06(木) 01:31:23.56 ID:2imxvIY50
671

--失われた王国、湖--

ワー、ワー

お祭り騒ぎの広場から少し離れた場所に湖がある。

トリガー「ふー……やっと開放されたよ……」

そのほとりをトリガーはとぼとぼと歩いている。肉と野菜が山盛りに乗せられたお皿を持って。

トリガー「お」

赤姫「……よっ」

湖の前のベンチには赤姫が座ってトリガーを待っていた。

トリガー「……君に会ったら最初になんて声をかけようか、そんなことを何年も悩んだことがあったけど……やぁ、久しぶり。どれくらいぶりだろうね」

赤姫「2000と14年ぶり、かな」

トリガー「そんなになるのか……僕はやることが多かったからな……次から次へとやることばかりで……あっという間だった」

赤姫「私は退屈だったよ。観測することくらいしかやることが無かったからな」

トリガー「……」

127: 2014/03/06(木) 01:34:45.71 ID:2imxvIY50
672

--失われた王国、湖--

ワー、ワー

赤姫「お前に決して滅ぶことの無い体に変えられたせいでな。まぁ貴重な体験ではあったよ」

トリガー「……随分性格変わったんじゃない?」

赤姫「お前こそ……随分落ち着いた……危うさすら突破してしまったんだな」

トリガー「? 何を言ってるのかわからないけれど……とりあえずこれでも食べようか。せっかくくれたものだし……赤姫様もお一ついかがですかな?」

トリガーはお皿に視線をやった後、執事のような振る舞いをする。

すっ

赤姫「ふん……お前が執事だった頃が懐かしいな」

トリガー「そう……だね。いまや僕は君の憎き敵となってしまった……」

赤姫「敵? 違うぞ、私はあの時言っただろ?」

トリガー「……?」

トリガーはあの時に該当する言葉をメモリの中から探していく。


   
     赤姫「私達はこれからは主従じゃなくなるんだよ? 友達なんだからね」



トリガー「……はて……」

おそらくこれだろうというものを見つけたのだが、トリガーはシラを切った。

赤姫「私は今でもお前を友達だと思ってる」

のに言われた。

128: 2014/03/06(木) 01:35:28.02 ID:2imxvIY50
673

--失われた王国、湖--

ワー、キャー

トリガー「……」

赤姫「……」

トリガー「僕には勿体ないよ」

トリガーはそう言って串に刺さった肉に噛み付いた。

じゃり

トリガー「……裏側真っ黒こげじゃん」

赤姫「どれ、私も」

赤姫も手にとる。

がり

赤姫「……誰だろうなぁあ焼いたのこれ。最後の最後で詰めが甘い」

129: 2014/03/06(木) 01:37:29.40 ID:2imxvIY50
674

--失われた王国、湖--

ワー、ギャー

トリガー「赤姫」

赤姫「ん?」

トリガー「僕は十個目の魔王の骨を手に入れる」

赤姫「」

トリガー「あの時以上の力を手に入れ、今度こそ理想の世界を作る。僕に滅ぼされずに、君達が安全に幸せに生きていける世界を」

赤姫「十個目、だと?」

トリガー「僕も当初は九個でやるつもりだった。でも、長い年月の中で思考が変わったんだ」

赤姫「……九個なら別ルートの勇者のを使えばいいと思っていたが……なるほど、この世界の勇者を十個目にする予定なのか!」

トリガー「……」

赤姫「あいつにこだわりでもあるのか? それとも別ルートから魔王を引きずり出す力はもう残ってないということか?」

130: 2014/03/06(木) 01:38:42.98 ID:2imxvIY50
675

--失われた王国、湖--

すっ

トリガーは返答せずに無言で立ち上がる。

トリガー「……ご馳走様。赤姫、久しぶりに君と喋れて楽しかったよ」

ざっざっ

トリガーは広場に戻っていく。

赤姫「トリガー! 私は……私達はお前を必ず止める」

トリガー「……」

赤姫「……ん? 広場の方が妙に明るい……?」

振り向いてみて初めて気がついたことだった。

トリガー「僕を止めることなんて、出来やしないよ」

ワー、ギャー!

赤姫「!」

トリガー「圧倒的なまでの戦力差に加えて……君達は対抗策を練る時間も無かったんだ」

ワー、ギャアアアアーー!!

赤姫「!! 広場が!!」

トリガー「さぁ、生き残っているものは後何人かな?」

131: 2014/03/06(木) 01:41:18.54 ID:2imxvIY50
676

--失われた王国、湖--

赤姫「トリガー! お前!!」

トリガー「僕は魔王だよ? 悪の代名詞たる魔王が奇襲をかける……当たり前のことだと思わないかい?」

赤姫「……!」

ダッ!!

赤姫は広場に走る。

トリガー「……見に行ってもいいことなんてないのに」

ざっざっ

トリガーはゆっくりとその後を追っていく。



--失われた王国、中央広場--

ざざっ!

赤姫「!!」

ごぉおぉおおおぉお!!

???「……」

燃える広場。
その中心には黒いフードを被った人物がいた。

132: 2014/03/06(木) 01:44:10.79 ID:2imxvIY50
677

--失われた王国、中央広場--

???「……」

ぴちゃっ

黒いフードの人物が握るナイフから血が滴っている。
辺りには無残にも斬殺された氏体が転がっている。

勇者「赤姫!」

赤姫に気づいた勇者が声をかけた。

赤姫「勇者! 状況はどうなっている!? 魔王達につけていた見張りは何をしていた!?」

勇者「赤姫違うわ、これは魔王が起こしたことじゃないのよ」

赤姫「……何だと?」

勇者「魔王は今もちゃんと監視がついてるわ。こいつは……普通に結界を解除してここに進入してきたのよ!」

赤姫「……そんなバカな話があるか。魔族にこの結界を解除することは出来ないはずだぞ……」

勇者「えぇ。だからあれは人間なのよ」

133: 2014/03/06(木) 01:46:04.11 ID:2imxvIY50
678

--失われた王国、中央広場--

ひゅっ

黒いフードが音も無く駆ける。

勇者「!」

ぎぃいいん!!

勇者は迫るナイフを弾き、返しの刃で首を狙うのだがもう一本のナイフで防がれてしまう。

ぎぃんぎぃんぎぃいいん!!

熊亜人「げほっ……」

代表「熊亜人君を一撃……? 一体なんなんだ奴は……」

熊亜人を介抱している代表は、目の前の惨状をありえないものでも見るかのように眺めている。

魔導長「どいて勇者さん!」

勇者「!」

きぃいいいいん!!

魔導長「捕らえるなの! 拘束魔法レベル4!」

ばしぃん!!

強力な拘束魔法が黒いフードを捕らえる。

134: 2014/03/06(木) 01:47:53.48 ID:2imxvIY50
679

--失われた王国、中央広場--

???「……解除」

ばしゅっ

魔導長「!? 簡単に解除されちゃったの!?」

勇者(この動き……)

ひゅひゅ!

???「……」

ぎぃんぎぃいん!!

気を抜けば一瞬でやられる。勇者でさえそう感じさせるほどの使い手……。
あの剣豪よりも鋭い攻撃……。

盗賊「風属性移動速度上昇魔法、レベル4!」

勇者「!」

???「!」

ひゅっ、ぎぃいん!!

横から割り込んできた盗賊が黒いフードを吹き飛ばした。

ゴロゴロゴロゴロゴロ!

盗賊「どけ勇者! お前は魔王達から眼を離すな!! こいつは俺がやる!」

135: 2014/03/06(木) 01:52:58.04 ID:2imxvIY50
680

--失われた王国、中央広場--

すたすた

トリガー「なんだ。魔王達は僕の言いつけどおり待機してたんだ? てっきり命令なんて破って、一緒に暴れてるものだとばかり思っていたよ」

そこにトリガーが現れる。

桃鳥「もぐもぐ。だって食べ物美味しいし、どうせなら満喫しちゃおうかなって私思っちゃってます」

脳筋「右に同じく」

二人はハムスターのように頬に食べ物を詰め込んでいた。

トリガー「はぁ、やれやれ……」

トリガーは、盗賊と黒いフードの男が対峙しているのを見る。

勇者「と、盗賊、気をつけて! もしかするとそれは……」

じゃり……

盗賊「……あぁ、なんとなく嫌な予感はしてるよ。まさか今以上に悪い展開になるとは思わなかったんだけどなぁ……」

???「……」

じゃり……

間合いを計る二人。

トリガー「ふふ。盗賊。実は僕は君を結構評価してるんだよ。君は才能も運もからっきしな存在だ。なのに運命を切り開いていこうとする力は中々のものだ……正直骨が折れる」

盗賊「……」

トリガー「だから君の対抗策として特別に用意させてもらった」

???「」

ひゅっ、ぎぃん!!

黒いフードが斬りかかり、盗賊がナイフで受けとめる。

ふわっ

生じた風でフードが取れる。

するっ

勇者「!」

盗賊「……うーわ……まじかー……」

フードの下から現れた顔、それは……

トリガー「名を『盗賊王』という。全てのルートから探し抜いた、君の最強の姿さ」

???改め盗賊王「……」

148: 2014/03/10(月) 18:04:58.29 ID:+SmlCuOP0
681

--失われた王国、中央広場--

勇者「全てのルートの中で……」

盗賊「最強の……俺?」

盗賊王「……」

ひゅばっ!!

盗賊「っ!」

ぎぎぎぎぎぎぎぃん!!

盗賊王がナイフを振るう。素早く洗練された動きだったが、その攻撃が盗賊には予測できていた。

盗賊(わかる……その次は、こうだろ?)

ぎぃん!!

