夢で見た話 vol.8
おはよう、皆の衆。定次さんです。
私ね、夢を見たんです。とても不可解な夢を。
以前からこの夢をブログ記事に夢日記として書き起こそうとは思っていたのですが、なかなか書くタイミングがなく、気が付いたらそんな夢を見てから随分と時が経っていました。
だから覚えていることは僅かな断片しかないのですが――、私はその日とても不可解な夢を見たのです。
覚えている限りでは、その夢の中の光景は私の見覚えのある場所でした。
実家か、将又、今住んでいる一室か……何にせよ私のよく知る家の中でした。
そんなよく知る家で夢の中の私がどんなふうに過ごしていたのかは今となっては曖昧な記憶しか残っていないのですが、トイレに駆け込もうという瞬間だけ鮮明に覚えています。
それほどまで切羽詰まってこそいないものの、それなりに便意が迫りきている状態。
私は括約筋に力を込めながら、余裕を持ってトイレへと入りました。
思い返せばトイレの内装は今の住居と同じ様式だったでしょうか。
ダークウッドの色調が映える、シックでモダンな作りのトイレ。
扉を開けた先の便器の配置が違ったという点には違和感こそ覚えたものの、それ以外はごくごく普通のトイレ。
普段と違う方向から便座へと座って用を足していたかとは思いますが、夢の世界でもコンプライアンスに反するのか、自身の体から糞便を放り出すシーンはカットされていて記憶にありません。
気が付けば用を足し終え、トイレットペーパーに手を出そうというタイミング。そこで私は大きな異変に気づいたのです。
右手にかけられているトイレットロール……パッと見る限りでは違和感こそないものの、いざ手を伸ばしてみると妙に分厚い。
引き出す間もなく私はそのトイレットペーパーが全て冷却シートで巻かれているものだと気が付きました。
体調を崩した時や集中力を上げたいという場面で使用される冷却シート。
切れ目を挟んだロール一枚一枚に冷感ゲルが入っており、ご丁寧にペーパー自体も不織布でできています。
もはやこれはトイレットペーパーではなく、ロール状になった徳用の冷却シート。必ずしも拭けない――ということはないですが、できれば拭きたくもないし、何ならトイレに流したくもない。
しっかりとしたペーパーはないものかと周りを探すものの、予備が置かれている気配はなく、私はモロ出しで便座に座り込んだままただただどうするべきか考え込む以外にありませんでした。
夢で見た場面はここで終わりませんでした。
元々、夢とわかっていたのであれば硬直状態を維持したまま起床まで持ち堪えられたかもしれませんし、何ならここで目覚められたかもしれません。
しかし夢の中の私は半ば夢と気付かないまま、夢と現実の境界線を漂いながらただただモロ出しで考え込んでいるばかりでした。
何故かよくわからないが、この後に起きる展開がわかる――。私がこのトイレを使用した後、祖父がトイレを使用すると直感的に理解していたのです。
祖父がこのトイレを使用する――それは躊躇なくこの冷却シートを尻拭きとして使用するということを指します。
――現実世界での祖父はこれまで私に弱さを見せたことがありませんでした。
ただ私の記憶の中で豪胆な姿だけが先走っているのかは定かではありませんが、幼少期の頃に見た、釘の貫通した人差し指を笑いながら見せつけてきた祖父の姿は今になっても鮮明に覚えています。
昔から豪快なエピソードが絶えなかった私にとっての祖父の姿。
トイレの紙が冷却シートに変わっていたところで構わず拭くでしょう。拭いたらきっとじいちゃんの尻がかぶれてしまう。
かぶれたところで何も気にしないだろうとは思いますが、冷却シートをトイレに流して詰まってしまうという展開も非常に困る。
私は夢の世界の中、ただただこの後に起こり得る展開を危惧しつつ、現状備え付けてある冷却シートをどうすべきか、この状況を打破するための方法を考えるためにただただ頭を抱えていたのでした。
――気が付けば時刻は朝。
いつもの通りバイブレーションとともにけたたましくなるアラームに起こされて私は夢から目覚めました。
結局何も解決することなく、トイレから出ることもなく私は無事に翌朝を迎えたのでした。
今回の夢から得られる教訓は恐らく何もないかとは思われますが、もしかしたらいつの日かトイレットペーパーが使えなくなり、冷却シートで代用しなければならない未来が来てしまうかもしれません。
そんな時はどうするべきか……考えたところで無駄な話です。
ただそんな夢を見た――それだけのお話です。