不動産投資に必要な知識を総まとめ
不動産投資にはじめるにあたって最低限必要な9つの知識を列挙していく。すでにご存じの方は復習の意味で活用してほしい。
1.不動産投資の種類
一口に不動産投資といっても大別すると次のような種類がある。
・新築、中古
・マンション、アパート、戸建て
・一棟所有と区分所有
・都心物件と郊外物件 など
これらのうちどれを選択するかによって初期費用や利回りなどが大きく変わってくる。不動産投資の種類を選ぶときは、成り行きではなく「オーナーとして重視すること(安定性、利回りなど)は何か」「目標(老後の資産形成)に合っているか」といった内容を基準にしたい。
2.インカムゲイン、キャピタルゲインについて
不動産投資は、次の2つの利益が期待できる投資だ。インカムゲインとは、家賃収入などで得られる利益のことである。キャピタルゲインとは、売却益で得られる利益のことだ。
インカムゲインの軸となるのは家賃収入だが、ほかに礼金や共益費、更新料などもインカムゲインとなる。また物件の敷地内に駐車場や自動販売機があるなら、これらもインカムゲインと考えることができるだろう。インカムゲインの一例は、次の通りだ。
<インカムゲインの例>
・物件条件:アパート(10室/1部屋あたり約5万8,000円)
・家賃収入:年間696万円(満室の場合)
※家賃に共益費含む
このアパートを15年間所有したときのインカムゲインの総額は1億440万円になる。
*家賃下落率や空室を考慮せず計算
キャピタルゲインは、不動産を購入時よりも高値で売却できたときの売却差益だ。なおキャピタルゲインを計算するときの購入価格には、税金や手数料なども含まれる。アパートを15年間所有して売却した場合のキャピタルゲインの一例は次の通りだ。
<キャピタルゲインの例>
・購入時の物件価格:8,000万円
・購入時の諸費用:800万円(物件価格の10%)
・売却時の物件価格:1億円
売却価格の1億円から購入時の物件価格8,800万円(諸費用含む)を差し引いた1,200万円がキャピタルゲインとなる。
長期的に不動産投資を継続していく観点では、インカムゲインを主体に考えていくことが必要だ。一方、賃貸経営の損益と売却時の損益トータルの収支を考えるとキャピタルゲインも大事になってくる。なぜなら、どんなにインカムゲインを積み重ねても最終的な売却で大きなキャピタルロスとなってしまうと本末転倒だからだ。
3.不動産投資のメリット、デメリット
不動産投資では、メリットだけでなくデメリットの知識もしっかりと押さえておきたい。この両方を十分に認識したうえで不動産投資をはじめるべきかを検討しよう。
不動産投資のメリット
・安定した家賃収入(インカムゲイン)を得やすい
・不動産市況によっては売却益(キャピタルゲイン)も得られる
・融資によって手元資金にレバレッジをかけられる
・資産家が利用すると相続対策にもなる可能性がある
・実物資産なのでインフレに強い傾向がある
不動産投資のデメリット
・空室や家賃下落などのリスクがある
・物件管理の手間がかかる(自主管理の場合)
・流動性が低く、現金化に期間を要する
・一定の収入、安定した収入がないと融資を受けることが難しい
4.ローン(融資)について
不動産投資用の物件は高額となりやすいため、不動産投資ローンを利用して物件購入をするケースが多い。仮に、手元資金に余裕があっても不動産投資ローンを利用することで手元資金にレバレッジを効かせられる。不動産投資ローンの知識で重要なことは「住宅ローンと不動産投資ローンは同じ不動産系のローンでも性格が違う」ということだ。
まず両者は金利が異なる。一般的に不動産投資ローンは、住宅ローンと比べて金利が高い。例えば、住宅ローンの代表である「フラット35」の最低金利は、年1.760%だ。(2023年6月時点)
また不動産投資ローンは、住宅ローンよりも審査の要件が多い。主な利用条件は以下の内容で、これらに加えて物件の資産価値や収益性の評価がある。
・借入時満20歳以上60歳未満
・原則、同一勤務先に3年以上勤務している方
・原則、前年度の税込み年収が500万円以上
・安定した収益が見込める など
5.必要な費用について
不動産投資をはじめるうえで欠かせない知識が「費用について」だ。主な初期費用は、次のようなものがある。
・物件価格:建物価格以外に土地がなければ土地取得費もかかる
・税金:始める段階の税金は不動産取得税(納付は半年~1年後)、登録免許税、印紙税などが必要
・登記費用:司法書士への報酬などがかかる