盗賊王「!」

盗賊(ち……自分だから癖とか思考が限りなく似てやがる……つまり……どちらも裏をかくことが出来ないってことねー……)

149: 2014/03/10(月) 18:05:41.84 ID:+SmlCuOP0
682

--失われた王国、中央広場--

ぼぉおおぉお……

燃える広場を背景に、二人の盗賊がナイフを構えて対峙している。

盗賊王「……」

盗賊「おいおい、真面目すぎるだろその顔。俺そんな顔して戦ったことあったかなー」

盗賊王「……」

盗賊「……無視かい」

ぽたっ

盗賊「……あれ?」

盗賊は気づく。いつのまにか左手の甲を切り裂かれていたことに。

盗賊(さっきの、攻防でか? 全部見切ったと思ったんだけど……)

盗賊王「……」

ちゃき

盗賊王は再びナイフを握りなおし、

ひゅ!!!!

盗賊「!!」

ぎぎぎぃん!!

盗賊に斬りかかる。

150: 2014/03/10(月) 18:07:10.44 ID:+SmlCuOP0
683

--失われた王国、中央広場--

ざわざわ

たくさんの人が見守る中で盗賊と盗賊王が斬り合っている。

勇者(くっ、こんな状態だしみんなでかかれば簡単だけど)

赤姫(まだ魔王が動いていない……仮にも今は停戦中……あれがトリガーの手のものであることはわかりきったことだが……)

魔導長(今は盗賊さんに任せた方がいいの……?)

ぎぎぎぎぃんぶしっ! ぎぎぎずばっぎぎぃん!!

盗賊「つっ!!」

互角の戦いを続けているように見える二人……だが、

ずばっ!!

盗賊「ッ!!」

斬り合えば斬り合うほど、少しずつ盗賊の体に傷が増えていく。

盗賊「づっ!!」

ぎん、ぎぎぃん!!

トリガー「言っただろ盗賊君。彼は最強の君自身なんだと。自分のことだから思考や動きの癖はわかるだろう。でも彼は戦いの経験が君よりも豊富なんだ。そして何より若い……それらが少しだけ、だが確実に君の全てを上回っている」

151: 2014/03/10(月) 18:07:40.39 ID:+SmlCuOP0
684

--失われた王国、中央広場--

ぎぃん!! ぶしっ!!

盗賊「いっつ!」

盗賊の肩が切り裂かれる。

勇者「! 盗賊!!」

盗賊(まいった、これはきついわ……どんなルートを歩んできたのか知らないけど、こいつ全然遊びってもんが無い……それに肉体は全盛期っぽいし……おっさんにはきついですわぁ……!)

盗賊王「……」

ぎん、ぎん! ぎぎぎんっ!!

盗賊王の攻めが一段と鋭くなり、盗賊は少しずつ後退していく。

ぎぎん! 

盗賊「ッ」

ぐらっ

盗賊が一瞬体勢を崩した隙を盗賊王は見逃さない。

152: 2014/03/10(月) 18:08:27.95 ID:+SmlCuOP0
685

--失われた王国、中央広場--

盗賊王「風属性攻撃魔法、レベル3」

びゅおおおおぉおおお!!

盗賊を狙う風の魔法。

ダッ!!

それを盗賊は右横に跳躍してかわす。

盗賊王「……」

しかし、それも読まれていた。

盗賊(はんっ、ここで追撃をしてくることなんてこっちだってわかってるさ!!)

盗賊はナイフで防御しようとするのだが

ズバッ!!

その速さに間に合わない。

盗賊「ッ! がっ!!」

ずびっ

盗賊の太ももを盗賊王のナイフが深く抉る。

153: 2014/03/10(月) 18:10:38.95 ID:+SmlCuOP0
686

--失われた王国、中央広場--

ぶしゃぁ!!

盗賊「づう!!」

だっ!!

たまらず盗賊は飛びのいて後退する。

びちゃ、びちゃちゃっ

盗賊「はぁ、はぁ、はぁ……」

盗賊王「……」

左足から夥しい量の出血をし、息も上がっている盗賊に対し、涼しい顔で構えている盗賊王。

勇者「盗、賊……」

トリガー「どんな強者にでも付け入る隙というものは存在する……君ならよくわかるだろう。一回りも二回りも君より強い化け物達を、工夫することで退けてきた実績があるんだから……」

盗賊「……」


154: 2014/03/10(月) 18:11:55.63 ID:+SmlCuOP0
687

--失われた王国、中央広場--

トリガー「でも自分が相手ならどうだい?」

シャッ!!

盗賊王が駆ける。

ぎぃん!!

盗賊(っ、この体勢からナイフによる二撃目を俺ならやらない、俺なら)

どがっ!!

盗賊王の膝蹴りが盗賊の顔面を打つ。

盗賊「ぐがっ……!」

鼻の骨が折れ、前歯がかけて鼻血も噴出。盗賊は前のめりで地面に倒れこもうとする。

盗賊王「」

追撃のチャンス。だが盗賊王は一瞬待った。

ひゅば!

盗賊「!」

その二人の間にできた空間を盗賊のナイフが通る。

盗賊王「……」

盗賊王にはカウンターが来ることがわかっていたのだ。

トリガー「最強の自分に勝つことは、魔王に勝つことよりも難しいのさ」

155: 2014/03/10(月) 18:13:24.52 ID:+SmlCuOP0
688

--失われた王国、中央広場、塔--

わーわー

ツインテ「……なんだか広場の方が騒がしいような……ッ!?」

レン「ツインテ、今は指輪の複製が第一にゃ。気になるのはわかるけど手を動かして欲しいのにゃ」

がが、ががががー!

ツインテ「わ、わかってます……わかってますけど……と、盗賊さんが、戦ってます……」

ポニテ「!? パパが!? なんで!?」

だっ

二人は窓から顔を出して広場を見る。

盗賊「はっ、はっ」

盗賊王「……」

そこには何者かと戦っている血だらけの盗賊の姿があった。

156: 2014/03/10(月) 18:14:10.61 ID:+SmlCuOP0
689

--失われた王国、中央広場、塔--

ぎぎん!!

足を引きずりながら盗賊は戦う。

盗賊「うっおおおおお!!」

くんっ

盗賊はつい癖でフェイントを入れてしまう。だがそれがフェイントであることなど、盗賊王には当たり前のように見抜かれている。

ずばっ!!

盗賊「!!!!」

盗賊王のナイフが盗賊を袈裟斬りにする。

勇者「と」

盗賊王「……」

魔王勇者「……」

どさ

勇者「盗賊ーーーー!!」

157: 2014/03/10(月) 18:14:53.15 ID:+SmlCuOP0
690

--失われた王国、中央広場--

ぶしゅっ!! ぼたっ、ぼたっ

盗賊「がっ……!」(くっそ、深い……!! さすが俺。自分の防御力の薄さを知りつくしたいい攻撃だぜ……)

ぐぐぐ

盗賊は上体を起こすのが精一杯といった感じで、立ち上がりはしなかった。

盗賊王「……」

勇者「と、トリガー! 止めさせて! 私達は今停戦状態のはずでしょ!?」

叫びながら勇者は思う。

トリガー「……あぁそんなことも言ってたっけ。なら停戦はもう終わりにしようか」

勇者「」

なんて間抜けなことを口にしているのかと……。

トリガー「ふふ」

相手は、魔王。

158: 2014/03/10(月) 18:15:45.39 ID:+SmlCuOP0
691

--失われた王国、中央広場--

ざっ

脳筋「なんだ、もうやっていいのか?」

がしゃんがしゃん

銀蜘蛛「チェー、セッカクオイシソーナ、オイルミツケタノニー」

ささささ

ウジ虫「う、うひ、うひひ」

ぱたぱた

桃鳥「あっ、いいこと思いつきました! さっさとお掃除しちゃって私達だけでバーベキューの続きをしちゃえばいいんですよ!」



ヤミ「……」

すたすた

ウェイトレス「色々レシピも教えて貰ったし、料理のレパートリーがまた増えたわ。みんな楽しみにしておくんだね!」

えーーー? っと魔王達は一斉に不満を漏らす。

ざり

魔王勇者「……なら、もうやっていいのね? トリガー」

159: 2014/03/10(月) 18:16:21.46 ID:+SmlCuOP0
692

--失われた王国、中央広場--

赤姫「うっ……」

魔王達がぞろぞろと広場に集まってくる。

トリガー「うん、そうだね……」

バッ!!

魔導長「ッ!」

護皇「はぁ……」

元賢帝「結局こうなっちゃうのねぇ……」

射王「まだこのことを知らないやつらにも教えないとな」

周囲の人間も戦闘態勢に入る……のだが、

オオォオオォオオオォオオ

終結した魔王達。
彼らが集まるだけで凶悪な負のオーラは存在感を増し、

南の王国難民「うっ」

西の王国難民「ぐ、え……」

ばたばた

ただの人間は近くにいるだけで倒れていく。

160: 2014/03/10(月) 18:16:59.97 ID:+SmlCuOP0
693

--失われた王国、中央広場--

トリガー「じゃあ、長きに渡ったこの戦いも終わりにするとしようか」

ズっ!!

魔王達が戦闘状態に入ろうとすると、

魔導長「!」

元賢帝「お、押される!?」

護皇「まるで、分厚い壁があるようぜよ……」

射王「……!」

変化師「お、おで」

溢れた魔王の魔力が周囲を押しつぶし始める。

勇者(完全に空気が飲まれてる……! こんな、こんな心構えじゃ……やられちゃう!)

ズズズズズズズズズズズズズ!!!!

