トライアスロンやタイムトライアルでよく使われるDHバーを、折り畳み小径車であるブロンプトンにつけてみた。お試しで買っためっちゃ安い製品だが、普通に実用になって予想以上に楽に速く走れるようになった。30km/h巡航も普通にできる。アーレンキーで留め具を緩めるなら折り畳みもできる。
DHバー(DownHill bar)は、自転車のハンドルに後付けするパーツで、スキーのダウンヒルみたいに腕を体の前方に縮こまらせてエアロ効果を最大化した乗車姿勢を可能にする。自転車のダウンヒルで使うわけじゃなく、主に平地巡行をひたすら続けるトライアスロンやタイムトライアルで使われる。平地巡行が多いロングライドやブルベでもよく使われるが、一般のロードレースの大会では禁止されていることが多い。ハンドル操作が不安定になるし、咄嗟にブレーキがかけられなくて危ないからだろう。
ブロンプトンでトライアスロンやタイムトライアルをやる人は居ないだろうが、ロングライドやブルベをする人は一定数いる。私もブロンプトンでロングライドをよくするので、DHバーを使ってみたくなった。DHバーが私にとってどの程度有用なのかがよく分からないので、まずはAmazonで最安の1699円のものを買ってみた。
製品選定には価格以外にも条件があった。ブロンプトンのハンドルバーはクランプ径25.4mmかつエンド径22.2mmなので、25mm以下の径に対応した留め具が必要だ。また、私はライザーバーを逆付けしたFハンドルを使っているので、バーが斜めになった部分に留め具が来ても対応できる必要がある。そうすると、左右が繋がったDHバーは駄目だ。左右が分かれていて、かつバーの取り付け角度がピッチ方向だけでなくロール方向でも調整でき、ロール方向を調整することでグリップ部分の左右幅が変えられるようにバーが湾曲しているものが良い。今回の製品はそれを満たしている。
mikio.hatenablog.com
欲を言えば、カーボン製の軽いものが良いし、肘置きが快適かつ頑丈なものが良い。しかし、それらを満たすものは高い。とりあえず今回はお試しでDHバーが使えるかどうか試したいだけなので、いきなり高級品を買うのは躊躇した。
製品が到着したので、まずは重量を測った。金具とスペーサ込みで、左右合わせて388gである。パッドを入れると400g弱だ。アルミ製の割には意外に軽かった。
この製品はクランプの最小幅が28mmだ。ブロンプトンのハンドルのクランプ径25.4mmよりもそれは大きいので、付属のシムを噛ませることになる。3mmのシムがちょうど良い。シムの内側の縁がハンドルバーを傷つけるので、内側の縁はヤスリや電動ルータで丸面取りをした方が無難かもしれない。DHバーを付け外しする際にこのシムがポロッと取れると面倒なので、ハンドルバー側にテープや接着剤で止めてしまってもいいかも。
DHバーを握った時に肘の位置が肩幅より狭くなるようにアームレストの間隔を調整するなら、留め具の位置はかなり中心寄りになる。というか、ハンドルポストに密着するまで中心に寄せる。ライザーバーは中心近くでも真っ直ぐではなく若干曲がっているのだが、なんとかつけることができた。通常のグリップが低くなっているおかげで、グリップやシフターがアームレストと干渉しないのは都合が良い。アームレストの位置はDHバー側で微調整できるようになっているが、まずは最も外側にするのが良いだろう。
規定の締め付けトルクは10Nm(1.02kgfm)なのだが、多分それだと乗っているうちにDHバーがずれてしまうので、結構強めに締める必要がある。しかし、カーボンハンドルで強く締め込みすぎると割れてしまうので、DHバーがグラつかないギリギリのところをうまいこと見つけるしかない。
折り畳む際には、DHバーの角度を変えないとハンドルステムが締まらない。しかし、多少厚みが増すだけなので、自分の室内に置くだけならその状態でもいいだろう。出先のカフェ等に持ち込む際にも、空間が許せばそのままでいいかもしれない。
