なぜ日本人は英語が苦手なのか。

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日本人の英語力は116カ国中92位―

2024年に、116の国・地域で英語を母語としない約210万人を対象に行われた国際調査、EF EPI英語能力指数の結果だ。これまでも日本の英語力が先進国と呼ばれる国の中で最低レベルという話は何度も出ていたが、今回の結果は過去最低だという。先進国どころかインフラもあまり充実していない発展途上国にさえ大きく後れを取っている。

出典:英語能力指数 | EF 英語能力指数 | EF 日本

中学から高校まで、最近では小学生から英語を学ぶ人も多いにもかかわらず、なぜ日本の英語力は世界最低レベルなのか。その理由を考えてみよう。

日本人が英語を話せない理由

様々な議論があるが、よく言われるのが次の二つだ。ひとつは、英語と日本語の言語間の距離、二つ目は英語を使う機会の少なさだ。それぞれ見てみよう。

 1.英語と日本語の言語間の距離

言語間距離 (Linguistic distance) という考え方がある。簡単に言えば、二つの言語の文法上の特徴や発音、また類似性を比較して、どのくらい違うのかを考えるものだ。

例えば世界には数千、数万という異なる言語があるが、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、フランス語などは別々の言語ではあるもののロマンス諸語に属しラテン語という同じ言語を起源にもつ。英語、ドイツ語、スウェーデン語もゲンマン語派に属し、共通の言語を起源にもつとされる。さらには英語もスペイン語もロシア語もヒンディー語もインド・ヨーロッパ語族という言語学上の大きなくくりの中に区別される。要は数百年、数千年さかのぼれば皆おんなじ言語だったということだ。そうなると文法的にも類似性が高くなる。

私はイタリア語もポルトガル語も話さないが、スペイン語が分かるので、ロマンス諸語に属する他の言語もやんわり理解できてしまったりする。ブラジルの空港で空港職員を相手にポルトガル語対スペイン語でなんちゃってコミュニケーションを取ったものだ。おそらく相手は嫌がっていたと思うが。

では、英語と日本語の言語間距離はどうなのかというと、アメリカのForeign Service Instituteという機関が調査した結果がある。結果は、スペイン語やオランダ語が英語話者にとって習得が比較的容易な「カテゴリー1」に区分されているのに対し、日本語は「カテゴリー5」。つまり英語話者にとって、最も言語間距離が離れており、最も習得が難しい言語に区分されている。習得に必要な学習時間は最低88週間(2200時間)。つまりアメリカ人にとっても日本語は難しいということだ。

とはいえ、おそらくほとんどの日本人にとって、わざわざ数字やランキングまで出されなくても感覚的に納得のいく結果かと思う。「主語+動詞+目的語」という英語の文法構造も感覚的に分かりずらいし、「R」と「L」の発音や、「th」、「v」など日本語にはない発音が多すぎる。しかも英語は書いたとおりに発音しない単語が多く、各単語の発音を一つ一つ覚えなければならない。やはり、英語は日本人にとっても「難しい」言語なのだろう。

Smiling teacher writing on a whiteboard in a lively classroom setting with students.

 

2.英語を使う機会が少ない

日本人が英語を話さない理由の一つとして、もうひとつよく言われるのが、アウトプットの機会の少なさだ。出入国在留管理庁のウェブサイトによると日本に住む在留外国人数は約359万人。日本の総人口の約3%が外国人というところか。その半分くらいは中国、韓国、ベトナムで占めているが、フィリピンやアメリカなど英語を話す国からもそれなりの数の人が来ている。

実はこれは個人的な感覚と少しずれていて、2022年に日本に一時帰国した際、(東京だが)地元にも外国人が増えたなあと思ったものだ。中国人や韓国人だけでなく、白人にもアフリカ人にもよくすれ違う。もしかしたら地域差があるのかもしれないが、探せば割とどこにも英語話者はいるし、アウトプットの機会はありそうに思える。

ただ、一億を超える日本人口の中では、英語が話せなくても友達作りに困ることはないし、日本語でニュースもドラマを見れる。おいしい食事も食べれて、仕事も見つかる。そうなると英語を話す必要に迫られる場面はほとんどなさそうだ。

