錆兎さんの通信簿_24_クラス留学生

錆兎さんの教育方針の一つに、俺と錆兎さんで情報を共有しようというのがある。

それは小学校入学式の時に錆兎さんが自分は何でも知りたがりだから…と言った言葉にも表れているように、すごく好奇心旺盛な人で、普通の大人なら聞き流してしまうような些細な話もすごく楽しそうに聞いてくれるから、続けられた習慣だと思う。

俺はもともとはボ~っとした子どもだったけど、帰ってから錆兎さんに話してあげなきゃと思うと、学校にいる時間、すごく色々なことに注意を向けるようになったし、最初はつたない伝え方だったのが、慣れてくると少しずつ相手にわかりやすく伝えることができるようになった。

本当に小さい頃は俺の方から一方通行に近い報告だったんだけど、俺が成長するにつれて錆兎さんの側からも色々話してくれるようになる。

それはそんな俺達のやりとりの一つで知った事だった。


俺が4年生だった三学期のとある日、俺達2組の朝の会で、担任の胡蝶カナエ先生が一人の子を連れて来た。
どこかで見覚えがある…というか、隣の1組の子じゃなかったっけ?と思っていると、先生は
「はい、みなさん、聞いてください。
1学期に引っ越してしまった羽村さんの代わりに、1組から秋山君がクラス留学してくることになりました~」
とにこやかに言う。

クラス留学???
みんなその聞きなれない言葉に首をかしげていたけど、カナエ先生は
「今日からは秋山君は4年2組の仲間だから、みんな仲良くしてね」
と、当たり前のことのようにその話を終わらせて、2学期の終わりに一人転校していってしまって空いていた席につくよう、秋山君に言った。

俺達の学校は1学年2クラスで、2年ごとにクラス替えがあるから、1,2年の頃に秋山君と一緒だった子もいて、クラス留学なんてちょっとカッコいいね、なんて子どもらしいことを言ってはしゃぎながらも、普通に最初から居たクラスメートのように秋山君にもなじんでいた。

その日、休み時間になると、いきなり教室の前のドアの所で、不死川君が誰かと言い合っている。
最近…というか、あの1年生の話し合い以来、声も大きいし言い方も少し乱暴だけど喧嘩とかはほぼしなくなった不死川君が珍しいなと思って目を向けると、隣のクラスの大垣君を止めているみたいだった。

俺達の学校は規則で他のクラスには入っちゃだめで、他のクラスの友達と話したり遊んだりしたい時には廊下に出ることになってるんだけど、大垣君がうちのクラスに入ってこようとして、それを不死川君が止めているらしい。

「先生呼んでこよう!」
と、声も大きければ力も強い2人の間に入るのはみんなちょっと怖くて、誰ともなしにそう言って、2,3人が先生を呼びにいく。

そうしてカナエ先生と1組の悲鳴嶼先生が来て、大垣君は悲鳴嶼先生に注意されながら連れて行かれて、不死川君はカナエ先生に笑顔でお礼を言われて、嬉しそうにしていた。

…という、ちょっと変わった出来事から始まった1日を、帰ってから錆兎さんに報告をすると、錆兎さんは、そうか、上手くいっていそうで良かった、と、笑みを浮かべるので、俺が何が起こっているのかを聞くと、錆兎さんは
「混乱する子も出るから他には言うなよ?」
とし~っと言うように立てた人差し指を自分の唇に当てて注意をしつつ、事情を話してくれた。


「実はお前の担任のカナエ先生は俺の大学の同期でな。
1組の悲鳴嶼先生は俺を引き取ってくれた大叔父の家の近所に住んでいて、幼い頃は勉強をみてもらったりしていた間柄だ。
2人とも決してえこひいきをするような人間ではないが、あまり周りに知られると色々と言う人間も出てくるから、これは秘密な?」
と、錆兎さんはまず前提として俺の学年の先生二人と元々知り合いだったという驚くべきことを教えてくれた。

まあ今まで俺に言わなかったのは、俺が幼すぎてついうっかり口を滑らせてしまうかもしれなかったからというのは納得で、それでも今ここでその話を教えてくれたのは、これからの話に関係してくるから、ということだった。









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