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『なんて素敵にジャパネスク7<逆襲編>』氷室冴子 瑠璃姫最大のピンチからの逆転劇

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新年あけましておめでとうございます(←遅い)。今年もよろしくお願いいたします。

恒例の年間ベストは、2024年に読んだ本の紹介がひととおり終わってからページを作成する予定なので、もうしばらくお待ちを。

瑠璃姫VS帥の宮、ついに佳境に

1991年刊行作品。ナンバリング的には「7」だけれども、シリーズ的には九冊目。もはや枕詞のようになっているが、読む順番的には1→2→アンコール→続アンコール→3→4→5→6→7の順で読んでいただきたい。

この巻では、カラー口絵に加えてイラスト付きの登場人物紹介が4ページ入る。紹介されているのは瑠璃姫、高彬、帥の宮、煌姫、由良姫、守弥、融の7名。

なんて素敵にジャパネスク7

表紙、口絵、登場人物紹介、さらに本文中のイラストは今回も峯村良子が描いている。

新装版は1999年に登場。イラストレータは後藤星(ごとうせい)。こちらの新装版は電子版はもちろん、紙の書籍でも手に入る(2025年1月現在)。

ちなみにこの第7巻は、最終の第8巻と同日の刊行(第1刷の発行日が1991年1月10日)となっており、実質的にはセットで読むべき上下巻的な内容となっている。そのためか、本シリーズとしては珍しく、この巻には作者によるあとがきが収録されていない。

あらすじ

後宮に潜入し逆襲に転じたはずの瑠璃姫だったが、帥の宮は想像以上に手ごわかった。自らの手で直接瑠璃姫の命を奪おうとする帥の宮。首を絞められ川に落ち、絶体絶命のピンチを煌姫の機転によって救われた瑠璃姫は、高彬の別荘、鴛鴦殿に避難する。しかしそこには、高彬の妹、由良姫が身を寄せていて……。

ここからネタバレ

登場キャラクターを確認

例によって今回もまずは登場人物の確認から。

  • 瑠璃(るり)姫:内大臣家の姫。藤原高彬の妻。とうとう帥の宮に命を狙われる
  • 藤原高彬(ふじわらのたかあきら):右大臣家の四男。右近少将。瑠璃姫の夫であるため、とにかく苦労が絶えない
  • 融(とおる):瑠璃姫の弟。内大臣家の嫡男
  • 守弥(もりや):右大臣家の家司(けいし)。いつの間にか瑠璃姫の参謀役に
  • 煌姫(あきひめ):先々代の帝の親王水無瀬宮(みなせのみや)の姫君。後宮に入り桐壺の女房に
  • 帥の宮(そちのみや):先々代の帝の皇子。今上帝の叔父。遠野宮康緒(とおのみややすお)。次期東宮の擁立をめぐって暗躍中
  • 春日大納言(かすがのだいなごん):右大臣家の長兄。高彬の兄。妹である由良姫の入内を目論む
  • 由良(ゆら)姫:右大臣家の姫。高彬や春日大納言の妹。帥の宮に思いを寄せている

瑠璃姫死にかける!

好奇心猫を殺すというか、雉も鳴かねば撃たれまいというか、危険な領域に踏み込み過ぎた瑠璃姫に対して、ついに帥の宮は実力行使に打って出る。まさか宮さまともあろう高貴な人物が、内大臣の姫君を自らの手で殺すことまでは想定していなかった春日大納言。ここで春日大納言が急変する事態に取り乱し、結果として瑠璃姫はとどめを刺されず川に落ちることに。

とはいえ、依然としてピンチはピンチ。ここで救世主として現れるのがまたしても煌姫なのである。なんだかんだ言って、今回の事件で瑠璃姫は煌姫に何度も助けられていて、特に今回の救援は命の恩人レベルの大奮闘。味方認定した相手に対して、煌姫は意外なほどに情が深いのが良いところだよね。

由良姫登場、事態は更にややこしく

瑠璃姫が緊急避難した鴛鴦殿(えんおうでん)には、入内の話を嫌った由良姫が逃げ込んでいて、さらにおまけに融までもが付いてきている。由良姫はどうやら、帥の宮に強い好意を抱いてしまっている様子。

一方で、春日大納言は帥の宮に対して、今回の陰謀についての決定的な証拠となる盟約書を渡してしまったことが明らかとなる。現東宮を廃して、自分に都合の良い血統の新しい東宮の誕生を狙う帥の宮と春日大納言の企み。この陰謀が公になれば、右大臣家そのものに累が及ぶ。となれば、夫である高彬も無事では済まない。

この複雑な状況をどう納めるのか?ってところだけど、瑠璃姫は正面からの真っ向勝負で、帥の宮との直接対決に臨むのであった。

誰も傷つかない陰謀

由良姫を淑景舎(しげいさ)に匿うことで入内の話を潰し、陰謀の首謀者である春日大納言を黙らせ、問題の盟約書も取り返すことができた。これで帥の宮の目論見は潰えてしまった。瑠璃姫的には大逆転で、帥の宮に散々してやられた鬱憤を晴らすことができた。

しかし、帥の宮は言うのである「これは誰も傷つかない陰謀」であったのにと。

今東宮となる一の宮を産んだものの、もともと強い後ろ盾がなく、後宮でも心細い日々を過ごしていた桐壷にとっては、息子が帝になることは必ずしも必須のことではなかった。帝にならずとも、苦労なく生涯を送れるなら東宮になどなれなくてもいい。

一方で、春日大納言の右大臣家としては、次期東宮を擁立し、外戚となることで宮中での勢力を拡大することができる。そして、この陰謀に加担したことで、帥の宮は右大臣家のバックアップを得ることも出来る。

ただ一人、人身御供となって入内しなくてはならない由良姫だけにメリットが無かった。しかもその由良姫が帥の宮に恋していたというのが、なんとも皮肉な展開。帥の宮が最終的に諦めの境地に達したのは、由良姫の「初恋」の想い故だったと思われ、この辺りの構成は巧く出来ているなと感心させられた。

これで帥の宮の陰謀は砕かれたわけなのだが、物語的にはあと一巻残っている。ここから最後をどう締めるのかに期待しよう。

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