日本人の性格と言語学習の関係

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日本人が英語を苦手とする理由としてよく言われる理由をふたつ挙げたが、それだけでは説明できない面もある。例えば、日本語と英語の言語間距離を考えたが、同じく言語的には距離があるはずの中国、韓国、モンゴル、ベトナムの英語力スコアは日本より上だ。平均知能指数が世界一の日本が、なぜか英語力ではアジア諸国の中で最下位レベルになるのか。

個人的に思うのが日本人の性格的特徴だ。一般的に、日本人は「和」を重んじ礼儀正しいが、慎重で集団行動を好み、リスクを取れないと言われる。

じつは性格と言語習得の相関性を考えた研究は数多くある。よく言われるのは、外向的な人ほど言語習得が早いというものだが、実際にはそんなに単純なものではないようで、外向的な人は口頭でのコミュニケーションでは高い能力を発揮しても、筆記テストでの正確性では内向的な人の方が成績が良いという研究結果もある。またリスクテイカー(リスクを取る人)と外国語習得能力にも相関性があるとする研究があり、リスクを取れる人の方が、コミュニケーション能力において他者を上回ることが多いようだ。

ひとつ確かなのは、ネイティブが相手の英語力を評価する一番の尺度は、コミュニケーション能力と英語の発音の明瞭さであり、筆記試験ではない。特にAIが発達した現代では、複雑な英語の論評をどれだけはやく読めるかというのは、英語力を測る重要な要素ではなくなっている。

残念ながら日本の英語学習は文法や読解、試験対策に偏りがちで、コミュニケーション能力をあまり重視していない。私自身も含め、日本人のコミュニケーション能力は褒められたものではないと思う。外国人を前に、限られた語彙でも堂々と会話を試みたり、自信をもって相手と交渉することができる人が少ない。意味不明な苦笑いを浮かべていたり、自信のなさからか挙動不審になったりと、見ていて痛々しくなる。そんな日本人を見るたびに、自分を鏡写しで見ているようで嫌な気持ちになったものだ。

これにはある程度科学的な裏付けがあるようだ。不安を感じやすい遺伝子(セントロニントランスポーター遺伝子SS型)というものがあり、この遺伝子を持つ人は心配性になりやすいという。現に日本人の約65%はこの遺伝子を所有しており、これが日本人の性格的特徴にある程度影響している可能性もある。周りと同調して、決められた線路の上を歩くことを好み、個人の意見を主張できず、リスクを伴う大胆な行動がとれない。

なにも日本人を貶めるつもりでこんなことを書いているわけではないが、人生の駒を進める上で自分の弱点を知るのは大切なことだ。自分の性格的な傾向がネックになっているとわかれば、相応の対策も取れるというわけだ。

まとめ

言語を学ぶということは、文化や価値観を広げるということだ。外国語学習を通じて、新たな世界に触れ、小さな冒険を始めることができる。しかし、日本語と英語の言語間距離に加え、日本人の性格的特徴も外国語習得に影響を及ぼしている可能性がある。コミュニケーション能力や外向性など、自分の弱点を理解し、克服するための戦略を立てれば、言語学習の成果を大きく向上させることができるかもしれない。

3 thoughts on “なぜ日本人は英語が苦手なのか。”

  1. 今回もわかりやすい説明が良かったです。
    言語間距離 (Linguistic distance) という観点でいうと、個人的にはアジア圏の国々も同様かなとも思ったりしていて、やはり日本の英語教育の責任は大きいと思っています。

    説明の中で「不安を感じやすい遺伝子(セントロニントランスポーター遺伝子SS型)というものがあるようで、この遺伝子を持つ人は心配性になりやすいという。現に日本人の約65%はこの遺伝子を所有しており、これが日本人の性格的特徴にある程度影響している可能性もある。」というのは初めて聞きました。
    最後に言語を学ぶことで自分を広げることができるという大切な点に触れていたのも良かったです。😊

  2. 沢山の発見がある記事をありがとうございます。言語を学んでみよう!と言う気持ちになる記事でした😊

  3. Pingback: AI時代にも役立つ外国語学習7選 │ KOTOBA LOUNE JOURNAL

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