狭い場所に持ち込む場合や輪行の際には、完全に折り畳みたくなるだろう。その場合、DHバーを外してしまうのも良いが、付けたままでも何とかなる。前準備としてアーレンキーで留め具の締め付けをちょっと緩めてから、バーを真上に向けて、マクロス強攻型みたいなポーズにする。
そうすると握り棒とタイヤの干渉が回避され、また肘置きが外側に来るので、クリアランスの問題が無くなる。輪行袋にも普通に入る。乗車時には角度を元に戻してまた留め具を締め付ければ良い。ちょっと面倒だけど、慣れれば3分くらいでできる作業なので、許容範囲だろう。折り畳み寸法を考えると、DHバーの前方突出部の長さは28cm以下にすべきだ。
クイックリリース方式だったら工具なしでいけるのに、と思ったら、実際にそういう製品がRedShiftから出ていた。値段が高いのと、本当にちゃんとずれないように固定できるのかが不安なので、買うなら入念な調査が必要と思うけども。
重要なのは、走行時の使い勝手だ。DHバーを握ると、ブロンプトンでも以下のようなTT的な乗車姿勢が取れる。ただし、ロードバイクやTTバイクよりもハンドルポストが高い位置にあるので、私の胴体が地面と完全に平行にはならない。また、脇の角度が直角になっているのが理想だが、私の腕はかなり前方に迫り出してしまっている。つまり、肘の位置が高すぎるのだ。アームレストの高さがサドルの高さと同じかちょっと低いくらいになるDHバーを選ぶべきだった。とはいえ、DHバー初心者としては、あまり低すぎない方が漕ぎやすい。前傾姿勢が強すぎると股関節が窮屈になって出力が落ちてしまうかもしれない。
DHバーを使ってもなお中途半端な前傾姿勢になるのは、身長164cmの私の足が短いせいもある。日本人男性の平均である身長170cmくらいだと、サドルがあと3cmくらい高くなるだろうから、相対的にハンドルポストの位置が低くなるはずだ。それでもロードバイクやTTバイクのハンドルの低さには及ばない。もっと前傾を追求するなら、ハンドルステムをMハンドルのものに換装すると良いだろう。そうすると3cm低くなる。
前方投影面積の当てをつけるべく、正面から写真を撮ってみた。通常グリップ、DHバー、ブルホーンの順に並べる。上半身に着目すると、やはりDHバーの乗車姿勢の圧縮具合は素晴らしい。空力は前方投影面積だけで語れるものではないが、整流の観点でもDHバーの乗車姿勢は効果的らしい。もうちょい腕を上に傾けて胸元に入り込む空気の流れを減らした方が良いらしいが、とりあえずは自分にとって楽に走れる姿勢を探っていく。
実際に走ってみると、確かにDHバーを握った時の方が速いし楽だ。前傾姿勢が強まって大臀筋を使ったペダリングがしやすくなるのと、空気抵抗が減って速度維持がしやすくなるのを感じる。15km/hとかの低速でも効果は感じるが、やはり25km/h以上の高速域になると効果が歴然だ。15km/hだと空気抵抗の割合は50%で、25km/hだと74%で、30km/hだと79%にもなる。そして、走行時の空気抵抗は自転車が3割で人間が7割という。よって、特にエアロ形状ではなく巡行速度が速いわけでもないブロンプトンと私の組み合わせでも、乗車姿勢の空力を改善するのは意味がある。むしろ、元々の乗車姿勢の前傾が甘い車体でこそ、DHバーの恩恵は大きいとも言える。
無風かつ平坦かつ状態の良い舗装路でDHバーを握って走ると、脱力して漕いでいても巡航速度が30km/hを超える。ブロンプトンなのに、頑張っていないのに、初心者サイクリストの典型的な目標である30km/h巡航が達成できてしまうのだ。無酸素運動回路全開にすれば50km/hも30秒間くらい出せる。この性能ならスポーツバイクの仲間入りと言えるだろう。
なお、私が普段使っている52T/11T=4.72の変速比で30km/h巡行する際のケイデンスは、30km / (4.72 * 1.340m * 60秒) = 78.93rpmである。ロングライドでは70rpmから80rpmまでくらいが快適に走れると言われているので、私の設定は最適の範囲内だ。外装2速モデル純正の54T/12T=4.5でも82.9rpmなのでそんなに変わらないけれど、80rpmを超えるとハアハア言う感じの競技的な走り方になってくる。よって、ロングライドにおいてDHバーで高速巡行したいなら、純正より若干重めのギアを装備しておいた方が良いかもしれない。
