入院は大部屋を希望した。4人部屋でいつもいるのは3人だった。

 

後の1つは出たり入ったり。私は窓際、同じ窓際に少し年下の女性、入り口側に85歳のおばあちゃん。このおばあちゃんが強烈だった。

 

病室で電話はしないで下さい、他の入院患者さんに迷惑をおかけする事になります。するなら休憩場所でというのが、私が入院した病院のルールだったのだがおばあちゃん、注意されても、「はい、すいません」と言ってまたやる。家族だけじゃなく知り合い全部に電話してるんじゃないだろうかと思うほど、毎日々電話する。

 

85歳、頭も体も思うようにいかんのやろなーと思って見ていた。確かにルール違反ではあるんだろうけど、人懐っこくて嫌いになれないおばあちゃんで、「はい、すいません」は本当に悪いと思ってる風なので憎めない。

 

ある日、病室の入り口ですれ違いざま、「あの、奥さん」と声をかけられた。「挨拶が遅れてすんません。ご迷惑をかけてるでしょうがよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げられた。その後おばあちゃんの病状についてあれこれと話してくれた。要するに寂しくて不安なのだ。

 

このおばあちゃん、他にもいろいろやらかしてはくれるのだが、不思議と憎めない。挨拶というのは大事だなと改めて思った。

 

同じ窓際の女性とは話した事はなかった。お互い頭を下げたりはしてた。彼女の病気も大変な病気だというのは看護師さんやお医者さんの口調からわかってはいた。私も術後のひどい状態の時は、相手の眠りを妨げたんじゃないだろうか。

 

退院する時、相手は望んでないかもしれないけど、伝えたい事は伝えなきゃと思って声をかけ、術後迷惑をかけた事をわびた。同じことを思ってたとすんなり話が出来た。

 

夜中、私も迷惑かけたでしょ?と言われ、全然気になりませんでしたよと返した。病気で不安で戦ってもいて、同じ患者とはいえ迷惑になるんじゃないかと思うと、そう簡単に声はかけられない。それは私だけじゃなかった。話せる機会があるなら話したい。そういう感じが伝わってきた。お互い、かんばろうねと話して退院した。

 

二度と会うことはない人だろう。それでも彼女たちが幸せでいて欲しいと思う。