161: 2014/03/10(月) 18:18:32.82 ID:+SmlCuOP0
694

--失われた王国、中央広場--

盗賊「ちょっと待ってってばさ」



盗賊王「……」

トリガー「……」

勇者「……へ」

盗賊の気の抜けた声が広場に響く。

盗賊「今さー、せっかくもう一人の自分との対決っていう面白いことやってんだよ? せめてこの対決が終わってからでいいんじゃない?」

よいしょっ、っと言って盗賊は立ち上がる。まるで生まれたての小鹿のようにぷるぷると震えながら。

盗賊「あいたっ、いたたっ……ちょっごめん、たんま、手当てしていい?」

盗賊は盗賊王に向かって言う。

魔導長「……」

闇の気配が雲散霧消していくのがわかる。

盗賊「……大体さ、なんらかの代償払ってまでこいつを別ルートから引っ張り出してきたんでしょ? ならこの決闘がちゃんと決着つくまで見ておかないと勿体ないんじゃないの?」

トリガー「……いや、別にそういうのはどうでもいいっていうか」

162: 2014/03/10(月) 18:20:15.98 ID:+SmlCuOP0
695

--失われた王国、中央広場--

盗賊「もったいないよー。海外から有名選手呼び出しておいて没収試合で終わらせちゃうようなもんだよ? チケット買ってたファンは怒るよ? 払い戻しだよ?」

トリガー「いやチケットとかファンとかそういうの意味わかんないし……」

盗賊「おい俺。俺も不完全燃焼とかやでしょ?」

盗賊王「……」

さすがに無言の盗賊王。

盗賊「ほらそこの魔法少女! コーラとポップコーンをトリガー君に渡してあげて!!」

魔導長「え? わ、私?……わかったなの」

たたたたたた

魔導長は屋台に急いで走っていってコーラとポップコーンをトリガーに渡す。

さっ

魔導長「ど、どうぞなの」

トリガー「あ、ありがと……」

ぽかーんとしている魔導長とトリガー。

盗賊「ほら変化師君、ぼさっとしてないで観客席作って!」

変化師「……お、おで、地形変化系のスキルは、無い!」

盗賊「かいりきでどうにでもなるよ!!」

変化師「お、おで!?」

ずずずずずずず

なった。

163: 2014/03/10(月) 18:21:05.80 ID:+SmlCuOP0
696

--失われた王国、中央広場--

勇者(ま、毎度のことだけど……)

シャーマン(強引過ぎる……)

踊子(こんなんでなんとかなるのかと思っちゃうんですけど~……それでも)

赤姫「……空気を変えてしまうのが主人公か……」

みんなはなんだか知らないけれど盗賊を見ている。

トリガー「……」

医師「っと……今はこの程度しか処置できないですけど、どうですか?」

盗賊「ん……ありがとう。これなら大分ましだ」

だんっ!

盗賊が怪我した足で地面を蹴る。

ぶしゅっ

医師「やさしく使ってください!!」

164: 2014/03/10(月) 18:23:32.19 ID:+SmlCuOP0
697

--失われた王国、中央広場--

ウェイトレス「ふーん……」

ヤミ「あれがトリガーが言ってた力か」

脳筋「こっちの俺もあいつにやられたらしいけど、まぁ、理解できるかな」

ウジ虫「ひひひ」

桃鳥「まぁ……別にいっか、って気持ちになっちゃいますね!」

銀蜘蛛「ネーネー、マダジカンアルナラ、オイルノミニイッテキテイイー?」

魔王勇者「……」

トリガー「……」

しばらくトリガーはぼーっとその様子を眺めていた。そして、

トリガー「……はぁ。困った困った……長いこと準備をしてきた僕としては中途半端な気持ちでリセットしたくないんだよ……それをこんなふざけたノリにして……」

どさ

トリガーは客席に腰を下ろす。

トリガー「……仕方ない。これは契約だ。君達の決闘の決着がつくまで手を出さない。でもそれが終わったら問答無用でリセットするからね? 二度目は無いよ?」

勇者「!」

ざわ!

盗賊「オーケーだ。恩に着るよトリガー」

トリガー「……とはいっても、今の君に勝てる見込みがあるのかな?」

165: 2014/03/10(月) 18:25:14.27 ID:+SmlCuOP0
698

--失われた王国、中央広場--

ざわざわ

盗賊「悪い、待たせたな」

盗賊王「……」

腕組みをして待っていた盗賊王に話しかける盗賊。

盗賊王「くっくっ……」

盗賊王が笑う。

盗賊「お、やっと表情が変わったな」

勇者「盗賊……」

変化師「……」

ムードに流された勇者と変化師はなぜかチアの格好をしている。

盗賊王「まったく茶番も茶番だ……くだらない」

盗賊「そういうなよ。てか一人だけシリアス気取れると思うなよ? お前だってさっきまでは無口だったんだぜ? それが喋らずにはいられないくらい雰囲気に飲み込まれちまってるのを気づいてるか?」

盗賊王「……」

盗賊王は腕組みを解く。

盗賊王「俺は……俺のそういうところが一番嫌いだったんだ」

166: 2014/03/10(月) 18:26:32.09 ID:+SmlCuOP0
699

--失われた王国、中央広場--

ぎいいいいいいいいいん!!

盗賊「ぎっ!!」

盗賊王「俺は貴様を頃す……そして勇者と決着を付ける!!」

勇者「!」

魔王勇者「!」

ぎんぎぎいん!!

盗賊「なるほど、それがお前の戦う理由か……」

雰囲気を変えてみせた盗賊だったが、依然として実力差は変わらず、大ダメージまで受けている盗賊が盤面を打開することは厳しい。

ぎんぶしっ!

盗賊「づっ!」

勇者(盗賊が……最後の時間稼ぎをしてくれてる……!)

勇者は汗ばんだ手でポンポンを握りしめる。

トリガー「そういえば君、もう四十台だよね?」

167: 2014/03/10(月) 18:27:59.41 ID:+SmlCuOP0
700

--失われた王国、中央広場--

ぎぎぎぎぎん!!

盗賊王「風属性対単体攻撃魔法、レベル2!」

盗賊「スキル、透視眼!」

ぎぃいん!!

護皇「……ッ……」

二人の戦いを見て気づかないうちに拳を握り締めている護皇。

ぴくん

ウィトレス「ん……?」

何かの反応を感じたウェイトレスは塔の方に視線をやる。

ウェイトレス「これ……私の指輪か。トリガー、どうやら面白いことをやってるみたいだよ」

トリガー「ん? あぁ、気づいてるよ。後ろの塔でしょ?」

ウェイトレス「あれ知ってた? 止めないの? みえみえの時間稼ぎじゃん、契約なんて反故にしたっていいじゃない」

トリガー「うん。まぁ……僕らの勝利が99.9%から99%に落ちる程度のささいなことだよ。最後の悪あがき、させてあげるさ」

トリガーはポップコーンを口に運ぶ。

ウェイトレス「ふーん……」

178: 2014/03/20(木) 02:06:36.39 ID:1/uO5Vcq0
701

--ハイちゃんの前回までのあらすじ--

ハイ「魔王が攻めてきたんですけど停戦になりました。それで向こうが停戦の約束を一方的に破ろうとしてるんですが、こちらとしてはまだ準備が出来ていないので出来る限り時間を稼ぎたいんです。現段階ではあっちの方が強いわけですし、全ては向こうの匙加減一つ……。攻撃してくるから応戦したのはやまやまなんですが、全員で手を出したら本格的に開戦になっちゃうんじゃないか、っていう不安がありますし、とにかくうやむやな感じで対応に困ってる今です」

179: 2014/03/20(木) 02:07:07.14 ID:1/uO5Vcq0
702

--失われた王国、中央広場--

ギギギギギン、ダン!

盗賊「がはっ!」

弾き飛ばされ地面を転がる盗賊。あれから一撃たりとも盗賊王にダメージを与えていない。

盗賊(まっじぃ……もう時間稼げねぇぞこれ)

盗賊王「……ち、しぶといな」

ギィン!

符術師「なにやってんだよ、もっと魔法とかスキル多用した方がいいんじゃないのか!?」

侍「いや……」

賭博師「どんな策でも見破られちまうんじゃ、結局魔力の無駄にしかなんねぇと思う。純粋に攻めていった方が、まだ無駄なく済むのかもな」

180: 2014/03/20(木) 02:08:02.89 ID:1/uO5Vcq0
703

--失われた王国、中央広場--

盗賊「はっ、はっ……うーん、まいったなぁ……おい俺、一体どんな人生送ってきたらそうなるんだ?」

盗賊王「……こんな世界でぬるく生きてるお前にはわからん」

ギィン!

盗賊「は、はぁ!? こっちだって色々あんだよ悩みが! 自分だけが辛いとか思うなよ!?」

ズバッ!

盗賊「痛い!」

ボタタッ……

もはや盗賊は立っているのがやっと……いや、立っているのが不思議なほどに痛め付けられていた。

盗賊王「終わりだ」

キィィン!

盗賊「!」

盗賊王の魔力のほとんどがナイフに込められる。

181: 2014/03/20(木) 02:09:24.66 ID:1/uO5Vcq0
704

--失われた王国、中央広場--

盗賊王「トリガー。約束はわかってるな? こいつを倒したら俺は勇者と戦う。世界を滅ぼすのはその後だ」

トリガー「……わかってるさ、約束しよう。さっきみたいな軽はずみなことはしないさ」

バチバチ!

盗賊「へ……この上奥義でくるってか。もう俺瀕氏なのによー」

盗賊王「貴様の顔は不愉快だ。粉々になって消えうせろ」

盗賊「……俺の顔はお前の顔だよ?」

バチバチバチ!

魔導長「っ。魔力の総量自体は大したことないけれど、とても練り上げられたいい魔力なの……」

護皇「あぁ、あれを盗賊の防御力で受けることは不可能ぜよ」

元賢帝「スピード的に避けることも出来ない……万事休すねぇん」

182: 2014/03/20(木) 02:13:17.49 ID:1/uO5Vcq0
705

--失われた王国、中央広場--

盗賊「……仕方ないね!」

盗賊王「奥義」

ダッ!!

盗賊王が駆ける。そして避けることの出来ない一撃を放つ。

しばっ

盗賊王「盗賊ブレエイイイイイドオオオ!!」

盗賊「」

ドギャシャァアァァアァアァアァアァアァアァアァアアァン!!