DHバーを握ると咄嗟のブレーキができないので、市街地や歩道ではDHバーは使えない。しかし、国道などの道幅が広い幹線道路の車道を走るならば、たとえ都内であっても、普通にDHバーが使える。後付けのブルホーンが使える状況の多くではDHバーが使えると思っていい。幹線道路は交通量が多いので、自動車や自転車や歩行者がいきなり飛び出してくる確率は低い。DHバーを握って30km/hで走っている自転車の制動距離よりも60km/hで走っている自動車やオートバイの制動距離の方が長いわけで、死にたい奴以外は普通は飛び出してこない。なので、幹線道路でDHバーを使ってもリスクが特段上がるわけじゃない。突風やトラックの走行風に煽られた場合の対処は若干しづらくなるが、慣れだ。肘が横に出ない分だけ車道側の自動車と接触しにくいのは利点とも言える。ただし、あまりに低速の状態でDHバーを握ると左右にふらつくので、それだけは注意だ。
そもそも私がDHバーを導入しようと思ったのは、長野と東京の間の移動で使うためだ。特に、冬場に東京から長野に向かう際には北風に逆らいながら走ることが多いので、DHバーで楽したかった。国道17号と国道18号を実際に走ってみると、半分以上の区間でDHバーを握っていられた。慣れると全然怖くない。信号等で止まった後に、通常グリップを握って走り出してから、15km/hくらいになったらDHバーに持ち替えると、何の問題もなく走っていける。逆風でも速度が落ちにくいし、ゆっくり漕いでいるつもりでも勝手に速度が乗ってくるので、かなり楽に走れる。DHバーから通常グリップに持ち替えるとエアブレーキがかかったような感覚さえある。逆に、通常グリップからDHバーに持ち替えると、空気を切り裂いて飛ぶ矢になった気分になる。この感覚を知ると、できるだけ長い時間DHバーを握っていたくなる。
DHバーを握る時間を増やすためのコツがある。まず、ブレーキを握る確率が高そうな市街地や歩道や路地では、基本的に通常グリップのみを使う。幹線道路やサイクリングロードを走る場合には、速度が乗り次第、DHバーに持ち替える。ただし、見通しの悪い道が接続している状況では警戒すべきで、そういう時は片方の手だけ通常グリップに持ち替えて備える。それなら背骨や頭は動かさずに済む。私は左手を通常グリップに添えることが多い。左手はリアブレーキなので速度の微調整に有用だが、制動能力はフロントブレーキに劣る。しかし、前傾姿勢の状態で右手のフロントブレーキをいきなり握ると前転して転ける危険性があるので、リアブレーキをかけてからフロントブレーキをかける手順の方が安全だ。このコツは、ブルホーンやPハンドルの下ハンを握る場合と全く同じだ。
DHバーを握っている間で真に恐ろしいのは、急ブレーキできないことではなく、ハンドル操作が緩慢になることだ。DHバーを握った状態で旋回するのはかなり難しい。進路の微調整や車線変更をするのは普通にできるが、90度とかの旋回はしたくない。DHバーを使うのは幹線道路の直線区間だけなので通常はそれで問題ない。ただし、進路上に突如として出てくる段差や亀裂や障害物を避ける際のハンドル操作がおぼつかなくなるのが問題だ。突風やトラックの走行風に煽られた時もそうだ。小径車であるブロンプトンは段差や亀裂にタイヤを取られやすいが、それで傾いた車体を立て直すのにも急なハンドル操作が要求される。そのような状況にならないように気を配るのが重要だが、どうしてもそれは起こるので、対処を身につけておかねばならない。それには、慣れるしかない。DHバーを使って旋回や蛇行をする練習を公園などの安全な場所でやっておいた方がいいだろう。
