ペットを家族や友と認識する人は多い。そしてかけがいのない隣人であれば、より長く付き合いたいと思うのは自然である。しかし、ヒトの寿命は長く、ペットの代表である犬、猫の寿命は15—25年ほどなので、大抵ペットの方が先に逝くことになる。陸上脊椎動物でヒトより寿命が長いのは、一部のゾウガメ(200年ほど)ぐらいである。
一方、ゾウガメほどではないにせよ、犬、猫よりも長く付き合える動物がいる。それはオウムである。特定のオウムは他陸上動物と比べても非常に寿命が長い。オーストラリアに生息し、日本にも輸入されているキバタン(Cacatua galerita)などは、そのような長命なオウムの一種である。
さて、兄の所に行く用事があり、そこに居たのが、キバタンのナナである。昔から動物好きの兄が、ある日ペットショップに行くと、ことさら騒いでいたのがナナだそうである。以前の飼い主からの引き取りで、価格も手頃だったこともあり、大型のオウムを飼ったことが無かった兄が、何か縁を感じ、購入したようであった。
兄たちが山梨に移るにともないナナも引越しをした。ナナは、山間の兄自宅の一角に作られた温室のような場所に飼われており、夜はその温室内に置かれた大きなケージ内で過ごし、昼間はケージの外に置かれたT字型の止まり木の上で過ごしていた。ナナとは山梨に移ってからの方が、付き合いが長いわけであるが、とにかく賢いという印象がある。
(ナナの丁度良い写真が無かったので、Wikipediaよりキバタン(Cacatua galerita)の容姿、外見的には、ナナも健康な他個体もほぼ同じようなものである。感情によって、扇子のように開閉する、鮮やかなレモン色の冠羽が特徴)
ヒト同士で会話をしていると温室の方で騒ぎ出す。いつも同じ経験をしている母によれば、要するに、自分も仲間に入れて欲しい、構って欲しいという意思表示なのだそうである。しょうがないので、行って構ってやると静かになる。その時、いつの間にか出来上がったルーチンのようなものがある。
「かいかいね」と言うと、右か左の翼をさっと上にあげる。すると、翼の付け根の下(ヒトで言えば脇である)が露出するので、そこを指先で掻いてやるのである。羽根もなく体温を感じるその場所を優しく掻いてやると、ナナは目を細め、一種恍惚とした表情となる(普段届きにくい所を掻いてもらい、気持ちが良いと言うことであろうか)。一通り掻き終わり、もう一方の翼に触れると、さっと翼を上げるので、結局、両翼の下を掻くことになる。「かいかいね」という言葉は、かゆいところを、掻こうね、掻こうか、と言う意味の掛け言葉ということになる。
大体はそれで終わりだが、オプションで頭の後ろや首回りを掻いてやることがある。その時に注意しなければいけないのが嘴である。本能か、気まぐれか、ふとしたはずみで手を噛むことがある。歯が無いので噛むと言うのは正確ではないのかもしれないが、要するに尖った嘴で、親指と人差し指の間の柔らかい部分などをパンチングするのである。大型のオウムの嘴の力と言うのは相当なもので、挟まれる程度なら痛みですむが、しっかりやられると文字通り皮膚に穴が開くことになる。
兄などは何度もやられており、絶叫の後、大声で、こういうことをしたらダメだろ、などと言いながら胸ぐらを揺すり叱っている所を見たことがある。ナナはといえば、首をかしげて目を細め、すっとぼけているわけである。ちなみに、奥さん(義姉)は一度も挟まれた事はないそうである。手に穴を開けられてはたまらないので、嘴近くをさわることはないが、自分もかいかいは時々してあげることがある。ということで、自分の中では、ナナは、愛すべきペットであると同時に危険生物という認識もあるわけである(犬や猫とて、噛んだり引っ掻いたりするわけで、さらに大型の動物の危険性に比べれば、微々たる脅威ではあるが)。
(寿命2 (89))に続く