勇者「と、盗賊ーー!!」

叫ぶ勇者と吹き荒れる魔力風。

……ぎし

盗賊王「!!」

183: 2014/03/20(木) 02:13:46.37 ID:1/uO5Vcq0
706

--失われた王国、中央広場--

盗賊「……」

ギリギリギリギリ!

盗賊王の奥義は、不可視の障壁によって防がれていた。

盗賊王「な!? 俺の奥義を……受け止めただと!?」

ぶぅん

盗賊「空間設置魔法罠、ディフェンスタイプ」

盗賊王「!?」

盗賊「……これの防御力は相手の放った攻撃力に依存する。だからいくら強くても、正面突破は無理だぜ」

184: 2014/03/20(木) 02:18:26.89 ID:1/uO5Vcq0
707

--失われた王国、中央広場--

盗賊王「く、空間設置魔法罠……だと? それは魔力不足で俺には使用出来ない技のはずだ……それを……」

盗賊「あぁ、そうだよ。魔族にでもならない限り、凡人である俺が一人で使えるような技じゃない。それはお前も知ってる通りさ」

ブゥン……

盗賊王の奥義を形成する魔力が消滅すると同時に障壁が消えていく。

盗賊王「……お前」

盗賊「もう少し待ってたかったんだが……奥義、共有・勇者の型」

バチバチバチィ!!

盗賊王「その、力、は」

かつて盗賊王が喉から手が出るほど欲しかった力……。

盗賊「俺みたいな凡人は努力したところであんなもんよ。未だに一人じゃなーんも出来ないしな」

盗賊王「ゆう、しゃ、の」

盗賊「でも、俺は一人じゃねぇ……俺はみんなに力を借してもらって生きてきたんだ」

トリガー「……」

185: 2014/03/20(木) 02:19:40.65 ID:1/uO5Vcq0
708

--失われた王国、中央広場--

ざっ

盗賊王「……ぐ」

大半の魔力を失った盗賊王と、ぼろぼろではあるが勇者の力を持っている盗賊。

ざり

盗賊王は無意識に一歩下がる。

盗賊「……どうせお前、ずっと一人で戦ってきたんだろ? じゃなきゃそれ、到底たどり着けない力だ……」

ざり、ざり

盗賊「ずっと頼らずに生きてきたんだな……確かにお前強いよ。でも、それは一人の力でしかない」

盗賊王「スキル、マジックドレイン!」

ぼぅ

盗賊王のナイフがほのかに光る。
魔力を使いきった後、魔力を自力で補充出来るようにわざと残していたのだ。

盗賊「……それも、誰かに回復してもらうっていう、選択肢は無かったのか?」

186: 2014/03/20(木) 02:22:08.41 ID:1/uO5Vcq0
709

--失われた王国、中央広場--

盗賊「一人で戦うお前と、みんなと一緒に戦う俺。いくらお前一人が強くたって、勝てるわけ無かったのさ」

ざり

盗賊王「ッ! まだ終わったわけではない!!」

盗賊王が叫ぶ。

盗賊「……」

盗賊王「お前に、俺の何がわかる……」

盗賊「わからない。お前も説明する気ないだろうしな」

盗賊王「……」



盗賊「……楽にしてやるよ。お前の悪夢、終わらせるしかないみたいだからな」

どっ!

盗賊は跳ぶ。

187: 2014/03/20(木) 02:23:30.36 ID:1/uO5Vcq0
710

--失われた王国、中央広場--

勇者(盗賊のニートは切り札の一つだったのに……決戦前に使わされてしまった……。あれもハイのレベルと同じように、時間制限と再使用までの充電期間がある……最終決戦にはもう、使えない……!)

ザザザザザッ!!

盗賊王「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

盗賊王が盗賊を迎撃しようとする。
あくまで魔力を失っただけ、単純な体術はさほど衰えていない。

盗賊「カブトの型」

ぶぅん

盗賊王「!?」

しかし、盗賊は斬り合う直前に共有する力を代えた。

盗賊「KAGEROU」

ドンッ!!

盗賊王「」

勇者「」

赤姫「」

盗賊「時は止まる」

188: 2014/03/20(木) 02:25:44.66 ID:1/uO5Vcq0
711

--失われた王国、中央広場--

ざっ

盗賊「さっきまでの戦闘で、普通に突っ込んだら勇者ですらまずいってことがわかったからな。念には念をいれさせてもらう」

盗賊王「」

盗賊はナイフを構える。

盗賊「……やれやれ。まさか自分の首を自分で落とすはめになるとはな」

盗賊王「」

盗賊は何も答えない盗賊王の顔を眺める。

盗賊「……じゃあな、ルートを間違えた俺」

                                       オォ

盗賊「はっ!?」

                                                               オォオ

盗賊「何かが聞こえる!? 時間停止中だぞ……俺が発している音以外は……」

   オオ  オオオ   オオオォオオ      オォオ!!

盗賊「……ご、ふっ……?」

盗賊の腹部を

オオオオオオオオオオォオオオオオオオオオオォオ!!!!

氏者の腕が貫通していた。

189: 2014/03/20(木) 02:27:14.65 ID:1/uO5Vcq0
712

--失われた王国、中央広場--

盗賊「ごばっ!!」

びちゃちゃっ!!

盗賊は吐血する。

盗賊「なん、だと?」

時が止まった世界で、氏者の腕は軽やかにうごめいている。

トリガー「はははははははは」

盗賊「!? トリガー!?」

後ろを振り向くとトリガーが笑っている。

盗賊「な、なぜ」

トリガー「残念だったね、盗賊。その厄介なスキル対策は事前にしておいたのさ。フォーテが呪いをかけて、ね」

ドグシャ!!

盗賊「!!!!」

二本目の腕が盗賊の胸を貫いた。

190: 2014/03/20(木) 02:28:24.39 ID:1/uO5Vcq0
713

--失われた王国、中央広場--

……ッゥゥゥンド!!

勇者「!?」

スキルの効果時間が切れ、元通り時が動き出す。

盗賊王「?……!? なっ!?」

盗賊王の横には、氏者の腕に串刺しにされた盗賊の姿あった。

勇者「と、盗賊ーーー!?」

駆け寄ろうとする勇者。

しゅんっ!

ウェイトレス「よっと」

どがっ!

それをいとも容易く押さえつけるウェイトレス。

勇者「あぐっ!」

ウェイトレス「へぇ、トリガーの言う通りだ。勇者の力無くなってるわ」

勇者「!!」

191: 2014/03/20(木) 02:32:55.15 ID:1/uO5Vcq0
714

--失われた王国、中央広場--

盗賊「がっ……」

盗賊王「おいトリガー!! これはどういうことだ!! 決着がつくまで待てと言っておいただろうが!!」

トリガー「決着はついてたさ。盗賊がニートの力を使った瞬間にね」

魔導長「ッ!」

魔導長達は再び構える。なぜならもう、交渉の余地は無いと判断したからだ。



トリガー「……盗賊が持つ天性の資質、シリアスキラー……それを彼はニートという職業で昇華させ、完全なものとした……」

トリガーが立ち上がる。

トリガー「シリアスな流れをギャグ路線に持っていくことも出来るこの力……これが少々やっかいでね。どうやって潰そうかずっと考えていたんだ」

トリガーは歩き出す。

トリガー「ただシリアスキラーは盗賊がニートでなければ不完全なものになる性質があった。つまり、共有で他者の職業の力を使えば、その瞬間だけニートでは無くなる……」

トリガーは盗賊に近づいていく。

トリガー「すなわちニートではない盗賊にシリアスキラーの効力は無く、そして」

ウェイトレス「勇者の力を貸し出してる今の勇者に、勇者の力は無い」

勇者「!」

トリガー「そ、返却時間が来るまではただの貧Oだ」

貧O「!!」

192: 2014/03/20(木) 02:35:40.55 ID:1/uO5Vcq0
715

--失われた王国、中央広場--

盗賊王「きさま……トリガー!! よくも俺の戦いを汚したな!! 俺は」 

トリガー「盗賊を倒すことで、自分が選んだ道の正しさを証明しようとしてるんだろ?」

盗賊王「ッ!?」

トリガー「そんなに驚かないで欲しいな。大体一緒なんだ、闇に落ちた者の戦う動機なんてさ」

盗賊王「!」

トリガー「そうだ、役に立ったご褒美にいいことを教えてあげるよ盗賊王。君や魔法使いがなぜ勇者に固執するのかを」

盗賊王「! なんだと……?」

トリガー「それは魔王の力のせいさ。魔王の力は周囲の心を染め上げる。洗脳というよりはくすりみたいなもんだ。一度手を出したらやめられない……無理に引き離せば人格が損傷するほどの、ね」

盗賊王「」

トリガー「ははは、君の復讐劇とやらも結局は振り回されていただけなのさ、勇者に」

盗賊王「と、トリガー!!!!」

べちん!!

精神が揺らいだ瞬間、トリガーは氏者の腕で盗賊王の首をはねた。

どさっ

トリガー「君は盗賊に共有を使わせた……役目は終わったんだ、盗賊王」

193: 2014/03/20(木) 02:37:17.40 ID:1/uO5Vcq0
716

--失われた王国、中央広場--

赤姫「トリガー!!」

叫ぶ赤姫。もはや赤姫にはそれしか出来ることが無かった。

トリガー「さぁて、と」

ズブッ!!

盗賊「」

勇者「……え?」



--失われた王国、塔--

がたがたがた、ばんっ!!