DHバーを握ると、体重の結構な割合が肘置きとペダルにかかるので、サドルにかかる荷重は減る。ロングライドで悩みの種になる尻の痛みも和らげられる。ただし、前乗りしすぎると股間が痛くなりやすい。会陰の部分に圧力が集中するので、その奥にある尿道やその周辺部位が痛めつけられるからだ。会陰を守るには、まずはクッション付きパンツを履くことが重要だ。また、サドルをほんの少しだけ前下がりにすると良い。本気で空力とペダリング効率を追求するガチ勢はサドルの先端付近に座る前乗りは譲れないので、ノーズ部分まで中心に溝が空いたサドルを使って頑張るらしい。私が使っているSelle SMPのVT30Cもその形状だが、それでも前乗りを続けると会陰が痛くなる。サドルの前後位置を前に出せば問題が緩和できるはずだが、私のサドルはすでに限界まで前に出しているので、現状が最善だ。TTをしているわけじゃない私としては、走行性能よりも快適性を重視したい。そのためには、前乗りしすぎずに腰を後ろに引き気味にして座るのと、骨盤を寝かさずに立てた状態にするのが大事っぽい。
DHバーを握るのは、高速化と省力化以外にも意味がある。休めるのだ。通常のグリップを握っていると手が痺れてくることがあるが、時折DHバーを握ると、その負担が軽減される。また、通常のグリップを握っている間は上半身の重さを体幹の筋肉で支えているが、アームレストに寄りかかれば、それらを休めることができる。前傾姿勢が強くなってペダル荷重が増えることで、膝関節よりも股関節を多く使えるので、大腿四頭筋などの膝関節の筋肉を休ませることもできる。ただし、頭を支える首と背中の筋肉だけはDHバーを握っている時の方が疲れるので、慣れて強くなるまではDHバーを握っている時間は半分以下に抑えた方がいいかもしれない。常にDHバーを握らなくても、たまにそうするだけで十分に疲労が分散できる。高速化のための道具というよりは、楽するための道具だと捉えても良いだろう。
DHバーを握っている状態だとシフトレバーが操作できない。Di2のロードバイクだとサブスイッチを先端につけるという解決策があるが、機械式だとそうはいかない。しかし、DHバーを使うのは基本的に高速巡行時であり、段数が少ないブロンプトンで変速が必要なのは登坂の時だけなので、DHバーを握りながら変速したいと思うことは稀だ。私の場合、基本的にアウターロー縛りで走ることもあり、その傾向が顕著だ。いずれにせよ、片手だけ通常グリップに戻せば変速操作ができるので、実用上の問題にはならないだろう。
個人的に厄介なのは、下を向いて走るとサングラスがずり落ちてくることと、たとえずり落ちなくてもサングラスのフレームが邪魔して前が見づらいことだ。私は釣り用のサイトマスターのサングラスをサイクリングにも兼用しているのだが、それは上方向より下方向が見やすいように設計されているため、TTポジションとの相性が良く無いのだ。やはりサイクリングにはサイクリング用のサングラスが良いだろう。鼻当てやツルに工夫があって下にずり落ちにくいようになっていて、上方向への視界が良いものを選ぶべきだ。
DHバーは強い前傾姿勢のおかげで最高トルクが上がるので、ダンシングしなくてもちょっとした坂なら登り切れることが多い。逆風でダンシングすると空気抵抗が激増するので、その状況下ではシッティングのまま登坂する方が有利だ。もちろん、逆風時に平地巡行する際にもDHバーが大活躍する。順風と逆風の確率は半々と考えると、DHバーの有用性を改めて認識できる。DHバーがあればブルホーンは外してしまっても良いのではないかと一瞬思ったが、それは違う。シッティングでのトルクを上げられるという点では両者は共通しているが、前傾姿勢によってペダル荷重が増加する効果はDHバーの方が断然上だ。一方、体をハンドルに引き付けてトルクを体重以上に増やす効果はブルホーンの方が断然上だ。また、DHバーは低速時にはふらつくので使えない。ダンシングでもDHバーは使えない。つまり、両者は相互補完的な存在であり、平地巡行では主にDHバー、登坂では主にブルホーンという使い分けが自然に成立する。
