硝子体出血は眼球の内部のゲル組織である硝子体(しょうしたい)に出血が混じった病態をいいます。
硝子体自体に血管は存在しないため、硝子体出血は硝子体外からの出血の流入によって生じます。
硝子体出血の原因として考えられるもの、よくあるものなどを紹介します。
また、出血した原因によっては早めに手術をしたほうがよい場合もあるため、原因を考えることが大切です。
硝子体出血になりうる病態
硝子体は無血管の組織であり、外部からの出血の流入によって生じます。
硝子体自体に血管は存在しないため、硝子体出血が生じる病態としては以下の3つになります。
- 眼球の正常組織で血管がある部位からの出血かその流入
- 異常血管(新生血管)の破綻による出血かその流入
- 眼球外からの血液の流入
それぞれの原因として記載すると、ほぼ以下のどれかになります。
- 眼球の血管の破綻とその流入
- 網膜血管の破綻
- ぶどう膜系の血管(虹彩血管、毛様体血管、脈絡膜血管)の破綻
- 新生血管の破綻とその流入
- 網膜新生血管、脈絡膜新生血管、虹彩・隅角新生血管の破綻
- 腫瘍の血管からの出血
- 眼球外からの血液の流入
- 上強膜静脈からの逆流
- 頭蓋内出血の流入(※諸説あり)
正常血管の破綻とその流入
網膜血管の破綻
網膜血管は視神経と一緒に視神経乳頭から眼内に入り、網膜上~中を走行します。
以下のような疾患で網膜血管が損傷し、出血することがあります。
- 網膜裂孔
- 裂孔原性網膜剥離
- 後部硝子体剥離
- 網膜細動脈瘤の破裂
- 外傷など
網膜裂孔
網膜が切れたときに網膜血管も一緒に切れると硝子体出血となります。
裂孔原性網膜剥離
網膜裂孔と同様です。網膜剥離は放置すると悪化するため、網膜剥離が積極的に疑われる場合は早めに手術を行ったほうがよいです。
後部硝子体剥離
接着が強い網膜血管から後部硝子体剥離が起こるときに、網膜血管から出血することがあります。
網膜細動脈瘤破裂
網膜血管にできる動脈瘤です。脳の血管に動脈瘤ができ破裂するとクモ膜下出血などを生じますが、網膜にできた動脈瘤が破裂すると硝子体出血を生じます。
硝子体出血以外に、出血の程度や場所により、網膜内の出血、網膜下の出血を認めることがあります。
ぶどう膜血管の破綻
ぶどう膜血管は、脈絡膜、毛様体、虹彩によって部位は違いますが強膜を貫いて眼内に入ります。
病気によって正常の血管が出血することは多くはありません。外傷や手術によって損傷され出血することはあります。
新生血管の破綻とその流入
異常血管は慢性炎症、腫瘍の成長に関わり、これらがあると生じることがあります。
網膜新生血管の破綻
糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症(陳旧性)、未熟児網膜症、Eales病、ぶどう膜炎など多数あります。
脈絡膜新生血管の破綻
加齢黄斑変性の中のPCVでは、ポリープの破裂による大出血で硝子体出血をきたすことがあります。
虹彩・隅角新生血管の破綻と流入
慢性のぶどう膜炎や、重度の糖尿病網膜症などの虚血性疾患で虹彩・隅角の新生血管は生じます。
虹彩・隅角新生血管のからの出血は通常は前房出血となり前房に溜まりますが、硝子体側にも流れれば硝子体出血となります。
眼内腫瘍からの出血
眼内腫瘍の血管からの出血などは原理的にはあり得ますが、頻度としてはそもそも眼内腫瘍が少ないので、かなり珍しいと思います。
眼球外からの血液の流入
特殊なパターンで多くはありませんが、以下のようなものがあります。
上強膜静脈からの逆流
通常では生じないですが、緑内障手術後(主に手術中、手術直後)などでは生じることがあります。
頭蓋内出血の流入
テルソン症候群として知られますが、硝子体出血となる原理には諸説あります。
治療方法と視機能の予後
硝子体出血の治療は、経過観察or手術のみです。
出血量が少量の場合、出血が自然に吸収され消失することもあります。時間とともに吸収されつつも、硝子体混濁として濁りを残すこともあります。
出血量が多く自然吸収されない場合は、硝子体手術で濁りを取り除くしかありません。
手術によって出血を取り除くことはできますが、出血が起こった原因によっては視力の改善が乏しい可能性があります。
そして、出血によって遮られて眼底が見えない・見えにくいため、術前では原因はある程度しか評価できません。
治療の緊急性
出血の原因は上述のように、多岐にわたります。
急ぐかどうかは、網膜に障害がある場合/ありそうな場合が大切です。
また、待っていても消退が見込めない濃厚な硝子体出血も同様に、待っていても仕方ないので早めに手術でよいです。
出血によって隅角が詰まり眼圧が高く、薬剤で改善しない場合も早めに手術をしたほうがよいです。
手術を急ぐ必要がある出血
網膜剥離が原因である
網膜剥離は進行するため早めに手術したほうがよいです。
黄斑下出血を起こす疾患が原因である
網膜の黄斑下に出血が残ると視機能に後遺症を残す可能性が高く、また網膜下の出血を移動させるため手術は早めのほうがよいです。
原因が分からない
上述の急ぐ疾患が原因である可能性があるため早めがよいです。
前房にも出血があり高眼圧である
薬剤で改善しない高眼圧は眼圧値にもよるが早めの手術がよいです。
自然吸収されないであろう大量出血
待っていても意味がないのと、出血により眼底が見えず原因がわからなければ前述の通り早めの手術がよいです。
急ぐ必要のない出血
上述の疾患が否定的である場合
特に硝子体手術後(硝子体を切除済み)の眼球での硝子体出血は、自然吸収されやすいので、上述の疾患が疑われなければ経過観察をしながらでもよいです。
テルソン症候群はクモ膜下出血後に起こるので、全身状態が落ち着いてからでないとさすがに手術はできません。
硝子体出血の原因で頻度が多いもの
これは手術している施設などにも依りますが
- 糖尿病網膜症
- 陳旧性の網膜静脈閉塞症
- 網膜裂孔・裂孔原性網膜剥離
- 網膜細動脈瘤破裂
辺りが多いように感じます。
まとめ
- 硝子体出血は硝子体以外からの出血が硝子体に混じることで生じる
- 治療は手術のみ(少量の場合や原因がわかっている場合は経過観察でも可)
- 出血により診察が困難なので、原因はあくまである程度の推測
- 早めに手術しほうがよい場合、経過観察でよい場合など、原因や出血量によって方針は変わる
硝子体出血は、①原因、②出血量などによって手術の判断が変わります。
なぜ出血したのかを考えるようにしましょう。
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