ポニテ「終わったー!! 出来たよパパママー!! 指輪全部完成した……よ……?」

窓から体を乗り出したポニテが見たものは



どくん、どくん

勇者「あ、あぁ……」

トリガー「やはり出来ていた。ほら、みなよ勇者。君の一番大切なもの……君の魔王の骨だ」

盗賊の心臓を天に掲げる氏者の腕だった。

194: 2014/03/20(木) 02:38:24.64 ID:1/uO5Vcq0
717

--失われた王国、中央広場--

どくん、どくん

盗賊の心臓が動いている。

オォオオォオオ

氏者の腕がトリガーにそれを渡す。トリガーがそれに触れると周りについた血が蒸発する。

しゅうぅう

どくん、どくん

トリガーが持つ盗賊の心臓、それは脈打ちながらも、まるで骨のようだった。

ポニテ「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

ぼおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

ポニテが精霊化し、トリガー目掛けて飛来する。

ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

ポニテ「!」

桃鳥「駄目ですよ邪魔しちゃ、って、私思っちゃってます」

しかし桃鳥が間に入り、ポニテの攻撃を受け止めた。

195: 2014/03/20(木) 02:40:05.75 ID:1/uO5Vcq0
718

--失われた王国、中央広場--

ポニテ「うああぁぁ!! パパーー!! パパー!!」

桃鳥「おとなしくしてなくちゃ駄目ですよー」

じたばじたばた!!

盗賊「」

ぽた

盗賊は

盗賊「」

既に氏亡していた。

赤姫「く! やむをえない! 皆のもの、戦うぞ!!」

魔導長「!! 通信師!」

通信師「えぇ、もちろん全員に通達してますよ!!」

ダダダダダ!!

アッシュ「くそ! ポニテのやつ一人で飛び出しやがって!!」

ツインテ「自分の父親があんなめに合わせられたら……気持ちはわかります」

レン「行くにゃ!! 魔王制御輪!!」

バシュバシュバシュバシュ!!

レンの掌から指輪が放たれる。

196: 2014/03/20(木) 02:40:51.82 ID:1/uO5Vcq0
719

--失われた王国、外れ--

魔法使い「ち! 最悪なことになったぜ!」

ダダダダダ!!

通信師からの知らせを受けた魔法使いは中央広場を目指す。

……ぶぅん

魔法使い「? 結界が、弱まってる……?」

ぶつん

魔法使い「!? バカな!? 結界が無くなっただと!?」

しゅん!

ニンフ「あら~見たことある人間が~」

魔法使い「!?」

カトブレパス「どうします? 始末していきます?」

ウェンディゴ「そう、だな。あいつ強いからな。念のために俺がやっとくよ」

魔法使い「……きさまら」

結界が切れたと同時に魔族が失われた王国に侵入する。

197: 2014/03/20(木) 02:43:35.05 ID:1/uO5Vcq0
720

--失われた王国、結界塔--

ひゅんひゅん、しゅたっ!

魔剣使い「そこで何をしているのですか!?」

魔剣使いが駆けつけた時には既に結界の祭壇が破壊されていた。

X「く、くそ……」

そしてぎちぎちとぎこちなく動くXがそこにいた。

魔剣使い「! 人造勇者X……! 貴方も魔王側についたということですか……?」

X「違う! 体が、言うことをきかんのだ……!」

魔剣使い「!?」

X「体を操作されている……魔王の中に、人形師がいるというのか……! い、いつのまにこんな細工を!!」

Xは向き直り、魔剣使いに拳を振るう。

どがああああん!!

魔剣使い「ぐっ!!」

Xの攻撃は魔剣使いにかわされ床を破壊、その衝撃で塔全体が崩れていく。

ず、ずずずずずず……

魔剣使い(人造勇者が気づくことも出来ずに操作されてしまうなんて……)

X「は、早く広場に行け!! 結界が無くなった今モンスターが押し寄せてくる! それまでに決着をつけるんだ!」

魔剣使い「!! はい!」

どしゅ!

魔剣使いは塔から飛び降りて中央広場を目指す。

205: 2014/03/25(火) 01:44:30.13 ID:JfgXxqeU0
721

--失われた王国、占塔--

うわぁああああああ

中央広場の方角から大きな歓声があがる。
まるで祭りのような。まるで戦争でもしているかのような。

占師「……やっぱり……運命には抗えないのかねぇ」

占師は占いの炎を見続けている。

206: 2014/03/25(火) 01:52:06.57 ID:JfgXxqeU0
722

--失われた王国、中央広場--

ワーワー!!

がちんっ

銀蜘蛛「アレレ? ナンカワッカガクッツイタヨー?」

桃鳥「これは……」

ヤミ「……」

ウジ虫「ひ、ひひひ」

ウェイトレス「……へぇ~、この短時間で完成させられたんだ?」

脳筋「ん? 力が出ないぞ?」

魔王勇者「……」

各魔王に指輪が装着される。

レン「指輪装着完了にゃ! 皆、行くにゃ!!」

賢者「勇者さん!」

踊子「ショックなのはわかるけど、今はこいつらの相手が最優先ですよ~! 盗賊君は終わってから蘇生させましょ~」

ふぉん

勇者「力が戻った……!」

ばちん!

ウェイトレス「おっと」

盗賊への共有時間が終了し、勇者に元の力が戻った。そして勇者はウェイトレスを跳ね除ける。

207: 2014/03/25(火) 01:53:57.54 ID:JfgXxqeU0
723

--失われた王国、中央広場--

魔導長「でも困ったなの……思ったよりパワーダウンしてない……」

ゴゴゴゴゴゴゴ

トリガー「指輪を完成させたことは素直に褒めてあげるよ。でもそれだけでひっくり返せるかな……?」

元賢帝「……確かにそうねぇ。個別に戦えるなら大分楽なんだ・け・ど……」

射王「地形変化系の能力持ちが生き残っていたなら分散出来たんだがな」

ざっ

脳筋「トリガー、一番手俺が行っていいか?」

脳筋は嬉しそうに腕を回す。

トリガー「いや、さすがに魔王の力を封じられている状態なんだから、全員でかかったほうがよくない?」

脳筋「えー? 俺チームプレーは得意じゃないんだよー。なぁ、いいだろみんなも?」

銀蜘蛛「イヤダイ! ナンバーテキニ、イチバンハボクダイ!」

ヤミ「俺が戦えば全てが終わるぞ」

ウェイトレス「私も鈍ってたから久々にやりたいんだよねー!」

トリガー「……協力とかないの?」

208: 2014/03/25(火) 01:56:32.03 ID:JfgXxqeU0
724

--失われた王国、中央広場--

ツインテ「……当たり前っちゃあ当たり前なんですけど、あの人たちは元々勇者なわけなんですよね」

アッシュ「魔王の力を封じたら、元々の勇者としての力が出てくるってわけか……」

レン「それでもパワーダウンはしたのにゃ! 付け入る隙はあるはずにゃ!」

じゃーんけーん

ハイ「じゅ、順番決めてますよこの状況で……ありえない」

アッシュ「……」

ダッ!

アッシュは走り出し、ポニテを押さえつけている桃鳥に斬りかかる。

桃鳥「? わっ」

ずばっ

アッシュの一撃は桃鳥の首を切り裂く。
だが、

桃鳥「わー、びっくりしちゃいました」

一瞬で再生。

ドッ!

桃鳥「うぐっ!」

しかし続けざまに回転蹴りを放ち、桃鳥はポニテの上から吹き飛ばされる。

209: 2014/03/25(火) 01:57:12.25 ID:JfgXxqeU0
725

--失われた王国、中央広場--

ズザザー

桃鳥「あいたたた……」

ウジ虫「も、桃鳥、大丈夫? ひひ」

桃鳥「油断しちゃいましたー」

アッシュ「冷静になれポニテ。今しくじったら全てが終わるぞ」

ポニテ「……うん……ごめん」

ポニテは立ち上がり、トリガーの掌の中にある盗賊の心臓を見つめる。

アッシュ「俺らのやることを忘れるなよ」

ポニテ「うん、わかってる!」

ポニテとアッシュは構えた。

210: 2014/03/25(火) 01:59:23.97 ID:JfgXxqeU0
726

--失われた王国、中央広場--

びびっ

通信師(いいですか皆さん、よく聞いてください。これから代表と参謀長さんからの作戦を伝えます)

ハイ(あ、テレパシーが)

通信師(今魔王達が一番手を決めていますが、我々はそれに相性がいいキャラを選んでぶつけます。それが誰になるかはまだわかりませんが、その人たちには一番手の魔王をトリガー達から引き離してもらいます)

勇者(……)

通信師(ある程度離れたら、一番手に総戦力の三割を動員し一気に殲滅、残りの戦力で同時にトリガー達を叩きます)

鬼姫(たった一人に対して三割っすか……大盤振る舞いっすね)

通信師(これでも少ないくらいとの分析らしいです。本当ならもっと分散させたかったんですが……)

魔導長(作戦、わかったなの)

射王(了解した)

211: 2014/03/25(火) 02:01:05.26 ID:JfgXxqeU0
727

--失われた王国、中央広場--

ざっ

脳筋「……よし!」

銀蜘蛛「ワーイ! イチバンハボクダネー!!」

ヤミ「……」

ウェイトレス「何がよしだ、負けてんじゃん」

ずしゃ

銀蜘蛛「ジャアボクカライキマース! ミンナー、ヨロシクネー」

銀蜘蛛はぶんぶんとマニピュレーターを左右に振った。

通信師(銀蜘蛛が一番手のようですね。担当は同じ機械兵士、テンテン、ウーノ、ドゥーエ、トーレに任せます!)

212: 2014/03/25(火) 02:02:27.22 ID:JfgXxqeU0
728

--失われた王国、中央広場--

テンテン「待ちくたびれたぞ」

ドドドドドドドド!!

煙をあげて、マントを装着したテンテンが空から現れる。

バサァ!!