・ローン関連費用:金融機関の事務手数料、保証会社の保証料などがかかる
これらのうち費用の大半を占めるのが物件価格だ。新築物件は費用が割高、築古物件は費用が割安になるが、ほかにも以下のような比較条件がある。
・土地を所有しているか:土地ありだと費用が抑えられる、土地なしだと費用が高い
・物件のタイプは何か:区分だと費用が抑えられる、一棟物件だと費用が高い
・物件の構造は何か:木造だと費用が抑えられる、RC造などだと費用が高い
・立地環境はどうか:地方だと費用が抑えられる、都心だと費用が高い
この比較条件をもとに「初期費用が高い物件」と「安い物件」をシミュレーションしてみよう。
費用が高い物件例
条件 /
東京都港区
新築
一棟マンション
10階建て
物件価格 / 5億2,800万円
諸費用 / 5,280万円
総費用 / 5億8,080万円
※諸費用は物件価格の10%で計算
費用が安い物件例
条件 /
東京都港区
築20年
区分マンション
1K
物件価格 / 3,980万円
諸費用 / 398万円
総費用 / 4,378万円
※諸費用は物件価格の10%で計算
条件設定で費用は大きく変わることがわかるだろう。不動産投資は、自分に合った条件設定をすることが大事だ。
6.不動産投資の8つのリスク
不動産投資で成功するには、リスクに関する知識も必要だ。主なリスクは、以下の8つのようなものがある。
・家賃下落リスク
・家賃滞納リスク
・空室リスク
・物件価格下落リスク
・修繕費リスク
・固定費リスク
・災害リスク
・事件事故リスク
ポイントは、それぞれのリスクに事前対策があることだ。事前対策を行うことでリスクを軽減したり回避したりすることが期待できる。逆にいうと、リスクに対して事前対策を行わなければ、不動産投資で成功するのは難しいということだ。
例えば、上記の8つのリスクから「家賃下落リスク」と「家賃滞納リスク」にフォーカスしてみよう。
まず「家賃下落リスク」だが、これは経年劣化によって物件の価値や魅力が下がり、それに伴って家賃が徐々に下がっていくリスクだ。立地・建物構造・分析方法などによって家賃下落率は変わってくるが、年間1%程度下落するといわれている。
ただし、この家賃の下落率はあくまでも平均値だ。そのため適切な対策をとれば、これを下回ることも可能だろう。具体的には、以下のような対策が考えられる。
・長期的に人口が安定しているエリアを選ぶ
・賃貸需要が高いエリアを選ぶ
・大規模修繕を行い、物件の維持管理に努める
・物件の差別化を図るために人気設備を導入する など
一方の「家賃滞納リスク」は、入居者が家賃を支払わない影響でキャッシュフローが悪化するリスクだ。収入が減るだけでなく、家賃の督促や交渉の手間がかかり、場合によっては法的手続きの費用もかかってしまう。
長期的な家賃滞納は、賃貸経営の根幹を揺るがしかねないリスクだが、以下のような対策が考えられる。
・家賃滞納に強い管理会社を選ぶ
・入居者審査をしっかりと行う
・連帯保証人をつける
・家賃保証会社を使う
・家賃滞納が起こった直後に督促を行う など
7.キャッシュフローの大切さについて
不動産投資を継続的に続けていくには、帳簿上の損益と実際の収支(キャッシュフロー)が大切だ。特に長期的な安定経営には、キャッシュフローが欠かせない。帳簿上は黒字でもキャッシュフローがマイナスでは手元資金が減ってしまうため、気をつけよう。
帳簿上の損益とキャッシュフローが違う理由は、建物の減価償却費の扱いが違うからだ。帳簿上の損益には減価償却費が反映されるが、キャッシュフローには減価償却費が反映されない。なぜなら、減価償却費は実際に支出したお金ではないからだ。そのため、帳簿上の損益だけでなく、キャッシュフローも把握していくことが大事だ。
8.不動産投資に欠かせない指標
不動産投資の初心者であれば、利回りをもとに物件探しをしていく人も多いだろう。しかし利回りは、大きく分けると以下の2つがある。
・表面利回り:年間の家賃収入を物件価格で割ったもの
・実質利回り:表面利回りに諸経費を反映したもの
上記のように同じ「利回り」という言葉でも意味が大きく変わってくる。物件比較では、簡易的な「表面利回り」を使い、物件の購入検討では「実質利回り」を用いるなど適宜使い分けていきたい。
9.物件選びは複数の視点で
前述したように不動産投資の初心者は、利回りに着目して物件選びをするケースが多い。しかし不動産投資で安定経営をするためには、以下に挙げる「複数の視点」で物件を選ぶ必要がある。
・エリア特性は不動産投資向きか