峠の登坂でDHバーが使えるのか試すべく碓氷峠旧道を登ってみた。結論としては、やはり登坂が主体である場合にはDHバーは無くても良い。勾配5%までくらいならそこそこの速度で走れるし、DHバーによる空気抵抗低減の効果は一定程度はある。変速比を下げればケイデンスを保てるので、ダンシングしたりブルホーンを掴んだりしなくても走り続けられる。よって、勾配5%までくらいならDHバーを掴んだ状態で走り続けることは可能だ。それ以上の勾配になると、DHバーの欠点が多く出る。勾配の変化に合わせてトルクや前傾の度合いを変化させられないし、息が上がった時に呼吸が追いつかなくなりがちだ。速度が遅いと空気抵抗低減の効果も小さい。しかし、DHバーが付いていても必ずしも握らなくてはいけないわけじゃない。握れる時だけ握れば良い。つまり、付いていて困るわけじゃない。とはいえ、全く使わないなら単なる重りになってしまうので、どの程度の割合でDHバーが握れるのかが問題になる。平均勾配が4%台の碓氷峠旧道では、DHバーを握れる区間の割合が多い。しかし、その多くの区間でDHバーを握らなくても同等以上の効率で走れる。なだらかな峠でそれなので、峠一般ではDHバーは不要という結論になる。ただし、無い方が良いとは言っていない。ロングライドの行程に峠を含むとしても、峠以外の区間がそれなりにあるならば、DHバーを付けていて損はない。
車体の見た目が異質になるというのもDHバーの利点かもしれない。2本の突起が、金剛型戦艦の主砲のようだ。もしくは、ゼットン、ノコギリクワガタ、チェンソーマンみたいだ。いずれにせよ、中二心がくすぐられる厳つい形状である。ブロンプトンを街中で見かけることは増えてきたが、DHバーをつけている個体を見かけたことは一度もない。多分、日本で10台も行かないんじゃないかな。傍から見たら馬鹿っぽいかもしれないが、乗り物をカスタマイズする奴らはみんな馬鹿だからいいのだ。そもそも、小径車で必死こいて速く走ろうとする姿がまた馬鹿っぽくていいじゃないか。
余談だが、私はサイクリング中はペダリング効率の向上策をよく考えている。自分の限られた脚力でより楽に速く走るにはどうすれば良いか。DHバーを握るとペダル荷重が大きくなるので、パワーゾーンでの踏み足で強いトルクを発生させられる。その際に、コークスクリューパンチのように足を若干内旋させて踏み込むと、尻と脚の筋肉が連動して楽に強い力が出る。それをクランク角2時くらいの時点で瞬発的に打ち込むのを続けると、かなりのパワーが出る。しかし、踏み込みだけ頑張りすぎると疲れてしまうので、引き足も意識する。アンクリングしないように足首を畳みながら、爪先でトウクリップやビンディングを持ち上げる感じにする。アンクリングによって上死点で踵が高くなると股関節の屈曲が深くなって出力が落ちてしまう。引き足は瞬発的というよりは持続的に行い、クランク角6時から12時まで綺麗な円を描くことを意識する。「コークスクリュー踏み足」の意識と「爪先蹴り上げ引き足」の意識を10回転毎くらいに切り替えながら漕いでいると、そんなに気合いを入れていなくても、めっちゃ速く走れてしまう。むしろ速くなりすぎるので、その次に、足が強いトルクを感じないで軽く回し続けられるように脱力して漕ぐのを意識する。そうすると、ロングライド向きの燃費の良い走りになってくる。
サイクリングロードで上記の走り方を試したら、ロードバイク勢も含めてバンバン抜いて走れた。遠くの点にしか見えないサイクリストを勝手に目標に定めて少しずつ差を詰めていって、シャーッと抜き去るのだ。相手が速いほど、ちょっとした達成感がある。小径車かつ普段着のやる気なさげな奴が意外に速いってのが素敵なんじゃないかと思う一方、冷静に考えると単にイキっているオジサンだ。それにしても、サイクリングロードで気の向くままにぶっ飛ばして走るのは、残り体力を気にしながら走るロングライドとはまた違う楽しさがある。
DHバーを装着したままの輪行を何度かやっているが、慣れると折り畳みも展開も短時間で出来る。DHバーのボルトを緩めたり締めたりの作業時間を短縮するには、L字のアーレンキーではなく、T字のグリップ付きのものを携帯すると良い。
DHバー付きで輪行してきたけどやっぱり固定が面倒なので使わないという場合は、こんなふうに下に向けると目立たない。締め付けていないので折り畳み作業も楽だ。重さは余計になるが。