銀蜘蛛「!! テンテンサン! テンテンサンジャナイカ! ヒサシブリー!」

トリガー「あれ? 知り合い?」

テンテン「銀蜘蛛……お前いつの間に勇者だの魔王だのといった存在になったんだ」

銀蜘蛛「エヘヘー。テンテンサンガ、スリープジョウタイ二ハイッテカラ、イロイロアッタンダヨネー」

シャン

更に銀蜘蛛を囲むように機械兵士三姉妹が降り立つ。

213: 2014/03/25(火) 02:03:21.09 ID:JfgXxqeU0
729

--失われた王国、中央広場--

ウーノ「ぴぴぴ……戦闘用機械兵士では無いようですね」

ドゥーエ「ただ装甲はおもいっきり頑丈に作られてるみたい」

トーレ「更に自分で勝手に魔改造しまくっちゃった、と」

三姉妹はそれぞれ銀蜘蛛を分析している。

テンテン「……もっと広い場所でやろう。ついてこい」

ぼぼぼぼぼぼ

テンテンは銀蜘蛛に合図を送ると飛んでいく。

銀蜘蛛「オッケー!」

どひゅん!

銀蜘蛛はそれを追うように跳躍した。

214: 2014/03/25(火) 02:08:36.68 ID:JfgXxqeU0
730

--失われた王国、中央広場--

通信師(彼女らの砲撃戦に対応できるのは魔導長と射王、貴方達しかいません。彼女らとともに銀蜘蛛の撃破を)

魔導長(わかったなの)

ぴるるるるるる

魔導長は射王を抱えると飛び上がった。

トリガー「なるほど。あの戦力で銀蜘蛛を叩くつもりか」

勇者「卑怯だなんて言わせないわ。なんでもありの貴方達を倒すためなのだから!」

トリガー「卑怯だなんて言うつもりはないよ。ただ、甘く見すぎなんじゃないかな、ってね」

ざざっ

シン(皆さんすいません、人造勇者のシンです!)

そこにもう一人テレパシーを送信してくるものがいた。

通信師(シンさんどうしました?)

シン(予想通りではありますが、先ほど結界が破られました……どうやったかはわからないんですが、Xさんが操作されてました。どうやら強力な人形師系の使い手がいるみたいです)

通信師(……わかりました。それでは作戦通り、人造勇者の皆さんは外から来るモンスターの相手をよろしくお願いします)

215: 2014/03/25(火) 02:09:53.39 ID:JfgXxqeU0
731

--失われた王国、中央広場--

勇者「……」

ざり

脳筋「あれ? まとめて銀蜘蛛が相手をすると思ったんだけど……これ、どうやらまだチャンスあり?」

勇者「一人減った。たった一人だが、これはチャンスだ!」

シャシャ!!

鬼姫と竜子が勇者の横を走り抜き、魔王達の前へ。

鬼姫「奥義、鬼咆哮!!」

竜子「奥義、絶対零度ビーム!!」

トリガー「!」

ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

亜人最強種、鬼と竜による二大奥義が魔王達を奇襲する。

ドガガガガガガガガガガガガァア!!!!

元賢帝「す、すっごい出力……! 範囲は魔導長のあれには及ばないけど、威力だけなら同等かそれ以上ね……!」

216: 2014/03/25(火) 02:11:29.27 ID:JfgXxqeU0
732

--失われた王国、中央広場--

ガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

鬼姫「……」

しゅうぅううう……

竜子「……」

侍「……やったか?」

アッシュ「その台詞を言うなーーーー!!」

ゆら

勇者「!!」

桃鳥「けほ、こほ。皆さん大丈夫ですか? って私思っちゃったりします」

勇者(やはり桃鳥はノーダメージか……!)

ウェイトレス「わー、やばかったわー。ヤミ君が盾になってくれなかったらひとたまりも無かったよー」

ウェイトレスはヤミを掴んで盾代わりにしていた。

ヤミ「……」

魔王ヤミを倒した。

アッシュ「やれてたーーーー!!」

217: 2014/03/25(火) 02:16:04.68 ID:JfgXxqeU0
733

--失われた王国、中央広場--

ウジ虫「……」

さりげなく魔王ウジ虫も倒してた。

竜子「おら! ぼさっとすんな! さっさと私らを回復しな! 来るよ!」

賢者「! 水属性回復魔法レベル4、魔力供給レベル4!」

じゅわぁん

賭博師「鬼姫さん、あんたは悪いがこっちだ」

賭博師は鬼姫に回復アイテムを投げる。

ひゅん、ぱしっ

鬼姫「別にどっちでもかまわないっすよ。サンキューっす」

きゅぽん、ごくごくごく

脳筋「ふぅーん。兄貴も亜人王のおっさんもいないからまともなやついないんじゃないかと心配したけど」

鬼姫「……」

竜子「……」

脳筋「結構強いじゃんか!」

ぼわぁ!

変化師「す、スキル、身体変化」

煙に乗じて変化師が脳筋に接近していた。

脳筋「!?」

変化師「竜口!!」

ドッ!!

218: 2014/03/25(火) 02:22:11.84 ID:JfgXxqeU0
734

--失われた王国、中央広場--

トリガー「……やれやれ」

おおぉおおお

氏者の腕で作った繭のようなものの中からトリガーが現れる。

トリガー「やめてもらいたいもんだよ。僕はいたって普通のボディなんだからさ」

トリガーはため息をついた。

しゅぅうう……

変化師「!?」

脳筋「悪くないぜ!」

ドガッ!!

ゼロ距離から変化師の攻撃を受けた脳筋だったが、大したダメージも無く、即座にカウンターを変化師に放つ。

変化師「ぐっ!!」(お、重い! ただのパンチが、なんて重い一撃なんだ……!)

シャシャシャ!!

鬼姫、竜子「「!!」」

それを見た鬼姫と竜子が脳筋に攻撃を繰り出した。

ドガシイイイイン!!

鬼姫「ッ! あっさり受け止められると、さすがのあたしもショックっす」

鬼姫の蹴りを右手で、

竜子「……っち」

竜子の殴打を左手で受け止めた脳筋。

脳筋「俺わくわくすっぞ!」

219: 2014/03/25(火) 02:24:01.02 ID:JfgXxqeU0
735

--失われた王国、中央広場--

ドガ、ドガガガガガガガ!!

眼で追うのがやっとの攻防。肉弾戦最強レベルの世界。

鬼姫(片腕を失ってる状態とはいえ……)

竜子(二体一で同等? 自信がぶっ壊れるぜ!!)

ガガガガガガガガガ!!

変化師「ぬ、ぬおおおおおおおお!!」

そこに変化師が突っ込んでくる。

脳筋「スキル、指パッチン三連撃」

ボボボ

鬼姫「」

竜子「」

変化師「」

ドガアアアアアアアアアアアアアアン!!

しかし脳筋のスキルが三人を吹き飛ばしてしまう。

脳筋「これが俺の指パッチンだ」

踊子「私達よくあんなのに勝てましたね~……」

賢者「あの時はあまりやる気無かったみたいだし……」

220: 2014/03/25(火) 02:24:48.21 ID:JfgXxqeU0
736

--失われた王国、中央広場--

勇者(これでも分が悪いの……!? 聖騎士と虎男が存命だったなら……!)

ダッ!!

勇者は大剣を構え、単身トリガーに向かって駆け出した。

トリガー「おや、来るのかい? 勇者」

しゅ

ガギイイイイイン!!

魔王勇者「……」

勇者「くっ……」

その攻撃を魔王勇者が止める。

ギリギリギリ

魔王勇者「言ったでしょ……? お前は私が斬る、って」

勇者「邪魔よッ!」

221: 2014/03/25(火) 02:25:42.75 ID:JfgXxqeU0
737

--失われた王国、中央広場--

ぎぃん、ギギギギギギギギィン!!

斬りあう勇者と魔王勇者。

ハイ「今のうちに皆さん、お願いします!」

ツインテ「わ、わかりました!」

アッシュ「おう」

ポニテ「うん!」

レン「いくにゃ!」

ぴっ

アッシュのナイフがハイの薄皮一枚を綺麗に裂く。

ハイ「条件達成、レベル2、盾兵!」

ドン!

ハイが盾兵にレベルアップした。

222: 2014/03/25(火) 02:28:28.75 ID:JfgXxqeU0
738

--失われた王国、中央広場--

ドシュドシュドシュッ!!

ツインテ「」

ポニテ「」

レン「」

続けてアッシュはツインテ、ポニテ、レンの首を跳ね、

アッシュ「」

そして自害する。

ドシュッ!!

ハイ「……条件達成、レベル3、賢者! 更に条件達成!!」

ドドンッ!!

ハイの魔力が高まっていく。

ハイ「レベル4、勇者!!」

ガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

わずか数秒でハイはレベルマックスになることに成功する。

ツインテ「自動、蘇生」

じゅる

そしてツインテは常時発動スキルにより蘇生し、

ツインテ「奥義、絶対回復領域!!」

ぽわあぁあああん!!

アッシュ「……ふん」

ポニテ「さっすがアッシュ君、手際いいねー! 氏ぬまで殺されたことに気づかなかったよ」

レン「これで、完璧な状態にゃ!」

三人の蘇生が完了し、五人が構える。

ハイ「行きましょう、皆さん! 最終決戦です!!」

223: 2014/03/25(火) 02:31:35.21 ID:JfgXxqeU0
739

--失われた王国、中央広場--

侍「ツインテ殿達……見事な連携でござる……自己犠牲にそんな使い方があるとは……」

侍はハイ達の後姿を見て目頭を熱くする。

ばさっ、ばさっ

桃鳥「残念だけど今の私達も勇者だから。勇者因子は別に怖く無いんだよって私思っちゃってます!」

ばさっ!

桃鳥がツインテ達に向かってくる。

ハイ「ユニちゃん!」

ユニコーン「ひひーん!!」

だからっだからっだからっ!!

ユニコーンが跳躍しパイルバンカーになるとハイの手の中に。

じゃきぃーん!

桃鳥「スキル、百突き!」

桃鳥は足の鉤爪で突きのラッシュを放つ。

ハイ「突き比べといきますか!」

どがぁあああああああああああん!!

224: 2014/03/25(火) 02:35:20.44 ID:JfgXxqeU0
740

--失われた王国、中央広場--

ギィンギギイィイン!!

