うみなりブログ。

アラフォー腐女子が、BL要素のある文学作品をイラスト付きでゆるく紹介します。日本近現代文学が中心。BL・同性愛的な表現が苦手な方はお気をつけ下さい。

石濱金作「その始め」①(川端康成と石濱金作⑪)

彼は恰も初戀の少年が口にはそれと出し得ずに相手に純情を捧げつくすやうにその友達に純情を捧げてゐたーーー

 

「無常迅速ー青春修行記」「交友記、戀愛記」系統の思い出も書かれている自伝的小説・石濱金作先生の「その始め」を読みましたので、久しぶりに「川端康成と石濱金作」を書きたいと思います。

 

川端康成と石濱金作」シリーズを未読の方は、川端康成インデックス内の①〜⑩を先に読んでね!

川端康成関連インデックス

 

 

さて、私が石濱金作先生の追っかけを始めて2年くらい経ったのですが、著作リスト 内の小説にあたるであろう作品は大部分を読みました。

(一気に取り寄せてしまうとコピー代もすごいことになるので)ちょっとずつ取り寄せて定期的に石濱先生の"新作"を楽しんでいたのですが、後期の大物である昭和10年前後の『新潮』に掲載された作品までようやく辿り着きました。

もう、最後も最後に、私的に大当たり!という感じの作品だったのが

昭和10年9月の『新潮』

に掲載された自伝的要素強めな小説「その始め」です。

 

簡単なあらすじを書きます。

 

主人公、宗方謙作は高等学校の学生です。

彼は大変厳しい家に育ち、小さい頃から読書を含む娯楽も外食も禁じられていました。

しかし高等学校入学で親元を離れて親友を得たことによって色々意識も変わり、かつて街で見て憧れた外食を初めてするに至ります。その親友のものである本を勝手に売ったことによって得たお金で。

そんな経験を経た謙作は、ある日中学時代の友人に誘われて家に遊びに行きます。そこでは2つ年上の美しい姉が歓迎してくれました。若い女性の居ない環境で育った謙作は、何度も3人で遊びに行くうちに気付いたらその姉に夢中になります。しかし、姉は胸を患い療養することに。お見舞いに行った謙作は姉と二人きりになり…。

 

という、全体的に甘酸っぱい話です。

 

この後半の友人の姉とのエピソードは婦人誌に掲載された随筆「初戀が片戀だつた!」(『婦人サロン』昭和7年2月)に書かれているエピソードと同じなので、自伝的小説だと考えて間違いないと思います。

石濱先生は自伝的な作品を初期から沢山書いているのですが、どこまで本当のことなのか、どこまで脚色されているかまではよくわかりません。

しかし、今回の作品の少なくとも前半部分に書かれている親友との関係は、回想である「無常迅速ー青春修行記」と随筆である「交友記、戀愛記」とも、大きな違いがありません。

という訳で、ほぼ事実と仮定して以下語ります。名前も本名に直して語ります。

 

 

 

そろそろ、いつもの勢いで語りますよ?

……

 

石濱先生、本当に川端先生のことが大好きですよね⁈ いや、知ってましたけどね⁈

 

とりあえずこれを読んでくれないか…⁈ 話はそれからだ…‼︎ (すごい勢いで捲し立てるオタク)

 

謙作にひとり親友があつた。この友達は謙作と育ちが全然反對で、彼は兩親も兄弟も一人もなく、全く天外の孤客で、しかも彼自身ひとり切りの莫大な遺産を持つてゐた。(中略)謙作はこの友達の飄々としたさういふ境遇にふさはしい豊かな自由さが好きで二人は入寮後間もなく親友になつた。

 

謙作は言うまでもなく石濱先生ですが、間違いなく友達も川端先生です。

 

さういふふうに二人の氣質と育ち方は違つてゐたがそれがまたかへつて二人を反對に親しく結び付けたのである。謙作はその友人が謙作だけでなくだんだんと他の友人とも親しくなつてゆくのを見ると嫉妬した。 彼は恰も初戀の少年が口にはそれと出し得ずに相手に純情を捧げつくすやうにその友達に純情を捧げてゐた。

 

平生ならその友達のちよつとした不在にも、心を躍らして道を歩けばむかうから來はしないか、圖書館へゆけばそこにゐはしないかとまるで戀人を探し求める小娘のやうにその友達を慕ふのだつたのに。

 

乙女…⁈

「無常迅速ー青春修行記」にも描かれた乙女が昭和10年から既にご健在だったとは大変に感慨深いものがあります。

 

さて、あらすじにも書きましたが、この小説には見逃せない部分があります。

 

川端先生から借りた本を勝手に売って、そのお金で初めての外食をしているという点です。

 

石濱作品は「作品の中で説明し過ぎる」というようなことが書かれている批評を見たことがありますが、今回もちゃんとその理由を作品内で説明してくれています。それが彼の作品の文学的評価を下げている要因にもなっているみたいなんですが、個人的にはちゃんと説明してくれているのでとても助かります。

 

要約すると

①親の庇護下ではない寄宿舎で家庭の規則を破ることによって罪悪感が増した為、親のお金では外食をしたくはないが、他にお金を得る手立ても無かった。

②友達に真心から純情を捧げていた。

→友達の本を売ることによって、友達に自分の心を売った。

→自分と自分の親をつなぐ家庭の規則を破ることにより、自分は家庭のものではなく、友達のものとなった。

③それまで何よりも家庭の規則を重んじていたので、毒を食らわば皿までで更に罪を重ねて罪悪感に浸りたかった。家庭の規則を破る > 窃盗の罪を犯す。

 

ということらしいです。

②とかちょっと何言ってんだ…って感じなのですが精神的な嫁入リ…ゲフンゲフンなんでもないです。

 

あぁ…色々合点が行きました。そういうことだったのですね… 道理でこのような状態になっている訳なんですね…もう、もう、おめでとうございます…(?)

 

 

さて、そんなこんなで罪を犯した宗方謙作もとい石濱金作。

外食した後からシーンが変わり、中学の友人と姉が登場します。

あらすじでは"姉との淡い初恋"のストーリーみたいに書きましたが、何気にこの友人自体も重要人物です。

 

 

多分この友人、石濱先生に 惚 れ て い ま す 。

 

謙作は中學時代から心を許す程の友達がなく中學を卒業して高等學校の寄宿舎に入つて始めて前述の心友を得たのだが、その場合には、彼の方がその友を追つかけ気味であつた。それに反して、今謙作が鎌倉へその友と姉を訪ねてゆく中學時代の友達は、反對に謙作に憧れ、謙作を追い勝ちであつた。

 

ということらしいのですが、簡単にまとめると、

川端←石濱←中学の友人

という関係になります。

 

え!ちょっと!ちょっと待って⁈つーか、…誰⁈ ∑(゚Д゚;)

 

 

長くなってきたので「その始め」②へ続きます。どうなる、三角(?)関係!

 

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