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2025/01/04
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 輪廻は死の繰り返し。
 それは時間の束縛がある限り繰り返される。魂が肉体の制約から解き放たれても、魂は再び転生して新たな肉体に宿り、そしてすぐに自我を失う。つまり自我の死だ。
 生まれ変わりによって、人はその前の自我を全て失う。これこそがほんとうの死だ。これら肉体の死と自我の死は、全て魂と肉体に働いている時間の束縛のためだ。
 時間の制約が無い空間では、魂は拡大し、その自我は肥大化する。自我が持つ願望や欲望も、果てしがない。時間の制約が無い空間では、それが悪であると断罪されはしない。
 自我の肥大化は、自惚れをその端緒として始まる。例えどんなにその空間を、善で満ち溢れさせようとしても、そこから生じるのは、肥大化した自我から生まれる自惚れのみだ。だが、だれもそれを咎めたりはしない。
 お前も実は、この空間に憧れているのだ・・。お前はここへ来たいのだ・・。



 海野は「はっ!」と、して目が覚めた。
 釈迦を自称したあの一行も、その演説を聞いていた聴衆の姿も無かった。
 あの木陰だ。見ると、皆はまだすやすやと寝息を立てていた。大きな菩提樹の葉は、ほど良く陽を遮っている。この木が海野たちを助けてくれたのだ。
 それにしても、と海野は今、眠りの中で聞こえていた声が、演説の続きであったのか、それとも、ただの夢だったのかを考えた。
「時間の制約が無い空間か・・。自我意識が、その望みを限りなく追い求める無限の空間。なんかそんな事を言っていたな。その自我が消えてしまう時、それがほんとの死、か。おかしな夢だった。釈迦の真似をしていたあの集団を見たせいかな」海野は呟いた。
 実在者として自分は、この世を支配し、皆を従わせるなどと、勝手な事を言っていたあの集団を思い出し、海野はこれを、浄行者のパパカンダ翁に相談してみたくなっていた。あの自称、釈迦の一件は、海野一人では手に余ると思ったからだ。おかしな術まで使い、ああ言う手段で人心を惑わせてきた、大方詐欺師なのだろうが、海野はあの一行の言動に、納得が行かなかった。
 それに、パパカンダヤーナ翁の心の奥底に住んでいたはずの釈迦が、その言葉を借りれば「何も伝えて来ない」事や、「実在を説きはじめた」のには、どんな理由があるのかも、考えなければいけない。そしてこの一件が、ただの偶然なのかをも、海野は確かめずにはいられないのだった。

 皆が漸く目を覚ましたのは午後の遅い時間だった。別に急ぎの用事も無かった海野たちは、木陰でぐっすりと眠っていたが、帰り道にパパカンダヤーナのいる、今はインドに名が知れた医院となっている『Ayur・Deva』を訪ねた。パパカンダヤーナは本日の仔細を、海野から聞いていた。

「そうでしたか、空気が変わりましたか。それにしても、どうしてあの御仁はあなた方を拒んだのでしょうな?どうやら私が見ましたところ、あの釈迦を名乗る者は、魔術を使います。おそらくあの者は、そんな魔術師独特の、読心術の心得もあるのでしょう。それで、あなたが何らかの敵意を含んでいた事を、見抜いたのでしょうね」と、浄行者、パパカンダ翁は言うのだが、海野はそれで納得したくは無かった。自分たちが、彼の詐欺師に負けた様な気がしてならないのだ。そこで思わず海野は口調を強め、「あの釈迦は言わば騙りですよ、偽物ですよ。そんな者に、魔術なんて使える訳はありませんでしょう?」と言うと、浄行者は、然し私の見たところでは、あの者たちの背後から出ていた光が気に掛かるのです」と言う。「光背とは違うが、彼らの背景には、微かな光が出ていたのを私は見ました。ただの詐欺師とは違うと見ましたがなあ・・。、彼らは、確かに我ら人類に仇為す者に違いなく、侮れば後悔させられる事になるかと・・」と言葉を重ねた。海野がそれでもまだ納得しない顔で立っているところに、シヴァ神が現れて、「魔人でも詐欺師でもあるまい。悪の化身じゃ」と言った。「戦に敗れた悪が、今度は化身を使う事を覚えたのであろう。悪はその本性を現すのではなく多くの化身を操って、我ら人類の攻撃に本体が影響されない様に、身を護る術を覚えたのじゃ。悪は滅んではいないのだからのう」と言った。

「あっ!シヴァ神様!いきなり現れるとびっくりするじゃあありませんか!!」と、青年助手は文句を言ったが、その表情には嬉しさが表れている。悪との戦が始まる前から姿を見せてくれなかったシヴァ神の登場に、一同の緊張感が解れた。パパカンダヤーナは急ぎ神に対する敬意を表すためにシヴァ神を敬礼し礼拝して丁寧な礼をとった。シヴァ神は、「そう畏まらぬでもよいよい。わしは化身の身で、偲びじゃよ」と言って、彼に優しく普段着で接しようとするが、浄行者の身のパパカンダ翁には、神に対する敬礼と礼拝は、言わば責務なのであった。シヴァ神は浄行者の礼を受けると「ありがとう。汝に幸あれ」と祝福の言葉を返した。
 嬉しさを隠し切れない青年はシヴァ神に、人懐こい表情で、「それで、シヴァ神様。シヴァ神様にはあの釈迦を名乗る者の正体が分かっていらっしゃるのですか?」と聞いた。
「無論じゃ。あれはまた、ずる賢くなりおった。早くも敗北から学んだのであろう。化身を送り込んで来るのみならず、唯一、実在せる者となって空間と時間とを己の掌中に収める心算なのじゃ。あの者に付き従っておったのは、海野が察した通り、釈迦の高弟などでは無い。時空間の隙間を漂っていた流れ者の魂じゃよ。どこにも行く当てどが無い憐れな魂を、己の従者にしおったのじゃ。そして今度は、人類にその触手を伸ばそうと、ああして釈迦の蘇りを演じておるわけじゃ。悪の知恵もまた、尽きせぬものじゃ」
「何か、悪が衰弱したままに出来る様な、良い方策は無いものなのでしょうか?これでは幾ら我々人類が頑張っても、切りがありませんよ」と重ねて青年が聞くと、シヴァは、「うむ・・。無いでも無いが、難しいのう。内藤が今、お前達の時代でそれをやろうとしておるが、わしが見た限りは、彼にも手に余ろう。そしてハロッズと言う男にも・・」と言った。
「え!内藤さん?それにアメリカ合衆国のハロッズ大統領も!?」今度は内藤が、興奮しながら唾を飛ばす勢いだ。「ハロッズ大統領と内藤さんは、一緒なんですね!?無事だったのかあ!!良かった!!」
 海野は、21世紀の世界でも、自分の既知が同じように悪と戦っている事を知らされて、尚、興奮冷めやらぬ顔つきである。

「不思議な事に、お前達のいた時空間でもまた、戦では無く別の手段で、この空間の歪みをなんとかせねばと悟ったのじゃろうよ、時間や空間そのものの特性を使って、時間と空間とが持っている互いの力を衝突させ、それによって双方の力を均等にさる心算らしいのじゃが、どちらか一方の力が勝れば、こんどはその勝った方だけがこの宇宙に残される事になろうのう。若し、そのような事になれば、お前達人類も何もかも、この宇宙に存在出来ぬ。さすればわしは、シヴァ神として、本来の役目を果たさねばならぬ事になる」
 シヴァはこう言うと、その場から消えた。

 (続く)

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Last updated  2025/01/08 12:22:07 AM
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