魔王勇者「はああああああああああああああ!!」

ぶん、ぶん!

勇者「ッ!」

ぎぃん、ずばぁ!!

魔王勇者「ッ!?」

勇者の大剣が魔王勇者の剣を弾き、そのまま胸部を切り裂いた。

ぶしゅっ!

魔王勇者「がふっ! な、なんでこんな私が、簡単に……」

魔王勇者は血にぬれた自分の掌を見つめている。

勇者「馬鹿ね……魔王状態ならいざ知らず、同じ条件で私に勝てると思っていたの?」

魔王勇者「な、なんですって……?」

勇者「私のことだからわかるのよ。昔の私の心の弱さを……」

魔王勇者「!?」

チャキ

勇者「私は人に剣を振るう時、怯えが出ちゃっていたのよ……そう、迷いを捨てるまでは、ね」

以前の勇者ならば、盗賊の氏を目の当たりにして立ち上がることなど出来なかった……。

勇者「私とあんなの違いは心の強度よ!!」

魔王勇者「!」

ドギイイイイイイイン!!

ウェンディゴ「……つー……相変わらず激烈な打ち込みだぜ」

勇者「!?」

二人の間にウェンディゴが乱入する。

ウェンディゴ「待って、くれよ勇者」


240: 2014/04/07(月) 22:45:42.66 ID:nqk7mnNK0
741

--失われた王国、中央広場--

勇者「……」

盗賊と同じ声を聞き、勇者は一瞬動きを止めてしまう。
が、

勇者「待つわけなんて、ないでしょ」

チャキ

盗賊の氏体を横目で確認した勇者は大剣を握りなおす。

勇者「私とあなたたちは、敵同士なのよ!!」

魔王勇者「ッ! どきなさい!」

ドン!

魔王勇者はウェンディゴを跳ね除けて大剣を構える。

241: 2014/04/07(月) 22:46:33.92 ID:nqk7mnNK0
742

--失われた王国、中央広場--

勇者「奥義」

魔王勇者「奥義」

ヒュォォオオォオォォオオ……

ツインテ「あ、勇者さんの、奥義?」

ゴゴゴゴゴゴ

勇者と魔王勇者を中心に魔力の渦が発生する。

アッシュ「あのレベルの実力者同士の奥義の打ち合いだと……?」

レン「しかも両者とも攻撃型の奥義っぽいにゃ……余波でこっちにまで影響でそうにゃ!」

ポニテ「ちょっ! 余所見しないで! こっちだって今魔王と戦ってるんだよ!?」

ドフッ、ドフドフっ!

ポニテの攻撃が桃鳥を削るも一瞬で再生してしまう。

桃鳥「今は私も勇者ですけどー」

242: 2014/04/07(月) 22:48:08.93 ID:nqk7mnNK0
743

--失われた王国、中央広場--

ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!

大量の魔力が圧縮され、二人の大剣にまとわりつく。

符術師「お、おい、離れたほうがよくないか?」

通信師「確かに、あんなのが激突したら……」

すちゃっ

勇者「勇者……」

ざんっっっ!!

魔王勇者「スラアアアアアアアアアアアアアアアアッッシュ!!」

ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

魔力で強化された勇者の大剣と魔王勇者の大剣が鍔迫り合う。

ぎ、ギギギギギギギギギ!!

ドゴォン!

侍「うお!?」

ドガァン!

賭博師「おわっ!?」

お互いの魔力が干渉し、千切れ飛んだ魔力が周囲を破壊していく。

243: 2014/04/07(月) 22:49:30.92 ID:nqk7mnNK0
744

--失われた王国、中央広場--

バリィ! バババドォオオン!!!!

魔王勇者(今の私は魔王の力を封じられている。そのせいで火力は下がっちゃうけど、勇者因子に遅れをとることも無い! この奥義も、互角か……)

ギャリィン

魔王勇者「!?」

しかし勇者は奥義の途中で剣の流れを変えた。

魔王勇者(何ッ!? 勇者スラッシュにこんな動きは!!)

勇者「……連」

ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

そして一回転して二度目の攻撃を魔王勇者に叩き込んだ。

魔王勇者「!!!!」

ブシャァアアアアアーーーー!!

ウェンディゴ「魔王勇者ーーーーーーーーーーー!!」

244: 2014/04/07(月) 22:51:13.71 ID:nqk7mnNK0
745

--失われた王国、中央広場--

ばしゃ、ばしゃしゃ!!

魔王勇者「なっ、げほっ……がはっ! な、なんだ、それ……それは」

勇者「いつまでも昔と同じままじゃ芸が無いからね、改良したのよ。全ての魔王を一人で倒せるように」

魔王勇者「勇者スラッシュ・連……だと」

魔王勇者は斬られた傷口に手を当てるのだが、あまりに出血が激しく意味をなさない。

ウェンディゴ「!」

がばっ

ウェンディゴは倒れかけた魔王勇者を支えた。

魔王勇者「そんな、私が、負けた。……偽者だって、言うの?」

魔王勇者はぶつぶつと呟いている。

245: 2014/04/07(月) 22:52:32.80 ID:nqk7mnNK0
746

--失われた王国、中央広場--

アッシュ「はぁああああああ!!」

シュバッシュバババッ!!

アッシュのナイフが桃鳥をバラバラに分割する。

桃鳥「残念、無駄なんですよー」

しかし一瞬で桃鳥は再生してしまう。

アッシュ(くそっ、ツインテの絶対回復領域を相手にしているようだぜ……!)

桃鳥「火属性範囲攻撃魔法、レベル4」

ぼおおおおおおおおおおおお!!

ハイ「つっ! 火力はあまり高くないですけど、じわじわ削られてます! 高耐久低火力なボスとか!!」

レン「でも回復ならこっちにもツインテがいるのにゃ! これがもう少しで完成するからみんな耐えてにゃ!!」

桃鳥「完成?」

桃鳥はレンがいじっているゴーレムを見る。

246: 2014/04/07(月) 22:54:05.42 ID:nqk7mnNK0
747

--失われた王国、中央広場--

桃鳥「なんだか、嫌な感じがします……」

アッシュ「ち、注意がそっちにいっちまった! やるぞポニテ!」

ポニテ「おうよ、アッシュ君!」

バッ!

桃鳥「!」

血と炎の剣の二刀流のポニテと、二つのナイフを構えたアッシュが桃鳥に接近する。

ズババババッ!!

そしてバラバラ。

桃鳥「そんなことしたってー」

アッシュ「更に奥義、ポイポイポイズン」

じゅわ

アッシュは毒を帯びたナイフで桃鳥の切断面を斬りつけた。

桃鳥「無駄なのにー」

しゅん、ぶくぶく

やはり再生してしまう桃鳥。

桃鳥「……あれ?」

247: 2014/04/07(月) 22:55:26.54 ID:nqk7mnNK0
748

--失われた王国、中央広場--

しかし再生速度が遅くなっていた。

桃鳥「あれ? なんで?……もしかして何かしました?」

アッシュ「あぁ……ちょいと試しに毒を打ち込ませてもらった」

桃鳥「……!」

アッシュ「回復する能力自体を汚染してみた。どうだ、効果のほどは?」

桃鳥「……」

しゅるしゅると切り裂かれた部分が直っていく。だが先ほどまどの回復スピードでは無くなっていた。

アッシュ「なるほど。効果ありだな!」

ポニテ「うお!? アッシュ君が強敵相手に役に立ってる!?」

桃鳥「……こんなことやっても無駄なのに、って私思っちゃってます」

ぼっ!!

248: 2014/04/07(月) 22:56:36.36 ID:nqk7mnNK0
749

--失われた王国、中央広場--

桃鳥の全身が燃えあがる。

ツインテ「! 浄化の炎! 自分の中の毒を外に出すために全身を焼いている!?」

ボボボボボ!!

ポニテ「全焼状態からでも戻っちゃうなら、バッドステータスはほぼ無効……つまりアッシュ君の能力じゃ一切勝ち目ないね!」

レン「やっぱり安定のアッシュ役立たずにゃ」

アッシュ「」

がくりと跪くアッシュ。

桃鳥「このままだと埒が明かないので、勝負を決めさせてもらいますね」

ぼふっ

火の中から新たに誕生した桃鳥はそう宣言する。

桃鳥「奥義、回復の渦」

ぼぼぼぉおお!!

249: 2014/04/07(月) 22:57:52.84 ID:nqk7mnNK0
750

--失われた王国、中央広場--

ぼおおお! ぼおおおお!!

桃鳥の体から炎が噴出し、辺り一帯を覆った。

アッシュ「地形変更系の奥義か……? 面倒だな」

レン「効果がわからないうちはうかつに動いちゃだめにゃ! アッシュ!」

ポニテ「逆だよ!」

ドッ!

ポニテは桃鳥に突っ込んでいく。

ポニテ「こっちにはツインテちゃんの回復があるんだ。少しでも時間かけずに行くべきなんだよ!」

ボッ!!

ポニテは精霊化状態で桃鳥に攻撃する。

ボフボフッ!!

桃鳥「中々いい判断だと思います。正しいか正しくないかは別として」

250: 2014/04/07(月) 22:59:35.41 ID:nqk7mnNK0
751

--失われた王国、中央広場--

ポニテ「く、やっぱり回復速度が戻ってる!……いや、これって」

桃鳥「火属性範囲攻撃魔法、レベル4」

ぼおおおおおおおおおおおおおおお!!

