古事記 上つ巻 現代語訳 六十七
古事記 上つ巻
火照命の子孫・隼人
書き下し文
是を以ちて備に海神の教へし言の如くして、其の鉤を与へたまひき。故、爾れより以後は、稍兪に貧しくなりて、更に荒き心を起して迫め来ぬ。攻めむとする時は、塩盈珠を出して溺らし、其れ愁ひ請せば、塩乾珠を出して救ひ、如此惚まし苦しめたまひし時に、稽首白しけらく、「僕は今より以後は、汝命の昼夜の守護人と為りて仕へ奉らむ。」とまをしき。故、今に至るまで、其の溺れし時の種種の態、絶えず仕へ奉るなり。
現代語訳
ここを以ちて、備(つぶさ)に海神の教えの言の如くして、その鉤をお与えになりました。故に、これより以後は、稍兪(やくやくにいよよ)貧しくなって、更に荒き心を起して攻めて来ました。攻めてこようとする時、鹽盈珠(しほみつたま)を出して溺らせ、それ愁ひ請いたなら、鹽乾珠(しほふるたま)を出して救い、このように惚ませ苦しめた時に、稽首(けいしゅ)して、いうことには、「僕は、今より以後は、汝命(いましみこと)の昼夜の守護人(まもりびと)となってお仕えいたします」と申しました。故に、今に至るまで、その溺れた時の種種の態で、絶えず仕っているのです。
・稍兪(やくやくにいよよ)
次第に、ますます
・鹽盈珠(しほみつたま)
潮を満ちさせる霊力があるという玉。満珠。しほみち
・鹽乾珠(しほふるたま)
潮を引かせる霊力があるという玉。しおふるたま。干珠
・稽首(けいしゅ)
頭を深くたれて地につけること。うやうやしく礼をすること
現代語訳(ゆる~っと訳)
こうして、火遠理命は、もれなくすべて海神の教えの通りにして、兄・火照命にその釣針をお与えになりました。
すると、これより以後、火照命は、次第にますます、貧しくなって、さらに、荒々しく乱暴な心を起して、攻めて来ました。
兄が攻めてこようとする時、潮を満ちさせる霊力がある玉を出して兄を溺れさせ、兄が愁い救いを乞いたなら、潮を引かせる霊力がある玉を出して救い、このように悩ませ苦しめた時に、
兄は、頭を深くたれて地につけて、
「私は、今より以後、あなたを昼も夜も守る者となってお仕えいたします」といいました。
こういうわけで、今に至るまで、火照命の子孫・隼人は、火照命が溺れた時の様々な状態の演技を、絶えることなくつかまつっているのです。
続きます。
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ありがとうございました。
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