利点が確かにあるにせよ、欠点も大きいので、DHバーが万人向けのカスタムパーツじゃないことは明らかだ。しかし、面白いのも間違いない。乗車姿勢を変えるだけで確実に走行性能が上がるのだ。100km越えのロングライドをするならDHバーが使える区間はそれなりに出てくるはずなので、缶ジュース1本分の重量増加が許容できるなら、とりあえず装着しておくというのもありだろう。
空気抵抗やその他の抵抗に関しては、以下のサイトが有用だ。空気抵抗低減策の中ではやはりDHバーが最強とのこと。
morimotty.com
乗車姿勢以外の要素も考えないといけない。私はロングライドではバックパックをハンドルの前に吊り下げているが、バッグの空気抵抗のせいで、DHバーの意味が半減してしまう。縦長な分だけ、ブロンプトン用バッグで一般的な横長形状よりはマシで、単車のカウルのような整流と防寒の役割もしてくれるが、それでも前方投影面積を増やしていることには変わらない。なお、高速域での空気抵抗(慣性抵抗)は速度の2乗と前方投影面積と抗力係数と空気密度の積で算出される。抗力係数は運動体の形状によって決まるが、球体と流線型で10倍以上変わる繊細かつ重要な要素であり、カウルの整流によって抗力係数を下げる効果が前方投影面積の増大を上回る可能性も無きにしも非ずだ。とはいえ、実際に乗車した感覚としては、やはりバッグがない状態の方が抵抗が少ない。着替えやらノートPCやらも運ぶ長野・東京間のロングライドではバックパック吊り下げ方式を取らざるを得ないが、それ以外の場合は避けたいところだ。
空気抵抗の観点ではサドルバッグが最善だが、容量が限られる。小さめのバックパックやウエストポーチが次善だが、それらも容量が限られるし、尻に重量がかかるのが欠点だ。それだったら、小さめのフロントバッグの方が現実的で便利だ。空気抵抗は小さいし、食べ物やカメラやスマホや手袋の出し入れが走行中にできるからだ。幅30cmくらいなら、体の前方投影範囲とほぼ重なるので、全体の前方投影面積はそんなに変わらない。理想的には以下のようにDHバーの直下に付く流線型のものが良いのだろうが、残念ながらそんな製品は存在しない。なるべくそれに近い市販のフロントバッグを選ぶしかない。サドルバッグやフレームバッグをDHバーに吊り下げる手もあるかも。単なる妄想だが、DHバーとカウルとフロントバッグが一体化した装置を開発したらロングライダーの皆さんに大人気になったりしないだろうか。
サイクルウェアも着なきゃ空力的には片手落ちだ。サイクルジャージとレーサーパンツとエアロヘルメットとシューズカバーを装備してスネ毛を剃ると完璧だ。しかし、ブロンプトンだとどうもサイクルウェアを着る気にならない。私はサイクルジャージとレーサーパンツは冬用も夏用も持っていて、ロードバイクに乗る時はそれらを普通に着る。ブロンプトンでも着た方が速いのは分かっているのだが、速さを求めるならそもそもブロンプトンには乗っていないわけで、矛盾に陥る。だったらDHバーを付けるのも矛盾しているわけだが、これは美学の問題だ。車体をカスタマイズして高性能になるのは歓迎するし、自分の体力が上がって高性能になるのも歓迎するが、走るにあたって頑張りたくはないのだ。「頑張らなくて済むように頑張る」がプログラマの美学である。私にとってはサイクルウェアを着るのは前者の頑張りの部類に入る。我ながら不合理な感覚だが、ブロンプトンは普段着で乗ってこそだみたいな先入観がそうさせるのだ。とりあえずは矛盾を抱えつつもDHバーを使い込んでみよう。
まとめ。ブロンプトンにDHバーをつけると結構便利だ。留め具を緩めて角度を変えれば折り畳みもできる。走行時の効果は覿面で、空気抵抗が減って走行性能が顕著に向上するとともに、腕や体幹や膝の筋肉を休めて楽に走れるようになる。手や尻の痛みも緩和できる。交通状況が許す状況でしか使えないが、その割合は意外に高いので、ロングライドで確実に役立つだろう。1699円でこれだけ楽しめるなら、試してみても損はない。
追記:後日、カーボン一体整形のDHバーを導入した。アームレストを下げることで、より適した乗車姿勢を確保できた。
mikio.hatenablog.com