桃鳥が放つ全体攻撃がツインテ達を襲う。

ハイ「あちっ!」

アッシュ「またこれか。レベル4にしてはそこまで威力高くねぇから怖くねぇ! ツインテ!」

ツインテ「はい!」

レン「でもレベル4はレベル4にゃ。ちゃっかり火傷状態になってるし。ツインテの魔力切れが狙いかもにゃ」

アッシュ「お前はさっさと最終調整しておけ。……ツインテ、まだか? この火傷も地味につらいんだぞ」

ツインテ「あれ……か、回復魔法が、機能しません……」

アッシュ「……は?」

251: 2014/04/07(月) 23:01:58.56 ID:nqk7mnNK0
752

--失われた王国、中央広場--

桃鳥「ふふん」

アッシュ「! この奥義の効果か!」

ポニテ「はぁああ!!」

ぼふっ! ひゅんっ!

ポニテ「! 錯覚じゃない、さっきより回復速度があがってる!!」

桃鳥の回復速度は既に肉眼で見えないレベルになっている。

レン「……こっちは回復が使えなくなり、向こうは更に回復力があがってるってことかにゃ?」

アッシュ「いや、魔力の流れを見てみたが……どうやら吸われてるみたいだぜ回復力……全ての回復力があいつに集まってる……」

じゅっ

ハイ「……え? じゃ、じゃああいつを倒さない限り私達は回復できない、ってことですか?」

桃鳥「火属性範囲攻撃魔法レベル4」

ぼおおおおおおおおおおおおおおお!!

アッシュ「あっち!……ぐ……避けられない範囲攻撃に」

レン「火傷のバッドステータス……このままだとじわりじわりと殺されるにゃ」

252: 2014/04/07(月) 23:03:59.30 ID:nqk7mnNK0
753

--失われた王国、中央広場--

アッシュ「……ち、ってことは、やっぱりこれしか倒す手段が無いみたいだな」

アッシュはにやりと笑う。

レン「そうみたい、にゃ!」

バキィイイン!!

ゴーレムが変形し、そこから現れたのは銀の槍。

桃鳥「!! それは、その槍は!」

桃鳥の嫌な予感が的中する。なぜならそれは桃鳥の唯一の氏の形……。

レン「ポニテ! また頼むにゃ!」

ポニテ「あい、よっ!!」

ポニテはレン達の所にまで戻るとその槍を掴んだ。

バシッ!!

桃鳥「『呪いの槍』……そう……私はまたそれにやられちゃうんですね」

桃鳥は避けられぬ運命を見るかのようにそれを見ていた。

ポニテ「食らえ!! 呪いの槍!!」

きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!

ぼろぼろっ

不氏身の桃鳥の体が崩れていく。

桃鳥「……三度目、か」

ドガァアアアアアアアアン!!

253: 2014/04/07(月) 23:05:16.87 ID:nqk7mnNK0
754

--失われた王国、中央広場--

トリガー「あれ?」

トリガーは桃鳥の反応が消えたのを感じ取る。

トリガー「呪いの槍の使い手、まだこのメンバーの中に残ってたか……。ふむ。思ったよりこれはまずい流れなのかな」

トリガーは残った魔王の数を数える。

トリガー「銀蜘蛛とウェイトレスに脳筋……? あれ、もう三体しか残ってないのか?」

ずるる

ヤミ「俺を忘れるな」

トリガーの影からヤミが出現する。

トリガー「あれ、氏んだのかと思ったよ君。二人の合体奥義食らってさ」

ヤミ「氏ぬものか。否、俺に氏など無い」

トリガー「そうだったね、ノーライフキング」

ばさっ!

ヤミは黒いマントを翻す。

254: 2014/04/07(月) 23:07:40.11 ID:nqk7mnNK0
755

--失われた王国、中央広場--

ヤミ「それにあいつもまだ氏んではいない」

ヤミの視線の先には血まみれになりながらも剣を構える魔王勇者がいた。

トリガー「そうか。彼女もいたね。……でもびっくりしたな」

ヤミ「何がだ」

トリガー「君達魔王じゃなくなった途端に弱体化しすぎじゃない?」

ヤミ「……誰でも慣れがある。ずっと魔王だったんだ。それがいきなり勇者の位にまでパワーダウンされたとあっては、力の配分が難しい」

トリガー「……」

ヤミ「それにやつらは我らを研究している。完璧とはいえないが、我らに相性がいいものを選んでぶつけてきている」

ウェイトレス「はっはっはー。そんなの言い訳だね」

ヤミ「なに……?」

ウェイトレス「いくら弱体化させられちゃったからとは言え、それでも私達は勇者なんだ。素のスペックはあいつら以上なんだよ?」

トリガー「一部の壊れを除いてね」

ヤミ「……そうまで言うのなら、お前が直接戦えばいいじゃないか」

ウェイトレス「だってじゃんけんに負けたしー」

ウェイトレスは椅子に座って足をぶらぶらとしている。

ウェイトレス「それに、私は最後にやった方がいいんじゃない?」

暗黒微笑。

255: 2014/04/07(月) 23:09:19.69 ID:nqk7mnNK0
756

--失われた王国、中央広場--

ウェイトレス「あー、あと」

脳筋「おらー!」

ドゴッッッ!!

変化師「ッッッ!!!!」

どっがぁああぁん!!

北の兵士「う、うわぁ!! 変化師様がふっとんできたああ!!」

ウェイトレス「あいつ一人でいけそうじゃない? あの馬鹿への対策は無いみたいだけど」

ヤミ「……確かにそうだな」

ざっ

ヤミ「……?」

そこに、

ブラ「や、ヤミ様!」

ウェイトレス「おっ? なんだなんだヤミ君。君にもご指名が入りそうじゃないか」

ヤミ「……」

メイド「……」

番犬「……」

ブラ達が現れた。

256: 2014/04/07(月) 23:14:05.70 ID:nqk7mnNK0
757

--失われた王国、中央広場--

ヤミ「なんだ貴様ら……」

ブラ「ヤミ様……私達と戦ってください!」

ヤミ「……」

ブラとヤミはみつめ合っている。

ヤミ「……我と戦う……? 貴様ら程度で俺と戦うなどという次元に行けると思っているのか?」

ずるるる

ヤミの闇が広がっていく。

メイド「! 威圧か!」

ずるるる!!!!

ウェイトレス「なんで? 行ってきたらいいじゃん。トリガーには私がついておくからさ」

ヤミ「……」

そんなムードをぶっ壊すようなウェイトレス。

トリガー(相変わらずだなぁウェイトレスは)

ヤミ「……ふん、わかった、いいだろう。あえてその宣戦布告に乗ってやろう」

ざっ

ヤミ「案内しろ。貴様らの墓場にな」

ざっざっ

ヤミはブラ達についていく。

ざっざっ

メイド「……ここまでは何とかなったでございますが……本当にこんなんでなんとかなるんでございましょうか」

メイドはブラに呟いた。

ブラ「するしかない、するしかないんですメイドさん!」



ざっざっざっ……

ヤミ「ん? ここは……」

ヤミが連れてこられたのは……

ヤミ「ライブ会場?」

ブラ「私達がヤミ様の心を開放する!」

257: 2014/04/07(月) 23:17:39.58 ID:nqk7mnNK0
758

--失われた王国、中央広場--

竜子「はぁ、はぁっ……」

元賢帝「ちょ、ちょっと……嘘でしょ?」

鬼姫「げほっごほっ!」

脳筋「いやー、この時代は中々強いのがいるなぁ!」

ひゅぅうううう

現在、脳筋と戦っているのは、鬼姫、竜子、変化師、魔導長、護皇、射王、元賢帝、熊亜人、護衛姉妹、賢者、踊子、シャーマン、包帯女、魔剣使いの15人。つわもの揃いの変則3パーティ。
そう、五柱クラス四人を組み込んだ3つのパーティで挑んでいるのだ。

魔導長「そ、それで、勝てないの……?」

脳筋にダメージが無いわけではない。15人による猛攻は確実に脳筋の体力を削っていた。
だがそれでも押されているのは……

脳筋「よーし、今度はこっちからいくぞ!!」

ドンッ!!

脳筋が走る。向かう先は、護皇。

護皇「!!」

シャッ!

護皇は防御系最高職の達人。全ての攻撃をいなし、無効化する。

ドゴッ

護皇「ッぐ!」

だが、脳筋の持つパワーは、逸らすことを許さない。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

護皇は吹き飛ばされてしまう。

258: 2014/04/07(月) 23:18:14.56 ID:nqk7mnNK0
759

--失われた王国、中央広場--

護衛姉「はあぁああ!!」

護衛妹「いやあああ!!」

ジャリン!!

一瞬の隙をついて護衛姉妹が脳筋を斬りつける。が、

ばきぃいん!!

護衛姉妹の刀は砕け散った。

ボボッ!!

そして指パッチンで吹き飛ばされる。

包帯女「はああああああああああああ!!」

ドガアアアン!!

包帯女の魔力を込めた一撃も、脳筋の腹筋の前では無意味。

ばいん!

跳ね返されてしまう。

259: 2014/04/07(月) 23:19:05.02 ID:nqk7mnNK0
760

--失われた王国、中央広場--

脳筋「どうしたどうした、もう終わりかね?」

脳筋はただ単純に、強い。

射王「スキル、効果付与、切断」

どひゅっ!

射王の放つ矢を

びし!

二本の指で受け止め破壊する脳筋。

脳筋「むん!」

ドンッ!!

脳筋が地面を踏み抜くと、

ドガァアアアアアン!!

大地が崩壊する。

ゴゴゴゴゴゴ……

単純に速く、単純に硬く、単純に強い。ただそれだけの勇者。
それが

鬼姫「困ったっす……一つ聞きたいんすけど、これの更に強化版の魔王を倒したのって、まじなんすか?」

踊子「ま、魔王になれば勇者因子という弱点が追加されますから~……」

賢者「……あれ? こいつ勇者状態だと無敵なんじゃ」

260: 2014/04/07(月) 23:19:39.82 ID:nqk7mnNK0
それでは本日の投下はここまでになります。
疑問、質問等がありましたら、気軽に書きこんでおいてください。
読んでいただきありがとうございました!m(__)m

勇者と魔王がアイを募集した【10】

引用: 勇者と魔王がアイを募集したFINAL