・自分が求める物件の種類と合っているか
・十分なキャッシュフローを得られる家賃設定か
・入居者に人気の設備が備わっているか など
不動産投資において「エリア特性の確認」は重要だ。想定利回りがいくら高くても、人口減少や大学・工場の撤退などによって賃貸需要が低下していれば、実質利回りは低くなる。また賃貸需要が高いエリアでも、周辺に複数路線が使用できる駅、ショッピングセンターやコンビニ、保育園などが近隣にあるかないかで空室や家賃下落などのリスクが変わってくる。
中古物件を購入する場合は、前オーナーが「適切なキャッシュフローを得られる家賃設定にしているか」の確認も大事だ。いくら稼働率が高くても家賃が相場よりも安いと、十分なキャッシュフローを得られない可能性がある。
あわせて入居者に人気の設備が備わっているかも、空室や家賃下落などのリスクに影響を与える可能性がある。全国賃貸住宅新聞が独自に調査している「入居者に人気の設備ランキング2022」によると人気のある設備のTOP5は以下の通りだ。
不動産投資で「簡単に不労所得を得られる」は間違い
不動産投資の心構えについても再確認したい。一般的に不動産投資は「不労所得を得られる仕組み」といわれることが多い。なぜなら賃貸経営に欠かせない業務(入居者の募集や清掃など)を不動産仲介会社や管理会社へ委託すればオーナーの手間がかからないからだ。
たしかに不動産投資で不労所得を得やすいのは事実である。しかし「管理会社へ丸投げすれば誰でも簡単に儲かる」と勘違いすると失敗しかねないため、以下のようなポイントは押さえておきたい。
不動産投資の本質は「賃貸物件の経営」
不動産投資とは、賃貸物件の経営のことであり、オーナーは経営者である。自分が経営者と自覚して不動産投資に向き合えば、一つ一つの判断が慎重になったり必要な知識を得るための努力がしやすかったりするだろう。
それにより「悪徳業者の甘い誘惑を鵜呑みにしてリスクの高い物件を割高で購入してしまう」「質の低い管理を相場よりも高い報酬で契約してしまう」といった失敗することも回避しやすくなるはずだ。
拘束時間は短いがやるべきことがある
賃貸物件のオーナーの業務は給与所得者と比べて拘束時間が短いが、そのなかでも賃貸経営物件の経営者としてやるべきことがある。賃貸物件におけるオーナーの主なタスクは、以下の3つだ。
・オーナーのタスク1.情報収集
賃貸物件のオーナーには、「経済全般」「不動産市場や金融(融資や金利)の動向」「対象エリアの傾向」といった幅広い知見が求められる。
なぜこれらの情報が必要なのだろうか。これは、賃貸経営が不動産市場に加えて経済や金融とも深く結びついているからだ。また重視しているエリアの景気や再開発の予定などをチェックすることも欠かせない。これらの情報をバランスよく収集することで、物件を購入したり売買したりする絶妙なタイミングを見極めやすくなる。
・オーナーのタスク2.管理会社の管理
信頼できる管理会社をパートナーに選ぶことは非常に重要だが、管理会社にすべて丸投げでよいわけではない。一定の規模のある管理会社であれば、オーナーに対して以下のような定期報告の義務がある。
・いつの期間に対する報告か
・家賃管理など管理事務に関する報告
・入居者からのクレーム発生状況や対応
定期報告の義務は、賃貸住宅管理業法の第20条に定められている内容だ。
第二十条 賃貸住宅管理業者は、管理業務の実施状況その他の国土交通省令で定める事項について、国土交通省令で定めるところにより、定期的に、委託者に報告しなければならない。
オーナーは、日ごろから入居者の満足度を高めて安定経営を実現することが求められる。そのため定期報告を受けた際に管理会社へ適切な指示を出すことも必要だ。
不動産投資の初心者のなかには「管理会社に意見しにくい」という人もいるかもしれない。もちろん不動産のプロである管理会社の提案は参考にするべきだ。しかし管理会社は経営者ではないため、あくまでもオーナーが最終判断を行わなければならない。
・オーナーのタスク3.意思決定
賃貸オーナーは、管理会社に次の業務の代理を依頼しているのが一般的だ。
1. 家賃や敷金などの徴収、オーナーへの引き渡し
2. 未収金の督促
3. 入居者からオーナーへの通知の受領
4. 賃貸借契約の更新手続き
5. 修繕の費用負担についての入居者との協議
6. 原状回復についての入居者との協議 など
これらの業務のうち4~6については、一歩間違うとクレームやトラブルになりかねないため、オーナーは経営者として慎重に最終的な判断を心がけたい。
年末年始は蟹ですね🦀