本記事では東野圭吾さんの小説『夢幻花』を紹介します。
夢幻花
著者:東野圭吾
出版社:PHP研究所
ページ数:450ページ
読了日:2024年12月9日
満足度:★★★★☆
東野圭吾さんの『夢幻花』。
第二十六回柴田錬三郎賞受賞作。
あらすじ
秋山梨乃の従兄・鳥居尚人がマンションから飛び降り自殺した。
そして尚人が亡くなってからほどなくして、
一人暮らしをしていた梨乃の祖父・秋山周治が何者かに殺害される事件が発生した。
祖父の家の庭から黄色い花が無くなっていることに気付いた梨乃は、
黄色い花の写真をブログにアップすることにした。
すると、蒲生要介と名乗る人物からメールがあり、
実際に蒲生要介と会うと「あの花には関わらないほうがいい」と梨乃に忠告するのだっ
た。
納得できない梨乃はもう一度蒲生要介に会おうと、名刺に書いてあった住所を訪ねると
そこで、蒲生要介の弟・蒼太と知り合うことになる。
そして梨乃は蒼太とともに、真相解明に乗り出すことになった。
主な登場人物
・秋山梨乃:大学生。
水泳のオリンピック候補選手だったが、今は水泳から離れている。
・蒲生蒼太:大学院生。物理エネルギー工学第二科(かつての原子力工学科)専攻。
・早瀬亮介:西荻窪署の刑事。
・秋山周治:事件の被害者。秋山梨乃の祖父。
六年前までは久遠食品研究開発センターの嘱託として勤務していた。
・蒲生真嗣:故人。蒲生蒼太の父親。元警察官。
・蒲生要介:蒲生蒼太の異母兄。警察庁の刑事。
・蒲生志摩子:蒲生蒼太の母親。
・鳥井尚人:自宅のマンションから飛び降り自殺した男性。秋山梨乃の父方の従兄。
『ペンデュラム』のキーボードを担当していた。
・鳥井基樹:鳥井尚人の弟。
・大杉雅哉:『ペンデュラム』のボーカルとギターを担当している。
・伊庭孝美:蒲生蒼太の初恋の女性。
・藤村:蒲生蒼太の友達。大学院生。
・日野和郎:久遠食品研究開発センターの分子生物学研究室の副室長。
・工藤アキラ:『KKUDO’s land』の経営者。ミュージシャン。
・早瀬裕太:早瀬亮介の別居中の息子。中学生。
ネタバレなしの感想
祖父が殺害され、その祖父の庭にあったはずの黄色い花の鉢植えが
無くなっていたことから、この花が縁で知り合った
秋山梨乃と蒲生蒼太の二人が黄色い花の謎を追うことになる『夢幻花』。
ストーリーのメインにあるのは、秋山梨乃の祖父が育てていた黄色い花の謎。
この黄色い花は、江戸時代までは存在していたと言われる黄色いアサガオで、
現在は存在しないとされている。
そこに蒲生蒼太の兄の謎や初恋の人も絡んできてということになっている。
もう一人の主人公とも言えるのが西荻窪署の刑事・早瀬亮介で、
被害者の秋山周治に息子が助けられた恩があることから、
事件の真相を追うことになる。
本書はもちろんミステリー小説でもあるけれど、
秋山梨乃と蒲生蒼太の二人の若者の成長物語としての側面もかなり強くなっている。
秋山梨乃は水泳で五輪を目指していたが、発作から泳ぐことができなくなり、
水泳から離れている。
また蒲生蒼太は、原子力工学を学んでいたが震災と原発事故の影響もあり、
原子力とは関係ない企業への就職を考えている状況。
二人が黄色い花を追い真相をしることにより、成長する姿が描かれている。
肝心の秋山周治殺人事件の真相に関しては拍子抜けしてしまう面は否めない。
というよりも秋山周治殺人事件よりも、
とにかく黄色い花の謎の方にどんどん話が進んでいって、
そこに蒲生家や蒲生蒼太の初恋の人・伊庭孝美も関わってくるので、
こちらの方に興味が惹かれるようにっている。
なので最後に秋山周治殺人事件の真相が語られてもかなり唐突な感があった。
東野圭吾さんの作品の中ではあまり知名度が高いとは言えない本書ではあるけれど、
かなり面白いものになっている。
特に二人の若者の成長物語としてはかなりの出来であるし、
黄色い花の謎に関してはかなりスケールが大きくて、
しっかりとミステリー小説になっているので十分楽しめるものになっている。
もし読んでいない方がいたら読むことをおすすめします。
ネタバレありの感想
まずプロローグ1とプロローグ2の物語の冒頭で、
読者の関心を惹くという東野さんお得意の構成は本書でもうまく機能している。
そして鳥井尚人の自殺、秋山周治の殺人事件から黄色い花の鉢植えの謎と冒頭から
次々と事件が起きる展開はテンポもよくて没入感もあり良かった。
問題としては、黄色い花の謎と蒲生蒼太の周辺の謎に向かっていってしまって、
秋山周治の事件がどうしても印象が薄くなるというか、
事件の真相が唐突な感が強かった。
おそらくこのために西荻窪署の刑事・早瀬亮介のパートが必要だったんだろうけれど、
ここだけはいまいちだった。
蒲生家と黄色い花に関しては想像以上にスケールの大きい話で、
真相を知った蒲生蒼太が原発と一生付き合っていくという決断をするラストも
含めてかなりかっこよかった。
秋山梨乃が水泳に戻るというのも含めてラストは素晴らしかったし、
読後感も良いものになっている。
黄色い花(アサガオ)関係のミステリーと人間ドラマがうまく融合して
非常に面白いものになっていた。